2016.12.~
目を覚ませよ
目を開けたそこに、見覚えのある天井
――そして、見慣れた桜色の髪。
胸に感じる重さはきっと、彼の相棒のモノ――
「……ナ…ツ…」
*
*
*
ぐらつく視界。
額に手を当て、顔にかかった髪をどかし、ナツは体を起こそうと地に手をついた。
幸い落下途中にあった大きな木の枝々が、勢いを殺してくれて地面に叩きつけられることは無かったようだ。
まだ落下のショックにより意識がはっきりしてこないまま、グッと力いっぱい抱え込んでいたままだった腕を動かした。
その動きに、ナツの腕の中に抱え込まれていた少女は、グラリと体を揺らした。
――無事なはずだった・・・・・・
「……痛ってぇ……おい ル―……シィ……っ」
体を起こそうと地面についた手がヌルリと暖かいものにふれる。一瞬にして全身から血の気がひいていく。
――嘘だろっ!!!!
「っざけんなルーシィ!! 返事しろっ! ルーシィ!!!!」
ぐったりと体に力の入っていないルーシィ。その肢体は重力に逆らえずだらりと垂れている。
だが、ナツの呼びかけにうっすらと瞼を持ち上げた。
「ルーシィっ!!」
何の悪戯か見当もつかない。考えたくもない。
ただ、落下の途中に何かの衝撃をルーシィが受けた事だけは明らかだった。
抱え直したルーシィの身体は、急速に体温を下げていく。
「今、血、止めてやるからっ」
異常に冷たくなっていくルーシィの身体を横たえ、服を破り生あたたかい血を吐き出す傷口をあらわにした。
大量の血液を流すわき腹を、ナツは己の火で焼いて止血した。
肉を焼かれた痛みを感じないのか、ルーシィはただその瞳にナツの姿を映している。
そして、ルーシィは重たくて力の入らない右手で、そこに垂れてきたナツのマフラーを掴んだ。
「…ナ……ッ……」
己を抱きしめる相手の名を消えそうな声で呼ぶと、ナツが目を合わせてくれた。
ニッコリと真っ白な、それよりも青白い顔でルーシィはわずかに微笑んだ。
「ルーシィっ! 待ってろ今、助けてやるから……っ」
今にも泣きだしそうな、震えるナツの声。
ナツとルーシィが落下したそこは、森の深い谷だった。他の者の気配はない。
「……ッ……ナ…ッ……が……ぶ…じ…で……か……った……」
青く血の気のひいた唇が、ゆっくりと動くとルーシィはそのまま目を閉じた。
「おいっ! ルーシィ!! 目開けろっ!! ルーシィ!!」
それから揺すっても、頬を叩いても、ルーシィは、ビクリとも動かない。
「っ!! ……ふざけんなっ……いくなよルーシィ……ルーシィ……ルーシィ…………いくなら……っ」
ぐったりとうなだれるルーシィの金色の髪を、赤く染まった武骨な手がぐしゃりとつかみ、その体を掻き抱いた。
「ルー……シィ……オレも連れてってくれよ……っ」
*
*
*
あの後、異常な未来の光景を視たシャルルに連れられ駆けつけてくれたウエンディによって、ルーシィは一命をとりとめた。
一命はとりとめたが流れ出てしまった血液不足により、ルーシィは眠り続けた。
それから数日。
ルーシィはまだ目を覚まさない。
眠り続けるルーシィの身体を拭くからとミラジェーンにギルドの医務室を追い出されてから、ナツは廊下に座り込みその部屋の扉をじっと見つめていた。
暫くすると“ギィィ”と、小さな音を立ててその扉から、タオルや着替えを抱えミラジェーンがでてきた。
「ナツ……一度家に帰って、貴方も休んだ方がいいわ」
「……いぁ……ルーシィは?」
寝不足により目の下を真っ黒に染め、力の入っていない生気の抜けたナツの目は、ミラジェーンの背後に見える眠り続ける金髪を目に映している。
そのナツの様子にミラジェーンは、眉を下げ首を横に振った。
「まだ、眠っているわ…」
「オレ……ルーシィんとこに…」
立ち上がるとふらりと揺れるナツの体。
普段のナツと比べ物にならないその様子にミラは大きなため息を落とした後、諭すように優しく囁いた。
「ナツも、体を洗ってきなさい。ルーシィは病人なのよ。
近くに居たいならナツも清潔にしてちょうだい……それと、しっかり食事をとりなさい。
ナツのそんな生気の無い顔みたらルーシィが、悲しむわっ。
簡単に食べられる物持ってくるから、とにかくシャワー浴びて着替えてきなさいっ」
「……あぁ」
医務室と同じフロアにある風呂場へと、ミラジェーンはナツの背中を押した。
そのらしくなく丸まって縮こまった背中は、見ているだけで胸が痛む。
ナツの心境を思えば、心が痛んだ。
「ナツッしっかりしなさいっ!! ルーシィは、今も自分と戦っているのよっ」
「あぁ……わりぃ…」
消えそうな小さな声。だが、そう呟くとナツは自ら歩み風呂場の扉を閉めた。
薄暗い脱衣所には誰の気配もない。
ナツは服のままシャワールームに入り、コックを全開に捻った。冷たい水がナツの頭の上から、勢いよく降り注ぐ。
すぐに思い出してしまうルーシィの顔がある。あきらめたような張り付いたルーシィの作り笑顔。
ルーシィがケガをする前、ルーシィから告白された。
ただ「好き」だと。だからどうしたいとかじゃなくて、知っていてほしかったと。
「オレだって好きだ」と返しても、ルーシィは首を横に振った。
「あんたの好きと、あたしの好きは少し違うのよ……」
そう言われて、返す言葉が見つからないで呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
ルーシィを嫌いな訳がない。でも、ルーシィの言う好きの違いがよくわからなかった。
仲間はみんな好きだし、大切な家族だ。
ルーシィは「わかってるから、大丈夫だよっ」て、いつもと違う笑い方をしたんだ。
あきらめたような張り付いたルーシィの作り笑顔。
見ていて、こっちがつらくなってくるような笑い方。
その顔を見て、何だか心臓の裏辺りがギュウと握られたみたいに、ズキンと痛んだんだ。
その意味が解る前に、緊急の依頼がはいった。
王都への賊の移送途中、捕まえていた賊の仲間達からの襲撃。
散り散りに逃げた賊の一部は、マグノリアへも逃げ込んできたのだ。
ギルドへの緊急依頼により、すぐさまナツもルーシィも出動した。
逃走犯。その数は悠に、ギルドに残っていたメンバーの数を越えていた。
『ナツ・ルーシィ・グレイ・エルザ、お前らのチームは商店街に向かってくれっ』
ギルドから、ウォーレンが念話で指示を出していた。
ナツとルーシィは直ぐにチームメイトと合流して、同じ持ち場に向かったはずだった。
先頭を走るエルザとグレイ。
自分等のチームが向かう場所は、すでに逃走犯が多数騒ぎをおこしていると情報がきていた。
だがそこに向かう途中、後方にいたルーシィが道を外れたのだ。
「おいっルーシィ!!」
そっちじゃないと、叫ぼうとした時だ。ルーシィの綺麗な声がそこに響いた。
「ウォーレン聞こえる? ルーシィだけど、あたしは森に行くわっ
今朝、子供達が昆虫採取に行くって言ってたのっ!
避難してればいいけど、もし、鉢合わせてしまったら……っ」
『こちらウォーレン
わかった。ルーシィはそっちに向ってくれっ
森に向かってる連中にも伝えるっ
ナツ、グレイ、エルザは、持ち場を先に片付けてくれっ』
振り返ったルーシィは、チームメイトに任せろと拳を空に向けて突き出して見せ、走って行ってしまった。
――その後、妙な不安にかられてオレは、持ち場をグレイに任せてルーシィの元へ走った
ルーシィの心配は的中していた。
森に入っていた子供たちの元へ逃走犯の存在が近づいていた。見つかれば人質にされかねない状況だ。
ルーシィは森に入る前に呼び出した星霊達と散り散りになり直ぐに捜索を始めた。
程なくして数人が見つかって星霊によってギルドに連れていかれている中、まだ数人の子供だ見つかっていない。
ルーシィは以前虫取りの罠が仕掛けてあった森の中腹の大きな木を思い出し、そこに向かっていた。
状況が解っていない子供の背後に迫る逃走犯。
間一髪、逃走犯に見つかる前に子供を見つけたルーシィだが、既に近くに数人の逃亡犯が迫っていた。
子供を逃がす為に迫る逃亡犯の前に、ルーシィは姿を見せた。
女ひとりであれば追ってくる可能性が高いと踏んでの行動に、うまく逃走犯が喰いついた。
逃走犯の進路を操りながら、ルーシィは鍵を通してギルドにいる星霊と連絡を取っていた。
呼び出せる星霊には限度があり、戦うのは合理的ではないと判断していた。
ウォーレンに状況を伝えながら、森の中を逃げ回るルーシィ。
何とかひらけた場所におびき出し、そこでギルドの仲間達が待ち受け逃走犯を捕まえれば一件落着だ。
息を切らしたルーシィの立った足場が崩れたのは、仲間たちが逃亡犯を捕まえた時だった。
「ルーシィィィィィィィ!!!!」
間一髪、落ちていくルーシィの手を握りその体を引き寄せ抱き締めた。
結構な高さがあったが、下は木々が生い茂る森だ。
――木々がクッションになってくれるだろうと、これで大丈夫だと……
――もう少し、もう一歩、早ければ……
――あの時、ルーシィだけを行かせなければっ!!
握りしめた拳から湯気があがる。
シャワーヘッドから勢いよく流れ出る水は、ナツの体に触れると瞬く間に沸騰した。
*
*
*
目を開けたそこに、見覚えのある天井。
――そして、見慣れた桜色の髪。
胸に感じる重さはきっと、彼の相棒のモノ――
「……ナ…ツ…」
「……っ! ルーシィッ!!」
眉間に寄せられていた皺がふっと消えると、いつでも吊り上がっている猫の様な目が大粒の涙に揺れた。
「……泣かないでよ……ナツ」
胸の上では既に、嗚咽をもらしながらハッピーが涙を流している。
「っ……泣いてねぇ……いぁ…ルーシィが、いつまでも寝てっから……」
「…っ……バカね…あたしがナツを置いていく訳ないじゃないっ」
そっとナツの涙をぬぐう細く白い手を、ナツは力任せに引き寄せた。ルーシィの胸の上にいたハッピーごと逞しい腕の中に抱き込めば、ルーシィの身体は体温が低く、いつもよりもいくらか細い気がする。
「オレッ、ルーシィが好きだっ」
「……ナ……ツ……?」
「わかんねぇ…いつからとか、ルーシィが言う好きの違いとか分かんねぇけど、ルーシィが逝っちまうなら、オレも一緒に逝っちまってもいいって思ってた…」
ルーシィを抱きしめる腕がわずかに震えている。
「……何…言って…?」
「ルーシィがいないと、ダメなんだ」
暫く動かしていなかった少し細くなった腕をナツの背に伸ばし、ルーシィはナツの黒衣をギュっと握りしめた。
「……あたしは、何処にもいかないよ……ナツ」
「あぁ…ずっと一緒だ。仲間たちがどこに行ったって、ルーシィだけはずっとオレと一緒にいろよ」
「……うんっ」
ルーシィの頬をつたい流れ落ちる透明の雫。
「……本当に、わかってんのか? ハッピーが大人になって、嫁貰って子供とかできてもだぞっ」
「ん?」
「エルザやミラとか誰かと誰かが結婚してもだそっ」
「ん? ……うん?」
頭の中に大きなクエッションマークが浮かんでいるルーシィ。ナツがルーシィの顔を覗き込んだ時、弛んだナツとルーシィの間から、もぞもぞとハッピーが顔を出した。
くりくりと丸い大きな目でナツとルーシィを交互に見つめた後、ニヤリと丸い目を三日月形に変える。
「ぷふぁっ…ナツ、オイラとシャルルの子供よりも先に、ナツ達に子供できる方が早いんじゃない?」
「おぉそっか」
「えぇ!?」
ハッピーの言葉を受け、ルーシィの顔に、全身に朱が集まってきている。その姿に、ナツ目が優しく笑う。
「オレとルーシィの子供ができても、ルーシィはオレの隣でずっと一緒に笑ってればいいんだっ」
ナツの頬が、らしくなく真っ赤に染まっている。
湧き上がってくる涙にゆがむルーシィの視界。それでもルーシィは瞬きもせずナツを見つめる。
「ねぇナツ……それってっ」
ポリポリと赤く染まった頬をかき、ルーシィに向かってニカッとナツが太陽のように笑って見せた。
「だから、オレも好きだって言っただろっ」
「うん……うん。あたしも大好きっ」
ナツが再びルーシィを抱きしめた時、ハッピーも「よがっだよぉ~」と泣きながら、一緒に抱き着いた。
それに笑いだすナツとルーシィ。
ひとしきり笑い合った後、ルーシィが起きたことを伝えてくるとハッピーが部屋を飛び出す時、ニヤリと笑いながら振り返った。
「どぅえぇぉてるぅぅう」
「おうっ」「もうっ」
*
*
*
ルーシィの傍らには、いつものように桜頭が並ぶ。
「なっルーシィ 次は討伐の依頼行こうぜっ」
「えぇっ ……危ないのは、い・や・よっ」
「大丈夫だって オレが守ってやるからっ」
「あいっ オイラも守ってあげるよ ルーシィっ」
「ふふふっ……じゃぁ、移動に丸1日かかるけど、大丈夫よね?」
「っ!!!! ……いぁぁ… 歩いていけるとこねぇのかよっ」
「や~よ この依頼が一番報酬いいんだからっ」
「……ちぇっ……しょうがねけなっ」
Fin
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いつもナツに振り回されて『しょうがないわねっ』って言っていたルーちゃん。
付き合う様になったら、ナツの方が『しょうがねぇなっ』っていう機会が多くなるといいなぁって思うmoです。
最近、忙しくないんだけど忙しくって、なんだか落ち着かない日々を過ごしている主婦moです。
今回は衝動に任せて、書き散らしてみましたっ←
ありがちパターンだけど、なんだかとっても書きたかったのっ
ありがちでも、ナツとルーシィなら絶対おいしいって思ってもの妄想です。
読んでくださった方においしく食べていただければ嬉しいです。
お粗末さまでしたっ(*’▽’)末永くお幸せにナツルー♥