2015年07月07日
晴れたらいいなっ
この日は、晴れたらいいなぁ。だってあいつに……
FT世界にとって特別な7月7日。優しい火になるといいなぁってw
「あ~ぁ。また雨かなぁ……」
少女は夜の空を見上げて、短く息を吐き出した。ここ最近のマグノリアの天気は雨が続いている。昼間少しの間、晴れる事はあっても星空を見たのは随分前の様な気がする。
「ルーシィ。また空見てるの~? 星見えた~?」
「……ハッピー…」
部屋の奥から、体を湿らせた青い猫が少女の元へ駆け寄ってきた。ベッドの上に膝をつき窓から雨が降る夜空を見上げていた少女の隣に、ポスンと座った。この部屋の家主の少女、ルーシィは猫の肩にかかっていたタオルをとると、仕方なしにその頭をふいてやった。すると、ハッピーと呼ばれた青猫は目を細めて嬉しそうに喉を鳴らすのだ。
「……ったくぅ。ちょっと買い物に出た隙に、あんた達は勝手に侵入してぇ。しかもお風呂入ってるとかって、普通ありえないからねっ!!」
「あいっ!!」
「もうっ……普通じゃないって言ってるのに、何喜んでるのよっ」
ルーシィも、本当に怒っているわけではないが、笑顔で受け入れるわけにもいかない。乙女の沽券にかかわってくる問題なのだ。
「ルーシィ、腹減った~。今日の飯なんだ~?」
青猫に続いて、桜頭の男が風呂場から顔をのぞかせた。その頭からは水滴が、したたり落ちている。
「ちょっとナツ!! 水っ!! 水垂れてるわよっ」
「んあぁ?」
ボーっとしたつり目に金髪を映して、ナツと呼ばれた桜頭の男は、するどい牙をのぞかせ笑って見せた。ルーシィのあんた自分で乾かせるでしょ? の叱咤に、火力の調整 間違えるとアパートごと燃えるけどいいか~? と、嬉しそうに笑って、頭をふいてもらっている。
――あ~ぁ。オイラが拭いてもらってたのにぃ
――ルーシィにかまってほしいからって、しょうがないなぁナツってば
――ルーシィだって、なんだかんだ言いながら何気に楽しんでいるくせになっ
ハッピーは目を細めてその様子を眺めていたが、そのやり取りはまだ終わりそうにない。小さく微笑むとハッピーは、先程までルーシィが見ていた窓の外を眺めた。まだしとしとと天から降ってきた小さな雨粒が、地面を濡らし続けている。
――オイラ猫だし、ナツは火竜だし……やっぱり雨が続くのは苦手だなぁ
「もうっ!! それでなくてもじめじめしてるんだからっ。ちゃんと拭いてから出ていなさいよねぇ!」
「おー。ってか腹減ったルーシィ」
「っ!! もう勝手なんだからっ」
仕方ないなぁ。と、ルーシィがキッチンに入っていくのを笑顔で見送るとナツは、ハッピーの隣に腰を下ろした。そして、ヨシヨシと上機嫌にハッピーの頭を撫でた。頭を撫でられたハッピーは耳を垂らしながら、ニヤリといやらしい笑みをナツに向けてきた。
「なんだハッピー雨見てたんか?」
「あい」
「雨見て……なんか楽しいんか?」
「う~ん。まだ降ってるなぁって、ルーシィもさっき見てたよぉ」
「あー。また空見てたんだろっ、ルーシィは。昼間レビィと、天の川がなんとかって言ってたしな」
「プフフフフッ。ナツってばギルドでルーシィの会話聞き耳立ててたんだねっ」
「……う…うっせぇ」
ナツが力を込めてハッピーの頭をこねくり回すと、ハッピーは助けてぇ~とキッチンにいるルーシィの元へ逃げて行ってしまった。キッチンからは驚かされたルーシィの声が聞こえてくる。ナツは静かに、夜の雨雲を睨み付けた。
『やっぱり今年も雨かなぁ。ルーちゃん』
『んー。どうだろう? ちょっとの間だけでも雲が晴れて、天の川見れるといいのになぁ』
『1日雨の予報だし……ちょっと期待できないよね』
『ほーんと、去年も雨で見れなかったし、今年こそはって思ってたんだけどなっ』
『残念……七夕のお祭りは、雨でもやるみたいだけど、ルーちゃんはナツたちと行くの?』
『んー。7月7日は……ねっ』
『そっか……、そうだよね。静かに過ごすのも、いいかもね』
『ねー……はぁ…』
昼間、ギルドでルーシィがレビィとしていた会話を、自然とナツの耳はひろっていた。最近空を見上げては、溜息をついていたルーシィの様子がどうにも引っかかっていたのだ。眉を下げて寂しそうに微笑むルーシィの顔がなんだかナツの胸には、引っかかったままだった。
――結局、雨やまなそうだな……
――ミラに聞いて、てるてるぼうずいっぱい吊るしてきたんだけど……あれだけじゃ効かねぇか……
――う~ん
*
*
その日は予報通り、朝から雨が降っていた。正確にいえば昨日の昼間から雨が降り続いている。昼間ギルドの裏でナツは、雨になんか負けねぇ!! と、雨雲に向かって啖呵を切っていた。
――ナツってば、火だから雨が続くと調子でないんだろうなぁ
――最近苛々しちゃってて、可愛そうだったもんなぁ
――ハッピーの毛並みも、湿気でもじゃもじゃしちゃってて、面白いことになっちゃってるし……
――ちょっとだけ……ちょっとだけ晴れたら……
ギルドの裏で、火竜の咆哮が天に向かって何度も喧嘩を挑んでいるようだった。その様子を、青猫を抱えた金髪の少女はギルドの軒下から静かに見つめていた。
――ナツ……ガンバレッ
――ナツ…
*
「ルーシィ、ルーシィ! ……起きねぇな…」
「もう、このまま連れてっちゃおうよナツ~!!」
「そだなっ。そのうち起きんだろっ」
眠りについていた体が、静かに持ち上げられた。心地よい暖かさに包まれ、ユラユラと揺れる浮遊感に、ルーシィは瞼を持ち上げた。そこには一面の星空と……桜頭と青い耳。
「ルーシィ!! 起きたかっ」
「ルーシィおはよう!! すごいんだよっ! ナツってば、雨雲蒸発させて遠くに飛ばしちゃったんだよっ!!」
「え……えぇっ!?」
この男は、ずっと頑張り続けていたのかっと、ルーシィは驚きに一瞬にして目を覚ました。満面の笑みの1人と1匹に、ここが森の中の小高い丘の上だと気が付くと驚きながらもルーシィも満面の笑みを返した。
「すっご~~~~いっ!!」
「だろっ!! 結構苦労したんだぜっ」
「あいっ! これでルーシィ、天の川見られるねっ!!」
満面の笑みのナツとハッピーが、嬉しそうにルーシィと肩を並べてそこに寝転がると、空を見上げている。その視線の先には、はっきりと天の川が輝いて流れている。
「……えっ……その為に?」
「あい。ルーシィ最近ずっと七夕晴れないかなって、ぼやいてたじゃんっ」
「えっそっそれは……」
ルーシィは、驚いて口ごもってしまった。まさか自分の為にこんなことをしてくれていたのだとは――。でも、
「えぇぇぇぇえ!! 天の川見たかったんじゃなかったの?」
「なにぃっ!?」
「……天の川って今日だけじゃなくって、まだしばらく見えるのよ?」
「じゃぁなんでっ」
「だって、今日。……今日ナツは、イグニールに会いたいかなって……」
「え? どういう事?」
驚きで起き上がったハッピーの目が、真ん丸になって首を傾げてルーシィの顔を覗き込んでくる。ナツも起き上がっている。 ルーシィも静かに体を起こして、その場に座り1人と1匹を見た後視線を星空に向けた。
「あ~。えっとね……昔ね、ママが言ってくれたの。星になって見守ってるよって……。ママの身体はなくなっても、大丈夫。寂しくなったら星を見上げなさい。いつだってそこにいるからねって……。だからイグニールも、ナツを見守ってるんだなって…あたし勝手に思ってて……今日星が見えたら、ナツにも……」
――イグニールを感じることができるかなって……
――子供だましだって解っている
――でも……空を見上げれば、そこにママがいるって、あたしには感じられるから……
「……だから、会わせてくれようと思ったんだな……」
言葉を詰まらせたルーシィに、優しい声が降ってきた。声の主を見上げれば、ナツは星を見上げて、優しく笑っていた。
――ナツ……
――イグニールを……感じられたかな……?
ルーシィも静かに星たちを見上げた。膝の上に座ってきたハッピーを優しく撫で乍ら、星に向かってほほ笑んだ。
――あたしは、今日も幸せだよっ……パパ・ママ
星を見上げたままのナツは、きっと心の中でイグニールと会話をしているのかもしれない。その横顔は、何かに挑戦するようにだんだんと力が入り、星を睨み付けたつり目の奥が輝いていく。
その力強い横顔を目の端に映し、ルーシィも星を見上げている。
水蒸気になっても、天の高い処でまた冷やされておりてくる雨雲を、この男は何度も何度も吹き散らしたのだろう。いったいどこまで空を焼いたのだろうか――。
――ナツは、あたしの為に……一生懸命になって、雲を晴らしてくれたんだ……
ルーシィの視界の端で、ナツがゆっくりと振り返った。優しい優しい眼差しが、ルーシィをとらえている。
――父ちゃん
――父ちゃん
――父ちゃん
――オレって……幸せだろっ
――こんな近くに、オレの幸せが生きてるんだからっ
Fin
なんだろ……FTの中で、7月7日って重要じゃないですか~。
そんな日を優しい気持ちで迎えられたらなって思いますっ(*’▽’)
意味不明ですが、ナツ達にはやさしい七夕を迎えてほしいですなw