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2016.06.29~

シセンノサキ

マグノリア。そこはフィオーレ王国の東部に位置する商業都市。観光名所にもなっているカルディア大聖堂が街の中心に位置し、個性的で各所最強と呼び声高い魔導士が集まるギルド『妖精の尻尾』が存在する。

 

あるの日の昼下がり、依頼に行く予定のなかったルーシィは、本日はじめてギルドの酒場に顔を出した。彼女の所属する魔導士ギルド『妖精の尻尾』その酒場は、依頼に向かった者を見送り、ランチの混雑する時間帯を乗り切り、のんびりとした時間が流れていた。

 

カウンターの端から2つ目の席は、ルーシィのいつもの席だ。カフェラテを頼んでからいつもの席に腰を掛け、鞄から今日買ったばかりの本を取り出したところで、声が掛けられた。

 

「ルーシィ……あなた宛のお手紙、届いているんだけど…」

 

妖精の尻尾のS級魔導士であり、この酒場の看板娘でもあるミラジェーンだ。声をかけられると、ルーシィはビクリと肩を揺らした。

 

「はっはい…」

 

注文されていたカフェラテ、そのすぐ隣に白い封筒、それらを置くとミラジェーンは心配そう眉を寄せた。

 

「ルーシィ……大丈夫? ここのところ毎日だけど…こっちで処分してもいいのよ…?」

 

カウンターに置かれた白い封筒を目に、ルーシィは小さく息を吐き出すと、 笑顔を作りミラジェーンに顔を向けた。

 

「いえ…その……好意でくれてるもので……悪意がある訳じゃないだろうし…」

 

作った笑顔は続かず、いつも元気な愛らしい顔は眉が下がり元気なく曇ってしまった。本来なら喜ばしいことのはずだ。だがそれはファンレターとはいえ、ラブレターのようにも感じられるものだから。

 

ここのところ毎日届き見慣れてしまった白い封筒を手にとって、宛名であるきれいな筆記体で書かれた自分の名前を見つめルーシィは、ちらりと酒場を見渡した。

 

この時間に人が少ないのは、ルーシィにとっても都合がよかった。変に囃し立てられるのは、どうにも気まずい。それに――あまりこういう事を知られたくない人物もいる。わざわざ隠しているわけでもないが、わざわざいう事でもない気がする。彼は――ただのチームメイトなのだから――

 

 

自分の近くに人がいないことを確認すると、ルーシィは白い封筒を手に取った。封筒の端をきれば、そこに1枚の白い紙が入っているのが見える。

 

妖精の尻尾に所属して、そこそこ露出が多くなってきて、こんな手紙をもらう事もたまにはあった。

年頃の乙女としては、淡い期待もあったこともあった。だって恋はしてみたい。でも――、

 

「っ……これで何通目かしら……はぁ」

 

ギルドの片隅で、届いた手紙を開いて、ポツリと呟いた時だ。

 

「おーすっ ……ルーシィどうした? んな片隅で?」

「ふぎゃっ!」

 

大きく肩を揺らし驚くルーシィ。手紙に気をとられ、背後から近づいてくる気配に気が付かなかったのだ。

驚いた拍子にルーシィの手から持っていた1枚の紙がひらりと舞い、声を掛けてきた半裸の男の前に落ちていった。

 

「グッグレイッ!! おどかさないでよっ」

「? ……なんだこれ?」

「あ……っ」

 

目の前に舞いながら落ちてきた紙をグレイが拾い上げると、ルーシィが素早く奪い取った。なんとなく人に見せるものではない気がするからだ。自分だったら、宛てた人以外には到底みられたいものではないファンレターいや、――ラブレターなんて――。

 

 ――うっ……

 ――見られちゃったかな……

 

慌てて奪い取ったその紙はルーシィの手の中で、ぐしゃりと音をたてた。その紙を握ったままルーシィは、グレイへと視線を向けた。

好意で拾ってやったものを、邪魔だとばかりに奪い取られ、グレイは何事かと眉間にしわを寄せている。

 

「えっと…その……ごめん…」

 

ルーシィは眉を下げ視線を迷わせると、グレイの足元に視線を落とした。その様子にグレイは、ルーシィの顔を覗き込む。完全に狼狽えているのがバレてしまっている。

   

「んだぁ? ……なんかあったのか?」

 

一歩下がろうにも、既にルーシィの背は壁にもたれ掛かっている。

目の前の半裸の男は自分を心配して、理由を聞くまで解放してはくれないだろう。

 

「えと……あのっ……そのぉ…」

 

 

 

 

「ファンレター!?」

「……そう……多分ね…」

「そんなん隠すもんでもねぇだろ うちの姫さん方は、結構皆貰ってんだろ? 何、そんな深刻そうな顔してんだ?」

「……そっそれが……」

 

何とか自分で解決しなければと思っていたのだが、どうしたものかと思案していたのも事実で――。

  

「こっこんなの初めてで……なんか怖いんだよね……」

「ファンレターがこわいって……って、なんだこの量はっ」

 

ルーシィがギルドのロッカーにしまっていた紙袋を持ってきた。その中には、今回の手紙と同じ封筒が大量に入っている。どさりと大きな紙袋を置くと、ルーシィはグレイの隣に腰を下ろした。

 

「……まさか……」

「うん。多分同じ人なの……差出人は書いてないんだけど、封筒や字は同じだし……毎日ギルドのポストに直接入れているみたいで…内容も……毎日ちゃんとちがってて…でも誰だかわからなくて……」

「おいっそれって」

 

さすがにこの量になってくるとちょっと気持ち悪くてと、ルーシィは力なく引きつった笑みを浮かべている。

 

「……何か…段々あたしの好きな本とか、食べ物とかの事とか……毎日の行動とか…も、書いてくるようになってきてて…」

「……ルー」

 

しゅんと華奢な肩がさがると、慰めるように伸ばされたひんやりとした大きな手はルーシィに届く前に、暖かい腕がそれを拒んだ。ルーシィの肩は後ろへと引かれ、暖かい腕に包まれている。

 

「なんでもっと早く言わねんだよっ」

「そうだよっ オイラ達だって何かの役に立ったかもしれないのにっ」

「…うぅ…。あんた達…いつ来たのよ……だって、向こうはただの好意でくれてるだけの手紙かもしれないし……」

 

伸ばした手をしょうがねぇと引っ込めて、グレイは呆れた顔を向けた。

 

「いや、姫さん……軽く見てもストーカーだろ……」

「……っ」

 

グレイの言葉にわずかに肩を震わせると、その肩を引き寄せている暖かい腕に力が入った。ルーシィはそのたくましい腕に手を添えてホッとしたような、バツが悪そうな表情を浮かべている。

 

「……ナツ暴れんじゃねぇぞ」

「あ? そんな奴、ぶっ飛ばせばいいだろっ」

「……はぁ……そうされちゃ困るからルーシィも今まで言えなかったんだろうが」

「えぇ~ナツがぶっ飛ばしちゃえば一発じゃんっ」

「もーハッピーまでっ!! そんなのだめよっ……ただ手紙をくれてる人に暴力振るうなんて……悪気がないかもしれないじゃないっ」

 

ナツの腕を振り払うと、ルーシィは正面からそのつり目を覗き込んだ。だがナツの目は、睨みを崩さない。

 

「んなこと言っても、ルーシィは迷惑してんじゃねぇかっ!!」

「うぐ……そうなんだけど…でもぉ……」

「そうだよルーシィ! 一発びしっとやっちゃえばっ!」

 

ナツとハッピーに強い眼差しを返されて、ルーシィはたじろいだ。ナツに背を向け先程のように椅子に腰を降ろしてしまった。そこへカウンターの中から聞きなれた女性の声が聞けてくる。

 

「う~ん。確かに相手が魔導士でもない限り、ナツが暴れちゃったらそれはそれで大問題よねぇ~」

 

ミラジェーンだ。その声を受け華奢な肩が、ナツの目の前でしゅんと下がった。ナツは腕に力を入れ再びギュっとルーシィの肩を抱くと、眉間にしわを寄せ厳しい表情を浮かべた。

その表情に、相棒の青猫は冷や汗を垂らし、悪友の半裸の男も困った表情を浮かべた。

そこへ、一人にこにことした表情を崩さないミラジェーンは、いいことを思いついたとグレイにウインクを送る。

 

「そうねぇ~いい考えがあるんだけど?」

「そっか、それもそうだよなぁ~よしっ」

 

これが一番の策だとでもいうように、わざとらしくグレイは開いた掌に拳をあててポンと鳴らした。ミラとグレイだけで分かり合っている姿に、ナツは面白くなく唇を尖らせている。

 

「へ?」

「あ?」

「おいナツ。お前ルーシィと付き合ってる事にしろっ」

「………ふへっ!?」

「ルーシィに彼氏がいて、手出しできねぇってわかれば、あきらめんじゃねぇ? ついでに、ボディーガードするのに都合がいいしな」

「なっなんでっ なんでナツなのよっ!!」

「……なんでってなんだよ?」

「だいたい一緒にいんだろ? 誰よりも疑われねぇじゃねぇかっ」

「あいっ! どうせ仕事も遊びも一緒なんだから丁度いいねー」

「そうだな……うしっ! 燃えてきたぞぉっ」

「え? へ? ふへ?」

 

混乱するルーシィの目の前に、ナツのたくましい腕がある。

 

「大丈夫だぞっ オレがついてるっ」

 

 

 

善は急げと、その場で成立した仮のカップル。ルーシィ本人の意向は無視だ。

恋人同士のナツとルーシィ。偽だがそれは、たいしていつもと変わらない調子だった。

 

 ――恋人とか言うから……何するのかと思ったけど

 ――いつもと変わらないような?

 

 ――ナツったら、やる気あるのかしら…

 ――聞かれたら「オレが恋人だっ!」って言えばいいとでも思ってるのかなぁ…

 ――それとも……あたしから動かなきゃいけない!?

 ――そっか、こっちがお願いしてるようなもんだし……って、どうしたらいいのっ!?

 

頭に思い浮かぶ恋人同士のじゃれ合い。まるでハートが飛び交っているように、イチャイチャと触れあう想像の恋人達に、脳内で自分とナツを当てはめてみると、一気に緊張が押し寄せてきた。

 

 ――はっ恥ずかしいっ

 ――あっあたしに出来るのっ!? ……無理よぉ

 ――あっでも『いつも通りでいいのよ』ってミラさん言ってたなぁ

 

想像だけで緊張し全身を固くしてしまったルーシィの隣に、いつもの乱闘を終えたナツがいつものように座った。ルーシィの隣は少しの間空席になっていても、その席には他の者は座らない。それは既に前からの暗黙の了解だった。

「ミラ~ 飲みもんくれ~」と厨房に向かって大声を出すと、ナツはフゥッと息を吐きだした。それを横目にとらえながらルーシィは、変な想像に固まった体を動かそうと頭を振ってみた。

 

 ――いつも通りでもいいって、ミラさん言ってたけど……

 ――って言うか、今まで通りだったら……

 ――何も変わらないじゃない?

 ――今日から恋人って、仮にしても……誰も信じないんじゃないかしら!?

 

ミラジェーンとグレイの案に乗っかったは良いものの、ルーシィの胸には小さな不安がいくつか押し寄せてきていた。

何とか恋人らしくしてみなければと、ぎくしゃくと体に余計な力が入ってしまうのは、ルーシィばかりでナツはいつもと変わらない。そんな様子に、ルーシィの膝の上から鶴の一声が下りた。

 

「ねぇ2人とも……あんまりいつもどおりじゃ、今日から恋人には見えないんじゃない?」

「っ!! やっぱりそう思う? ……どっどうしたらいいのよ……」

「あん? いつも通りでいいって、ミラも言ってたじゃねえかっ」

「う~ん。でもさぁ、なんていうか……ナツとルーシィの間にこう……甘ったるい空気がさぁ~ないって言うかさぁ」

 

ルーシィの膝の上から、丸くて大きな目が二人を交互に見つめている。

 

「……はぁ? じゃぁどうしたらいいんだ?」

「どう思う? ルーシィ」

 

ナツとルーシィと順番に動いていたハッピーの視線は、ルーシィを捉えたまま動かなくなった。顔を上げれば目の前からナツもつり目をルーシィへと向けている。

集まる視線。1人と1匹の視線に、ルーシィの額に汗がタラリとつたう。

 

「あっあたしに聞かれても……っ」

 

思考から追い出したはずの、イチャイチャカップルに自分達を当てはめた図が、ルーシィの頭をよぎる。かぁぁぁぁっと、顔に熱が集まるのを感じながらルーシィは、視線をずらして頬に手を当てた。

正面からの視線は、じっとこちらを捕らえたままのようだ。

 

その様子を見て、青猫の目がニンマリと弧を描く。

 

「ねぇっ オイラいい事思いついたっ」

「えっ……なっなに?」

「あ~?」

 

ルーシィとナツの視線はハッピーに集まった。「あのねっ」と声を小さくしたハッピーにナツもルーシィも耳を寄せた。

距離が詰まって桜色の髪がルーシィの頬に触れると、色を移す様にルーシィの頬も桜色に染まっていく。

必要以上に顔を近づけたナツは、鼻を掠める花の様な甘いルーシィの香に目を細めた。

 

「ナツッ! ルーシィを見つめてっ」

「おっおう」

「ルーシィ! ルーシィもほらっナツを見てっ!!」

「ふっへ……っ?」

 

勢いよく耳に入ってきたハッピーの声に従って、ナツはルーシィを、ルーシィはナツを視界の真ん中に映した。

 

「はいっ そのままだよー」

「えっえっ!?」

「……?」

 

なんだかよくわからないまま、互いに見つめ合うナツとルーシィ。

その距離も近い。

吐いた息の触れる位置にあるナツの顔に、ルーシィの頬は桜色から真っ赤に染まっていく。

 

「ちょっ! ちっ近いんだけどっ!!」

「……」

「ルーシィ 黙って~」

 

ハッピーに言われるがまま、ルーシィは口を閉じた。見つめ合ったままの2人。

 

 ――えっえっえっなにこれっ

 ――いったいいつまでっ!?

 ――なっナツってば無表情で……何考えてるのかしら?

 ――なんかあたしばっかり恥ずかしいんじゃないの!?

 

羞恥に、だんだんとルーシィの目に涙が滲んでくると、青猫のハッピーはシメシメといたずらに真ん丸の目を三日月に歪め、プフフと笑みを浮かべた。

 

「だってほらぁ、アルザック達って見つめ合ってニヤニヤしてるじゃん」

 

ハッピーにそう言われてみれば、確かにそんな気がしてくる。

ルーシィは、頭に何時もラブラブなアルザック夫妻を思い浮かべてみた。互いに微笑み合う様子を――

 

「だからナツ達も、やってみたらいいと思うんだぁ……そうだなぁ、最低4秒! まず見つめ合ってみてよっ」

「うしっ やってみっかっ」

 

ハッピーを肯定するが否やナツは、一度ハッピーに向った視線をくるりとルーシィにうつした。ルーシィが言葉を挟めないまま、ナツはやる気になってしまっている。

前髪が触れ合う距離で、ナツと目と目が合う。ナツに触れそうな顔の一部から自分の意に反して熱を持っていくのをルーシィは感じていた。

 

「ふっへっ」

「……あん?」

「ちっ近いっ!!」

 

グイッとナツの顔を腕で遠のけると、ルーシィは朱に染まってしまった顔を隠す様に恥ずかしそうにそっぽを向いた。その様子に、ハッピーは愛らしい笑顔を浮かべて「いいね~」と声をあげた。

 

 

それから数日。

ルーシィの手元に手紙は届いていない。ギルドのポストに届けられているようだが、すべてミラジェーンのところで止められるようになっていた。不安が消えた訳ではないが、少しの平穏がルーシィをほっとさせていた。

 

ルーシィはナツとの偽りの恋人生活に、慣れ緊張も解けてきていた。大体は、いつもと変わらない。 元々パーソナルスペースが、ナツに対しては無いに等しかったのだ。それまでと変わった事と言えば、いちいち手を繋ぐもしくは腕を組む。

そして――見つめ合うこと――

 

「あとついでに、手を繋いだらいいんだよっ」これも青猫のアドバイスだった。ことあるごとに視線を合わせ軽く4秒。これはかなり恥ずかしかったが、だんだん睨めっこのように楽しくなってきていた。ナツと目が合って笑い合い。手を繋いで行動する。いつもの生活にそれだけが増えた。

 

 ――たのしいっ

 ――どうしよう、ナツは協力してくれてるだけなのに……

 ――あたしばっかりが、ドキドキしちゃってるのかも……

 

『騙すには味方からでしょ?』

『だなっ……今日から付き合い始めた事にすれば、より本当っぽいしな』

 

言い出しっぺの二人からそう言われ、事情を知っている者はごくわずかだった。たしかに、今まで何処からか、ルーシィを見つめてきたと者からみても、以前から恋人でした。というよりは、この日から恋人になったとした方が納得力がある。

 

回りの勢いに押されるようにして、ナツと偽りの恋人になってしまったルーシィ。だが、この数日はドキドキと信じられない楽しさでいっぱいになっていた。

 

 ――どうなるかって思ってたけど……

 ――どうしよう…楽しくて仕方ないよ……

 ――このドキドキも、ワクワクも……全部、相手がナツだからなんだよね……

 ――……ずっと…ずっと続けばいいのに…

 

「……バカだなぁ」

「あん? んだぁ? 本人の目の前で悪口かよっ」

 

つい言葉になってしまっていたルーシィの心の声は、目の前にいたナツには自分に言われたことと捉えられてしまったようだ。視線が合わせられない。

 

「あはははっ 違う違うっ ちょっと考え事してただけだって」

「あんだよ……頭の中でまで、オレを馬鹿にしてんのかルーシィはっ」

「もうっ だから違うってっ」

 

ナツらしくなく、一瞬下がった肩。そのナツの様子に、ルーシィはつい慌ててしまった。ワタワタと手を宙に泳がせ、情けなく眉を下げて、がっくりと頭を垂れたナツの顔を覗き込んだ。――そこには、にやけた表情のナツ。弧を描いたつり目が、ルーシィを映す。

 

 ――4秒――

 

「ブハッ ひっかかってやんのっ」

「もうっ!!」

「ダハハハハッ ルーシィ鳥みてぇに焦ってたなっ カッカッカッカッ~」

 

一瞬にしてルーシィの表情も明るくなり、その頬がプクッと膨らんだ。ワザとらしく腰に手を当て身を屈め、ナツを怒った目で覗き込む。

 

 ――4秒――

 

「ナツの意地悪っ」

「最初にバカッつったのルーシィじゃねぇかっ」

「だいたいバカやるのは、ナツじゃないっ フフッ」

「…んだとぉ」

「なぁによっ」

 

見つめ合ったまま、二人の顔が笑みに変わる。おちょくり合って、じゃれ合って、4秒視線を合わせて微笑みあう。

どこからどう見ても、恋人が板についてきていた。

 

「……で? 本当はどうしたんだ?」

「え……あぁ。 ホントなんでもないのよっ。ただ、乾いた洗濯ものアイロンかけ忘れたなっ……で、だけよっ」

 

 

 

にっこりと微笑んで、ルーシィはナツの一歩先を行く。ギルドの中だけでアピールしてもしょうがないから、外に行ってこいと追い出され、ナツとルーシィは公園に向かっていた。

 

「……ふ~ん」

「あ~そんな事かってバカにしてるでしょ~」

「……ふわぁぁ……寝みいなぁっ」

「ぅうう もぉぉぉ!!」

 

一歩前を行き、振り返りながらしゃべるルーシィ。その表情は笑顔だったが、何か不安に揺れているようにも見える。ナツはギルドマークの入った腕を伸ばし、ルーシィの腕をとって自分に引き寄せた。

 

「わわっ なっなにっ!?」

「あん? ルーシィの手はここだろっ」

 

そっと暖かい手が、ルーシィの手を包んだ。並んで歩けばナツの表情はうかがえないが、何も気にした様子は感じられない。

 

 ――びっびっくりしたぁ…

 ――しっ心臓の音、ナツに聞こえないよねっ…

 

以前よりも少し高い位置にあるナツの横顔を、ルーシィはチラリと見上げた。素知らぬ顔だが、機嫌は悪くないようだ。

 

 

季節は春から夏に変わろうとしていた。公園を吹き抜ける風は、もう生暖かい。

フワリと風に金色の髪を揺らされ、ルーシィは空いている方の手でそれを庇った。ナツのマフラーも一緒に風にたなびいている。公園にはいろんな色の花が咲き、甘い匂いを風に乗せていた。

 

ナツはご機嫌な様子で深呼吸すると、グイッとルーシィの手を引いた。

向かう先には、売店が見える。

 

「うしっ なんか食うかっ」

「えっ ……うん」

 

ピンク色の古い車の形をした移動売店に、並んで顔を覗かせ。ナツとルーシィはまた、ギャイギャイと騒ぎながら注文をすませた。ルーシィがカバンに手を入れる前に、ナツがポケットから小銭を投げる。頼んだ品を受け取り、2人は、近くのベンチに腰を下ろした。

 

「食おうぜっ」

「んっ ナツがおごってくれるなんて、不思議な感じ…」

「あん? たまにはあっただろっ……それに、彼氏は驕るもんだってハッピーに言われちまったしなっ」

 

わるびれる様子も照れる様子もなく、ナツはサラッと言ってのけた。

反対に頬を染めてそっぽを向いてしまうルーシィ。その胸がキュンキュンと高鳴ってしまう。

 

 ――そっそんなのっ

 ――ナツのくせに……反則だよっ

 ――ナツって……恋人には、こういうふうに接するんだ……

 ――……今はあたしがナツの恋人なんだよね……偽のだけど……

 ――ナツが彼氏とか言うから……っ

 ――どうしようっ……舞い上がっちゃうよっ

 

真っ赤に染まった夕焼けに隠されていなければ、きっとナツにドキドキして染まってしまった頬がばれて仕舞っていたかもしれない。ルーシィはそっと赤く染まった頬を空いている方の手で、覆い隠した。

 

 

 

 

そんなある日。今では日課になってしまったナツと手を繋いでのギルドへの道。独りの少女が立っていた。肩までつく髪を、ハーフアップにしてリボンで結んでいる。2人が出会った頃のルーシィのように。

なんでもなくその子の脇を通りすぎようとした時だ。

 

「あっ……ナツさんっ!」

「……あん?」

 

名を呼ばれて足を止めたナツに引き寄せられ、ルーシィの足も止まってしまう。少女がナツを見つめている。

 

「私……伝えたい事が……っ、あのっ…わっ私、ナツさんの事っ」

 

少女は、チラリとルーシィの顔を覗き見る。それからナツに向き直った。

 

「……ルーシィさんと恋人になったって本当ですか?」

「おうっ」

 

少女の言葉に、ナツは間髪入れず満面の笑みで答えた。ルーシィと繋がれた手にギュっと力が入っている。

 

「……ナツさんって、恋愛とか……興味がないんだって……聞いてたのに…」

 

大きな目に、少女は涙をいっぱい溜めている。その様子にルーシィは血の気が引いていくのを感じていた。

 

 ――この子……ナツの事……

 

「勝手な事言うんじゃねぇっ 興味がないなんて誰が言ったんだよ……みんなして、うるせえってのっ」

 

にゅっと唇をつきだしいじけた表情。それにプラスして、何処かうんざりした様子のナツ。

 

 ――そう言えば……ギルドでもいろんな人に言われてたな……

 ――でも……っ

 

「ちょっとナツ そんな言い方っ」

「あん? だってルーシィに失礼だろっ」

「……えぇ?」

「ルーシィに色気がないから、女に見えてなかったって言われてんだぞっ」

「そっそんな事言われて無いわっ!!」

「だって、オレはずっとルーシィと一緒にいたのに、興味ないとか勝手に決められるって事は、ルーシィが女に見えてなかったって事だろ~」

「んなっ!!」

 

ポカッと、空いている方の手でナツの頭を軽く叩くと、ルーシィは抗議の視線をナツに向ける。「凶暴な奴だな」とぼやきながらナツは、嬉しそうな目をルーシィにむけた。

 

 ――4秒―― 繋がれた手はそのままに。

 

その様子を遮る様に、少女が一歩前に出て声を大きくした。

 

「だって、きっ急すぎますっ!! いつもと変わらない様子だしっ……嘘っぽいわっ!!」

 

ルーシィの視線はナツから少女に移ってしまった。ナツはにゅっとした唇を突き出す。

 

「うっうそじゃ……」

 

口をパクパク動かしても、ルーシィの喉は小さな声しか出してくれなくなっている。ぐっと体に力が入った。

 

 ――どうしよう……

 ――この子、前からナツの事見てたんだ

 ――あたしがこんな事、頼まなかったら……嘘なんてつかなくていいのに…

 

ルーシィの身体が1歩後ろに下がると、ナツは逆に1歩前にでた。

 

「別に急じゃねぇぞ…嘘でもねぇし……気持ちはずっと前からあったからなっ」

「ふえっ」

 

ケロッとした表情で何でもない様にナツは言ってのけた。ナツの言葉を受け、カァァァァァァァっとルーシィの顔に熱が集まってくる。

 

 ――ナナナナナナナツってばっ

 ――なんかすごいセリフをさらっと言ってんだけどっ

 

あまりにもルーシィの頭とかけ離れた返答を言ってのけたナツ。その横顔はいつもよりもりりしくすら見えてくる。ルーシィは照れてにやけてしまう顔を隠そうと、繋がれたままのナツの腕に顔を寄せた。ちらりと見える少女の睨み付ける視線。その視線は夢見心地になっていたルーシィを、すぐに現実に戻した。ルーシィの大きな琥珀色の瞳の奥が不安に揺れる。

 

ルーシィと視線が合うと、少女は目を伏せてしまった。

 

そこでグイッと、繋がれている手が引っ張られた。ナツに促される様に、並んで立つとルーシィは覚悟を決めて口を動かした。

 

「ごっごめんねっ……あたしもずっと前からナツの事……」

 

 ――うぅぅ

 ――ごっごめんなさいっ

 ――あたし……嘘だって解ってても嬉しいの

 ――嘘の関係でも……あたしから離れる事なんてできないのっ

 

ナツには嘘だと通じている筈だが、言葉にするのは恥ずかしかった。声を震わせ必死に少女に伝えようとすると、繋がれている暖かい手にギュっと力が入った。振り向くと、優しいつり目が見つめてきた。

 

 ――4秒――

 

ルーシィはゆっくり4秒を心の中で数えると、少女に向き直った。感情が高ぶって、涙が込み上げてくるのをグッとこらえた。

 

「……ずっと…好…き……だったから…」

 

 ――この関係は嘘でも……あたしの気持ちに嘘はないの…

 ――ごめんね…

 

「……わかりました しつこくしてごめんなさい……」

 

バツが悪くて少女から視線をそらそうとした時、少女は鞄から小さな袋を取り出し、ルーシィに向かって突き出してきた。

 

「これ、ある植物の種なんです。魔導士の魔力で成長して、花を咲かせるんです……ナツさんにいつか……って思ってたんですけど、ルーシィさんあげます」

 

顔を上げると、少女はまっすぐとルーシィを見つめていた。

 

「ルーシィさん貰ってください。ナツさんと育ててください。きっと……きれいな花が咲きますから」

 

少女は笑おうとしたのかもしれない。ルーシィを見て眉を下げると、ぺこりと頭を下げて去って行ってしまった。それを見送りルーシィは横目でナツを見た。

 

「ねぇ……よかったの? 今から追いかければまだ間に合うよ……?」

「なんでだよっ つーか、興味ねぇしっ」

 

そっけない返事。その言葉はルーシィの胸に刺さった。

 

 

 

 

その日、帰宅したルーシィは少女から貰ったタネを鉢に植えることにした。

ギルドで確認してもらうと、花が咲くものだと云うことだった。魔力の種類などによって、咲く花に個体差がでるらしい。

 

 ――ミラさん、魔導士の魔力で育つものだって言ってたな……

 ――ナツに、あげようと思ってたんだろうな…あのこ……

 ――はっきりと、好きって言ってなかったけど、あのこはナツを……

 

ふと、昼間の少女の俯いた姿を思い出した。まだ14.5才の気になる眼差をした、少女だった。

 

 ――想っていたんだよね……ナツの事を……

 ――手紙をくれる……あの人も……

 

毎日届いていた手紙は、初めは他愛ないものだった。

 

 マグノリアに、妖精の尻尾が復活して嬉しいです。

 また街中が賑やかになると思うと、楽しみです。

 道端に、花が咲き始めましたね。

 ソーサラーの記事、ずっと拝見してました。

 

他愛ないものばかりで、自分を見ていてくれる人がいて恥ずかしいけど嬉しかった。応援されて、嬉しくないわけがなかった。

だが、その内――、

 

 次のグラビアはいつ?

 服のサイズは?

 足のサイズは?

 化粧品もメーカーは?

 ハートクロイツの他に、好きなブランドは?

 

質問に変わってきた。名前がないので、当然返事をすることができなかったが、返事をしていなくても何故か会話が繋がってるとでもいうように、また質問の手紙を重ねてくるようになっていた。この時、怖いと思い始めていた。背筋に冷たいものが走っていた。

そして――、

 

 クレープを食べていたね。でもあそこの店は、ワッフルの方がおいしいよ。

 今日買ったスカートは短すぎると思うよ。

 たまには髪を降ろしてみたらどうだい?

 もう3日も肉が続いているから、そろそろ魚料理にした方がいいよ。

 君にはピンク色のリボンよりも、青色のリボンの方がよく似合うよ。

 

手紙の中で口調が変わりまるで友人のように、そして一緒に行動していたかのように変わっていった。

確実に見張られている日々、寒気しかしなかった。どうにかしなればとは思うものの、差出人が誰かもわからないまま。

 

 

部屋の奥からシャワーの流れる音と、ナツとハッピーの笑い声が聞こえてくる。

 

 ――手紙の人も、ただあたしを思ってくれているだけなのかな……

 ――純粋な想いを……あたしは、騙しているのだろうか……

 ――ごめんね……ナツとあたしは、偽物の恋人なのに……

 ――でもね、あたしの心は…

 

土を入れた鉢の中心に窪みを作ると、ルーシィは手の中に握りしめていた種を、そこに置いた。

貰った時よりも、心なしか膨らんでいるようだった。

窪みに落した種にそっと土を被せ、ルーシィは鉢の中の土をボーっと眺めていた。

 

 ――そう言えば……手紙、どうなったんだろう

 ――様子をみる為に、こなくなっても暫くは恋人のままでいましょうねって、ミラさんは言ってけど……

 ――本当にいいのかなぁ……

 ――あたしは、いいけど……

 ――……ナツにとって…は…

 

ガタリと音を立て、風呂場の方が騒がしくなった。ナツとハッピーが風呂から上がったようだ。何やら1人と1匹で談笑している。

 

 ――いけないっ……協力してもらってる上に、心配かけちゃダメよ…ルーシィ

 

笑顔を作って、表情筋に力を入れた。そしてルーシィは、種を植えた鉢をそっと抱えた。

 

「…植物なんだからやっぱり、陽があたった方がいいよね」

 

ルーシィは通りから日差しの入る窓辺に、タネを植えた鉢を置いてやろうかと立ち上がった時だ。そこにぽかぽかと暖かい体温が背後から近付いてきて、鉢を抱えた手元を覗き込んでくる。

 

「おっ植えたんだなっ」

「どんな花が咲くんだろうね~」

「そうね…ミラさんが言うには、魔力の質によって違うらしいし、楽しみだねっ」

 

そうだなと呟きながら、顔を持ち上げるナツと視線が合う。

 

 ―4秒―

 

どちらからともなく、笑い出した。

 

「なんか癖になっちまったなっ」

「ホントにねっ あたし、ハッピーと目が合っても数秒見つめ合っちゃうわっ」

「あいっ今日は、それから睨めっこしたんだよね~」

「……ほぉ」

 

思いのほかナツの声が低く響いた。どうしたのかとルーシィがその顔を覗き込んだ時、ハッピーが声をあげた。

 

「わっ何か出てきた~!!」

 

ハッピーの声に促されて、ルーシィとナツは揃って鉢の中を覗き込んだ。

 

「おっ」

「ええっ! さっき植えたばっかりなのに…」

 

鉢の中央に、ニョキっと緑色の芽が土を持ち上げている。鉢を覗き込んだ桜色と金色の髪が触れ合うと、そのニョキっと出てきた芽がひらき、可愛い二葉になった。

暫く覗き込んでから、ルーシィはその鉢を窓辺に置いた。きっと朝日が照らしてくれるだろう。

 

 

 

種を植えてから数日。双葉だった芽はみるみるうちに成長し、大きな蕾をつけたある日。 

 

ギルドに到着すると、馴染みの仲間達がニンマリといやらしい笑みを浮かべて、ナツ達を待ち受けていた。今までさりげなく庇ってくれていたグレイやミラジェーン、事情を知っている者の姿は見当たらない。

 

仲間達のいやらしい笑みに、ルーシィはおもわずたじろいだ。それとは反対に待っていたメンバーに構わず、ナツは何食わぬ顔でいつものカウンターにハッピーを抱えたルーシィの手を引いて向かっていく。

だか、噂好きの仲間達は2人と1匹の行く手を阻んだ。

 

「おいおいナツさんよ~毎朝見せつけてくれるじゃねぇか~」

「やいやいっ 今日こそは聞かせてもらうぜぇ」

「いつの間にくっ付きやがったんだ~」

「オレ達に、報告がねぇぞ~っ」

「そうだっ! いい加減なれそめ教えてくれよ~ナツ」

「なっなっ どっちから言ったんだ?」

 

興味津々の仲間達のいやらしい顔に囲まれルーシィは、ナツと繋がった手に力を入れた。そして、空いている手で抱えていたハッピーで顔を隠しながら、一歩後ろに下がった。そのままナツの手を引いて、ギルドから逃げ出してしまい心境だった。

 

 ――やっぱり…そろそろ限界……だよね…

 ――ナツが……仲間にまで嘘なんて……

 ――でも、ナツが否定する言葉だって……聞きたくない

 ――嘘の関係だってわかってるけど…聞きたくないよ…

 

ルーシィの心中をナツが気にしている様子は微塵もない。ただいつものように何でもない顔でルーシィを背に庇い、また一歩前に出た。ルーシィの腕の中の青猫は、ニヤニヤと事の成り行きを見守っているだけだ。

 

「うっせぇな~ ん~なの、どうでもいいだろっ」

「プフフフッ」

 

心底ウザそうな表情でただそう言うとナツは、悠々とルーシィの手を引いてカウンターに向かって歩みを進める。その背中には、あきらめの悪い仲間達からまだ下世話な質問が投げ掛かられていた。

 

「どうやってお前みてぇな破壊王が、ルーシィちゃんみたいな上玉をっ」

「やっぱり母性本能かっ!? そうなのか~?」

「そんな事より、おふたりさんどこまでいったんだ?」

「ルーシィちゃんとかぁ~くぅぅう~うらやましいぜぇ」

「ナツー!! テメェはもう、死ねっ!!!」

 

暴言と共に、何かを包んでいたであろうグチャグチャに丸められたゴミも投げつけられた。

それを難なくキャッチし火を出し片手で塵に変えると、ナツのつり目がギラリと揺れた。

 

「んだとぉ!! てめぇ等……覚えてやがれっ!!」

 

声を荒げるナツ。

ルーシィは恥ずかしさに肩を震わせた。偽の関係の彼等にそのような接触はないのだが、ルーシィの中で気持ちに偽ではない。どうしたって、頭の中で自分とナツをいちゃつかせてしまう。だが、偽の関係と知らない仲間達の冷やかしは続く。

 

「なんだよ。もー、チュー位はしたんだろ?」

「ルーシィちゃんの唇はやらかかったか~?」

「おっぱい揉んだか~?」

 

どんどん下世話な質問に変わっていく輩たちに、ナツは振り向き際に火を吹いた。

 

「ひゃっ!?」

「……んな…何処までもいってても言う訳ねぇだろぅが…っ」

 

吐き捨てるようなセリフ。そう言ってのけたナツはしれっとした表情だが、その不機嫌がルーシィには伝わっていた。

 

「へっ二人だけ秘密ってか~良いじゃねぇか……減るもんじゃねえんだしっ」

「そうだそうだ~全部吐いて楽になっちまえよ~」

「ぎゃはははははっ」

「でも言っちまったら、ルーシィちゃんが許しちゃくれねえかぁ~」

「はじめて同士じゃあ、大変だよな~よしっ!! 俺が手解きをっ」

「お呼びじゃねぇってなぁ~ぎゃはははははははっ」

「いいねぇ~若ぇなぁ~」

 

俯くルーシィ。すぐ隣にいるナツからはピリピリとした空気が、漂っている。その、普段感じたことのないナツのイラつきに、ルーシィの表情は不安な色を重ねた。

 

「うっせえなっ!! テメェらに関係ねえだろうガッ!!!! だまれっ!!!!」

「んな事言ったって、ナツだって健全な男の子だもんなぁ~」

「てめえら、ホント余計なお世話なんだよっ!!!!」

「なんだよ~ナツは冷てぇなぁ」

「じゃあ、ルーシィちゃんに聞いてみるかっ」

 

誰かが言った言葉により、一気にルーシィに視線が集まってしまった。ルーシィはギュっと手を握りしめた。ニヤニヤとした視線が集まっている。その様子に、「見んじゃねぇぞ!!!!」とばかりにナツは怒りだしてしまった。ルーシィの手を離し、床を蹴る。

 

「だまれっ!!!! つってんだろおがぁぁぁぁぁ!!!!」

 

毎度の乱闘騒ぎが始まってしまった。ギルドの中心で、殴り合い蹴り合いが始まっている。

仲間たちの表情は明るい。いじり倒してくるが、若いカップルの誕生を喜んでいてくれているのだ。

ルーシィの頭をよぎる偽物の関係。

 

 ――あれから結構経つし……このままじゃダメなんだよね……

 ――ナツ……やっぱり、怒っちゃったしなぁ……

 ――そりゃそうだよね…普段から嘘なんて絶対つかないのに……

 ――仲間に対してこんな嘘つかさせられて……楽しいとか、そんなこと思ってちゃいけなかったんだ

 

 ――ナツも…ちょっとは楽しそうだなとか…全部あたしがいいように思っちゃってるだけ……

 ――全部かたが付いたら……気持ち、伝えてみようって思っちゃってたけど……

 ――やっぱりナツには、迷惑なだけ……なんだよなぁ

 

もう何処までが本当で、何処からが偽りか――気持ちと現実が、頭の中でごちゃごちゃになってしまうルーシィ。いたたまれなくなって、ギュっとスカートの裾を握りしめた。

 

「ご……ごめんなさい…」

「え? どうしたの? ルーシィ?」

 

ナツ達の乱闘をしり目にルーシィは、風にあたってくるとハッピーを置いて1人ギルドの裏手にある湖まで来ていた。

仲間達との乱闘の途中で、ルーシィの匂いが建物を出て行ってしまった事に、ナツは暴れる手を止めた。静かにルーシィの残り香を視線だけで追う。

 

「…ルーシィ……?」

 

顔を持ち上げると、ナツの眉間に深くしわが入った。

 

 

 

 

なま暖かい風が青葉を運びながら、湖の上を踊っている。湖面を覗き込めば、ゆらゆらと自分の姿が揺れて見えた。

 

「ひどい顔…」

 

 ――……わかってたことじゃん

 ――ナツは……恋人とか、恋とか…興味ないんだもん…むしろ迷惑なだけ…

 ――ただ、チームメイトの為に、ふりをしてくれてるだけだって……

 ――たまに見せてくれる表情にドキドキしちゃって……

 

湖の上を舞っていた青葉が、ルーシィの目の前で着水して、湖面にゆらゆらと浮かんだ。

 

 ――もしかしたらって、期待しちゃってたんだ…

 ――ナツに期待するなんて…バカだなあたし……

 

湖面を覗き込んでいた自分の顔も、着水した葉につられて揺れてみだれた。

――そこへ、写り込む人影

 

「やぁっ」

 

背後から低い声が掛かった。気配を感じていなかったルーシィは、慌てて声のする方に振り向いた。そこに男が立っているようだが、湖面に反射した光で誰だかよくみえない。

 

「……えと?」

「ルーシィちゃん、お待たせ」

 

穏やかな男の声がルーシィに届く。だが、その声にも、その姿にも、覚えはない。

 

「……あの……どなた?」

 

ルーシィが首を傾げると、男はポケットから見慣れた白い封筒を取り出した。一瞬にして、ルーシィの表情が強張る。

 

「それ……っ」

「僕だよ。そうか、顔知らなかったもんね。 暫く手紙も……受け取れていなかったみたいだしね…何にへそを曲げて、怒っているのかな?」

「え……?」

「あはは。そんな不安な顔をしなくても、大丈夫だよ。僕はわかっているから、会いに来れなくて怒っているんだよね。ルーシィちゃんはかわいいなぁ 」

 

一気に血の気が引いていく。ニコニコと笑顔を崩さないまま、にじり寄ってくる男の口は動き続けている。

 

「当てつけにあんな粗暴な男と仲良くした振りなんかしなくても、僕はルーシィちゃんをちゃんと見てるんだから。安心して。僕の気持ちは変わらないよ」

「……なに…言って……」

「どうしたんだい? そんな顔して…… まさか、ルーシィちゃん脅されているの? そうか、そういう事だったのかっ…恐い思いをしたんだね…だからああいう乱暴な奴は嫌いだ。……もう大丈夫だよ。一緒に逃げようルーシィちゃんっ」

 

目の前に伸ばされる骨ばった白く細い腕。ルーシィは1歩2歩と間合いを広げようと、足を後ろに運ぶんでいるが、それを追うように男はルーシィににじり寄る。さあ、おいでと両手を広げて。

 

「大丈夫。僕がついてる。 どこか遠い土地に行って2人で幸せに暮らそう。そうだよそれがいい。あんな男に邪魔はさせないから…大体、あの男……自分がルーシィちゃんに釣り合うとでも思っているのかね? 粗暴で下品で、いいところなんて何一つないのにっ」

 

男は一瞬氷よりも冷たい表情になり、吐き捨てるように呟いた。

男の言葉を受け、怯えていたルーシィの目の奥で小さい火が揺らめいた。怯えていたルーシィの表情が変わった。声が荒ぶる。

 

「っ!! ナツの事? ナツの事を言っているの……? 何も知らないくせに悪口言わないでっ!!」

「……ルーシィちゃん……やっぱり…キミは優しいねっ! あんな奴を庇ってあげるなんて……仲間だからなんだね」

 

笑顔を崩さないが、男の目はもう笑っていない。ルーシィの片足は湖の波に濡れてしまっている。

 

「うるさいわね。釣り合うとか釣り合わないとか、そんなのあんたに決められる覚えはないっ ナツの事悪く言うなんて許せないっ!!」

「ルーシィちゃん……ヤキモチイベント? そうかっ、僕にヤキモチをやいてほしいんだね!? やっぱりルーシィちゃんは、なんてかわいいんだろう……でもね、そんなこと言わなくていいんだよ」

「ヤキモチって……あたし、貴方の事なんて好きじゃないっ。勝手に決めないでっ……あたしが好きなのはっ」

 

男の気持ち悪い主張に恐怖を覚えていたルーシィだったが、ナツのことを悪く言われた怒りが勝っている。目の前の男が、逆上するのが手にとって分かる。

 

 ――ちょっと、やばいかもっ

 

ギルドの裏手に来るだけだからと、友達の鍵はギルドに置いてきてしまっていた。

 

「仲間だからって、庇う事ないんだよといっているんだっ!! アイツはルーシィちゃんを置いていった奴だっ!! ルーシィちゃんが、庇う事ないんだよ!!!!」

 

男の声が大きく響く。その表情からは、完全に笑みは消えている。ルーシィの肩がびくりと揺れた。

太陽が雲に隠れて目の前の男の顔が、はっきりとわかる。激昂している表情。男は手に持っていたいつもの白い封筒をぐしゃりと握りつぶした。

 

「……ルーシィちゃん……君は騙されているんだ……寂しかったから、そこに付け込まれてるだけなんだっ……僕が、目を覚まさせてあげるから……」

 

風が静かに強く吹いた。男を中心に渦を巻き、大きな木々の葉が揺れている。

 

 ――この風……会ったことのある様な言い回し……まさかっ

 

「貴方、あの時の……」

「やっと思い出してくれたかい? ルーシィちゃんが、僕に……僕等に勇気と自信をくれたんだ。だから僕は変われた……ルーシィちゃん。だから今度はルーシィちゃんの為に…」

 

男は悲しそうにほほ笑んだ。その表情に、ルーシィは覚えがあった。それはマグノリアを離れる事になった1年前の事――

 

無くなってしまったギルドに訪ねてきた兄妹がいた。魔法が暴走してしまう為に、親に見放された悲しい兄妹だった。兄妹2人きりで街を渡り歩き、どこかの街で妖精の尻尾の事を耳にしたらしい。どんな者でも受け入れてくれる。破天荒だがあたたかい家族の様な魔導士ギルドだと。すがる思いで、訪ねてきたのだ。だが、そこにはもう魔導士ギルド『妖精の尻尾』は――。

 

「……随分、魔法をコントロールできるようになったのね…」

「ルーシィちゃんが紹介してくれたおばあさんに、魔力をコントロールする薬を作ってもらって、少しづつ慣らしていったんだよ……おかげさまで、ここまでのことができるようになったんだ」

 

強い風が青葉を拾い空で渦を作り、弾けた。風を失った葉たちは、フヨフヨと宙を漂いながら落ちてくる。

 

「…そう…よかった……妹さんは?」

 

気がかりではあった。すぐにクロッカスに立たねばならない時だった。だが無下に放ってはおけず無責任だとは思ったが、ポーリュシカにお願いしたのだ。また会おうと、約束を交わした。もちろんマグノリアに戻ってから、ポーリュシカの元を訪ねたが「ここには、いないよ」との一言だけが帰ってきたのだ。

きっと、無事にいる。ポーリュシカは不愛想だが、あの子たちを何もしないで放り出すわけがなかった。だから、ここに居ないという事は、魔力のコントロールに成功したのだとそう信じていたのだ。

 

別れる時、兄の後ろに隠れていた赤い頭巾をかぶった少女の怯えた目が、胸に刺さっていた。

 

 ――連れて行く事もできなくて……

 ――次の日にはあたし、行かなきゃいけなくて……

 ――……一晩泊めて、話しだけ聞いて……ポーリュシカさんのところに……

 ――結局……放り出した様なものだよね…

 

「あぁ……先日会ったって言ってたけど、解らなかったかい…?」

「……っ!! まさかっ」

 

 ――まさか……

 ――あの子……?

 

思い当たる人物が1人いた。数日前にルーシィの前に立ちはだかった少女。

 

 ――ナツを、想っていて……あたしに、種をくれたあの子は…

 ――あたし……気付いてあげれなかったんだ…

 

真っ直ぐとルーシィを見つめていた目、その瞳の奥はわずかに揺れていた。今思えば確かに、あの時の少女であったかもしれない。一年前につないだ小さな手の感覚が、思い出される。

ルーシィはギルドマークの入った右手を胸の前で握りしめ、左手でそれを覆った。気づけなかったことに、胸の奥がチリリと痛む。

 

「ルーシィちゃんみたいになりたくて、髪型を真似して……どうしたの? ルーシィちゃん」

 

男がゆっくりと手が、ルーシィの肩へとのびてきた。そこへ、ルーシィの背後から暖かい気配と影が差す。

ルーシィの肩へと伸ばされた白く細い筋張った手が、熱く逞しい腕に阻まれた。

 

「おいテメェっ 汚ねぇ手でルーシィに触れるんじゃねぇっ」

「……ナツっ」

 

低く響くどすの利いたナツの声に、ルーシィは驚き振り返った。いつもより熱い腕は、ルーシィの肩を抱き寄せた。その一方で、もう片方の手で男の襟首を捻りあげている。

 

「うっ……ぐぅぅ」

「はじめっから気に喰わなかったんだ。子供みたいな無害な匂いのくせに、ルーシィを苦しめやがってっ」

 

喉が締まって男は、苦しそうな声をもらしている。額に青筋をたてて男を捻りあげながらナツは、怒りに震えている。そのままナツは、片手で抱えていたルーシィを背に庇った。

 

「……ルーシィはオレんだぞっ!!」

Anchor 1

「ちょっ!! ナツっ! やめてぇ!!」

 

ルーシィはおもわず、男を捻りあげているナツの腕に飛びついた。ナツが驚いた顔でルーシィに振り返った。

 

「なんでだよ……っ」

「お願いだからっ、傷つけないでっ!」

 

ルーシィの必死な表情に、ナツはしぶしぶ腕の力を抜いた。その場に膝から崩れ落ちた男は、ゴホゴホと咳き込み目に涙を浮かべながら立ち上がった。かすかに肩が震えている。

手は放したが、ナツの怒気を孕んだ鋭い視線が目の前の男を射抜いている。

 

「たくさん手紙を書いたんだ。ルーシィちゃんが手紙を書いていいって言ってくれたから。僕は、ルーシィちゃんを幸せにできる男になったんだ」

「おい……うるせぇぞ…」

 

低く唸るような怒ったナツの声が響く。だが男の口は、止まらない。

 

「僕らは幸せになるんだっ ルーシィちゃんがいれば幸せになれるんだっ」

 

男は叫びながらポケットから、白い封筒をばらまいた。

 

「僕が一番ルーシィちゃんとお似合いなんだっ」

 

封筒と一緒にばら撒かれた揃いの白い便箋に、男が手をかざせばそこに文字がうかでくる。思い浮かべた事が、文字になって表れるようだった。

 

「それ……っ! …魔法?」

「そうだよ。小説家を目指すルーシィちゃんの役に立てるように……ルーシィちゃんに見合う魔法を僕は習得したんだ」

「んなのてめえが勝手に決めることじゃねえ!! ルーシィがどれだけ恐い思いしたと思ってんだっ」

 

白い封筒と便箋がナツの火によって、一瞬にして消し炭と化した。再び襟元を捻り上げられながら、男の動きが止まった。何かに気付いた様に、ジィッとルーシィを見つめている。マグノリアに帰ってきた時よりも、少しやせた印象のするルーシィ。

 

「…こほっ…ルーシィちゃん、こわかったの…? コホッ……僕のせいでこわかったの……? ゴホゴホッ」

「っ!! てめぇっ!!」

「ナツっ! 離してっ!! お願いだから乱暴はやめてっ」

「だからなんでルーシィが庇うんだよっ!!」

 

男を捻り上げている腕に、ルーシィが飛びついてくる。なぜか男を庇う様なルーシィに、ナツのイライラがつのる。ルーシィに構わず、握りしめた拳が降りあげられた時、ルーシィがその前に飛び出した。

 

「ダメダメッ!! 相手は子供なのよっ」

「……は?」

 

振り上げた拳をそのままに、ナツは動きを止めた。まじまじと目の前の男の足先から頭の先まで見つめてみた。どう見ても成人するぐらいの男だ。

 

「1年前、始めた会った時は10歳だって」

「ルーシィ騙されやすすぎだろうがっ どう見てもっ」

「本当なのっ! 前は、見た目もそれくらいの子供だったものっ……多分ポーリュシカさんの魔法薬の影響か何かなんでしょ?」

 

ルーシィの必死な説得に、ナツは男を捻り上げていた手を緩め、その場に降ろした。「ルーシィちゃんごめんなさい」と呟きながら、男は泣き出していた。

 

「はぁ……ちゃんとわかるように説明しやがれっ」

「うっうっ……おばあさんが…うっ…子供の身体で僕の魔力を抑える事は難しいから…ズズッ……それに耐えれる体に……うぅっ…って……体が大きくなったら、魔法が暴走することも…グズッ…無くなって……風…うぅ…以外にも…いろんなことが…できるように……うっうっ……コントロールに……慣れたら……グズッ……戻してくれるって…言われたんだけど……ズズっ……子供に戻ってしまったら、僕等はまた……っうううっ……誰にも・・・・相手にされなく…なっちゃうって……うううぅ……」

「……それで、大人の姿でいるのね…」

 

胸が締め付けられた。子供だけで生活していくことは、とても大変な事だ。危ない目や恐い目にもあったのだろう。ナツやグレイには、妖精の尻尾があって仕事もあった。だがこの兄妹にはそれすら無かったのだ。

 

 ――自分たちを守るために…無理やり大人になろうとしたのね……

 ――あたしが連れて行っていれば…

 

涙を流しながら座り込んでしまった男の手を、ルーシィは包む様にそっと手を添えた。男の肩がピクリと揺れる。

 

「……ごめんね。ルーシィちゃん。あなたがマグノリアに帰ってきて、僕嬉しかったんだ。おばあさんのところに行けば会う事もできるってわかってたんだけど、子供の姿に戻されたくなかったんだ。どうにかできないかって、一生懸命考えて……。ルーシィちゃんと結婚すれば一緒に居られるって……怖がらせていたなんて……僕……」

「…もう、いいのよ……結婚は出来ないけど……ごめんね。気付いてあがられなくて……何時でも、会いに来てくれればよかったのに…でも、貴方たちが、無事でよかった…」

 

 

 

 

 

その後、一人の少女が涙を流す兄を迎えに来た。魔力の弱かった妹の方は、兄ほど体を成長させないでもすんだのだといっていた。無理やり体を成長させている為に、精神面で揺らぎが出てしまうという事も教えてくれた。だが、生活の為生きていく為に大人の姿が必要であったのだという。子供に戻されない為にマグノリアから離れたところに住み、他の街で働いていたそうだ。

妖精の尻尾が復活した今、改めてギルドにはいる事もできるのだが、妹は今の生活があるからと語った。どうやら同じような境遇の、だが魔力を持たない子供たちと、遠くの田舎で生活を共に始めるらしいのだ。落ち着いたら、兄と共にポーリュシカを訪ねると妹の方は約束してくれた。

 

 

 

去って行く兄妹の背中を見送りながら、ルーシィはナツに振り返った。

 

「ありがとねっ ナツ」

「おうっ」

「……なんか関係ないのに、巻き込んじゃって……嘘までつかせちゃって……ごめんねっ」

「…関係なくねぇだろっ 嘘もついてねぇしっ」

「え?」

「オレからしたら、嘘なんてついてねぇし関係なくねぇぞ」

「なっなっなんで……うっ嘘じゃないって…」

 

ナツは何を言っているのだろうと、ルーシィは訳が分からないといった表情でその真意を覗き込む。そこには、少し呆れた表情のナツ。

 

「だからさっき言っただろっ。ルーシィはオレのもんだって」

「えっいやそれは、お芝居……だから……なんで…しょ……?」

「はぁ? だから、なんで俺が嘘つかなきゃなんねぇんだよっ」

 

「そうそうっ! 始めっから、ナツに芝居なんてできるわけないじゃんっ」

「「ハッピー!?」」

 

揃って振り向いたそこに、ふよふよと宙に浮いている青猫のハッピーがいる。わくわくと瞳を輝かせ、目は弧を描き、歯を見せニヤニヤと笑みを浮かべている。

 

 ――いったいいつからいたのだろう――

 

「だって、ナツだよぉ~ルーシィ」

「だってってなんだよっ」

「えっ……えっとぉ…」

 

 ――オオオオオオレのもんってっ!? うそじゃないって……

 ――だってだって……さっきギルドで

 

頭の中で、ナツの言葉が何度も何度もリフレインされる。顔に熱が集まってくるのがはっきりとわかったが、口は止まらない。

 

「だっだって、あんたっ……さっきワカバたちに、関係ないって言ってたじゃないっ」

「あ? そりゃ、関係ぇねえだろっ! アイツらにはっ……まぁちょっと、ムキになっちまったけどな………あぁ、あれだっ! 釣った魚は……焼いて食う?」

「あははっ それを云うなら、釣った魚に餌はやらないだよナツ~」

「おっそうだったか?」

 

楽しそうなナツとハッピー。心の底から笑っているのが伝わってくる。ルーシィは大きく息を吸うと、一気に吐き出した。そして呆れた表情で、ほんのり赤くなった耳にポツリと呟く。

 

「じゃなくて…、それを言うなら、売り言葉に買い言葉でしょっ」

「あん? 何も買ってねえぞぉ……まぁ、似たようなもんだろっ」

「ナツ、ルーシィ釣りしてたの~? プフフフッ」

「おうっ でっけぇのが、釣れただろっ」

 

臆面もなく、カッカッカッカと声を上げて笑うナツ。いつもと変わらない様子だが、その耳は真っ赤に染まっていた。

 

 ――それって……もうっ

 ――そういうこと……なんだよね…

 

「まだ、釣られてないわっ ってか、エサ蒔かれた覚え無いわよっ!!」

 

期待と、勘違いかも知れないという迷いに、ルーシィは焦って声をあげた。そのすぐ後に、小さくポツリと「…まだかよ…」呟かれた声。心なしかナツの肩が下がった。その様子に、ルーシィの胸はギュゥッと痛んで鼓動を早くしていく。

 

「エサって……がめつい奴だなっルーシィは…」

「んなっ!」

「プフフフフフ~ ルーシィ変な顔~」

「うぐぅ……もっもうっ、しっ仕方ないから、ナツに……釣られてあげるわよっ…」

 

しりすぼまりに消える声。真っ赤に染まった可愛い顔は恥ずかしさにそっぽを向く。ふわりと揺れた金髪の間から、真っ赤な耳が見え隠れしている。

 

「おっ?」

「ルーシィもナツが好きだってよ~ナツぅよかったねぇ~」

 

ハッピーの大声に、肩を揺らした2人が目を合わせた。

 ――4秒――

 

「プップフフフッ」

「カッカッカッカッ」

「アハハハッ」

 

笑い合って、視線を合わせてまた笑い合う。

 

 ――あたし達……

 ――もしかしたらずっと、同じ気持ちだったのかなっ

 

空を見上げると、木々の青々とした葉が、風を受けて大きく揺れている。その向こうに碧い空。ながれる白い雲。

そして、目の前には大好きな人。

 

 ――やっぱり一緒がいいっ

 

 

「あたし、ナツと…ハッピーと、一緒がいいんだっ」

 

 

 

 

 

Fin

 

 

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お粗末さまでしたぁ~(*’▽’)

脱線しまくりで申し訳ないっ!!そして纏まってないですねぇ;;;;;;

はじめる時から考えていた結末は変わらないのですが、途中がいろいろ吹っ飛びましたぁ。

題名に見合うものになってればいいんだけど……(・_|

個人の趣味に偏った作文にお付き合いいただきありがとうございましたっ!!

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