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15.01.10 コラボ企画 翡翠ちゃんと♡ 今回は前半翡翠ちゃん、後半moです!!

 

炎揺らめくカーニバル

 

 

 

 「んー・・・っと、よし!できた!」

 

 

 洗面所の鏡の前で完璧に仕上げた自分の顔を見て、大きく頷く。うん、完璧!

 用意した衣装に身を包み、鏡の前でくるりと回る。

 

 ちょっとやりすぎたかしら・・・でもいっか、年に一度しかないんだし。

 

 予想以上の迫力に自分でも少し驚きながら部屋へ戻り、ちらりと時計に目を向けると、時刻はまもなく16時になろうとしていた。

 

 「さてと、そろそろ行きますか!」

 

 いつものように大事な“友達”の鍵の束がついたベルトを腰に巻き、るんるんと上機嫌で部屋を出た。

 

外はすでに暗くなっていて、商店街にはゴーストやパンプキン、ガイコツの形をしたライトが至るところに飾られている。すれ違う子供や大人は魔女やミイラ男などに仮装していて、マグノリアがいつも以上に賑わっている。

 

本日、10月31日はハロウィンの日。

毎年この日はマグノリアで盛大にパーティが開かれる。もちろん、イベント好きな我がギルド、フェアリーテイルでも。しかし今年、ルーシィはギルドのパーティに出席しない。いや、できない、というべきか。

 

みんな仮装してるから浮くとかそういう心配はしなくていいけど、やっぱりこの格好で外に出るのは恥ずかしいわね。

 

 少し人目を気にしながら、ルーシィは待ち合わせ場所の南口公園、ソラの木の下へ向かった。

公園には仮装した子供たちがちらほらといる。彼の姿をきょろきょろ探しながら、ソラの木の下に立った。

 

「・・・まだ来てないのかしら」

 

木に寄りかかり、ソワソワしながら地面を見つめてしばらく待っていると、遠くから「ルーシィー!」と名前を呼ばれた。

その声に振り返ると、ハッピーとナツがこちらに向かってきている姿が見え、ルーシィは笑顔になる。

 

「ルーシィ、遅れてごめ・・・わあっ、びっくりした!」

 

翼で先に飛んできたハッピーが、ルーシィの顔を見るなり目を大きく見開いた。

 

「えっ、る、ルーシィ、だよね?」

「そうよ。ふふ、すごいでしょっ」

 

求めていたリアクションに、思わず嬉しくなる。頑張った甲斐があったわ。

足から顔まで血色の悪い皮膚の色、身体に無数の切り傷、至るところからの鮮血。驚くのも無理はないだろう。

するとハッピーより少し遅れてナツもやってきた。彼はルーシィを見るなり血相を変えて近付き、両肩を思いっきり掴んだ。

 

「どうした!?」

「へ?」

 

ただならぬ様子のナツに、ルーシィは小首を傾げる。

 

「怪我したのか!?大丈夫か!?」

 

 掴まれている肩が痛い。力が強すぎる。ナツは「誰にやられたんだ!?」と前後にガクガクとルーシィを揺さぶりながら訊ねた。

 

「ちょっ、わっ、ナツ!?」

 

落ち着きなさいよ!と叫びながらナツの胸をドンッと強く押し少し距離をとると、目の前にいるナツをキッと睨んだ。

 

「いきなり何すんの!?」

「だってお前、すげぇ血だぞ!?顔色とか悪すぎるし、傷もあるじゃねえか!」

 

自分の姿を見て一人あわあわしているナツに、ルーシィは納得した。

 

ああ、そういうことか。

 

まさかここまで・・・こんなに血相変えて、特殊メイクだって分からないくらい出来がいいとは。完全に信じ切っているナツに思わず笑ってしまった。理由を知っているハッピーもくふっと宙に浮きながら微笑んでいる。

 

「何笑ってんだよ!?すぐ治療しねえと!」

「だ、大丈夫よ。ちゃんと見て?」

 

自分のことなのにまるで他人事のようなルーシィの様子に、ナツはムッとした。ルーシィはつい先ほど顔や身体に塗ったそれを、指差した。

 

「これ、血糊だから」

「・・・え、チノリ?」

「ついでにこの傷も、ただ描いただけよ」

 

口から垂らしていた血糊を指で少しすくい、その指をナツに見せた。ナツはくんくん、と自慢の鼻で匂いをかぐと、「ほんとだ、血の匂いじゃねえ」と呟く。

 

「これ、全部特殊メイクだから」

「・・・んだよぉ」

 

ナツは大きくため息をついて、力が抜けたようにその場にしゃがみこんだ。

 

「オイラは最初から分かってたけどね」

「てか普通、今日はハロウィンなんだから仮装してくるって思うでしょ。ちなみにあたしはゾンビ!」

「どおりで服もヘンなわけだ・・・」

「仮装だからゾンビっぽい格好してるの!」

 

上下ともボロボロで少し汚れたような色をしている衣装を見て、ナツは目を細めて「へーへー」と呟きながら、下からルーシィを睨みぷくっと頬を膨らませた。

 

「くっそ、オレ恥ずかしいじゃねえか」

「勘違いしたあんたが悪いのよ。ていうか、なんであんたたち仮装してないのよ!『ハロウィンなのでちゃんと仮装してきてくださいね』って言われたでしょ!?」

 

ナツとハッピーを見れば、二人は本当にいつもと何ら変わらない格好だ。自分だけが張り切って仮装していることに少し悲しくなる。

なんでナツたちとこんなところで待ち合わせをしていたかというと、これから三人で仕事に向かうからだ。といっても、今回は遠出ではない。依頼主は商店街の人だ。

今回の仕事はいつもの戦闘系ではなくて、ハロウィンパーティで子供たちにお菓子を渡す、という簡単なもの。人手が足りないから数名来てほしいとの依頼があったようで、ナツ、ルーシィ、ハッピーの三人で引き受けることにした。お店の人には、ハロウィンなので仮装してくるように、と念を押されていたので、張り切ってゾンビの格好をしたというのに。

とぼけたような顔でハッピーは首を傾げていた。

 

「あれ?そうだっけ?」

「大丈夫だ。ほら、こうしてマフラーをぐるぐる巻きつければ・・・!」

「忍者!?」

「じゃあオイラはあとで袋でもかぶってオバケになるよ」

 

自分たちからこの仕事に誘ったくせに、このやる気の無さはなんなのか。よく分からない二人にため息をつき、仕事場所の商店街へ向かって歩き出す。

 

依頼主の元へ行くと、可愛く包装されたお菓子がたくさん入っているカゴを三つ用意され、笑顔で「子供たちが来たら配ってやってくれ!」と言ってきた。

三人で商店街の中を歩き始めると、さっそく魔女やオオカミに仮装した子供たちが目をきらきらと輝かせて近付いてくる。

 

「「トリックオアトリートー!」」

 

その魔法の言葉を合図に、ルーシィはにっこりと微笑んでカゴからお菓子を取り出した。

 

「ハッピーハロウィーン!」

 

そう言って手渡すと、子供は嬉しそうにお菓子を受け取って去っていく。少し歩くだけで子供のほうからやってくる。そのおかげでルーシィのバスケットからすでに半分のお菓子が無くなっていた。

 

 なんだかあっという間に仕事終わりそう。ナツとハッピーのほうも順調かしら。

 くるりと後ろを振り返ると、二人は口の周りに何やらカスをつけて口をもぐもぐと動かしていた。

 

「あんたたち、何か食べてんの?」

「何って、このクッキー」

 

 ナツはカゴの中からお菓子を取り出し、ルーシィにひらひらと見せた。ハッピーも「おいしいよこのクッキー」と嬉しそうに言っている。

 

「ちょっ、それ子供たちに配るやつなのになんで食べてんのよ!?」

「だーって腹減ったし。なあ、ハッピー」

「あい。オイラたち何も食べてこなかったんだもん」

「だー!無くなっちゃうからもう食べないの!」

 

 そう言って次々とお菓子に手が伸びるナツとハッピーを止めようとした時、後ろからギャーギャーと騒がしい声が聞こえてくる。

何かと思い振り向くと、黒いマントを被った三人の小さな男の子たちがやってきた。

お菓子をもらいに来たのか、と思っていると、男の子たちが突然ルーシィを取り囲んだ。

 

 「えっ?な、なにっ?」

 

 被っていた真っ黒なマントから顔を出し、男の子たちが話しかけてくる。

 

***

 

「ゾンビだっ!!」

「ゾンビみーっつけっ!!」

「しかも、おんなの子だねっ!! じょうけんぴったりじゃん?」

 

ルーシィを取り囲む小さな黒いマント達。マントから覗く彼らの仮装も、ルーシィと同じくゾンビのようだ。マントを結ぶリボンが、かわいらしく蝶ネクタイのように結ばれている。

 

「お揃いねっ……ん? なぁに?」

 

男の子たちと視線を合わせるためにルーシィは、地面に膝をついた。3人の男の子たちに笑顔を向けると、そのうちの一人が、ポケットで何かを握りしめ、ルーシィの目前にその手を突き出した。ルーシィは慌てて、その小さな手に己の手を添えた。

 

 

「おねえさん。これあげるっ!!」

 

少年たちは皆笑顔で、何かの悪戯でもなさそうだ。手にぽすッと落とされたものは紙切れで、ルーシィはその折りたたまれている紙を、手の上で開いた。

 

――FLAME☆CARNIVAL――

 

デザインされた文字でそう書かれたその紙は、どうやらカーニバルの招待状のようだ。

 

*この1枚につき、3人まで出場できます。という注意書きもある。

 

「これねっ。招待状だよ」

「ゾンビのお姉さんは、可愛いからきっといい役目がもらえるよ」

「うん。かわいいからお姫様だね」

「暗くなってからだから、絶対に来てね!!」

 

招待状と交換にお菓子をもらうと、少年たちはそれだけ言って去って行ってしまった。3人の小さな背中を見送り、ルーシィは、押し付けられてしまった招待状を眺めていた。

 

「大丈夫だよルーシィ。今回の依頼は子供たちに、パーティ会場でもお菓子を渡して終わりでしょ? 間に合うと思うよ~」

「フレイムって、ドラゴンのおっちゃん思い出すなぁ~」

「そうだねナツ。ナツにピッタリのカーニバルだねっ」

 

「ちょっとぉ? あんた達、行く気なの?」

「あいっ。3人までって書いてあるし」

「あたりまえだろっ。炎の祭だろ? オレの祭りじゃねぇかっ」

 

カッカッカッカッと豪快に笑うナツ。その頭に乗っかっている青猫は、何やら想像にジュルリとよだれを飲み込んでいる。

 

「あい。ルーシィだけじゃ、粗相があるかもしれないでしょ? オイラ心配だからいっしょに行ってあげるよっ……オサカナあるかな?」

「……はぁぁ。じゃぁ、急いで仕事終わらせて、あんた達仮装しないとねっ」

「あん?」「あい?」

「ほらっここに書いてあるでしょ?」

 

ルーシィが指差す場所には、※注意!! と書いてある。

 

※注意!! すべての入場者は、仮装すること!! 参加者に限り、ミイラとゾンビどちらかを選べ。

 

ナツとハッピーは顔を見合わせた後「んじゃ、ひとまず依頼片付けっか」と、依頼主の元へと足を向けた。

 

「……あたしの参加も決定なのねっ」

 

 

 

そこは、今年の収穫を喜び、来年の収穫を占うカーニバル

 

――是非、静かにお越しください。

仮装に混ざって、本物のゾンビが紛れ込んでいるいるかもしないよ――

 

チケットに書かれたカーニバルの誘い文句だ。

そう言われてみれば今日は――死者の集う日なのだ。

 

ここへは、不思議な入口から入ってきた。招待状に書かれた地図の示す場所に、ポツンと静かに佇んでいたその入り口ドアの先に、こんな世界が広がっているとは夢にも思っていなかった。魔法の扉による瞬間移動なのだろうが、目に飛び込んできたその光景に、2人と1匹は歓声を上げていた。

 

そこにひろがる光景は、カーニバルを彩る淡い炎で飾られていた世界。大きな木々の間を縫う様に、用意されたたカーニバルのルートを囲む様に、置かれた たいまつの炎が映し出す大きな木々、空中に浮く揺れる色とりどりのランタンに入った炎たち――幻想的で、不思議な世界

 

カラフルな装いのピエロに、舞踏会のような仮面をつけたバレリーナが、てを取り合って踊っている。

 

「わあぁぁぁぁ。何か、すご~いっ!!」

「ホントだっ。すごー!! あっ! ルーシィ!! 星のオーナメント!!」

「おおっ!!  すげえなぁ星が浮いてんぞっ」

 

入り口の扉は、パタンと閉まるとその姿を消した。

ルーシィ達は、森の中の開けた場所にいるようだ。ふたりと一匹を見つけ、先程の少年達が手を振っている。

 

「おーい。お姉さん」

「こっちこっち」

 

手招きされるままルーシィ達は少年の元へ歩み寄った。そこで、一人の男の子からルーシィは小さな巾着を渡された。紐が長く、首にかける事が出来そうだ。

 

「はい、これっ」

 

巾着の中には、何か丸く硬いものが入っているようだ。少年たちの意図が解らず、ルーシィは首をかしげた。巾着から中身を取り出そうとした時、少年のうちの一人が、慌ててナツに向かって声を荒げた。

 

「ミイラ男は見ちゃだめだよっ」

「お兄さんと猫ちゃんは、あっちだよ」

 

そう指さした方から、全身包帯を巻いて、なぜか赤い蝶ネクタイを締めたゾンビの子供が、走ってきた。「ゾンビに混じってちゃだめだよ~」と、ナツとハッピーの手をとって連れていってしまった。

 

どうやら、ゾンビとミイラとで別れる必要があるらしい。見渡せばそこかしこに、蝶ネクタイをしたミイラ男とミイラ女。もちろん他の仮装のモノもいるし、楽器隊は揃いの衣装を身にまとっている。

 

炎の熱く優しい灯に映し出された世界。先に見えるカーニバル会道の脇には、たいまつを持った紳士が、そこに液体を吹きかけ、まるで口から火を噴いたような演出をする。それを目に、ルーシィのテンションは一気に持ち上がった。

 

――ナツ達と別れちゃったけど……到着地点では一緒になるのかな?

 

ナツ達が行ってしまった方に、視線を向けるもすでに彼らの背中すら見えなくなっている。少年のうちの一人が、ルーシィに耳打ちした。

 

「お姉さん、このカーニバル初めてなの?」

「うん」

「このカーニバルはね、収穫を祝うのと共に、次の収穫の祈願でもあるんだよ」

「へぇぇ」

 

ルーシィは初めて聞くことに、真剣に耳を傾けている。少年たちは代わる代わる口を動かし、このカーニバルについて、ルーシィが渡された小さな巾着について、一生懸命説明してくれている。

 

「その袋にね、石が入ってるんだ。全部で5つ袋が用意されているんだけど、そのうちの一つだけが本物なんだ」

「その石を、ミイラのやつらと取り合うんだっ」

「……奪い合うの?」

「そうだよ。あっでも、ケンカじゃないよ」

「そうそう。来年の収穫の占いなんだっ」

「占い?」

「ふもとに小川があるでしょ? その西側と東側どちらで作物を育てるのがいいか、僕たちとミイラとでどちらが最後に石をとったかで決めるんだっ」

 

だから、その巾着とられないでねっ!みんなで、お姉ちゃんと守るからねっ!と、少年たちは続けた。

 

簡潔に言えば、全部で5個の巾着。その内の1つだけが本物で、その中に石が入っているらしい。その巾着を女の子のゾンビ姫がゴールまで運ぶらしい。ルートの途中にある赤いアーチと黄色いアーチの間だけ。カーニバルなので、ほんの余興程度だという。

 

楽器隊と共に会道をねり歩く際、ミイラに奇襲されるらしいのだが、ゾンビ姫は他のゾンビに守られているらしいので、危険はないという。ミイラ達の奇襲は、2・3回。その奇襲に当たらなければ、無事に石を守って黄色いアーチをくぐることが出来る算段らしいのだ。

 

ただ、少年たちもこの石の取り合いイベントには初参加なようで、その奇襲については詳しく知らないらしいが、まぁ、カーニバルだ。――所作お祭りなのだ。そんなひどいことにはならないという事だと、ルーシィは油断していた。

 

 

「まぁ、お姉さんが持ってるってばれなきゃいいんだよっ!」

「もしばれたら、本物の死者がやってきて、つれていかれてしまうかもしれないよ」

 

  ーーぎくっ

 

「なんてねっ!」

「ミイラたちに捕まらないで、ゴール出来たら僕たちゾンビのかちなんだからねっ」

「お姉さん。絶対その石守ってねっ」

「僕たちは、勝たなきゃいけないんだ…」

「ミイラが勝ったら……僕たちの秘密基地は、畑にされちゃうんだ」

 

 

 

“パンパカパ~~~~ン♪”

ファンファーレと共に、花火が打ち上がった。花火の爆発音をドラムがわりに、管楽器がカーニバルを盛り上げる。

 

  ――さぁ、炎のカーニバルの開催だ。

 

楽器隊が、軽快に演奏をしながら、歩みを進める。先程のピエロやバレリーナが先導する後ろを、他の姫たちの列が進み、その後をゾンビの姫ルーシィの列が姫を、取り囲みながら列をなして進んでいく。ルーシィの後にも、列は続いているようだ。

 

ルートの脇からは、長い白髭を生やし、シルクハットを被った黒衣の紳士たちが手招きをしている。良く見れば、おとぎ話から飛び出して来たような少女たちが列を縦横無尽に、躍りまわり、笑顔を振り撒いてくれいた。

 

目前に迫る赤のアーチ。

 

「ミイラたちが襲ってくるのは、ほらあそこっ」

「あの赤のアーチと、黄色のアーチの間だけ」

「そこさえ抜ければ、僕たちの勝ちだよっ」

 

「ふふふっ。頑張ろうねっ」

 

ルーシィはそっと、首から下げた巾着に触れた。その中身は……やはり石のようだ。今年の、石を預かるゾンビ姫は、ルーシィという訳だ。ルーシィの動きに、少年たちが耳打ちする。

 

「お姉ちゃん……ばれない様にね」

「ばれなきゃ、奇襲に合わないはずなんだっ」

 

僕たちが、お姉ちゃんを守るからねっ。そう言って手を引いてくれる小さなゾンビナイトたちと共に、ルーシィは赤のアーチをくぐる。

 

「……うん」

 

 

 

 

 

 

にじり寄ってくるミイラ達の群れ。ゾンビ姫ルーシィの元へと飛び込んでくるミイラは、外側にいる大人のゾンビナイトたちが薙ぎ払っているが……なんだか劣勢のようだ。

 

なんとルーシィ姫に狙いを絞って、ミイラ達は2回分の奇襲人数を、ルーシィ姫の列にぶち当ててきたのだ。そう言えば、向こうには、ナツたちが居るのだ。それがどう絡んだかは不明だが、ミイラ達の狙いは大当たりという事だろう。

 

――あたしが石持ってるって、はじめっからわかってたのかしら

 ――もうっ!! なんでナツもハッピーも、ミイラ側かなぁ……

 

次々とやられるゾンビ達。ルーシィの近くにいる小さなゾンビナイトたちの目には、涙が滲んでいる。

 

――勝たせてあげたいのに……

 

大人のゾンビナイト達を退け、数人のミイラに囲まれてしまったゾンビ姫ルーシィと、小さなゾンビのナイト達。小さなゾンビのナイト達は目配せをする。そしてそのうちの一人が叫んだ。

 

「お姉ちゃん走って!!」

 

自分達を取り囲むミイラ達に、小さなゾンビのナイト達が抱き着いてその動きを制している。それによってできた隙間を、ルーシィは走り抜けた。

 

度々伸びてくる包帯の手を、振り払いながらルーシィは走った。

 

もうすぐ――ゴールのアーチだ。

 

だが、まだまだ背後や、森の中から湧き出てくる無数の包帯達。

 

「キャーーーーッ」

 

甲高い少女の悲鳴が、カーニバルを盛り上げる花火の音と共に森に響いた。

 

「ちょっ!! どこさわってンのよ!!!」

 

巾着をめがけて伸びてきた包帯の手が、ルーシィの体をくすぐる。

 

「どこさわってるのよ~!! そんなおしりとか、関係ないでしょ~!!!」

 

――厄介だ。

 

騒動に紛れて、痴漢行為を働く者もいるようなのだ。全力疾走で、逃げるルーシィ。

それを追う数人のミイラ男たち――。

 

――もう何なのよっ!!

――だれよっお尻さわったのっ もうっ!!

――まさか……お化けじゃないわよね……

 

――石も奪われたくないし、体も触らないでほしい!!

 

ルーシィは必死だった。後ろから迫ってくるゾンビ達に追いつかれまいと、黄色のアーチを目指していたルーシィは正面から、何かにぶつかった。そして、そのぶつかったものが、手を伸ばしてきた。

 

「きゃっ(しまったぁ!!)」

 

がっちりと、そのまま抱きかかえられて、ルーシィの身体からこわばった力が抜けた。――その体温に、覚えがある。だってそれは、よく知る人物のモノ。

 

「ルーシィに、何しやがる!!」

 

迫り来るミイラ男たちを、ナツは素手でいとも容易く薙ぎ払った。

 

「たくっルーシィ。何、変なやつらに捕まりそうになってンだよ!!」

「ごめん……って、ナツはミイラじゃないっ ヤダっ!!」

 

ナツの腕の中で、ルーシィは巾着を両手で握りしめた。自分は捕まってしまったが、これだけは守れるように――。

 

「あん?」

「……はぁ…あんた、説明聞いてないわね……ゾンビとミイラは、敵同士なのよ!」

 

ルーシィからの鋭い視線に、ナツは唇を突き出した。それにしても、ルーシィは暴れることなく、ナツに抱きかかえられたままなのであるが――。

 

 ――んだよ。

 ――叫び声きいて、来てやったのに……

 ――……震えてんのか?

 ――ったくめんどくせぇ……

 

かすかに震える体。石を握りしめる両手は、力が入り過ぎて色が無くなっている。ナツは小さく息を落とした。

 

「いいじゃねえかっ。つーかよう、このままゴールしたらようどうなんだ?」

「え? ……どうなるんだろう?」

 

ゾンビの姫が隠し持つ石を奪ってゴールするのが、ミイラの勝ち。

石を無事守ってゴールすれば、ゾンビの勝ち。

では、石をもったままのルーシィと、そのままのルーシィを捕まえたナツでは、どちらが勝ちになるのだろうか?

 

ふたりは目を見合わせ、ニヤッと、笑いあった。

 

「あはっ。どうなるんだろうねっ」

「あん? ルーシィ捕まえたの俺だから、俺らの勝ちだろっ」

「あら? でも石はあたしが持ってるのよ? フフフッ」

「んんん……」

「……両方勝ちって、あるのかしらね?」

 

落ち着きを取り戻してみれば、何も言わずともナツはルーシィの手から巾着を奪おうとはしないはずだ。耳のいい彼が、ゾンビ姫ルーシィを必死に守ろうそした小さなゾンビナイトの声を聞きもらしてはいないだろうから。ルーシィを抱えて楽しそうに笑うナツ。抱えられて、嬉しそうに微笑むルーシィ。

 

――きっと、あの子たちの遊び場を守ることは、出来るよね

――だって、ゾンビもミイラも、どっちも石を手にしているんだもの

 

目前に、黄色のアーチが見える。アーチの向こうには、白い羽をはやし宙に浮く青い猫耳のミイラ男と、精一杯両手を振る小さなゾンビナイト達。そして、カーニバルを盛り上げるダンサー達。

 

ルーシィはぎゅっとナツのマフラーを掴んだ。そして、目が合えばゾンビの姫と、ミイラの戦闘員は微笑みあう。

 

黄色のアーチのむこうで、多くの見物人や、先に到着した参加者たちが見守る中、ナツは石を持つルーシィを抱えて、ルーシィは石を持ったまま、躍り狂うピエロと仮面を被ったバレリーナに先導され、ゴールに到着した。

 

 

『このカーニバルが始まって、初の出来事だ。きっと近年まれにみる、豊作の年と成ろう』

 

カーニバルの主催者らしきおばあさんが、告げた。

 

『双方の勝ち。よって、東と西の半分ずつを来年の畑とする』

 

 

 

互いを祝い合い、喜び合う参加者たち。ゾンビとミイラが入り混じる中、ナツの鼻がひくひくと動いた。ナツの視線の先にはミイラ男たち。そのミイラ男たちを目に、ナツの目の奥が光った。

 

 

――見つけた

――あいつが、ルーシィの尻さわったのは……

――ぜってえ、ゆるさねぇ

 

 

森を彩る炎。

ファンファーレや、花火のようなドラムが鳴り響く中、大きな炎が会場の隅で上がったのは、言うまでもない。

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