2013年12月1日
あなたは誰?
ある日の、依頼からの帰り道。
金髪の少女は、腕に青い猫を抱えて 桜色の髪の少年とギルドに向かって歩いていた。
今回は、討伐系ではない依頼であったため、暴れ足りなかったのか桜色の髪の少年はぼやいていた。
「うが~!!なんか調子でねぇなぁ~!!」
隣を歩く 桜色の髪の少年が、両手を首の後ろで組み 空を見上げてぼやいた。
「え~??どおしたの??ナツ。。。。。。食べ過ぎ??暴れすぎ??騒ぎ過ぎ??壊し過ぎ??どれかしらね??」
「あい。きっと脳みそがしょぼすぎなんです。」
金髪の少女が、悪態をつくと幸せを呼ぶはずの青色の猫ちゃんも乗っかってきた。
「おいおいおい。残忍な奴等だな。。。お前ら」
ぼやいていた少年が、途端反目になってふざける1人と1匹を軽くニラんだ。
「ごめんごめん。ナツがあんまりにも珍しいこと言うから。。。」
「あい。明日は槍が降ってくるかもしれないね!」
「えぇっ。ヤダ!!明日は外に出さないようにしなくちゃね!!」
またも1人と1匹は仲良く笑い合って、少年をからかう。
「・・・で?どおしたの??何か気になることでもあるの?ナツ」
青猫とふざけ合っていた少女が、桜頭の少年の顔を覗きこんだ。
「ん~。いぁ。。。最近、誰かに監視されてるような気ぃすんだよ。見られてると思うとなんか疲れんよな。。。」
「はっ!!ナツ!!ルーシィの自意識過剰病が、うつっちゃったんじゃない!!!大変だ!!!!どおしよう!ルーシィ!!!!」
これは大変だとばかりに、青猫は翼を出して桜頭のおでこに手をあてた。
「ちょっとぉ~!!猫ちゃん?!」
「熱なんかねぇよ!!!」
今度は青猫が2人に詰め寄られ、空へ逃げる。
「プププッ。2人とも面白い顔になってるね・・・??オイラっ。先ギルド戻ってるね~!!!!」
雲行きが怪しくなってきたのを察して、青猫はギルドに向かってサッと飛び立っていった。
「もう!!ハッピーーー!!!!」
金髪の少女は頬を膨らませ、青猫が消えた方向をちっとも怖くない大きい目で睨みつけた。
少年は そんな可愛らしい少女を見て、目を細めた。
最近、探るような視線を感じている。
ルーシィと一緒の時によく感じるので、特に面白くない。
ルーシィを探っているとしたら、大問題だ!!!
彼女は、色気がないにもかかわらず、、、、もてる。
まあ、その容姿は美少女と称されても、本当のことだし、金色の髪は、太陽の光をキラキラ反射させて輝いていて綺麗だ。
華奢なくせに胸もデカくてスタイル抜群だ。
彼女の笑顔は 可愛くて、きれいだ。
それに、男女にかかわらず、人を引き寄せる何かがある。
まぁ、自分も引き寄せられて、このポジションにいるのだが。
兎に角、彼女に何かあってからでは、遅いのだ。
と思って いつも以上に彼女の隣から離れずにいたが、ここの所自分が1人の時だけでもその視線を感じるようになってきた。
・・・何か恨みでも買っちまったか??
ただ、、、、視線は感じるものの。
滅竜魔導士の視覚聴覚嗅覚を持ってしても 気配も、音も、においもしねぇ。。。
とっ捕まえてやりたいが、そいつを見つけられないでいた。
少女が振り返り、少年を見つめた。
「・・・ナツ??ホント大丈夫??調子悪いの??何かあった??」
自分を見つめてくる彼女の大きな瞳に、自分が映る。
「ん~。。気のせいかもしんねぇし。大丈夫だから。気にすんな!!」
そう言って、カッカッカッ!!!!と笑いながら 彼女の柔らかくて指通りの良い金色の髪をクシャリと撫で 指に絡めてから逃がした。
少女は、「もう。ボサボサになっちゃうじゃない!」と少年に文句を言い。
頬を膨らませた様だが、赤く染まった頬を少年に見られないよう隠す様にそっぽを向いてしまった。
「ほら行くぞ!!」
少年は、少女の手をとってギルドまでの道を走り出した。
「もー!!ナツ速いよ~!!」
少年と少女は、お互いに見えない様に 嬉しそうに笑みを浮かべてた。
*
その日は、桜色の少年宛に 指名での依頼が入っていた。
内容は 耐炎の新しい魔法衣の実験で、炎を使った実験の為 炎を浴びても平気な、火竜のナツに依頼が来たのだという。
「近いし、大した時間もかかんねぇみたいだし、ちっと行ってくるわ!!」
「ちっとって、ナツ。最近調子でないって言ってたじゃない!大丈夫なの??一緒に行こうか?」
心配そうに、少年の方を見つめる金髪の少女。
「だ~いじょぶだって!!なんてことねぇよ!!」
「・・・オイラも行くから心配ないよっ!!ルーシィ!!」
「・・・なら安心かな?よその人に迷惑かけちゃダメよ?ナツ!!ハッピー!!」
「ルーシィもいい子で待ってるんだよ~!!」
「おう!!いってくる!!」
少女はその顔に 笑みを浮かべて1人と1匹を見送った。
「ねぇルーちゃん!!」
明るい青いくせっけの小柄な少女が金髪の少女の隣に腰を下ろした。ニコニコと、話しかけてくる。
金髪の少女は、呼んでいた本にしおりを挟み端に置いた。
「レビィちゃん!!おかえり!!帰ってきてたんだ!!」
「うん。ただいま!!昨日の夜には帰ってきてたんだけどね。。。部屋に荷物置きに寄ったら疲れてそのまま寝ちゃって、、、この時間になっちゃった。報告は、ガジルがしてくれたみたいなんだけどね。。。ガジルとリリィの体力にはついていけないよ。。。」
テーブルの上にうなだれる少女に 同じようにテーブルに顔を載せ 金髪の少女は答えた。
「まぁったくね。。。このギルドの!っていうか、滅竜魔導士の体力は無尽蔵なのかと思うときがあるわよね!!」
「ほんと。ほんと!!こっちは依頼が終わった時点で、グッタリの時もあんだけどね?」
「ね?頼りにはなるんだけどね~。。。」
「うん。ちょっと休憩してくれるとか、気い使って欲しい!!って」
「「思うよね~!!」」
テンポよく、少女2人の会話が続く。と2人の少女の元に、黒い影が近づいてきた。
「体力バカで悪かったな!!帰り道、ちゃんと担いでやったじゃねぇか。ちびっこは体力ねぇから文句ばっかりだな!!ギヒ。」
青いくせっけの少女は、後ろから突然声をかけられ、ビクッと肩を揺らした。
「ガジルー!!脅かさないでよね!!もうっ!!」
少女は後ろに振り返り、顔を真っ赤に染め プンプンと頬を膨らませて、身長差のある彼を睨み付けた。
睨まれた男は、それを素知らぬ顔でそれをかわし、さりげなくその隣に腰を下ろした。
「よぉ。バニー。火竜と青猫はどおした??」
ギロッと睨まれるような視線で、問いかけられるがこちらの少女の慣れているので、ひるまず笑顔を向ける。
「すっかり仲良しね!!ナツ達なら、仕事行ったわよ~。」
「えぇ?仲良しって///普通だし!!!・・・ルーちゃんナツに、置いてかれちゃったの??」
「ん~?置いて行かれた。。。そうね置いてかれちゃったのかも。。。最近変なのよね?ナツの奴。」
「・・・どおしたの??」
金髪の少女の沈んだ表情に、心配そうにもう一人の少女が顔を覗きこむ。
「この間まで、必要以上にどこ行くんでもくっついてきて、1人の時間がないくらいだったのに、
急にに突き放されたというか、、、う~ん。。。元に戻るよりも、離れたというか避けられているような気もするし。
なるべく1人でいる様にしている感じ??話ししてたり、部屋に来てる時は普通なんだけど。。。アタシ何かしたのかな・・・??
今日は、ハッピーがさり気なくくっ付いて行ったけど、本当は、1人で行く気だったみたいだし。。。」
溜め息交じりに、金髪の少女が言葉を紡ぐ。
「えぇ~!!!?ナツがぁ~!?ルーちゃんと距離を置くなんて信じられない!!!」
「・・・だな。」
「話してる時普通なら、、、何でもないんじゃない??」
「・・・・・・・・・大方、バニーを意識してビビってんじゃねぇか??火竜の奴。ギヒヒッ。」
「ちょっ!?何言ってるの?ガジル!!そんな訳ないじゃない!!!からかわないでよ!」
「わぁー。ルーちゃん!顔真っ赤!!」
「も~!!!レビィちゃんまで!!」
「でもさぁ?ルーちゃん達はいっつもくっついていて、本当の恋人以上にラブラブじゃん!!」
「なっ!?」
「だな。ファントムの時には、お前らできてると思ってたな。。。ギヒヒッ。」
「うえぇっ!?」
「ルーちゃん。。。そろそろ頭から湯気出てきそうよ??」
「もう!もう!!ナツは、アタシの事なんか 女として視てないし!手のかかる子供みたいよ!!2人の方がよっぽど仲良しじゃない!!!ていうか、ラブラブ??!」
「・・・まあ。実際仲良いからな!!ギヒッ」
「ガッガジル~!!!///はっ恥ずかしっ///やめてよもう!!。」
青い髪の少女は、金髪の少女に負けない位顔を真っ赤に染め、視線を泳がせた。
「まぁ。火竜の奴がどっか変なら、帰ってきたら様子伺っといてやるよ!!近づきゃしないがな。」
そう言って、鉄竜はすっと立ち上がり、視線を合わせず席を離れていった。
「・・・・・ガジルの奴。かなり照れてるわね。。。。。ねっ?レビィちゃん??」
にぃっこりと笑みを浮かべ、金髪の少女は 頬を染める青髪の少女に目線を移した。
「//////。」
「仲良くって何よりね?レビィーちゃん!!」
鉄竜は、めっぼうこの小柄な少女を大事にしている。さり気無く、確実に でも自然に寄り添い合う様に、一緒にいるようになった2人。
少女の方は、始めはケガ覆わせた負い目だと思っていたようだが、鉄竜の恐ろしさに隠れる 真っ直ぐな少女に対するやさしさや想いに 完全に持っていかれたようだった。そして、少女が鉄竜のまっすぐな言葉に頷いたのは先日のことだ。
「レビィちゃん達みてると、こっちまで幸せになっちゃう!!」
「もぉ~!!ルーちゃん!!ルーちゃんもちゃっちゃと ナツとくっ付いて、幸せになっちゃってよ~!!!!」
「キャー!!なななっな何言ってるの~~~????レレレビィちゃんってばぁぁ!?!?!?」
鉄竜が去った後も、この2人の少女は、キャーキャーと盛り上がっていた。
太陽が傾き、地に帰っていく。空が朱色に染まる。マグノリアに夕日に包まれたころ。
妖精の尻尾の酒場も、随分賑わってきた。金髪の少女は、席をカウンターの定位置に移し、ミルクティーを傍らに 本に目を落としていた。
「ただいま~!!!」
静かに、入口のドアをくぐってきたのは、今朝仕事に見送った桜色の髪の少年。
(?????)
随分 静かだと思ったら、少年のその腕には青色の猫ちゃんが眠っている。少年はスーっと、ルーシィの隣に座った。
「ルーシィ!!ただいま!!」
「えっ?ナツ??随分静ね・・・・?」
桜頭の少年は、「これっ」っと言って、青猫の首根っこをつまみ持ち上げた。
「キャッ!!ハッピー!!」
金髪の少女が、慌てて青猫を抱き留めた。青猫は、金髪の少女の膝の上でスーピースーピーと寝息を立てている。
「・・・よく眠ってる。」
「あぁ。途中で寝ちまった。起こしても起きねえんだ。」
やさしく、青猫の頭を撫でてやる金髪の少女を桜色の少年は、カウンターに肘をつき 立てられ腕に頬を載せ、真っ直ぐ見つめてくる。
「///なっ。何見てんのよ///」
金髪の少女が、頬を赤らめて桜頭の少年に視線を向けた。少年はいつもとは違い視線を合わせたまま にっこりと笑った。
「・・・・変なナツ!!」
金髪の少女は、自ら視線を外した。
「ルーシィ!!そう言えば、土産貰ったんだ!!ほれっ!!」
少年は、持っていっていた鞄から包みを取り出した。
「えぇ~??実験とかしてる処からのお土産って、怖すぎなんですけど??」
そう言いながらも、少女は包みを受け取り開けた。中から、クッキーやマーマレードなど焼き菓子が出てきた。
新しいお茶貰ってくるな?と言って少年はカウンターの中央に向かっていった。
?????
やさしすぎない??
少年は、中央のカウンターでウエイトレスと何やら話しているようだ。
少女は、青猫を撫でながら、何やら不安を感じていた。しばらくすると、紅茶を片手に、桜色の髪の少年が戻ってきた。
「ねぇ、、、、あんた誰???」
少女が思わず、その言葉を吐き出した。だって、怪しすぎる。やさしすぎる。気付いかい過ぎる!!!だれ??これ??
目の前の少年は、ポカンと口を開けそれをゆっくりと動かした。
「おまえ、何言ってんだぁ??疲れてんのか??!!!」
「・・・・だって、アンタなんか変よ??・・・それか、呪いでも掛けられたの??」
目の前にいるのは、いつも通りの少年なのに、何か違和感がある。
「なっなぁんだよ!!そんなんじゃねぇよ!!土産渡したかっただけだから、オオレッ、一度、家に荷物置いてくる!!」
少年は、首を傾げながら、荷物を持ってギルドをそそくさと後にした。
その様子を2階で、1人の男が眺めていた。
「ガジル?」
青髪の小柄な少女が、その身長差のある男の顔を覗きこんだ。
「妙だな。。。」
「へっ?ナツの事??」
「ありゃ、火竜の匂いじゃねぇぞ。。。」
*
結局あの後、桜頭の少年はギルドに戻ってこなかった。
青猫は、まだ眠っていたが、鉄竜とその相棒が、青猫を預かるというので、ギルドに置いて部屋に戻ってきた。
灯りをつけ部屋の中を確認し、ドアに鍵を閉めた。鞄をテーブルに置き、腰のカギを外してベットの脇の定位置に置いた。
高いピンヒールを脱ぎ捨て、スリッパに履き替えると、開放感を感じる。洗面所に行き、髪を解いてリボンをしまう。
短いスカートを脱ぎ、スウェットの膝丈のパンツに履き替え、ジャケットを脱ぐと、キャミソールの上に部屋着を被った。。
楽な体勢になって ソファに身を沈めると、ため息が漏れた。
「・・・・・・はぁ。」
(・・ナツ、どしたんだろ・・・??)
すると、丁度よく、、、玄関のドアがノックされた。
「・・・・はい?」
少女が、ドアの向こうに声をかけると、よく知った声が返ってくる。
「おぉ!!オレー!!」
「・・・ナ・・・ツ・・??」
カギを開けると、桜頭の少年が「よっ」と片手を上げ、ニコッと笑って立っていた。
「・・・・あんたが、ドアからくるなんて、珍しいわね??どおしたのよ・・・??」
少女は少年の顔を覗きこんだ。少年は、ニコニコと笑ったまま、部屋の中に入ってくる。
少年の目の前に金髪の少女は立った。
「??どおした?ルーシィ?」
ニコニコ笑ったまま目を丸くして、こちらを伺う少年。
「ねぇ?ナツ?シャンプー変えたんだけど、どぉ??」
「えっ??」
「アンタ匂いに敏感だから、いつも嗅ぐじゃない。」
頭を横に傾げて、少年を見上げる少女。少女の頭に、クンクンと鼻を近づける少年。少女の背中に悪寒が走る。
(うわっ!!変な感じ。。。)
少年は、そのままうっとりとした様に 頭を擦りつけてきた。
「んん~~。。。いい香りだなぁ」
(!?!??!変!!いつもは、甘ェとかまるで食べたみたいなことを言うのに。・・・やっぱり、変!!)
そんな事を考えてるうちに、首筋に何か触れた。ゾワッっと背筋が凍る。
「なっ何すんのよ!!」
触られた首筋を掌で庇いながら、少年の胸をおしのけようと、前に出した片手を掴まれた。
「きゃっ!!」
少女は、少年を睨み付けた。
「離しなさい!!!」
振り上げた、もう1つの腕も捕まえられた。少年は、ヘラッと笑って少女を見つめる。
「なんだよ??」
少年は、少女を掴む腕に力を込めた。
(…こんな事、絶対ナツじゃない!!)
突き飛ばそうと暴れるが、ビクリともしない。
「イヤァ!!」
そのまま、少女な少年に抱え上げられた。
「離して!!!」
目の前の男が、ナツの顔でいやらしい笑みを浮かべた。
「あんた 誰よ!!!!ナツをどおしたの!!!?」
ナツの顔が驚いたように、目を見開いた。
「ふん。解っちまうんだな。バレちまうとは思わなかったのに。心がつながっているとでもいうのかぁ?」
ナツの顔で、嫌らしい笑みを浮かべる。
「ナツは、ナツは、こんな事しないわ!!」
少女は、隙をついてもがき体をねじり、その腕から逃れた。透かさず、カギに手をのばす。が、ぎりぎり届かない。馬乗りされ押さえつかられた。
「大丈夫だよ?ルーシィ。。。。これからは僕がナツだ。この体はもう、僕の物なんだ。正真正銘火竜の体だ。」
「何が大丈夫なのよ!!」
馬乗りにのしかかってくる ナツの体を思いっきり蹴り上げた。
「うぐっ!?」
「ナツの体なら、このくらい何でもないでしょ!?」
男ひるんだ隙に体を滑らせ、男の下から逃れた。男がゆらぁっと立ち上り少女に詰め寄ってくる。
「キミ達は、恋人同士なんだろぉ??これからは、僕が恋人なんだよ??恋人の体なんだから?慣れないとね?」
「っ!?何言ってるのよ!!っていうか、恋人じゃないし!!!」
カギは男の後ろにあって、捕れそうにない。
その時、乱暴に玄関のドアが開いた。
「ルーシィ!!」「ルーちゃん!!」
聞きなれない声と、聞きなれた声が一緒に聞こえてきた。茶髪の長身の男と、よく知る明るい青色のくせっけの少女。
遅れて、「バニー 無事か??」と顔に鉄の飾りを付けた不機嫌そうな男が入ってきた。
茶髪の男は、先日自分に付きまとい言い寄ってきたのを、ナツに追っ払ってもらった男だ。
「・・・とんだ組み合わせね?」
ホッとしたのか?金髪の少女は強張る表情を緩め、その場にしゃがみ込んだ。。少女の服は乱れ、腕にあざが残っている。
そこに青髪の少女が駆け寄る。
「てんめぇ!!」
茶髪の長身の男が桜色の男につかみかかった。少女2人の前には、2人を庇うように鉄竜がたたずむ。
「ルーちゃん大丈夫??」
心配する面持ちで小柄な少女が金髪の少女の方を覗きこんだ。金髪の少女の腕には、強く握られてできたのであろう痣が目立つ。
首筋には、鬱血した痕。
「ルーちゃん!!」
悲痛な表情を浮かべ、小柄な少女は親友を抱きしめた。
「レビイちゃん!大丈夫!大丈夫よ!!ギルドにいた時から、おかしいのわかってたから、カマ掛けてみたの。ちょっと逆上されちゃっただけだから!!」
金髪の少女は、親友をなだめる様に、抱きしめてくれる腕に触れた。体を離した小柄な少女の目に映るのは 痛々しい少女の腕。
「腕、スゴイね。。。ルーちゃん。・・・あいつ知ってるやつ??」
痛む腕を優しくさすってくれる。
「これは。。。痛いけど今はそれどころじゃないわね!…アイツ。見た事ある。しばらく付きまとわれていたの。何回断ってもしつこくって、結局ナツに頼んで追っ払ってもらったのよ。。。。」
「うわぁ。ストーカーってやつ??」
「んー。でも、それから付きまとわれたりはなかったんだけどな。ってか、今は中身はナツなのね??アイツがナツの中に入ってるの??」
金髪の少女の顔色が変わった。
「・・・ほぉ。よくわかるな。」
盾になって、少女たちを守るようにたたずむ黒髪の男が口を挟んだ。
「・・・まぁ、言動とか、っていうか、話の流れ的に分かるでしょ??」
「イヤ。ギルドで、オレが声かける前から、感づいていたじゃねぇか。」
鉄竜は、怪しく口角を持ち上げた。
「・・・なんかね?ナツっぽくなかったもん。」
「さすがルーちゃん!!」
「ナツはいつも、遠慮なしに触れてくるけど、今日は悪寒がはしって。。。触り方がいやらしいというかなんというか・・・?」
2人の男が争う中、落ち着いた様子で話す3人。ナツの体を拘束しようと茶髪の火竜が部屋の中で暴れている。大きな音を立てて、椅子が砕け散った。
「えっ!?」
金髪の少女が争う2人の方に目を向けると、その顔からサーッと血の気が引いていく。
「ちょっちょと~!!ここあたしンち~~~!!!!!」
慌てて、金髪の少女が怒鳴りつける。
「ウッヒャ~~!?姿は違くても流石というか、、、、ナツだねー。めっちゃくちゃ!!」
パリーンと何かが壊れる音がする。
「イヤーーー!!!!」
金髪の少女は、目の前に垂れる針金のような黒い髪を引っ張る。
「いっ!!なにしやがる!!」
振り向いた悪人面に、泣きついた。
「部屋壊れちゃう!!!追い出されちゃう!!なんとかしてよぉ~~~!!!ガジル~!」
その金髪の少女の必死な形相と、その脇で青い髪を揺らし見つめてくる瞳に促され、溜め息をこぼし鉄竜が動いた。
いくらナツの体に入っていても、滅竜魔法をうまく使えない男はあっさり鉄竜の餌食となり、鉄でグルグル巻きにされた。
魔法は使えなくとも、他人の体で大暴れしていたナツは、ハァハァと肩で息をしていた。
「くぅっそぉ!!この体しんでぇ!!全然暴れらんねぇ!!!」
その場に座り込み、息巻いていた。そこに金髪の少女が駆け寄り、、、、、盛大な跳び蹴りをくらわした。。。。
「十分暴れすぎよ~!!!どぉ~してくれるのよぉ~!!このありさま。。。。あ~ん!!」
「あぁ~。ナツがルーちゃん泣かせた~!!いっけないんだぁ~!!」
青色の髪の少女の高い声が、その部屋に響いた。
「ぐもぉぉぉ」 茶髪の男は、その場に崩れ落ちた。
*
ギルドに、グルグル巻きにされた桜頭の少年と、魂の抜けたような茶髪の男を引きずって連れて行った。
テーブルの上に、ちょこんと座る青猫が五人を出迎えた。
「あう~~ルーシィィィィィ!!」
青猫は、金髪の少女の胸に飛び込んだ。
「大丈夫だった??ナツに変な事されなかった??」
青猫が、せわしなく動き、少女の無事を確認する。その腕の痣に気が付くと、青猫の可愛い瞳に涙が溜まる。
「ルーシィィィィ。これぇナツになられたの??大丈夫??ナツってはひどいよ!!なんてことするんだろ!!!」
これでもかっというほどの大声で、青猫が叫ぶとギルドにいたメンツが、集まってきた。
「おい、ナツがやったらしいぞ!!」
「ナツの野郎、とうとうルーシイちゃん襲っちまったんだとよ~」
「ナツ~!!!てめぇ!!ルーシィちゃんに何しやがった!!」
「ルーシィちゃん大丈夫か??」
「ナツめ~!!」
「ナツ!!ゆるさん!!!」
ギルド内に殺気が立ちこめていく。。。
青猫は、桜色の少年と一緒に依頼の場所に行き、クスリで眠らされていたそうだ。金髪の少女がギルドを出た後、異変を感じていたリリィにエクシード様の気つけ薬を嗅がされ目を覚ましたらしい。そして、依頼先で、依頼主が怪しい行動をしていた気がすると仲間に訴えたのだ。
青猫の話によると、あの茶髪の男は、ナツと入れ替わってルーシィの恋人になりたかったらしい。ルーシィのナツに向ける笑顔を、自分に向けてほしかったのだと言っていたと、ルーシィに耳打ちした。
そこに、銀髪の兄妹が帰ってきた。
「エルフマン!!リサーナ!!おかえりなさ~い。」
2人の姉、ギルドの看板娘が出迎えた。
「漢~!!!!」
「ただいま~ミラ姉!!」
殺気立っていた空気が、途端和らいだ。
「で、リサーナ!何か分かったかしら??」
姉の問いかけに、得意げな顔を向け妹が1枚の紙を取り出した。
「これこれ!!」
近くのテーブルにその紙を広げる。なんだなんだと、近くにいた者たちが見えるところに、集まった。
「えっ!?なになに??」
金髪の少女も、それに習いその紙に目を落とした。その紙は何かの説明書の様で、その内容に金髪の少女は目を丸くした。
どうやら、この兄妹は、昼間ナツの向かった依頼主の家を探りに行ってきてくれたらしい。
その紙には、『チェンジリングの首輪の使い方』と書いてある。
説明書に目を落とした。。。。
金髪の少女は、素早く項垂れたままの桜頭の少年に駆け寄り、その首からイグニールのマフラーを引き抜いた。そこには、説明書に描かれた首輪がはめられている。
「ナツ!!!」
金髪の少女は、ギルドの壁にかかる時計に目をやりながら、茶髪の男に向かって叫んだ。
「おぉ?」
「その首輪 外すわよ!!」
金髪の少女の勢いに押され、茶髪の男は、その首にはめられた輪っかに手をかける。
「一緒に!同時に外すのよ!!」
「おわっ!!ちょお待てって!!」
茶髪の男は、首にはまる首輪を探っているが、どうやって外すかわからないようで、ワタワタとしている。金髪の少女は焦っていた。
説明書には、その日のうちにはずさないと、元に戻れなくなると書いてあった。
「ナツ!!時間がないの!!!引きちぎって!!!」
「あ?いぁっ!?!?」
「チッ!!」
周りがそのやり取りに気付きざわつき始める。
「いい??いくわよ~?」
茶髪の男の後ろに、針金のような黒髪が揺れた。
「3・2・1!!」
『カッシャ~ン!!』
金属音がギルドに響いた。
「フン!!」
その輪っかは 首から外れると サラサラ~っと 空気中に消えてしまった。
1回しか使用できないようだった。
「やるじゃん! ガジル!!」
しっかり、ナツの首輪を後ろから 壊してあげた黒髪の男の影で、青い髪が揺れていた。
「・・・まあな。バニーが元気ねぇと誰かさんもつられやがるからな。。。」
*
ナツside
その日は、名指しで自分宛に依頼が来ていた。耐炎用の実験だとか。。。気晴らしには何でもよかったので、その依頼を受けた。
最近 何か探られているような変な視線を感じていた。始めはルーシィに近寄る変態の仕業かと思い、彼女から離れず、彼女を守っているつもりでいたが、自分1人の時でもその視線を感じるようになり、自分が誰かに狙われているのだと気が付いた。その視線に、悪意も交じってるように感じたからだ。
今度は、ルーシィが巻き込まれては困ると思い、ここの所一緒の行動を控えていた。
ルーシィが足りなくて、、、イライラしてくる。
この自分の行動の変化に、彼女は気付いており 心配しているようだった。この依頼にもついて来ようとしているが、実験中を狙われたら、、、、彼女が危ないな。ギルドにいる方が、よっぽど安全だろう。そう思い、ルーシィを置いて依頼先へ向かった。
指定の場所に着くと、応接室に通された。何か、難しい説明をしているようだがよくわからん。
取り合えず、依頼主が渡してきた輪っかを首にはめればいいらしい。そして炎を使うんだとか、、、場所を移動しようと何もない部屋に通された。ハッピーは、さっきの応接室とかいうところで待っている。
次に意識を取り戻した時には、部屋には誰もいなかった。後ろ手に縛られている。炎を出して解こうとするが、炎が出ない。
・・・・??
後ろ手に縛られたまま何とか体を起こした。
そこは異様な部屋だった。壁・天井に大きく引き伸ばされたルーシィの写真。大量のルーシィの写真だ。どの写真も、目線が合っていない。
多分隠し撮りのものだ。
(くっそぉ!!)
怒りが込み上げてくる。テーブルの上には、自分の写真も大量にあった。そこには、簡単なメモも取られている。その内容は、自分の言動が主だ。最近追い掛け回してきやがったのは、、、こいつか??
しかしなんで・・・・??ふと窓越しにさっきの依頼主が映る。
「てんめぇ!!!」
思いっきり振り向いたなずが、そこには誰もいない。。。
「は??」
そう言えば、なんだか目線が、、、、高い。嫌な汗が額をつたった。自分が、横を向けば ガラスに映るそいつも、同じ方向を向く。
こっこれは。。。。・・・・やっばくないか??
オレと入れ替わろうとでもいうのか??
必死で腕を動かし、縛られている腕の拘束を緩めようともがく。簡単にはいかないが、徐々に緩んできた気がする。
っくっそぉぉぉぉ!!!!!
いつもの様に、ブチッと切れることはなかったが、拘束の緩まってきた縄から、強引に腕を引きぬいた。
急いで、その部屋から抜け出し大通りに出だ。
そこに、見慣れた青い髪の少女と黒髪の眼つきの悪い同族がいた。
何か探しているようだ。キョロキョロとしている。
「レビィ!!ガジル!!!」
黒髪の男の肩に 後ろから、手をかけた。青い髪の少女が振り返る。。。そして固まった。
「えっ?だれ??」
少女は怪訝な顔をして、そっと男の陰に隠れる。
「・・ギヒッ!匂うな。・・・火竜か??」
顔に鉄の飾りを付けた同族の男が、肩に置かれた、手をパンと弾きながら茶髪の男を見据えた。その鋭い目に臆することもなく、
「何言ってんだ!!当たり前だろ!!」
「・・・当たり前の訳ねぇだろう。自分の面見やがれ!!」
鉄竜は、ため息交じりにそう言うと、「行くぞ!!」と素早く言い先だって歩き出した。
「・・・ナツ?」
「おう!!」
「てめえら、とりあえずバニーの所に急ぐぞ!!」
その言葉を聞き、茶髪の男の顔から、色が見る見るうちになくなっていく。黒髪につづき走り出す。
「この体の奴、ルーシィのストーカーってやつだ。部屋にルーシィの写真が貼ってあった。なんかオレのも机に置いてあったけど。」
「ナツ!ギルドに、ナツが来てたの。ルーちゃんが「あんた誰?」って言ったら、逃げちゃったんだけど。なんかやな感じがする。」
「おう。急ぐぞ!!」
茶髪の男は、先に立って走り出した。
「火竜。奴は、お前になり替わるつもりかもしれねぇな。妙にバニーにすり寄ってやがったぞ!!ギヒヒ」
*
おまけ
「・・・・・ナツ??」
桜色の髪の少年の顔を、金髪の少女が覗き込む。
「おう!!」
少年が、ニカッと笑った。あれから、問題のストーカーは評議院に連行された。
今ここは、オレの家だ。
ルーシィの部屋は、今工事が入っている。
あの後、部屋に戻ると大家がアパートの入り口で仁王立ちで待っていた。
事情を説明したが、見るも無残な部屋のあり様に、大家は大きなため息をつくと壊れた備え付けの家具の弁償を言渡し、
穴の開いた床や壁の修繕に早くても2~3日はかかると告げた。
真夜中、他に行く当てもないルーシィは、送っていったオレとハッピーに連れられ家に来た。
到着すると、家のあり様に絶句し、空が明るくなるころまで、掃除に明け暮れた。
掃除がひと段落し、掃除用具を外にかたし部屋に戻ると、ソファにルーシィとハッピーが体を預けウトウトしていた。
そっと彼女の隣に腰を下ろし、彼女の頭を自分の膝に倒した。
「・・・ナツ。。。」
彼女は、小さくつぶやくと、少し身じろぎ 夢の世界に落ちて行ったようだ。
身じろいで、見えた彼女の首筋に鬱血した後が目に入る。怒りが込み上げてくる。
自分の不甲斐なさに。迂闊さに。。。彼女を危険にさらしたことに。。。
すやすやと眠る彼女の寝顔に、怒りを鎮めようと深呼吸をする。
今はそっと寝かしてやりたかった。それも正直な気持ちだ。
近くにあった毛布を彼女にかけてやり、彼女の華奢な赤くなった腕をとった。その腕を包みむように、自分でも驚くほどやさしく撫でた。
彼女が一瞬笑った気がした。
そして、彼女の首筋に新しい跡を重ね、背凭れに寄りかかりそのまま目を閉じた。
「おやすみ。ルーシィ」
*
あとがき
もうちょっと、ナツを暴走させようと思っていたけど、、、、もうみんな眠いだろうと思って、寝かしてあげました(/_;)
ハッピーは、昼間寝すぎているので、もちろん狸寝入りですね。。。猫なのに!!