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夢と現実の交差点

Twitterのトコヤさんのタグに乗っかって、わがままを聞いてもらって、リレー小説が始まりました!

行ったり帰ってきたりのリレー形式って初めてだったけど、次どうしてくれるんだろうとワクワクしたし楽しかったです。

ナツが発熱して、眠れなくなる。そんなナツを、ルーシィが看病するお話です。

 

 

「ぶえっくしょんっ」
「わぁっ!! こっちに唾飛ばさないでしょナツ!!」
「だぁっくしょんっ」
「わぁぁぁぁん。ルーシィ助けて~!!」

マグノリアは晴天。昨日までの寒の戻りで冷やされた空気が、まだ春にしては少し寒さを感じさせていた。今日も今日とて、魔導士ギルド『妖精の尻尾』は元気である。

太陽が早々に傾き、太陽の帰る空が茜色の染まる頃、今までギルドの顔を出していなかったお騒がせ男が酒場のドアをガタリと鳴らした。

叫びながらボスンと胸に飛び込んできたハッピーを抱きとめると、ルーシィはハッピーが飛んできた方向に目を向けた。ナツは酒場の入り口近くで、くしゃみを繰り返している。マフラーを顔の半分まで持ち上げマスク代わりのようにしているが、チラリと見えるその顔は、なんだか赤い気がする。

――ナツが風邪!?
――まさかね。

ハッピーに遅れてナツがルーシィの隣までやってきた。ドスンとカウンターのスツールに腰を下ろすと、力なくカウンターテーブルに上半身を預けた。苦しそうに瞼を降ろしながら、ギュっとルーシィの服の裾をカウンターの下で握った。

「///どうしたのよ?」
「んん~」
「ナツ。起きた時からなんか可笑しいんだ」
「ええ?」

ルーシィはそっとナツの額に手を当てた。もともと体温は人よりも高いナツだが、これは異常と言っていいだろう。その熱に驚きルーシィは、桜頭を見つめた。

「熱いじゃないっ」
「んあ?」

「あらあら。ナツ風邪ひいちゃったの?」

カウンターからいつもの調子で、看板娘のミラジェーンがやってきた。その顔にはしっかりとマスクがされている。

「でも、オイラ。ナツが風邪ひくなんて聞いたことないよっ」
「そうねぇ。初めてじゃないかしら? ナツが病気なんて」
「……ナツ。何か変な…「オレはっ!! ……風邪なんかひかねぇぞっ!! ちょっと寝れなかっただけだっ!! ……ぶぇっくしょんっ!!」
「え? ……どこででも寝れるナツが!?」
「あい。夜中じゅうずっと、もぞもぞ・ガサガサ・ドカドカ・バンバンって……オイラもあんまり寝られてないんだ……」 

耳をペタンとたらす青猫はその目に心配の色を浮かべて、相棒の桜頭を見つめている。ハッピーの頭をヨシヨシと撫でてやるとルーシィも、心配そうにナツの顔を覗き込んだ。

力なく突っ伏しながら少し苦しそうに肩で息をし、ナツの顔だけがルーシィにむいている。いつもより下がった目が熱で潤んでルーシィを見つめる。

ハッピーはカウンターに座りミラジェーンから貰った魚を頭から頬張っている。その隣でマスクをしたミラジェーンは、口元に白い指を添え左上を見て何か思案しているようだ。

「ったくもう……熱あるんだから風邪でしょうがっ」
「……やっぱり風邪なのか? ……だぁっくしょんっ」
「もうっ、なんでちゃんと寝てないかなぁ…」
「……だって…寝れねぇんだもん」

にゅっと唇を突き出したナツに、ルーシィは優しく微笑んだ。

 ――だってなんか不安なんだ……
 ――ルーシィ……
 ――やっぱルーシィは、あったけぇな……

そして相変わらず、カウンターの下でナツの手はルーシィの服の裾を握っている。

――もうっ…甘えてるの?
――何か……ナツには悪いけど可愛いかもっ

白い手をそっと伸ばし、ルーシィは桜頭に優しく触れた。途端気持ちよさそうに目を細めるナツに、またルーシィは微笑んだ。

「そんな眠そうな顔してっ! 風邪なんて、薬飲んで寝ればすぐ治るわよっ」
「……それじゃぁ、決まりねっ。ルーシィ」
「あいっ!!」

ナツとルーシィの会話を聞いて、何やら思案していたミラシジェーンの声がカウンターの中からする。

「んあ?」
「さすがルーシィ!!」

助かったとばかりに、ハッピーはルーシィに抱き着いた。



「……結局こうなるのよね……はぁ」
「ワリィな。ルーシィ」

ルーシィはナツに肩を貸し、ナツの家を目指している。ナツは、何とか自分の足で歩けるものの、酷く苦しそうで、足元がふらついている。ハッピーは、ポーリュシカさんのところへ、薬をもらいに行ってしまったのだ。

「しおらしいと、ナツらしくないわよっ」
「ははっ」
「なんか、気持ち悪いわっ」
「病人にも、残忍な奴だな」
「残忍って……ほらもう少しだから、頑張って」

家に到着する頃には、ナツは肩で息をしていた。体にうまく力が入らないようで、其の体重のほとんどをルーシィに預けていた。

「よっ…と」

ナツを空いていた椅子に座らせると、ナツが寝れるスペースを作る為ソファの上に散らばっているモノを片付けた。

“ドサッ”

何か物が落ちたような音にルーシィが振り返ると、ナツが椅子から倒れ落ちていた。

「ナツ!!」
「う…うゔ」

その場に大の字に寝返るナツ。スースーと規則正しい寝息――。
しかし、酷い汗だった。ナツの身体からは熱い玉のような汗が吹き出していた。横たわったナツからは湯気が上がっている

「ちょっと熱すぎよね…体冷やさないと…」

ルーシィは窓を大きく開けた。涼しい風が流れ込んでくる。ナツがあげた室温を、風が冷やしてくれる。少々汗をかいていたルーシィにも、気持ちよく風が通る。

汗が体を冷やさない様に、ルーシィはナツの身体を絞ったタオルで拭いてやった。ほんの少し気持ちよさそうな表情の眠っているナツにホッとした時、窓の外から聞きなれた声が響いてくる。

「ナツゥゥゥゥゥゥゥゥ!! ルーシィィィィィィィ!!」

叫び声と共に、青い塊が窓から飛び込んできた。その手にはポーリュシカから貰ってきた薬が握られている。だがその表情は晴れやかではなかった。

「うっ…」

うっすらとあけた視界に、見慣れた天井が映った。

 ――くっそ……頭がガンガンしやがる…
 ――体だりぃし…風邪ってこんなに辛ぇもんだったんだな……
 ――オレんち…だよな
 ――うつしちゃ……マジいってのに…

「目、覚めた? どお? お粥食べられる?」
「くっ……」

――あぁ……ルーシィの声だ
――腹は減っている

ナツは、勢いよく体をおこそうとしたのだが――。体がいうことを効かないようだ。その様子にルーシィは手を貸そうと体を寄せた。

「くっ付くな…ケホッケホッ…うつんだろっ」
「……そんなこと言ってる場合じゃないでしょっ」
「…うぐっ」
「……プフフッ。ナツ病人は看病してくれる人のいう事聞かないとダメなんだよ~」
「そうそう。それに、ポーリュシカさんが風邪の予防薬くれたから大丈夫よっ」
「……ゲホッケホッ」

ハッピーの明るい声が響いた。ポーリュシカが処方してくれた解熱剤が、思ったよりも早く効いてきたようだ。ポーリュシカのくれた薬は、口に含ませれば勝手に溶けて体に浸透していくものだった。ナツの身体からもう湯気は上がっていない。

ただ、ハッピーが貰ってきたのは、そのよく効きそうな解熱剤だけだった。
直接診ていないのにそれ以上の薬は渡せないよ! と、明日にでも連れて来いと怒られてしまったのだ。そんな事をハッピーが説明しているが、どうやらナツの頭に入っていないようだ。

ナツはルーシィに手を貸してもらって体をおこすと、すかさず背にクッションが入れられた。どうやらそこに寄りかかっていいらしい。

「オイラ、ナツが病気になるの初めて見たよ……大丈夫?」
「……おい。目が笑ってんだよ…ケホッケホッ」
「あっバレた? プフフっ」
「もうっ。さっきまで心配そうに耳としっぽ垂らしてたくせにっ」

白い手が伸びてきて、相棒の頭をつんと弾いた。ハッピーは「だってルーシィがいるんだもん」と嬉しそうに弾かれたおでこを擦っている。

「もう……しょうがないなぁ~。……ほらナツっ……あ~ん」
「うっ///」
「ほらっ。口あけて」
「じっ自分で出来るしっ///」

食後にまた薬を飲まされ、ナツはソファに寝かされた。その傍らにはルーシィがいる。

「手、繋いでてあげようか?」といたずらに笑うルーシィに甘え、ナツはその白い手を無言でギュっと握り込んで目を瞑った。するとふんわりと優しい感触が頭を往復する。

昨夜は一度起きてしまえば眠れなかったのに――今は眠気に勝てそうになかった。
吸い込まれる様にナツは意識を手放した。





「ナツ寝てる?」
「う~ん。寝てるんじゃない?」

「うっ……」

「あっ でも……笑ってる」
「……あい。熱は下がったから、楽になったのかな~」

「……だ……っ!!……!!」

「ナツ? 大丈夫?」

ナツの夢の中につかっていた意識が、浮上し始める。すぐ近くからするルーシィとハッピーの声が、ナツに耳に届いていた。息継ぎをするかのように、パッと目を見開くナツ。

その視界に自分の顔を覗き込んでいるルーシィが映った。ナツと目を合わせると、にっこりと笑い、額の汗をタオルで拭ってくれた。

「はぁ……はぁ……」

そして、そっと白い手が伸びてきて、頭に触れる。

「……大丈夫だよ。ナツ。 熱も下がったし、もうよくなるよ」

ルーシィの手がナツの頭の上で、イイコイイコと動いていると、再びナツの寝息が聞こえてきた。
どうやらナツは、長く眠りにつくことができない様で、浅い眠りを繰り返し夢を見ているようだった。

ただ、目覚めてもルーシィが優しく頭を撫でると、再び目を閉じていた。もうそれを、何度か繰り返していた。

――寝れないって言ってたけど…
――起きてもちゃんと寝れてるわね
――熱が下がって、楽になったのかな……

そして、ナツの眠りが深くなってきたところでルーシィが立ち上がった。がっしりと握られていたナツの手を服から引きはがす。

「じゃぁ、あたし帰るわよ」
「あい。ルーシィありがとう!!」

 ――なんだ帰っちまうのか…
 ――もうちょっといればいいのに…

「フフッ。こういう時はお互いさまでしょ? 今のうちにハッピーも寝ちゃいなさい」
「……あい。おやすみルーシィ」

パタンと静かに玄関のドアが閉まった。ポツリとハッピーがおやすみと呟いて、ゴソゴソと寝床を整えている。

「……はぁ…だっ!……はぁはぁ……っ!!」

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① moより → ②トコヤさんへ

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そこは誰もいない、何もない、地平線が広がる荒れ果てた荒野。
叫んでも応答はなく、見渡す限り命尽きた大地だけしか視界に映らず。
それでもナツは一縷の望みにすがり付きながら見知った顔を探した。

叫べども叫べども声は大気中に吸い込まれ、光さえも失った寒空でさえもナツの体力と体温を奪ってゆく。
それは無慈悲にな光景であり、まるで無駄な足掻きだと少年の愚行を嘲笑っているかのように。

走って叫んで声は枯れ、それでも喉をヒュウヒュウと鳴らしながら当の昔に活動限界を超えている両足に力を入れて前に進む。
それだけで肉体は悲鳴を上げプチプチと己の筋繊維が切れる音を、まるで他人事のようにナツは掠れる意識の中でぼんやりと聞いていた。

声は出ない。体も言うことを聞いてくれない。膝が笑っている。
それでもナツは歩みを止めない。霞む視界で真っ直ぐ前を見据える。
不意に一陣の風が吹き、乾いて軽くなった砂が天高く舞い上がった。
思わず目を閉じ砂埃が収まるのを待っていると、拓けた視界に入ったのは心待ちにしていた厳かな父の背中。

 

「!イグニール!」

 

掠れた声しか出ない。
それでも嬉しさを声に含ませ嬉々として傍に駆け寄る。
ナツの声が聞こえたのか、イグニールはピクリと肩を跳ねさせ穏やかな表情を浮かべながら振り返り。

朗らかに微笑む父親の脚に触れようとした瞬間、それは幻のように目の前でイグニールの姿が霧散した。

一体何が起こったのか分からず呆然とした面持ちで片手を上げたまま暫く身を強張らせていたナツだったが、意識を覚醒して辺りを見回した。
そこには全く父親の姿や気配は微塵にも感じられず、ナツは歯を食いしばり我武者羅に走り出した。

 

「父ちゃん!ハッピー!じっちゃん!エルザ!グレイ!ジュビア!ウェンディ!カナ!ロメオ!ミラ!エルフマン!リサーナ!ラクサス!ガジル!レビィ!リリー!フリード!ビックスロー!エバーグリーン!ジェット!ドロイ!ウォーレン!マックス!ナブ!ビジター!アルザック!ビスカ!アスカ!ラキ!リーダス!」

 

少年の慟哭は空へと消える。

 

「……ルーシィ」

 

視線が下に向いてしまう。
歩みを止めてしまう。
その足元に一つ、二つと水滴が落ちるが直ぐに地面は乾いてしまう。

不意に他人が地面を踏みしめる音が聞こえた。
勢い良く顔を上げれば、そこには金髪を携え微笑んでいるチームメイトが目の前にいて。
ナツが思わず顔を綻ばせるとルーシィは両手を広げてきた。
少年は嬉々として足を踏み出し、つられて両手を広げて走り出した。
そして待ちに待った柔らかさを全身を以てして甘受しようとした時。

抱き締めると同時に掌の指の隙間から零れ落ちるように甘い存在が霧のように散った。

そして少年は目を見開き肩を震わせ己の両手をまじまじと見ると、真っ赤な他人の生温い赤色で染まっていて。

血塗れ所々原型を無くしている仲間達の姿が少年の足元に散らばっているように倒れていて。

赤く塗られた金色を目に入れた時、少年の叫び声が虚しく響き渡った。

 

 

「うわああああああ!」

 

肩で息をしながら飛び起きたナツは、暫くの間現実と夢の区別が付かず呆然と真っ暗い部屋の空虚を見つめていた。
そして改めて己の両手を見れば、そこにはいつも通りの武骨な掌。
何度か掌を握ったり閉じたりを繰り返せば何とか夢から意識を覚醒させ、安心すると同時に大量の汗が全身から噴き出した。
汗の重みで重くなった服を脱ごうと床に足を着けた時、思いの外足に力が入らずぐしゃりと潰れるように崩れ落ちた。
起き上がろうとするも腕にも力が入らず痙攣を繰り返すばかり。
重ねて先程見た悪夢がフラッシュバックし、ナツは過呼吸に陥りかける。
ヒュウヒュウと喉を鳴らして何とか起き上がれば、頭上にあるハンモックの上で相棒はスヤスヤと寝入っている。
ナツが起きた事に気付いていないようである。
それもそのはず、今までナツに付きっきりで看ていた反動が疲れとなって現れたのだ。

 

「……っかしいなぁ」

 

ルーシィが看てくれていた時は夢見は良かったのに、とナツは顔を顰めて己に叱咤し何とか立ち上がった。
途端に立ち眩みがナツに襲い掛かるが、何とか踏ん張りを見せた。

(ルーシィがいたら、眠れるかもしんねぇ)

一縷の望みを胸にナツは重い体を動かし何とか着替えを済ませ、覚束無い足取りでマグノリマの街に足を向けた。

 

 

途中幾度もバランスを崩して転けたが、それでも何度も立ち上がり目的地へと足を向け。
到着した頃には所々泥塗れで肩で息をしている状態だった。
重ねて時間帯も時間帯である事も相まりベッドの上でぐっすりと寝入っているルーシィの横顔を見ただけで、それだけでもナツは何となく救われた気分になった。

 

「ルーシィ」

 

汚れた手でルーシィの頬を撫でる。
するとルーシィは嫌がる素振りを全く見せず、寧ろ嬉しそうにすり寄るようにナツの少し大きな掌に頬擦りをした。
無意識の行動だろう。それでもルーシィが己の全てを受け入れてくれているようにも見え、安堵と共にやって来た睡魔に抗わずナツはゴソゴソとベッドの中に潜り込んだ。
二人分の重みを受け止めたベッドは軋み音を上げるが、それでもルーシィが目を覚ます気配は無い。
ナツは後ろからルーシィを抱き締め、甘えるように首筋に顔を埋めて静かに瞼を降ろした。

 

「にぎゃあああ!?!」

 

相変わらず短時間毎に目が覚めてしまうのが悩みの種だったが、それでも夢見は雲泥の差であり、安心しきっていたナツに怒号と衝撃が襲い掛かってきた。
ゴン、という鈍い音の後に遅れてやって来た頭に伝わる冷たい床の感触と天地がひっくり返った視界。
ナツは目をパチクリ瞬いて下を見れば、握り拳を震わせ口角を吊り上げ頬を染めているルーシィの姿。
いつの間に起きたのだろうか。
窓を見やれば、淡い光が部屋に降り注ぎ始めているところであり。

 

「よお、おはよう」
「おはよう……じゃないでしょー!!!」

 

何で病人のあんたがここいるのよー!というはだけた寝間着を身に付けている少女の抗議が朝日に吸い込まれた。

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 ②トコヤさん  ③mo

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「ったくもうっ」

 

ルーシィは頬を膨らませながらも、ナツの前にしゃがみ込んだ。そっと伸びてきた白い手がナツの額に触れる。自分の体温よりも少し冷たいルーシィの手が、ナツには心地いい。

 

ナツは決まった間隔で目が覚めてしまい、思ったよりも体力が回復しきれていないようだった。まだ少し、ボーっとしている。

 

「う~ん。ナツだから熱はこんなもんかなぁ」

「……ルーシィ。オレ……眠い…」

「じゃぁ、いちいちうちに来ないで、自分ちで寝てなさいよっ」

「……ダメだ」

「はぁ?」

「ルーシィいねぇと……恐い夢見んだもん」

 

目の下にしっかりと隈を作ったつり目が、ジーッとルーシィを見上げてくる。そのすがる様な視線に、ルーシィは小さく息を吐き出した。

 

「……どうしたのよ。ちゃんと言わないとわからないのよ?」

 

優しく語り掛けてくるルーシィに安心して、ナツはその細い腰に腕を回して抱き付いた。

 

「……こえぇんだよ。皆……居なくなるんだ」

「え?」

「オレ……皆を…ルーシィを守りたいのに……目の前で…っ!」

 

ルーシィの腰に回っている逞しいナツの腕が、心なしか震えている。

 

「夢よ。そんなの……ただの夢だよ」

「わかってっけど……眠るとそれが本当に感じるんだ……」

「……ナツ…大丈夫だよ。あたしはここにいる。大丈夫だよ ナツ」

 

腿の上に載っているナツの桜色の髪を、ルーシィが優しく指で梳いていく。優しい声色がナツの鼓膜に響いてきて気持ちがいい。

 

「あのなっ」

「ん?」

「ルーシィが側にいてくれると……変な夢見ないで済むんだ……だからいいだろっ」

 

最後は小さく言うと、目を瞑ってまどろむ意識の中ナツは、自然と甘えるように「ルーシィ」と囁き頭を擦り付けてくる。

 

「……そっかぁ…」

 

 ――ナツ

 ――何をそんなに怖がっているの?

 

ナツの髪を梳きながらルーシィがふと見ると、薄汚れたナツの大きな手が目に入った。

 

 ――もうっ!

 ――この手でお布団にもぐりこんできて……でも…

 ――そんなに……焦っていたの?

 ――何に?

 

立ち上がって、タオルを濡らしてこようかと思ったルーシィだったが、がっしりと腰に回ったたくましい腕に、その行動は阻止されてしまった。目じりを下げルーシィはいつもように「しょうがないなっ」と呟いた。

 

「次起きたら、ちゃんとポーリュシカさんのところに行こうねっ」

「ん~」

「そ・れ・と! 抱き枕はしょうがないとして……せっ背中からにしなさいよねっ」

「……」

「ちょっとぉ~。ナツ? じゃなきゃベッドから、蹴落とすわよっ」

 

まどろむ意識のナツに、ルーシィの言葉は届いたのだろうか?

ルーシィの太ももの上で、ナツが小さくコクリと首を動かした。

 

「……っ!! ちゃんと約束だからねっ」

 

眉間にしわを寄せたナツは、ルーシィの声がうるさいとでもいうように眉間のしわを深くして、ルーシィに顔を埋める事で耳を塞いだ。そしてすぐに、スースーと規則正しい寝息が聞こえてくる。

 

その規則正しいナツの呼吸に、ルーシィの意識も遠のいていく。

 

 ――ふぁあぁぁ

 ――あたしも、もう少し……ねよっかな…

 

 

 

 

チュンチュンと、小鳥の鳴き声が耳に運ばれてくる。ナツは夢も見ずに眠っていたようだ。体の疲労は回復しきってはいないが、気持ちは晴れやかだった。両手を耳の横でのはしながら、ナツは「んん~」と、背を伸ばし重たい瞼を満ちあげた。

 

その目に映るのは、見慣れた金髪。その金髪の持ち主の顔は、向こうを向いていて確認できない。

 

 ――ルーシィこっちむかねぇかな

 ――なんで、背中からなんだよ……

 ――お~い。こっち向けよっ

 ――……おいっ…

 ――なんでこっち向かねぇんだよっ

 

 ――寂しいだろうが………くっそぉ

 

ナツはルーシィの金糸を一掬いすると、口元へもっていき、思いっきりその香を空気と一緒に吸い込んだ。そのまま深呼吸をして、その金糸を逃がしてやるともぞもぞと距離を詰めていく。

 

 ――もうっ

 ――ごそごそ動いてナツってば……何やってるのかしら?

 

ルーシィは、背中に感じるぬくもりに、妙に緊張してしまい意識がおきてしまっていて、眠ることができないでいた。少し眠っては、背でもぞもぞと動くナツに、どうしても意識がいってしまうのだ。

 

 ――あたしって……変な寝言とか言わないわよねっ

 ――やだぁつ!! まさか鼾とか……ないわよね??

 ――ふわぁぁ!! 気になりだしたら、眠れないじゃないっ!!

 

あらぬ心配で目がさえてしまっているルーシィが、もそりと布団をかぶりなおそうとすると暖かい腕が肩に回ってきた。

 

「……ルー…シィ…」

 

一度目を覚まして、再び眠ってしまったのだろうか? ルーシィの項に、ナツの寝息がかかる。

 

 ――寝言?

 ――フフッ……楽しい夢だと、いいね…

 

ルーシィな自分を包み込む腕に、そっと自分の手を重ね静かに瞼を降ろした。

 

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 ③mo  ④トコヤさん 

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「……只の風邪だと思うよ。まあ、今の状態だと問診してもほとんど意味が無いだろうけど」

 

分かったならさっさと出ていきな、と風邪薬を寄越しながらポーリュシカは診察室から早々に立ち去った。
そこに取り残されたルーシィがお代を机の上に置こうとするとポーリュシカがタイミング良く、そんなくだらない風邪にお金はいらないからさっさと出ていけ!と怒鳴り声が聞こえた。
ポーリュシカなりに心配しているのだろう。しかし、それにしても怖い。
ルーシィはお礼もそこそこに風邪薬とまだ本調子でないナツの肩を支えながら足早に診察室を出ていった。

 

 

「ねえ、まだ調子悪い?」

 

触れている箇所は未だに熱を持っている。
聞かなくても分かっているのだが、ルーシィは聞かずにはいれなかった。
それほどまでナツは普段の意気が消沈してずっとだんまりとしていたのだ。

あれから何度も睡眠と覚醒を繰り返し、ナツの顔色が若干良くなったのを機にルーシィが肩を支えながらポーリュシカのところまで出向いたのだった。

 

「只の風邪ってのは腑に落ちないけど……まあ、ポーリュシカさんの言うことだから間違いないわよねぇ」
「いあ、だからオレはルーシィがいてくれたら良いって言ってるだろ……」
「それだとあたしが動けないでしょ!?それにずっとこのままだとキツい思いをするのはナツだけじゃん……」

 

他に思い当たる所は無いの?と訊ねれば、ナツは力無く首を横に振るだけだった。
いつもの迷惑なぐらいの元気なさまがこうも影を潜めていると段々と不安になってくる。
他に外的要因が無ければ、あとは内的要因ーーつまりナツ自身の精神状態から起因している他にしか思い当たる節がない。
しかし、ルーシィがどんなに訊ねてもナツは小さく唸りながら力無く首を横に振るばかりであった。

 

「けど、ナツが繊細とか想像がつかないわ」
「……聞こえてんぞ」

 

残忍な奴、と耳元で言われるも、その声には張りも余裕も無い。
八方塞がりとなり、どうしたものかとルーシィが頭を悩ませていると、丁度通り過ぎようとしていた露店街に目が留まった。

 

 ――せめて何か栄養ある物でも食べさせなきゃ

 

一種の使命感を胸に秘め、ちょっと買い物するわよ、と自分の肩に頭を預けているナツにルーシィは言った。

 

 

「何だ?それ」
「さっきの露店で見付けたの」

 

食事を摂るのも四苦八苦していたナツがなんとか食べ終え、食器を片したルーシィがエプロンを外しながら戻ってきた。
そして、コトリとテーブルの上に置かれたのは鮮やかな三色の、掌サイズの小さな蝋燭。

 

「この赤色が記憶を呼び起こす効果があって、この黄色が望み通りの夢が見れる効果。んで、この青色がリラクゼーション効果があるんだって」

 

蝋燭一つずつに指差しながら丁寧に説明するルーシィに、ぼんやりと定まらない思考のままナツは理解できずに首を傾けた。

 

「あのね、これでナツの不眠の原因が分かるかなーって思って……」
「いあ、ルーシィ、さん……?」
「それに、この蝋燭を3本全部に火をつけて一緒の空間に寝た人は、先に寝ちゃった人の夢を共有する事が出来るんだって」
「だから……」
「まず最初に夢を通してナツの強く印象に残った記憶を見るでしょ?それでトラウマか何かの原因を調べて、悪夢を解消する。それでも駄目だったらナツの望みを夢で見させて悪夢を上書きする。うん、我ながら良い考え!」

 

どう?!と目を輝かせて身を乗り出してくるルーシィに、勝手にしろ、とナツはげんなりとした表情で答えた。

 

 

『まあ、夢の中で望みを叶えるリスクとして、目覚めた時に夢と現実がごっちゃになる場合もあるけど、その時はルーシィパンチで起こすから心配しないで!』

 

床に就く前にそう豪語した少女はスヤスヤと寝息を立てながら深く眠っている。
その平和そうな寝顔に、馬鹿な奴だな、とナツは微笑み柔らかい頬を人差し指でつついた。
それでもルーシィは一行に起きる気配を見せず、むにゃむにゃと口を動かすだけにとどまった。

 

「本当、馬鹿な奴だな」

 

 ――オレの願いなんて、もう叶ってる

 ――ルーシィを、独り占めしたい

 

ナツは胸に占める感情は理解していない。しかし、願望ならばハッキリとしている。
ナツはルーシィの柔らかい金色の髪の毛を指に絡め、いたずらに頭や形の良い耳朶を撫でる。
次に柔らかい頬を指先で撫で、髪をほどいて首筋、鎖骨、肩、腕の順に指を滑らせ、細い腰に腕を回す。
そして、やっと正面からぐっすり寝入るルーシィを抱き締め、金色の髪に顔を埋めて胸一杯に少女の匂いを吸い込み、ナツもゆっくりと瞼を下ろした。

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 ④トコヤさん   ⑤mo 

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 ――ここは……?

 

ナツは辺りを見回した。どこか見覚えのある街角。視界の先で女の集団が、何かを囲んで黄色い声をあげて騒いでいる。

 

 ――あっ

 ――あれ…偽イグニールじゃねえか……

 ――でもなんか変だな…

 

自分の視界に違和感を感じるナツ。その視界に映るものに覚えはあるけれど、何かが違うのだ。すると、耳に飛び込んでくる少し高い少年の声。

 

 ――あん?

 

叫びながら人の輪に飛び込んできたのは、紛れもない少し前の――自分の姿だった。

 

 ――オレだっ!!

 ――ハッピーも……いる…

 

自分が視界に入った瞬間、画面が揺れるように視界がかわり。オレの顔を覗き混んだ。

ふつふつと沸き上がってくるワクワクする感覚が、ナツの心を騒がせた。

その感覚にナツは、覚えがあった。

 

 ――初めて……ルーシィに会ったんだ

 

視界の中で、オレが目を見開いて嬉しそうに笑っている。

 

 ――そうだ……飯食わしてくれたんだ

 ――んで、良い奴だなって……思ったんだよな…

 

 * 

 

 *

 

意識が急に浮上していく。

現実に引き戻されて瞼を持ち上げると、視界に映ったのは見慣れた天井。

 

「……夢……ルーシィの夢? だったんだよな…」

 

眠りに落ちる前、ルーシィの説明によれば――、

 

「ルーシィが先に眠っちまったら、オレの夢見れねえだろ……っ」

 

ナツは眉を下げて、隣でスースーと寝息をたてて眠るルーシィを視界に映した。

はじめて会った時の新鮮な気持ちがよみがえってくる。未来を夢見て、輝かせるその瞳には、どんなキラキラした世界が映るのかと気になったりもしたものだ。

 

 ――ルーシィの見る世界は、やっぱりキラキラしてんだなっ

 

思い返してみれば、夢の中で感じた高鳴った鼓動はルーシィのものだったのか、それとも――。確かにその時、ナツも何かの予感を感じて、胸を高鳴らせていた。そう――、

 

  ――出会った瞬間――何かが動き出す――そんな予感――

 

ナツは、つまみ上げた1房の金色の髪をくるくると指に巻き付けた。3巻きほどして握り込み、逃がしてやる。すると、巻いたところだけ金色の髪がふわりとウェーブした。その髪をふわりと揺らすと、香ってくる花のような甘い匂い。

 

その匂いを吸い込み、フワフワと揺れる髪を指にはさんで真っ直ぐ伸ばした。すると今度はさらりと指から流れ落ちていく。

 

 ――キラキラだな

 ――星がルーシィの髪になっちまったみたいよな

 ――さすがルーシィ……星霊魔導士だなっ

 

隣で、すやすや眠ったままのルーシィの寝顔をジィッと見つめてみると、長いまつげ、ほんのり赤い頬、つややかな唇。つぃっと ピンク色の唇に触れれば、指先に感じる柔らかさ――。

 

「んん~」

 

何かを誤魔化す様にナツは、ルーシィを抱きしめながら瞼を閉じた。

 

 ――本当は、はじめから……

 

 *

 

  *

 

 ――うぐっ!?

 

いきなりの、息苦しさに目を凝らして視界に写るものを見た。モヤモヤとぼやける視界の中、石畳に転がったルーシィ宝物。

水に覆われたまま、鍵が落ちている場所から連れていかれている。

 

 ――どこだ……?

 ――これも、ルーシィの…?

 

意識した瞬間、夢が流れて場面が変わる。

幽鬼のマスターににじり寄られ、手を後ろに縛られたルーシィは塔の上て強風に肝を冷やしている。

そこに何かが届いた。

 

 ――……声だ

 ――ルーシィを呼ぶ……声

 

その声を耳にした瞬間。ルーシィの身体から強張っていた力が抜け、ふっと気持ちを軽くさせた。そしてルーシィは、力を抜いて身を空へと投げ出した。

 

「ナツ――――!!!!!」

 

助けを叫びながらも、落下する感覚にルーシィは震えている。心のすみで、もし間に合わなければ、もうそれはそれで仕方ないと、期待とあきらめ両方を胸に抱いているようだった。

 

 ――クソッ

 ――ルーシィッ!!!!

 ――お前が消えて、はじめて感じる虚しさなんか、何も生まねぇんだぞっ

 ――ルーシィの父ちゃんだって……

 

頭を下に、重力に任せて落下していくルーシィ。体に空気が突き刺さってぬけていくような感覚に襲われるが、ルーシィはもう恐怖していなかった。自分を呼ぶ声が、確かに耳に届いていたから。

 

 ――当たり前に、信じてんじゃねぇよ…

 ――あと一歩……届かなかったら…

 

唸るような叫び声。体に受ける衝撃は地面にぶつかったときのものとは違う。もみくちゃにころがり気が付くと、ルーシィより熱い体温を押し潰している。

 

 ――むにゅんって……いあ…

 

ナツとハッピーが言い合いをしている中、ルーシィの脳裏に映される悲惨な、非道な光景。胸が締め付けられている。ルーシィの胸が、押しつぶされそうなほど痛んでいる。

 

先程の不気味な男から助かった喜びと、自分の居場所を踏みにじられた憤り、そして自責の念。

ポロポロ沸いて流れ落ちる頬を伝う暖かいもの。ルーシィの胸が押しつぶされてしまう。

 

 ――そうだ

 ――気が付いたら肩を震わせていたんだ…振り向いて、ルーシィを見て…言葉を失ったんだ

 ――目を奪われたんだ

 ――ただの透明な雫が、こんなに純粋できれいなものかって、胸が痛くなったんだ

 ――壊れちまうんじゃないかってほど――ルーシィが、泣いてたのに……

 

場面が急に変わって、靄がかかる。昔のギルドの地下だ。ルーシィの視界には、汚い床しか映っていない。その床さえ、目に浮かぶ水分で歪んで見えている。

 

 ――この時……なんでかほっとけなくて、ずっと隣から見てたんだ

 ――いつも明るいルーシィが、うつむいてて……

 ――元気付けたかった

 ――前を向いてほしかったんだ

 ――だからオレも内心必死で…

 

申し訳なさに身を縮こませるルーシィに、光が差したようだった。顔を持ち上げ、その視界に、笑いかけるオレ。

 

 ――ヤバイ…

 ――めっちゃ、必死だオレ……

 

ルーシィの視界が、ふたたび水分で歪むとそこに、焦った自分の顔が映った。

 

 *

 

 *

 

ふっと気が付くと、目の前に瞼を閉じているルーシィの寝顔。少し眉間にしわを寄せている。

 

ナツはギュっとルーシィを抱える手に力を入れた。すると無意識に、ルーシィはナツにすり寄ってきた。そこにある金色の髪にナツは顔を埋め、力を入れて抱き締めた。

 

 ――オレの知らないとこで…

 ――なにを感じて、何を思ってるんだ?

 

 *

 

 *

 

 

『仲間を売るくらいなら、死んだ方がマシだっ!!!!!!』

『俺たちの答えは何があっても変わらねえっ!!!!! おまえ等をぶっ潰してやる!!!!!』

 

 ――なんだ?

 ――頭の中に、ずっと響いている声

 

ただその言葉を思い浮かべて、ルーシィの心が熱くなっている。手は拘束され壁に貼り付けられているようだ。身体中に痛みが走っている。だが、ルーシィの心は熱く燃えているようだ。

 

心の中に繰り返し響く声と、『負けない』というルーシィの思い。

下卑た声が、聞こえてくる。その声の元を向こうにも、ルーシィは目を開けていない。

頬を掠める鋭い何か。風圧で髪が揺れる感覚。

 

パッと見開かれた視界に、昔のガジルが映る。

ルーシィは恐怖していなかった。心の中で目の前のガジルたちを憐れんでいた。そして、怒っていた。

 

ルーシィが大声で啖呵をきると、床が盛り上がり火の塊が飛び込んできた。

 

 ――なんかルーシィ……かっこいい事言ってやがったな…

 ――オレの知らねぇ、やり取り……

 ――仲間を信じている……ルーシィの強さ 

 

 *

 

 *

 

「っ……ルーシィ……」

 

瞼を持ち上げれば見慣れた天井。すぐ脇にはすやすや眠る金色の髪の少女。彼女の夢はどこまで進んだのだろうか――。ふにゃりと微笑んで眠る姿に、ナツは安堵した。

 

 ――もう…レビィと手を取り合って笑ってたところか?

 ――それとも、ルーシィの母ちゃんの墓の前で、泣いてるハッピーを抱きしめてるのか?

 

 ――あの時、オレは目の前の敵と戦っただけだ……

 ――ルーシィは……自分の心とも戦ってたんだ

 

クルクルとルーシィの金色の髪を遊びながら、ルーシィの寝顔を眺めていたら、不意に眠気に教われた。ナツは再びの睡魔に襲われ魔瞼を降ろした。

 

 *

 

 *

 

そこはマグノリアの一角。建物の上。乱れる視界、体に受ける衝撃から、ルーシィが戦闘していることが分かった。目を凝らせば、ルーシィが信頼する星霊の一人、ロキの姿が見えた。その先にギルドマークの入った長い舌をだして、へらへらしているビックスローの姿も――。

 

 ――あぁ……ラクサスと喧嘩した時か…

 

 ――ルーシィらしい戦闘スタイル……

 

ナツの胸の中でチリリと何かが痛んだ。この時の戦闘の事はハッピーから聞いていたのだが、胸に感じるモノは少し違うようだ。

 

 ――ロキのヤツ…

 ――ルーシィと星霊…

 ――当たり前に一緒に……存在してんだよな

 ――信じる事…約束……ルーシィらしさ……

 

 *

 

 *

 

ナツはゆっくりと瞼を持ち上げ、天井を睨み付けた。

 

そう言えばと思い還してみれば、ルーシィが妖精の尻尾に来てから、急にいろんなことがあった。胸の中がざわつくことばかりで、イグニールを探しに行く暇さえなかった。考えないでよくなっていたんだ。

 

イグニールに捨てられたって、思ってしまったあの日から消えない胸のつかえ。それとは違う胸の痛みに、ナツは違和感を抱いているようだ。

 

 ――なんだよ……

 ――ロキは、ルーシィを一番に…思ってるのか?

 ――いあ……星霊だから当たり前の事か…

 ――でも……星霊は友達だって言う……ルーシィは……?

 

胸の奥がざわざわと騒ぎだしていた。

隣で眠るルーシィは、何も知らずにすやすやと眠り続けている。蝋燭の効果に眠りに導く作用でも含まれているのかもしれない。睡魔は再びやってくる。

 

 ――眠くはなるんだよな……

 

ごそごそとブランケットを掛け直して、ナツはルーシィに触れ合うギリギリまで顔を近づけて、目を閉じた。

 

 *

 

 *

 

 ――あぁ……ニルヴァーナの

 

ルーシィの視界には、川に浮かぶ筏の上でグレイに氷の矢を向けられているオレが映っている。

 

 ――くそむかつくぞ……グレイの奴…

 ――つーか、情けねぇな……オレ……

 

ルーシィはサジタリウスを呼んで、オレを助けた。

 

 ――そうだ

 ――ルーシィが来て、どうにかなんだろって…

 ――酔いに負けちまったんだ……オレ……カッコワリィ

 

自分が筏の飢えで悶え苦しみながら意識を失っている時、ルーシィはそのすぐ脇で戦闘を行っていた。

 

敵も星霊魔導士、しかも上手だ。その上、星霊同士の微妙な関係を巧みに使ってくる。

ルーシィの気持ちに応えるロキ。非情な敵の星霊魔導士。

 

 ――くっそ!!

 ――何でオレ動けねぇんだよっ!!

 

ルーシィの心の中がざわついている。星霊を思うルーシィの綺麗な心が、そのルーシィらしさが、ただ夢を見つめるだけのナツの心を締め付けた。

 

 ――頼むルーシィ……

 ――無茶すんじゃねぇよ…

 

優しい綺麗なルーシィの心が、ナツの心に流れ込んでくる。一握りも自分の為ではない、願い。それを純粋に願えるルーシィの心がナツには眩しかった。

そうしているうちに難解な魔方陣が展開され、膨大な魔力が星に変わり敵に降り注ぐ。それはまるで星たちがルーシィを守るかのように。闇を照らす、ルーシィの星の輝きだ。

 

そして視界に映る、筏に揺られ起き上がれもしない自分の姿。そこに駆け寄っていくルーシィの白く細い腕が視界に映った。

 

 ――オレ……情けねぇだろ……

 

自分の意識のないところで起こっていた戦闘。なぜかルーシィは大丈夫だと、意識を手放してしまった自分が不甲斐なく悔しい。だが、実際にルーシィはなんとかその場を切り抜けている。じゃぁ、何が悔しい? 無事だったではないか……? ナツの中に疑問符が浮かんでいる。

 

 ――何やってんだよ……

 ――自分の事も、大切にしてくれよ……こんなんじゃ……

 

場面は飛んで、霞む視界の中、頭の中に直接響いてくる声。立ち上がれと、最後の一仕事だと頭に囁きかけてくる。

全身がぼろぼろでひどく身体中が痛い。

 

 ――そうだ

 ――あの2重人格野郎にやられて……でもオレ達は、立ち上がるっ

 

皆が進む道を目指して歩きはじめる。ルーシィはフラフラな体でハッピーを連れて、壁をこすりながら歩いていた。心の中にひろがる不安が伝わってくる。

 

 ――ルーシィ……魔力切れだったなんて……

 ――見栄でも何でもねぇ

 ――期待を裏切れなかったんだろ……

 

 ――いつもオレは、目の前の敵だけを見て……ただ戦っている…

 ――それで、みんなを守れてるって思ってたのに…… 

 ――その後ろで、戦っていたんだルーシィは……自分と…

 

 

 

 *

 

握りしめた拳は、夢で自分がそうしたままの形で天井に向かっていた。

目は覚めてしまったが、まだ意識は夢の後を追っている。

 

 ――あの後、聞いた話だと、ジェミニが助けに来たって言ってたな

 ――ルーシィは運が良かったって笑うけど、ホントは違うんだ

 ――全部ルーシィがやってきたことの結果だ

 ――繋がってる

 ――だから、星霊達はルーシィに力を貸すんだ…

 ――すげぇな……ルーシィ……

 

ルーシィに触ってしまえば、泡になって消えてしまいそうな不安がナツの胸に押し寄せていた。いつも大変なところで、自分を後回しにしてしまうルーシィの危うさ。でもそれがルーシィでもある。

 

 ――だからオレは、そのルーシィらしさも含めて守ろうって……

 ――仲間として……

 ――チームメイトとして……

 ――……いや……

 

その先を考えるのを拒否するかのように、ナツは思考を止めて自ら瞼を閉じた。こうしていれば次期に眠気がやってくるという事なのだろう。

 

夢は繰り返された。ルーシィは蝋燭の効果かよく眠ったまま長い夢を見ているようだ。その傍らで、眠り。ルーシィを感じて目を覚ます。そしてまた、目を瞑った。

 

チームで行った大仕事。

ハッピーと3人で行った日帰りの仕事。

 

そして不法侵入を繰り返すナツとハッピーに、怒りながらも暖かい気持ちになっているルーシィ。

 

 ――しかし……自分の夢を見られちまうって、思ってなかったのか?

 ――ルーシィのヤツ……

 ――でも、ルーシィがそんな考えなしって事もないよな……

 ――あぁ……

 

 ――そうか

 ――そうだよなっ

 ――だってルーシィだ

 ――全部見せてくれるのか?

 ――オレが安心できるなら……その為なら……

 

 ――次は……エドラスか、天狼島か……

 

 

 

 *

 

霞む視界に、蒼い蒼い空が映る。あまり見かけない木々の葉が、チラチラと揺れて視界に映る。そして、大きな人影。

 

“ドクン”

 

心臓が跳ねた。

ルーシィが叫び声をあげた。

しっかりと目を見開いたルーシィの視界に映る景色には、見覚えがある。

特殊な木々が生い茂る島――天狼島。

 

 ――今度は天狼島か…

 ――まさか……

 

ナツ自身の胸が騒めきルーシィの視界に映るものを見れば、気持ち悪いほど青白い肌のバカっぽい奴。

 

 ――やっぱりか……

 

何となくナツは察していた。ルーシィの見る夢は、ナツが知りたかったルーシィの内側が見えるものなのだ。人の心の内を覗き見ていいはずはないのだが、きっとルーシィが見せてくれているのかとも思えてくる。

 

 ――そうだ……この後……

 ――ルーシィは何を見て、

 ――何を思って、

 ――あんな事を言ったんだ……?

 

相手の見慣れない魔法具に、困惑しながらも少し押され気味のルーシィはナツの元へと飛ばされた。ナツは、しょうがねぇとでもいうような笑みを浮かべ、ルーシィと並んで立つ。

その瞬間、ルーシィの心がふわりと軽くなった。切羽詰まって焦る心に、余裕が見えてきている。やってやるという強い気持ちも。

 

 ――この時、ルーシィ吹っ飛ばされてきたのに……

 ――オレ……なんかうれしかったんだよな……

 

“パァン”

 

と手を鳴らし合って、二人は敵に対峙した。

 

あの変な奴の変な人形が可笑しくて、強ぇんだけどなんか可笑しくて、もってかえって遊びてぇなとか頭の片隅で考えちまっていて――多分油断してたんだ。そして――

 

 ――ルーシィは笑ってたんだ……まだまだ余裕であるかのように……

 ――まさか、魔力切れになっているなんて…

 

崩れた岩にはさまれて焦って暴れるナツが、ルーシィのかすむ視界に映る。そして、ルーシィの心が夢を覗いているナツに、流れ込んできた。

 

『だめ…魔力が無きゃあたしが逃げたって……助けられる保証は…ない……

何とかしないと……あたしに、気をとられている内に……ナツ…

…何か……そうだ……火を……ナツ……逃げっ……てっ……』

 

それは、あまりにナツとかけ離れた思考だった。その時のナツは、目の前に拡がるルーシィのピンチに、完全に頭がショートしていた。ただ何とかしないとと、もがいて力技でそこに駆け付ける事しか考えられていなかった。周りが見えなくなっていたのだ。後から、自分の火で簡単に岩を壊せてしまった時――、

 

 ――自分がどれだけ焦っていたか……気が付いたんだ

 ――ルーシィのピンチに……冷静ではいられなかった

 ――それだけルーシィは……オレにとって……

 

 *

 

 *

 

自分の身を挺してでも、人を守ろうとするルーシィの危うさ。

それは自然とナツの中の――特別なものを失うことへの畏れ――を、煽ってしまう形となっていた。だからこそ、ナツはルーシィを大切な存在だと、特別な存在だと認めることができなかったのだ。

 

 ――ルーシィと出会った時だって、頭の隅っこの方じゃ……わかっていたんだ

 ――イグニールが姿を消したのは、きっと訳があるって

 ――だから、それがどうにかなんなきゃ、見つかりっこないんだって……

 ――でも…苦しくって……探さずにはいられなかったんだ

 

ナツは静かに胸を押さえた。イグニールがいなくなって、ぽっかりと空いてしまったままの心の空洞。風が吹く度、家族連れを見かける度、寒くて痛んで仕方なかった。

 

 ――そこに、いつの間にかルーシィは住み着いてたんだ

 ――その空洞のなかで、ルーシィが笑いって、怒って、泣いて、叫んで……

 

 ――そこには……もう、いろんなルーシィが詰まってる

 

ナツは傍らで眠るルーシィの頬を撫でた。暖かい体温につられる様に、ルーシィがナツの手を追って顔を傾ける。

 

 ――わかってる

 ――どんどん可愛くなって、魅力的になっていくルーシィに

 ――大人になっていくルーシィに

 ――焦ってたんだ……置いていかれたくなくて…

 

 ――いつか、ルーシィが自分から離れていっちまうんじゃねえかって

 ――本当は、全部オレもんにしたかった……

 ――オレじゃない……違う誰かのモノになんて……

 ――そんなもん、想像でも許せねぇ……

 

ナツは自分の思考に呆れながら、こちらを向いたルーシィの顔にかかった金色の髪を梳いてやった。

 

 ――でも……できなかった……

 ――踏み出すことができないんだ

 ――怖いんだ……ルーシィが特別だって……認めてしまったら…また…

 

 ――オレの特別なものは、消えてしまうから……

 ――オレの手から零れ落ちてしまうから

 

 ――だから安全な、チームメイトの位置にしがみつくしかなかった

 ――そんで、ルーシィに近づく奴を蹴散らして……

 ――それだけでも、ルーシィはオレを見てくれるし、今だって、心配してくれている…

 

 

そこで、ナツは何かに気が付いてはっとした。すやすやと眠るルーシィの顔を覗き込んだ。

 

 ――そうだ……心配させている

 ――ルーシィの綺麗な心が、オレの為に痛んでんだ

 ――オレは……ルーシィの綺麗な心も全部、守るってそう誓ったはずだろうが……

 

ギュっと唇をかみしめると、口の中に鉄の味が広がった。

 

 ――目が覚めた気分だ……

 ――オレは何をやってんだ?

 ――守りたいはずなのに、オレがルーシィを苦しめてんじゃねぇのか?

 

 ――いや……ルーシィは胸の痛みを人のせいになんてしねぇ……

 ――それどころか、人の痛みも自分の痛みのように………だから…?

 

ナツの傍らでルーシィは、静かに寝息を立てている。時折、優しい笑みを浮かべて。

 

 ――だからなんだよな……ルーシィ

 

思い当たってナツは、眠るルーシィをかき抱いた。間違いないとナツの心は決めていた。頭の下に腕をとおしてギュっとその華奢な体を引き寄せる。すっぽりとまるであつらえた様に腕の中に納まるルーシィに、安堵すると再び瞼が重くなってきた。

 

 ――だから、全部見せてくれたんだろ……?

 

ナツがその心地よい眠気に誘われるままに瞼を降ろすと、強く抱き締められる息苦しさにルーシィは目を覚ました。

 

ナツに抱きしめられている。しかも正面からという事実に、体を硬直させたものの、視界に映ったナツの安らかな寝顔に、今日だけよ……小さく呟いて、ルーシィも再び目を閉じた。

 

 

 *

 

 *

 

そこにひろがるのは荒れた土地。

吹き抜ける渇いた風が、肌を切るような痛みを与えてくる。

ルーシィは、走り出していた。

 

 ――こっちだ

 ――この先に……ナツがいる

 

何故か確信していた。

 

「ナツ――――!!!!」

 

叫んだ声が荒れた大地に響き、吸い込まれるように消えていく――。

 

「 ィ!!…… -シィ!!!!」

 

すると、返ってくる聞きなれた声。ルーシィの視界の真ん中でコメ粒ほどの影が地平線から現れた。ナツも走っている。

 

「ルーシィ!!!! ルーシィ!!!! ルーシィ!!!!! 」

 

自分を抱きとめたナツは、その場に崩れるように膝をつくと、縋り付いてルーシィの名を呼び続けている。

 

「……ナツ…」

 

そっとナツの背中に腕を回すとルーシィは、あやす様に背中をさすりその耳に囁きかける。

 

「大丈夫だよ。ナツ。ここにいるよ……」

「……でもさっきは、いなかった」

「うん。でも、今はいるよ」

「……また、いなくなるのか?」

「そうかもっ……でも……」

「ルーシィ!!」

「バカねっ。はぐれたって、あたし達の帰る場所は一緒じゃないっ」

 

力の抜けてきたナツの腕の中から、ルーシィはその不安に揺れるつり目を覗き込んだ。背中を撫であやしていた手を抜くと、その頬に触れる。

 

「大丈夫。不安なら一緒に帰ろ? 手を繋いでいればはぐれないし……ナツが望むなら、気の済むまで一緒にいてあげる。夢の中でだって……ねっ」

 

不思議と、ルーシィの言葉がすんなりと心にひろがっていく。

 

「そんなの……守れんのかよ…」

「守るよっ! だってあたしは、星霊魔導士よっ」

「……」

「約束は、守るものよっ……ナツが、望んでくれるならねっ」

「……そうか」

 

 ――オレが……

 ――ルーシィに…隣にいてくれって……

 ――言っていいのか……?

 

行こうと、ルーシィが指差す先には、妖精のマークの旗が風を受けてはためいていた。

手を引かれて立ち上がると、そのまま手を引かれて歩み始めていた。

にこにこと楽しそうにほほ笑むルーシィ。

 

その微笑みは、いつだってなんだって許してくれるルーシィの

 

 ――大好きな人の笑顔――

 

 ――ああ…

 

 ――参った……降参だ…

 

 ――知っている

 

 ――本当は知ってたんだ

 

 ――でも、想えば想うほど……失ってしまう怖さに目を瞑っていたんだ

 

手をつなぎ、前を向いて隣を歩くルーシィの顔を覗き見た。その顔はいつもと変わらない。そして空を見上げ、想いを馳せた。

 

 ――しっかし、能天気な顔してんな……ルーシィ…

 

 ――……ちがうか…ルーシィはいつだって笑顔の裏で必死に人を思っているんだ

 ――だからこそ……オレは…っ

 

ふと視線を感じて隣を見ると、ルーシィが見つめていた。ずっと見られていたのかと焦って、ナツは唇を尖らせた。

 

「…んだよっ」

「ん~ん。ナツが元気で嬉しいなぁって……そうだっ 競争しよっかっ」

 

そう言うとともに、ルーシィは走り出した。その背に向かって、先程の返事をポツリと囁いた。

 

「……あぁ、一生……だなっ」

 

 ――望んでもいいんだろ?

 

ナツも遅れて地面を蹴る。

 

 ――目が覚めたら、目を見て伝えんだっ

 

 

 

瞼を持ち上げると、朝日が目に飛び込んでくる。眩しさに目を細めると、すぐ近くで身じろぐ体温を感じてそちらに視線を移した。そこには笑顔のルーシィ。

 

「ナツっ おはよう」

「はよっ…ルーシィ……あのさっ」

 

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 ⑤mo  ⑥トコヤさん 

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自覚した感情は脈打ち、らしくもなく言葉がつまってしまう。
目を見てハッキリと伝えようと意気込んだものの、中々どうして最初の一歩が踏み出せない。
ついでに心臓が早鐘を打ち暴れまわり、己でも分かる程顔に熱が集まり始めたのをナツは感じた。
対して、ルーシィは突然言葉を止めて口を開閉し始めるナツを訝しげに観察するも、まだ本調子では無いのかもしれないと心配になり、赤みがかった額に手を伸ばし置いた。

 

「まだ調子悪い?」
「いあ、そうじゃねえんだ」

 

ナツは額に置かれた細く小さな手を取り、己の胸の前に持って来て節くれだった手で握り締め真っ直ぐと正面から少女を見据えた。
その真摯な表情にルーシィも息を飲み込み少年の言葉を待つ。

 

「ルーシィ」

 

名を呼ぶだけで安心する。しかし、言葉は上手く紡ぎ出されない。
それでも伝えるべき言葉があるのは確かだ。

 

「……ルーシィ」

 

気持ちを落ち着かせようと名前を呼んだだけだ。それでもルーシィは律儀に、何?と返事をしてくれ少年は思わず顔が綻びそうになる。しかし、そうなると己がいかに真剣であるかが相手に伝える事が出来なくなる。
あやふやになってしまうことは少年にとって不本意であり、今の気持ちと関係性をハッキリと確立させたいという欲求が頭をもたげてきたのだ。
ここに来て独占欲だけが一人前の顔を出す。
その事実に自嘲しながらもナツは改めてルーシィを見つめた。

 

「一生」

 

共に顔は赤い。しかし、それを笑う者はここにはいない。

 

「オレと」

 

ごくりと生唾を飲み込む音が一際大きく鳴った気がした。
それでも二人共真剣な表情で互いの目線を離そうとはしない。

 

「一緒にいてく……」
「ナツー!」
「にゃあああああ!?!?」
「ぐもお?!」

 

バーン!と"翼"を展開して部屋に飛び込んできたナツの相棒、青い猫のハッピー。
先程の雰囲気は一気に砕け、羞恥の余りルーシィはナツの容態を忘れて力一杯突飛ばした。
憐れ少年はロクな抵抗も受け身も取ることが出来ないまま、派手な音をたてながらベッドの下に後頭部から落ちていった。

 

「……あれ?もしかして二人仲良く寝てたの?」
「ち、違っ」
「……ハッピーめ」

 

ナツが後頭部を押さえながら恨めしそうに起き上がれば、可笑しそうに口元を押さえて下手っくそな巻き舌を披露しようとする相棒とそれを阻止しようとする最愛の少女がじゃれあっていて。
それだけでもナツは独占欲と嫉妬心が腹の底から込み上げてきたのを感じた。
そして相棒の暴挙に怒鳴ろうと大口を開けると突然ハッピーは身を翻して手に持っていた何かをナツの口の中に突っ込んだ。
ナツもそのまま飲み込んでしまい、一仕事終えたふうに満足げな笑顔で自分の額を拭うハッピーの様子に唖然とした面持ちのまま眺めた。
そして突然激しい頭痛を伴いながら抗い難い眠気が一気に押し寄せてきた。
思わず膝を突くナツにルーシィは焦りながらハッピーに問い詰めるも、空飛ぶ相棒はあっけらかんとした様子で。

 

「そう言えばナツが変なキノコ食べてたから、一応朝からポーリュシカの所に行ってその事を伝えたんだ。そしたら"フミンダケ"ってゆーのをナツは食べちゃってたらしくって『小僧にこれでも口に突っ込んどきな』って」

 

とハッピーは一本余ったキノコをルーシィの目の前に差し出した。

 

「これって……"スイミンダケ"じゃない」
「うん。これ食べさせれば自然と体の中でお互いの効果が中和されるんだってさ」

 

意味はよく理解したがナツにとってはそれどころではない。
折角己の想いを自覚していい雰囲気のままに告白するはずだったのに、と悔しがりながらも意識は段々と黒塗りされていき。

 

「よ、良かったじゃない!これでゆっくり眠れるわよ!」
「ルーシィ……絶対ぇ逃げんなよ」

 

覚悟しとけ、と少女の頬を指先で撫でナツはそのまま意識を落とした。

その後ナツは一週間寝続けて、その間ハッピーとルーシィが面倒を見る次第となった。

 

 

FIN

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いやぁ……長かったかなぁ? もともと、トコヤさんのTwitterのタグで、何でもいう事きくよっ っ的なタグに便乗してリレーしてもらったのです。

そしてごちゃごちゃとやり取りしながら、スタートっ♪ いって帰ってのリレー形式は初めてで、色々悩んだりしながらも書いてて楽しかったですっ!!

また機会と、体力とがあればっ!!やりましょうね~(*'▽')♪

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