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2015年01月11日

好きだから…

恋人って? 恋人になったら……どう変わらなきゃいけないの??ナツの告白から始まるお話です。

 

 

「オレっ…ルーシィのこと好きだ!!」

 

それは突然の事だった。今月は珍しく、先日チームていった依頼が大成功を納め、家賃の心配がない。だからたまにはゆっくり空でも見上げようかと――そんなのんびりした気分の午後だった。

 

マグノリアの外れにある公園の一角、大きな木の下の木漏れ日の中で、金髪の少女の大きな目を真剣な面持ちで覗き込む桜頭の男。

 

「恋人っての? オレ、ルーシィと恋人ってのになりてぇ」

 

 金髪の少女ルーシィは驚いて目を開いたまま、目の前の少年を唖然として見つめていた。そして微動だに出来ないままでいると、目の前の少年こと仲の良い桜頭のチームメイト、ナツがポリポリとその頬を掻いた。

 

突然の事に、身動きできないでいるルーシィの顔を覗き込んでくるナツ。その表情には、不安の色が見え隠れしている。ルーシィの視界の中で、ナツの暖かい手が自分の手を取った。

 

「ダメ…か?」

 

自分の手を包み込む暖かい手が、微かに震えている。らしくなく、眉の下がったちょっと情けないナツの顔が、ルーシィの揺れる瞳を覗き込んだ。

 

「いい……よ」

 

  思考は、突然の事にびっくりして活動を停止していたはずなのに、ルーシィは自然と頷いていた。すんなりと、ナツの好きが心に響いていた。頭で考えるでもなく、当たり前のように、ナツの告白を肯定していた。

 

瞬いて、再びナツの顔を瞳に映すと、零れんばかりの嬉しそうな笑顔がそこにあった。

 

「よっしゃぁ!!」

 

ナツが歯を見せて笑いながら、天にむかって両手でガッツポーズする。

 

 ――トクンッ

――うなずいちゃった……

――ナツが……好きって言ったんだよね……

――こっ恋人に…なりたいって…///

――あたし…いいよって……言っちゃたんだ///

 

チラリと顔を上げると、ばっちりと視線がぶつかる。互いに人生初めての、恋人が目の前にいるのだ。そして、嬉しそうに、照れた様に、恥ずかしそうに、2人は微笑みあった。

 

――ふふふっ。かわいいっ

――ナツ、喜んでるっ

――そんなに、うれしいんだっ///

――へへへっ///

 

 

――でも、付き合うって、どうすればいいのかな?

 

 

 

 

 

 

あくる日。

 

 仕事に出る予定の無かったルーシィは、街に出て買い物をした後ゆっくりと、ギルドのドアを開けた。嬉しくてワクワクする気持ちと、恥ずかしくて照れてしまうような気持ちで。

 

 ――皆に、報告とかした方がいいのかな…

 ――ナツ、いるかな…

 ――とっとりあえすは、いつも通りよっ!!

 

 一斉にルーシィに集まる視線。何? なんか恥ずかしいっ!と、ルーシィは手で顔を覆いながら、カウンターへ急いだ。チラリと視線を巡らす。

 

 ――まだナツは来ていんだ

 ――じゃあ、ナツがきたら…

 

 先に来て待っててほしかったような、照れくさいのでいなくてよかったような、ルーシィは複雑表情を浮かべている。

 

 ――会いたかったけど

 ――なんか照れちゃいそうだし…///

 ――ナツが来たら、あたし……///

 ――とっとりあえず、レビィちゃんに…

 ――どっどうしたらいいんだろっ///

 

 カウンターの一角、自分の指定席ともいえるいつもの席に座るとルーシィは、すぐに囲まれた。

 

「ルーシィ! とうとう付き合いだしたんだって?」

「えっ///」

「そうそう聞いたわよ~。ナツが告白したんでしょ?」

「ナツ、何て言ってたの?」

「カナッ。リサーナッ。ミラさん。なっなんで知ってるんですか///?」

 

 カウンターのいつもの席に座るやいなや、仲間の女性陣に囲まれてしまう。皆ニコニコと微笑み、自分の事のように喜んでくれているのが見てわかるが、ルーシィは恥ずかしくて仕方ないようだ。そのかわいい顔には、熱が集まってきている。そこに、近くのテーブル席から少女が駆けてきた。

 

「アハハっ。ルーちゃん、超 真っ赤だよっ! ナツが嬉しそうに、報告してくれたんだよっ。よかったねルーちゃんっ」

「ナツのやつ、よっぽど嬉しかったんだろうね~。そういや、ハッピーまで自分の事みたいに騒いでいたよ」

「まだ付き合ってなかったの?って位いつも仲好かったしねっ。ハッピーもヤキモキしてたものっ」

「ふえぇ///」

 

 恥ずかしさに顔があげていられず、ルーシィは膝の上でぎゅっと握り混んだ自分の手を見つめるしかない。

 

「あらあら。ルーシィったら、照れちゃって可愛いわねっ」

「たしかにあんた達、付き合う前から付き合ってるみたいだったもんな~」

「そうそう。そこらのカップルよりも、カップルっぽかったもんねっ」

「アハハ。ナツがルーちゃん好き好きって、ルーちゃん以外にはばれてたしねっ」

 

 

 ――そうなの///?

 ――……今までも、付き合っていたみたいなら……

 ――今まで通りで、いいのかな?

 

 その時、出入り口のドアが押し開けられた。

 

「ルーシィ!!!」

 

 開けられたドアが閉まりきるよりも前に、見慣れた桜頭が、ルーシィを視界に捕らえ、満面の笑みでまっすぐと歩み寄ってくる。ニヤニヤと笑みを浮かべた周りの視線なんか関係ないと、カウンターの席についているルーシィの後ろに立つと、華奢な肩を引き寄せ、そのきれいな金糸に顔を埋めた。

 

「へへっ。ルーシィの匂いだっ」

「んなっ///」

「ナツー。ルーシィ固まっちゃってるよ~」

「ん~。でもいいんだよっ。もうオレんだもん」

「っ//////」

 

 迎えにいったのにすれ違っちまったなっと、照れたように楽しそうに囁くナツ。ルーシィの匂いを、思う存分吸い込むと、チュッっとその綺麗な金糸に口づけを落とし、顔を持ち上げた。

 

「おーおー。恥ずかしい位のいちゃつきプリだなっナツ」

「おうっ」

「あらあら、少し手加減してあげてね? ルーシィは、恥ずかしがり屋さんの女の子なんだから」

「うっ……おうっ」

「うっひゃ~/// 見てるこっちが、照れちゃうよ~!! あっほらっカナもリサーナも、2人っきりにしてあげなきゃっ」

「ワリィなレビィ!」

 

 ――レレレレレビイチャン!?

 

「んじゃぁ、オイラもシャルルのとこ行ってくるね~」

 

 ――ハハハハッピーまでっ!?

 

「お~いってこい」

 

 この間、ルーシィは微動だにしていない。真っ赤に全身を染め上げたまま、ナツにされるがまま体に緊張を走らせ、固まってしまっている。

 

 ――ナッナナナナナっ--ナッナツってばっ///

 ――いつも通りよ! いつも通りよ!! ルーシィ!!

 

 ドキドキと早鐘を打つ心臓を抑え込み、ルーシィが大きく息を吸ったところで、ナツが体をはなし、隣のスツールに腰を下ろした。何食わぬ顔で、ファイアードリンクを頼んでいる。その横顔が、視線に気付いてこちらを向く。目があえば、つり上がった大きな目が、猫のように細くなり弧を描いた。

 

「どうした? ルーシィ」

「///ん~ん。何でもないよっ///」

「そかっ」

 

 ――はっ恥ずかしい///

 ――ナツは何でもない顔してるのにっ。あたしばかり恥ずかしい///

 ――こんなスキンシップ。いつも通りじゃない

 ――ナツが///ルーシィの匂いって言うから。いつもそう思ってやってたのかななんて///

 ――///どッどうしたらいいのかわかんなくなっちゃう

 

 

 

 思考を巡らせていると、“スッ”と伸びてきた暖かい手が優しく頬を撫で、そのままその手が、金糸を梳いた。酒場のカウンターで、ボフンと音を立てルーシィの頭から煙が上がった。

 

 それからも一日中、ナツに翻弄されるがまま。

ルーシィは、うまく言葉を発せないまま、困ったように顔を真っ赤に染めていた。

 

 

 

ルーシィの家

 

「あの時のグレイの顔っ! 面白かったよねっ」

「だよなっ。目見開いて、間抜けな顔してたよなっカッカッカ」

「アハハッ。でもその後、ナツだって神妙な顔になってたじゃない?」

「うっ……それはエルザがだな……」

 

 

何でもない会話が弾んでいた。ハッピーはおらず、2人きりでの食事を終え、片づけをしようとルーシィは席を立った。

 

 ――うん。なんかいつも通りな感じっ

 ――いつも通りで、既に恋人みたいだったって言われてるんだもの

 ――いつも通りでいいんだよねっ///

 

 ――でもでも、2人きりだと余計に、ドキドキしちゃうよっ///

 

ルーシィの背を追う様に、ナツも自分の使った食器を手に、その背に問いかけた。

 

「なぁ、ルーシィ」

「ん~?」

「どっか行きてぇとこねぇのか?」

「へ?」

「デートしようぜ!! 2人で」

「でっデート///」

 

 ナツからの、デートの申し込みに、徐々に熱を集めていくルーシィ。

 

 ――デートってわざわざ言うってことは、なにか今までと違うのかな///

 ――手つないだり…って、そんなの今更な気もするな……

 ――まさかっ///

 ――えっ/// でもっ///

 ――ムードのあるところで/// チュッチューとかっ/// キャー///

 

 ――はっ/// あたしったら、何考えて///

 

 ルーシィは頭の中で繰り広げられていく、想像してしまう思考に、赤く染まっていく顔を見られない様にナツに背を向け、その頬を手で覆った。だがナツの目からも、その耳が真っ赤に染まっているのが見て取れる。

 

 ――くっそ///

 ――何、可愛い反応してんだよっ///

 

 フラッっとルーシィの背に歩み寄り、ナツはその華奢な肩に背後から抱き付いた。

 

「……ルーシィ…」

「ナ…ツ…」

 

 後ろから肩に回された熱い手が、ルーシィの顎に触れ、そのまま導くように顔の向きをかえられた。ルーシィの目の前には、瞼を降ろすナツのどあっぷ。

 

 ルーシィは目を見開いたまま――。

 

 暖かい感触が、唇に触れ――ゆっくりと離れて行った。

 

 開かれたままのルーシィの目に、つり上がった眉。瞼を持ち上げる射抜くような釣り目。筋張った首筋。ふくらみのある喉。それらが近距離で順番に映った。

 

 そして目と目が合う。

 

「「/////////」」

 

 ――き……キス///

 ――ナツに、チューされたっ///

 

体の向きを変えられ、熱い視線が降り注ぐ。

そして、再びナツの頭が近づいてくる。

 

 ――まっまたぁっ/// 

 ――ちょっ/// 

 ――ちょっとまってぇ///

 

 ルーシィは思い切り、ナツの胸を両手で押し戻した。戸惑うナツの表情など見てられない位目の前が、チカチカして、恥ずかしさに、ぐるぐると回る。

 

「るっ…「帰ってっ///」

「ルーシィ……」

「きょっ今日は、もう帰って/// あっあたしお風呂入りたいし/// ねっ? ほらっ」

 

 真っ赤に全身を染め上げているルーシィ。突然のナツからの口づけにドキドキしすぎて、心臓が痛みを訴えてくる。真っ赤で情けない顔をしているだろう自分が恥ずかしくて、ルーシィはいっぱいいっぱいだった。必死に捲くし立て、ナツの背を窓に向かって押していた。

 

 ――だから、ナツの目が苦痛を耐えるように、伏せられたことには気が付かなかったのだ。

 

 ナツの背が、どんどんと小さくなっていくのを、自室の窓から赤い頬を擦りながら見つめていた。その背が見えなくなる曲がり角で、ナツが振り向いた。パッとあげた手に、ルーシィは小さく『おやすみ』と返すこそしか出来なかった。

 

 ――もう/// 突然すぎるんだもんっ///

 ――わ~ん/// 明日どんな顔していいのかわからないじゃない///

 

 

 

 翌朝、ルーシィは1人で妖精の尻尾の酒場のカウンターで、クロワッサンとカフェラテを交互に口に運んでいた。

 

 ――ナツ。朝迎えに来たかな?

 ――なんか恥ずかしくって、先に来ちゃったけど……大丈夫だよね?

 

 自分でしたことながら、恋人という関係になってからほぼ毎朝迎えに来てくれていたナツを待たずに、今日先に来てしまったことが、少し心に引っかかっているが、羞恥がそれを上回ってしまっている。

 

 ――ダメよルーシィ

 ――平常心――平常心よっ///

 ――皆に気付かれちゃうよ///

 

 ルーシィより遅れて、ナツがハッピーと共に酒場の扉を潜った。ハッピーはルーシィを目に止め、すぐに翼を広げその胸に飛び込んできた。

 

「もうルーシィ。オイラ達を置いて行くなんてひどいや。……そんなにお腹すいてたの?」

「へ?」

「オイラもお腹すいた~。ミラ~」

 

 腕の中から身を乗り出し、調理場にいるミラに声を掛けるハッピーだが、返事がないので、「ナツはホカホカ定食でいいよね~」と言いながら、そちらに向かって飛んで行ってしまった。残されたルーシィの背後に、見知った気配が佇む。

 

 ――平常心。平常心

 ――いつもどおり。いつもどおり――笑顔よっ! ルーシィ!!

 

 飛び跳ねる心臓を、無理やり落ち着かせてルーシィは振り返った。

 

「おはよっ。ナツ」

「っ!! はよっルーシィ」

「ごっごめんね。今日早く起きちゃったから、先きちゃったの」

「そっそか……ルーシィが行きたがってた、プラネタリウムのチケット貰ったんだけど……行くか?」

「えっ……うんっ///」

 

 ――これって、はっ初めてのデッデッデデートかなっ///

 ――あたしの好きなトコロ///

 ――へへへっ///

 

 ほんのりと頬を、くっきりと耳を赤く染めたルーシィの反応に、ほっと息を吐き出すナツ。

 

 ――よしっ

 ――よろこんでんなっ

 ――へっへへへ///

 

 腹減ったなぁ~と、ルーシィの隣に腰を下ろしたナツは、ルーシィの顔をチラリとのぞき見る。カフェラテの入ったカップを両手で持ち上げ、カップから上がる白い湯気に向かってふーっと息を吹きかけているルーシィ。

 

「なぁルーシィ。昨日のっ……」

 

 “びくっ”

 

「っ/// あっ/// エルザっ!! お帰り―っ」

 

 ナツが切り出した話題に、ルーシィは肩を揺らし、慌てて席を立ってしまった。

 

 集まる顔の熱が、当分ひきそうにない。ルーシィは、帰ってきたばかりのチームメイトの腕に巻き付いて、しきりに今回の仕事の話を聞いている。エルザも、突然の事に驚きながらも、懐いてくるルーシィに悪い気はしないのだろう――話に花を咲かせているようだ。

 

 朝食の注文を終えたハッピーが戻ってきた時、ナツはジーっとルーシィの横顔を眺めていた。少し寂しそうな眼差しで――。カウンターにポスンと座った相棒に目もくれない。

 

「……ナツ?」

 

 振り向いたナツは、力なく微笑みハッピーの頭を撫でた。

 

 

 

 

 そんなこんなで、ルーシィの頭の中はまだ落ち着かない。そして、いいネタが浮かんだのっと、小説の執筆の為だと、自宅に缶詰を決め込むルーシィ。とにかく時間が欲しかったのだ。

 

 恋人になれてことだけでも、意識しすぎてその距離感が解らなくなってしまっているルーシィは、ナツのスピードについていけていない。ナツの行動に慌てて、照れて、テンパってしまう自分が、恥ずかしくてしょうがないのだ。

 

 ――ううっ/// 恥ずかしくって、まともにナツの顔が見れないよ///

 ――どっどうしよう///

 

 ――はぁぁ……やらかかったなぁ…

 ――ナツの唇……///

 

 ――わー///思い出しちゃだめよルーシィ!! 深呼吸よっ!!

 ――吸って……吐いてぇ……吸って……

 

 ――ナツ…のばかっ///

 

 ナツはそんなルーシィの元を、毎日訪ねていた。いつものように部屋に侵入することはできるのだが、どうしたってルーシィが目を合わせてくれないのだ。ルーシィどうしたんだろうね? と耳を垂らす相棒の頭を撫でながら、ナツはきつく眉間にしわを寄せ。ギュっと奥歯を噛みしめた。

 

 

 ――嫌だったとかじゃないのっ

 ――恥ずかしいんだってばっ

 

 

 ある日の早朝。ふと気づくと、昨日ナツが訪ねてきていなかった――。数えてみれば、自分は5日も部屋に引きこもっていたのだ。

 

 ルーシィは身支度を整えて、散歩に出かけた。

 

 ――ナツ……どうしたんだろう?

 ――ナツの顔……見てないな

 ――ナツに…会いたいのに

 ――ナツ…どこ?

 

 

 自然と足はナツの家にむいていた。この時間なら、ナツはまだ寝ているだろう。看板の様な『 NATSU & HAPPY 』と書かれた表札の前にルーシィは立っていた。そして――そっと扉を開いた。

 

 ごちゃごちゃとした部屋の中。

 

 人の気配は――無い。

 

 部屋の空気は、冷えきっている――

 

 ルーシィは急いでギルドを目指した。息を切らしながら、扉を開け酒場を見渡すが、桜色の頭も、青い猫も――いない。

 

 

「はぁ。はぁ。はぁ……あれ?」

 

 その場にへたり込むルーシィ。酸素のいきわたらない頭で、思い返してみた。すると、目の前に暗い靄がかかった。

 

 ――ナ……ツ…?

 ――なんで…いないの?

 

 ――あたしっ!!

 ――自分ばっかりで、ナツの気持ち考えてなかったんだ

 ――どうしよう

 ――もうあたしの事……

 

 目の奥から湧き出した雫でルーシィの視界がゆがみだした時、背後に見知った気配を感じる。その場にへたり込んでいるルーシィに1人分の影と、1匹の影がかかった。

 

「ルーシィィィィィ!! 小説書き終ったの? もうオイラと遊べる??」

 

 膝の上に舞い降りてきた青猫を抱え込みながら、ルーシィはナツの顔を見つめる。逆光でその表情がうかがえないが、どこか元気がないように感じる。

 

「ど……こ…いってたの?」

「ああ。仕事だけど」

「そっか……ハハっ」

 

 そう言えば、先日ナツ達が部屋に来てくれた時、そんなようなことを言っていたかもしれない。自分がいっぱいいっぱい過ぎて、ここのところの話は右から左へ流れて行ってしまっていた。自分のテンパり具合に、安心と共に涙が滲んでくる。

 

「ルーシィ。ちょっといいか?」

 

 グイッとルーシィの腕を掴み立たせると、ナツがあごで外を差す。

 

 ――くそっ

 ――泣く程かよ

 

 スタスタと先に歩くナツの後を、ルーシィは小走りについていく。ナツの雰囲気に、相棒はギルドで待つと言って2人を見送っていた。

 

 ナツの足は、いつかの公園に向かっていた。そこの大きな木の下で、ナツが歩みを止めると、ルーシィは自然と手を伸ばしていた。目の前の背中が悲しそうで、苦しそうで、手を伸ばさずにはいられなかったから――。

 

 ナツはその大きな木を見上げ、ルーシィに背を向けたまま――声を絞り出した。

 

「無しにしようぜっ」

「……え?」

 

 差し出した手が、ナツの背に届く前にピタリと止まった。

 

「こないだのアレ。好きだって言ったの、ナシにしてくれよ」

「な……なに…言って……?」

「ただのチームメイトに、戻ろうぜっ」

 

 ナツは、深く硬く刻んでいた眉間のしわを、無理やり伸ばして平静を装いながら振り返った。必死に笑おうとするが、どうやっても顔がこわばてしまう。その視界に、意味が解らないと自分を覗き込んでくる愛しい少女が――

 

「なっ!!」

「えっ?」

 

 ルーシィの双眼から、透明な雫が溢れだし――その頬を伝い落ち、地面に水玉模様を描いている。自らの目からあふれだしてくる雫に、気づいていないのかルーシィは、涙をそのままにナツの顔を正面から見つめた。

 

 

「あっ……あたしの事…きっ…嫌いに……なった…?」

「ちがっ……ルーシィが…」

「……あたし?」

「…本当はやなんじゃねぇかって……泣くなよっ」

 

 ナツは困ったように、流れ落ちるルーシィの涙を指で拭った。

 

「オレ……ルーシィが押しに弱いの知ってて……無理やりチューしちまったし。あれから、なんか逃げられてっし……本当は、恋人になんかなりたくなかったんじゃねぇかって……」

 

 涙をぬぐっていた暖かい手が、動きを止めた。眉をよせ、苦しそうにルーシィを見つめている。

 

「……そんな訳……ない。嬉しかったのにっ……」

 

 頬に触れている動きを止めた暖かい手に、ルーシィは己の手を重ねた。そして、その手に甘えるように頬を擦り付けた。久しぶりに触れたナツの手は、いつも通りに暖かい。必死に涙を呑み込みながら、まっすぐと視線を合わせる。――恥ずかしさなんて、いつの間にかどこかに行ってしまっている。

 

「だって、ルーシィ。オレの事、避けてたじゃねぇかっ」

「だっだって/// 何か突然でっ/// 頭が付いて行かなくって///」

「は……突然…って……」

「やだったら、ひっぱたいてるもん」

「……オレ、ルーシィから好きって言われたことねぇし……」

 

 ボボボボッとルーシィの顔が真っ赤に染まった。目に映るナツは、もう苦しそうな顔なんてしていない。

 

 ちょっと拗ねたような表情と――期待の眼差し。

 

 ――もうっ///

 

 ――でも……

 

 ――ここで言わなきゃ女が廃るわよね……

 

 

 心臓が早鐘を打つ。ルーシィは口をパクパクと動かした。

たった一言『すき』が声にならない。

 

「… …… ……」

「あ?」

 

 手が震える。心臓が誰かに掴まれたように痛い。目を瞑って、ふーっと大きく息を吐いて、瞼を持ち上げた。目の前のナツを、まっすぐ見つめる。緊張に視界がゆがんでくる。

 

 

「すっすき……あたし、ナツの事、好きだよっ///」

 

 

 

 緊張にルーシィの膝がガクガクと笑っている。プシューッと空気が抜けるようにルーシィはその場に座り込んでしまった。

そんなルーシィの元へ、ナツが手を伸ばす。

 

「それに、恥ずかしいけど/// ……いやじゃないよ///」

 

 その手を取ると、グイッと体をおこされた。そのままルーシィはナツの腕の中に閉じ込められてしまった。そこは、彼女の居場所。ルーシィだけの――

 

 顔を真っ赤に染めたまま、涙を滲ませた目でナツを見つめるルーシィに、ナツの心臓も早鐘を打っている。

 

 ――こんな時に

 ――そんな顔してんじゃねぇ///

 ――くっそ……ん? 

 ――恥ずかしいだけって……やじゃねえんだよな……

 

 

「ルーシィ……好きだぞっ」

 

 

 

 そっと重ねられた熱い唇に、ルーシィは黙って目を閉じた。

 

 

 

Fin

 

 

***

 

 

Anchor 9

おまけ→

 

 

「ねぇちょっとお二人さ~ん」

 

“びくっ”

 

「心配になって様子見に来れば……ここは子供の遊び場なんだからねっ」

「「ハッハッピー!!」」

 

空を旋回しながら、青猫が、2人の顔を覗き込んでいる。その目はいやらしく歪んでいるようだ。

 

――絶対からかわれる///

 

「もう……限界///」

 

フラリと、全身の力が抜けてしなだれ込むルーシィ。

既にキャパオーバーなのだろう。すでに意識は、ここに無いようだ。

 

「おっおい。ルーシィ///」

 

「……ナツ」

「あんだよ? ハッピー」

「……無理させすぎないでよね」

「うっ…」

 

ナツはルーシィを腕に抱き込みながら、ジトッと自分を見つめてくる相棒の大きな目に、タラリと額に汗をかく。

 

「大体、独り占めはよくないと思うんだ」

「…は?」

「オイラだって、ルーシィ大好きなんだからねっ」

「……分ってる」

「……じゃぁ、ルーシィが起きたらオイラと一緒に、お魚釣り行こうねっ」

「ぐっ…」

 

「……ダメだよナツ。ナツの為でもあるんだからね」

「ぬ?」

「ルーシィと2人きりをいいことに、ナツがいたずらしない様に、オイラが見張っててあげるんだよっ」

「あん?」

「また暴走して……今度こそルーシィが逃げちゃったらどうするのさっ」

「……そこまでは…」

「しないって言えるの?」

「うっ……いあ」

「ほらっ。やっぱり!! それに、2人のそばにはオイラがいないとねっ」

「おっ…おうっ!!」

 

 

 

 

ルーシィは、ふと目を覚ました。

ぽかぽかと心地いい太陽が降り注ぎ、冷たすぎない風が気持ちよく吹きぬける。

頭の下に暖かくてちょっとごつごつした――ナツの太もも。

肩には、ナツの腰布がかけられているようだ。

 

薄く瞼を持ち上げれば、ここがハッピーお気に入りの魚が釣れる湖畔だとわかる。

 

「ねぇナツー」

「あー?」

 

「ルーシィの機嫌、治ってよかったね~」

「おー」

「……」

 

「ルーシィの気持ち、わかってよかったね~」

「おうっ!!」

「……///」

 

「ルーシィのこと好きー?」

「ったりまえだろっ!!」

「//////」

 

「ねー、ルーシィはー??」

「っ///(起きてるのばれてたのねっ)」

「同じだよなっ」

 

見開いた視界の正面で、ナツが楽しそうにニカッと笑っている。

 

「ねー。じゃぁオイラの事はー? 二人ともオイラを忘れないでよっ」

「「///」」

 

++++++++++++++++++++++++++

捻りも何にもないね……__(:3)∠)_

なんとなくざあっと、書いちゃったんだよな・・・・・これ。

多分、少女マンガ読んだ後に書いたんだと思うwww(o^-^o) ウフッ♪

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