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2014.11.19 1000hit記念 akiraさんリク『部屋でひたすらほのぼのしてるナツルちゃん』

 

ハニー・トースト

あきちゃんリクありがとう!!moなりにお題を消化させていただきました!!

気に入ってもらえるといいんだけど……(*'ω'*)

 

 

 

「はぁ…腹減ったなぁ」

 

 サーッと、冷たい雨がマグノリアの石畳を打ち付けている。窓から、冬の雨を眺めながら、桜頭の少年ナツがキュルキュルと鳴る腹を擦った。

 

「も~っ……何も無いわよっ」

 

 ナツの腹の虫に、ぎょっとした顔を見せながら、本に目を落としていた金髪の少女ルーシィが、頭を持ち上げた。眉を下げ、下唇を突き出し、腹を擦っているナツが、つまらなそうにぼやいている。――既に力が出ないほど、腹気減っているのかもしれない。

 

「雨かぁ~。すぐやむと思ったんだけどなっ」

 

 下唇を付きだしたままナツが立ちあがった。そして、勝手知ったるルーシィのキッチンへ足を進めると、ガサゴソと棚の上のかごを覗き見て、ガサゴソと違う棚の中を探っている。

 

 ――まったく、よく人の家の食糧置き場を把握してるんだからっ

 ――あっそれとも、竜の鼻が嗅ぎ分けてるのかしら?

 

 戸棚を探った後は、冷蔵庫の中を覗いている。本当にすぐ食べられるようなものは、無いのだ。何か作るにしても、なんだかちょこちょこと材料が足りない気がする。今キッチンにあって、すぐ食べられるのは――食パン位だろう。あちこち探った後、ナツがのそりと振り返った。何ともがっかりした様子だった。

 

「……ホントなんもねぇのな」

「そうよ。だからいったじゃない」

 

 ナツのため息交じりの声に、ルーシィは呆れた声を返した。ナツだけではない。ルーシィだって、正直お腹はすいているのだから。

 

「あんた達が、きのう勝手に食べちゃったので、お菓子は全部だったのよ」

 

 ルーシィの“だから”というのは、ギルドからの帰り道、雨が降り出して早くしろとナツがルーシィの手を引いた時、ルーシィが渋い顔をしたのだ。

 

 『買い物しなきゃ』

 『冷たい雨は嫌いだ! すぐ止むって、止んだらにしようぜっ』

 

 そして、ナツは強引にルーシィの手を引き、部屋へと急いで帰ってきてしまったのだ。あとから行くから~と言っていたナツの小さな相棒は、きっとギルドを出る前に降り出した雨のせいで、ここへ来るのはしばらく後だろう。

 

「まぁ、おかげでぬれなかったけど……」

 

 ふとナツが視線を食糧庫の上にやると、どど~んと大きな食パンが見えた。そして何かお思い出したようで、アレアレと言いながら目を輝かせた。

 

「あれ作ってみようぜ!!アレ」

「あれ? あれって?」

「ほらミラが言ってただろ? 俺でもできる簡単ピクシだって」

「ピクシって……この場合レシピねって、あたし聞いてないわよ?」

 

 ルーシィは斜め上を見ながら思い出そうとするが、一行に思い出せない。すると、思考にふけっている間に、ナツがキッチンで包丁を取り出した。ちょうど2斤近く残っている長方形の食パンに向かって、ナツは真剣な顔を向けている。

 

 食べられる大きさに切るのかと見ていると、ナツは徐に耳に沿って包丁を突き刺した。まるで敵とでも対峙しているのかと云うほど、目を吊り上げ、真剣な様子のナツだが、包丁の先がプルプルと震えている。その危うさに、ルーシィは息を呑み込みながら、自分の両手で目をふさいだ。でも見ないことができないのか、指の間からナツを観察している。

 

 「あん? ハッピーと一緒の時だったっけか?」

 

 首をかしげながら包丁を握るナツの姿に、ルーシィは居ても立っても居られず、声を荒げた。

 

「包丁は、あたしやるっ」

 

 ナツの見守る中、言われるがままルーシィはパンの耳を残して中身をくりぬいた。どうやらこの耳の部分を器として使うようだ。そして、耳から切り離されたパンの柔らかい部分を、小さな一口大に切っていくのだ。サイロのように、正方形に切りそろえられた白いパンがバットの中に並んだ。

 

「あとは、俺がやるからなっ!!」

 

 珍しくもそんなことを言うナツに、不思議そうに視線をよこしていたルーシィだが、その真剣な横顔に、だんだんと楽しくなってきたようだ。楽しそうにほほ笑みながら、その様子を間近で眺めている。だが、口だけは挟むのだ。

 

 ――だって、キッチン壊されたら大変だもの。

 

「そんな大きいの、入んないわよっ」

 

 2斤分くらいあったパン耳の器を、ナツが石釜に突っ込もうをしている。ナツが火を入れたので、石釜は使える状態になってはいるが――そこに入らないものを焼くことはできないだろう。ルーシィは、一度ナツの手からパンの器を救出して、石釜の戸を閉めた。ニッコリと微笑み、ルーシィは再びナツにパンの耳を渡した。

 

「はい。火の魔導士さん」

「うおっ!?」

「はいっ。焦がさないように気をつけてね」

 

 ナツは、そっかと、ルーシィからパンを受け取った。決して消し炭にならない様に――ナツはパンを両手で包み込み、やんわりと魔力を練る。ふとすぐ近くから視線と感じる。――食い入るようにナツの手と、顔を交互に観察するルーシィ。

 

「何見てんだ?」

「ん~? だって戦闘以外で……なんか珍しいじゃない?」

 

 ナツの真剣な表情っ!! と嬉しそうにルーシィが、花が咲いたように笑った。

 

 ――なんだかルーシィの笑顔と視線が、むず痒い。

 

「あっ!!」

「んがっ」

 

 ついつい手元に力が入ってしまった――。

 

「ルーシィのせいだかんな……」

 

 頬を膨らませて、ジトッとルーシィを睨み付けるナツ。その両手の上には、ナツの手形の焦げが付いたパン耳の器。ルーシィはおかしそうに顔を歪め、笑い出した。

 

「なんでよっ~。うちの石釜にそんな大きなもの入らないのは、あたしのせいじゃないわよ?」

「……うっせぇ」

 

 ナツの手からパン耳の器を、受け取りルーシィは皿にのせた。そして、紅茶を入れるためにやかんに火をかけた。

 

「それで? 切ったパンもナツが焼くの?」

 

 楽しそうに、顔を覗き込んでくるルーシィ。もう既に、ナツが何を作り始めたのか、わかっているのだろう。ナツは、くりぬいた後一口大に切ってもらったパンを、鉄板にほうり込んで石釜に入れた。

 

「フフフッ。ナツの炎じゃ口に入る前に、消し炭だものね?」

 

 ルーシィの茶々に反目を返した後ナツは、石釜の中を覗き込んでいる。きっと今回ばかりは焦がさない様に、タイミングを計っているのだろう。

 

「そうだルーシィ!! パンに塗るアレ!」

 

 背を向けたまま、ルーシィに何かをとれというとナツは、石釜の戸を開けた。程よく焦げ目の着いたパンを載せた鉄板を取り出すと、目の前にバターが入れられた小皿が差し出された。ルーシィはにっこりとほほ笑み、焼けたパンが耳の器にほうり込まれるのを、にこにこしながら見ている。

 

「塗るより、溶かしてかけよう?」

「ん」

 

 器にパンを放り込むとナツは、にっこりとほほ笑むルーシィの手からその小皿を受け取った。ナツの手に小皿がつままれバターが溶けていく。そして、溶けたバターはたっぷりパンの上からかけられた。

 

 焦げたパンの匂いと、溶けたバターの香りが混ざって、ナツの腹を刺激した。キッチンにナツの腹のあたりから聞こえる、ぎゅるるるるっという大きな音が響いた。ちょうど湧いたお湯で、ルーシィは紅茶を入れながら、ナツの腹の音にクスクスと笑っている。

 

 いつの間にか、窓から光が差している。窓の外は、水たまりが反射した光であふれかえり、優しい日の光がマグノリアを照らしている。

 

「ルーシィ!! アレアレ!!」

「あれ?……あぁその戸棚の奥っ」

「おっ。あった あった」

 

 ナツは戸棚の奥から、籐のかごを取り出した。その中には、蜂蜜やキャラメルやチョコのソースが入っている。その中から蜂蜜を取り出して、ナツは首をかしげた。

 

 ――何か足りないような――。

 

 そこに、ルーシィが1つの袋をもってナツに、茶こしを手渡した。

 

「はい。粉砂糖で、雪化粧してねっ」

 

 ――楽しそうに、にっこりと笑うルーシィ。

 ――そういえば、こいつずっと笑ってやがる。

 

「おうっ」

「……お茶、運んどくねっ」

 

 ナツの返事を受け、ルーシィは蜂蜜とフォークと一緒に紅茶と取り皿をトレーにのせ、テーブルへと運んでいく。そこで、雨が止んでいる事に気付いたルーシィは、風を通すために、窓を少し開けた。

 

 ルーシィが窓を開けると、ふわっと優しい風が吹きぬけた。

 

 ナツは、粉砂糖を入れた茶こしを何度も降っていた。奥の方に入ってしまったパンにも届くようにと、きわめて真剣な表情だ。所々、粉砂糖が山になっているが――。

 

 少し焦がしてしまったパンの耳で出来た器に、大きめに切られ こんがり焼けた食パン。その上からたっぷりのバターと、雪のような粉砂糖。

 

 ――あとは……蜂蜜をかければ、いいんだよなっ

  蜂蜜をかければ――出来上がる?

 

「なんか足んねぇな……なんだっけか?」

「…アイスじゃない?」

「……そっか。アイスだった!! サンキュ。ハッピー」

 

 背後からの相棒の助言に、礼を述べたナツは、部屋にいるルーシィに向かって声をあげた。

 

「ルーシィ!! アイスだ!!」

「えぇ? 寒いのにアイスなんて買ってないわよ~」

 

 すぐに部屋から、ルーシィの声が返ってくる。

 

「……しゃぁねぇな。アイスは後で食うかっ」

「あいっ! 大丈夫だよナツ。オイラ、アイス貰ってきたからっ」

 

「……おわっ!! ハッピー……いつ来…」

「さっきからだよっ。ナツ。ナツが料理してるなんて、ミラの言った通りでオイラびっくりしちゃったよっ」

 

 アイスもテーブルに持ってちゃうね~と、ハッピーが羽を広げた。

 

「……ミラが?」

 

 分厚い雪化粧で仕上がった、トーストをテーブルに置き、ナツはハッピーとは反対側のルーシィの隣に座った。

 

「ハッピー。ナイスタイミングねっ」

「あい。雨が止んだらすぐにね、ミラがアイス届けてほしいってくれたんだ」

 

 だからオイラ、マックススピードで来たんだよっと話す青猫の頭を、優しく撫でるルーシィの横顔をナツが、ジィーっと見つめた。視線に気が付いて、ルーシィが首をかしげる。

 

「なに? どうしたの? ナツ」

「いあ。この食パンどうしたんだ?」

「ああっ。珍しいでしょ? ミラさんがなんかくれたのよねぇ…そういえば、レビちゃんも貰ってたような……蜂蜜も……」

 

 魔人の笑顔が、ナツの脳裏をよぎった。

 

 ――思い出した!!

 ――ちょうど1週間前だ。

 ――珍しくガジルがカウンターに座っていて、何かミラと話し込んでたんだ。

 なんとなく視線がいったのを、ミラが手招きしたんだ。

 そこに行くと、このパンの作り方を教えてくれたんだ。

 簡単だから、覚えておけと。

 

 ――作ってあげるのも楽しいけど、たまには愛情たっぷりの人が作ったものが嬉しいのよね~と、何とも含みのある言われ方をして――そうだな、今度ルーシィに作ってやるか――って、そう思ったんだ。

 

 ――まんまと、嵌められた。

 

 しかも、今日だとタイミングまで謀られてしまったのだ。

 

 

 

 ――だが、恐るべし魔人に――感謝しよう。

 

 ――まぁ。こんな日もいいもんだ。

 目の前で、目を細めて嬉しそうに笑うルーシィがいるから――。

 

 窓の外にひろがる青空に、大きな雲が風に乗って流れていく。

 

 暖かい部屋で、自分の隣には にっこりと楽しそうに笑う大好きな少女と、その膝に納まり甘える相棒の姿とに、どこまでも安らぎを覚えることは――事実だ。

 

 

 ハニートーストを食べ終わるとナツは、ソファに座り直した。

 

 

 ルーシィとハッピーの楽しそうな声が、部屋に響いている。

 

 

 窓越しに目に映る雲を追っているうちに、ナツの瞼はゆっくりと降りてくる。

 

 今頃ガジルの家にもアイスが届いて、ハニートーストをつつき合っているのだろう。と思うと笑えてくる。あの鉄の男が――。案外、しっかりエプロンとかして作ってやがんのかもな――カッカッカッカッ。

 

 

 きっと明日、ギルドでレビィと顔を合わせれば、ルーシィにはすべてが分ってしまうだろう。

 

 その時のルーシィは、嬉しそうに、少し恥ずかしそうに笑うんだろうなと――思ったんだ。

 

 

「あれ~? ナツ寝ちゃったの?」

「もう。雨あがったから、買い物行こうと思ってたのにぃ」

「プププッ。ルーシィ、重いもの買う気満々だったんだね」

「そりゃぁ、そうよ。どうせ、あんたたちのお腹に入るんでしょ? 働いてもらわないとっ」

「あいっ! 夕方のセールが狙い目だねっ。ルーシィ!」

「フフフッ。じゃぁ……それまで寝かしておいてあげますかっ」

 

 近づいてきた気配が、目の前で立ち止まり、何かを腹にかけてくれた。

 

 ――んなことしなくても、風邪なんかひかねぇのに。

 

「片づけは、オイラも手伝うよ~。ルーシィ」

「片付けさせたくって、起こしてる訳じゃないからねっ……っ!?」

 

 再び離れて行こうとした気配を、――逃がさない様に掴んだ。

 

「///もう。動けないじゃない///」

「……あい。片づけはオイラがやっておいてあげるよ」

 

 

 ポスンと横に座ってくれた暖かい存在の細い腰に、目をつぶったまま腕を巻き付けて、そのやさしい匂いを吸い込んだ。優しく頭を撫でてくれる手に、酷く――安らぐんだ

 

 まぁ後で、多少ハッピーにからかわれても――金魚みてぇに真っ赤になって慌てるルーシィが見れるんなら――それもいいかもしれねぇな――。

 

 

 

 

Fin

 

 

 

「ルーシィー片付け終わっ……プフフ。2人とも、いい寝顔だねっ」

 

ハッピーは、しっかりルーシィをホールドして眠る相棒の桜色の頭に寄りかかって、瞼をおろした。

 

大好きな相棒と、大好きな少女――2人と同じ夢の中へ――。

 

 

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