手の甲に…
お友達の酸桃ちゃんの『ナツルーちゅー祭り』に参加させていただいたものです。Twitterでお世話になっているドリコさんの描いたナツルーイラストより妄想しました~♪
「好きな人? ……あたしの?」
「そうだ。私とジェラールのこの一年の話ばかり聞きたがるが、ルーシィにだって、好きな人はいるだろう……?」
戦いの時とはうって変わって、恥ずかしそうに頬を染めているエルザは、興味津々に話を根掘り葉掘り聞いてくるルーシィに向き直った。反撃開始とばかりに身をのり出そうとして、動きを止めた。
無表情で俯くルーシィが、エルザの赤みがかった瞳に映った。
一年前。ゼレフの創った悪魔達の暴走。戦いは終わり、あたし達はそれぞれつらい別れを経験した。そして、たたみかける様にいろんなことが起きて、あたしは気が付いたら1人だった。
――この1年……
――エルザは好きな人と、過ごす時間があったんだね
――よかった
本心からそう思っていた。ニルバーナでの再会から太陽の下、共に過ごすことはできないと自分を戒める続けるジェラールと、そんなジェラールの為に耐えるエルザの間に、少しでも安らげる時があったのかもしれない。そう思うと、ルーシィは心の底から嬉しかった。
心の底から笑えることのできなかったこの1年間も、無駄ではなかったのだと、暖かい時間も流れてたのだと、嬉しくも思えるのだ。
さらりと、エルザの口から出た言葉に、ルーシィは急に錆びたように動きを鈍くした。再会してからたまに見せるそのルーシィの様子に、エルザは少しの不安を抱いていた。
――どうした…?
――ルーシィ……以前だったら、すぐに誰かを思い浮かべて頬を染めていただろう……?
幸せそうに恥ずかしそうに微笑むと思っていたルーシィは、表情をなくしていた。自分の思い浮かべたものと違う反応に、納得のいかないエルザだが、それ以上は話を続けなかった。いや、続けられなかったのだ。一人の男の登場により――
「うーすっ!」
「あ…」
「ナツか……外の片付けは、もう終わったのか?」
「ん。つかよぅ、オレ等にだけ片付けさせて、ルーシィとエルザはサボってんのかよっ」
ナツの登場に一瞬肩を揺らしたルーシィだが、すぐに笑顔に変わった。それを目の端に留めながらナツの言葉にエルザは、目の奥をギラリと光らせた。そして、その場にスクっと静かに立ち上がりナツに向き直った。
「バカを言うな! 元はと言えば、お前らの騒ぎが原因だろうがっ!! 馬鹿者っ!!」
ゴツンとナツの頭が叩かれ、鈍い音が響く。外の片付けをしていたメンバーが、ナツに続いて酒場に入って来ようとしていたが、足を止め踵を返しそっと出ていく。
「っぅぅ……いてぇっ!!!」
床にめり込んだナツは、頭を地面から抜いて立ち上がると、エルザを睨み付けた。
「くそっ!! いつまでも負けてねえぞっ」
ファイティングポーズをとったナツだが、殴られた衝撃のせいで少し頭がふらついている。そんなナツを眺めて、ルーシィはクスリと微笑んだ。
その笑顔は、一年前より大人びて見える。
「何、笑ってやがんだっ ルーシィっ!!」
「だってっ…クスクス」
――ナツは変わらないなぁ…
――変わらないってことは……今もあたしは友達のまま……なんだよね
「ちきしょう…こっちはマジで痛てぇってのに…」
「バカねぇ……全部自分のせいじゃないっ」
――少しは……寂しかったって……
――あたしが恋しかったって……
「大体なぁ、元はと言えばっ! つうならっ、ルーシィがボーッとしてやがるからっ…」
――そんなの期待したって……
――無理よね……ナツだもん
「……はぁ? あたしは、ボーッとなんてしてないわよっ」
「いんやしてたぞっ!! オレが弾き返さなきゃ、飛んできた酒瓶ルーシィの頭に当たってたんだかんなっ!! 感謝して、飯食わせろっ」
「……はぁ…それだって元々あんたがガジルに悪戯しようとして、投げたのが弾き返されたやつじゃない!」
「うっ……うるせぇっ!!」
――なんで……
――なんで、あたしに懐いてくるかなぁ…
――友達の距離ってのが……あるでしょ?
食ってかかったはずが、ナツはルーシィに簡単に言いくるめられてしまった。不貞腐れたように唇を突き出す姿は、まだまだ少年っぽさを残している。喧嘩になってしまうかと思う様なやり取りも、1年前とさほど変わった様子はないようにも感じられる。だがエルザの中の違和感は拭えない。
――ふむ……ちょっと様子を見るか
ナツとルーシィのやり取りを聞きながら、エルザが1つ提案をした。
「ところでナツ、ルーシィ。1つ頼まれてくれないか? 」
ナツとルーシィは有無を言わしてもらえずエルザに背を押され、出発することになった。普段ナツと一緒のハッピーもいない、ただの2人ぼっちで。
2人で久しぶりに並んで歩くマグノリアの街並みに、なんだか心が軽くなっていく気がするが、ナツの顔をそっと見て、ルーシィの目は またあきらめの色を乗せた。
「なぁ……まだ、拗ねてんのか?」
「……はぁ? 別に……普通だよ……」
「全然普通じゃねぇしっ! ……まぁあれだろ……一年前の…、おいてって悪かったなっ……まさかギルドが無くなっちまうなんて思ってもなくってよ…」
バツの悪そうな語り口。ナツはポリポリと頬をかいた。
ナツにもルーシィの態度に引っかかるものはあったらしい。
――別に拗ねてるわけじゃない……
――……おかしいとしたら……前までの……ナツとの距離だよ…
「ちゃんと帰ってきたんだから、いいじゃねぇかっ」
「……別にっ…あたしは普通だもん……拗ねてとかないわよっ」
何かをあきらめた様に小さく息を吐き出すと、ルーシィは笑顔を救ってナツを見た。
――これからは、これが普通
――普通の友達の距離よ……
ルーシィの返答に、ナツはイラつきを表にした。
「だもんじゃねぇっ!! っ……何が気に喰わねんだよっ!!
再開してからずっとだ!! オレは……ルーシィに会えんの楽しみにしてたのにっ」
グッと握られたナツの拳が、小刻みに震えている。
――距離をとらせたのは、あんたじゃない
――あたしに、ずっと……叶わない想いを抱いていろっていうの……?
――1年前のあたし達の距離が、友達としては近すぎただけ……それに…
――先に距離をとったのは……
ついに声を荒げたナツに、ルーシィは調子を変えず淡々とした返答を返す。
「……大きな声出さないでっ ナツにあたしの気持ち……解んないよ……ナツ達がいなくなって、妖精の尻尾までっ……次々にみんないなくなっちゃって……あたしはっ……」
「オレ達は帰ってくるって、手紙に書いてあったろっ!」
――ヤダヤダッ
――せっかく、ただの友達の距離にって……
「……書いてあったわよっ! 一方通行の手紙にねっ あんた達がどこに行くかもわからない手紙だったわね……あたしはナツにとって、手紙1つで放って置ける奴だったって事がはっきり分かった手紙…」
「そんな訳っ」
いつの間にか足は止まって、道の真ん中でナツとルーシィは向かい合っていた。
――ナツは、いつだってあいまいで
――好きだとは言ってくれなかった……けど…
――気持ちは一緒だって思ってた……あの時までは……
「……特別だって……チームメイトで、でもそれ以上に特別だって……想っていたのはあたしだけだっ…た……っ」
――もう……期待するのも、勘違いするのも……
――それで、傷つくのも……ヤなの
言葉を詰まらせて、肩を震わせるルーシィ。ルーシィの姿に、発せられた言葉に、あっけに囚われるナツ。
目の前で目も合わせず俯くルーシィが、肩を震わせる姿が、1年前よりも小さく見えた。俯く金髪の頭は、以前よりも低い位置にある気さえする。
――あん? ……ルーシィ縮んだか!?
――……あぁ…そうか
たった1年だが、少しついたルーシィとの身長差に時の流れを感じる。
小さく息を吐くとナツは、参ったなと頬を指で掻いた。
「バーカっ オレはっ、他の誰でもねぇっ……ルーシィに、手紙書いたんだぞっ!! 1年で帰ってくるって、ルーシィには伝えておきたかったんだっ」
「っ……でも、一方的に…あたしはっ……見送ることさえ……」
見上げてきたルーシィの大きな瞳に、自分が映る。久しぶりに正面からルーシィに見つめられナツの頬に朱が差すと、ルーシィもつられる様に頬を染めた。
「バッバカって……バカはあんたでしょっ 大切なことは、相手の顔を見ていうものでしょっ」
しょげた様な、照れたような、でも真っ直ぐとナツに真意を訪ねるようなルーシィの視線。その様子に、ナツはいてもたってもいられずルーシィの華奢な体を抱きしめていた。
ルーシィの顔が、体が、一気に真っ赤に染まる。いきなり抱き締められダランと降りていた腕を動かしルーシィは、ナツの胸を押し返すと、涙を浮かべた目で驚くつり目を睨み付けた。
「なんでっ…あたしにっ手紙を…?」
「だからっ……特別だから……だぁぁくそぉっ」
「っ……!!」
泣くのは反則だぞと、最後は小さくぼやくとナツは、ルーシィの顔を自分のマフラーに埋め込んだ。苦しいとルーシィが顔を持ち上げようとするが、ナツはそれを許さない。
――くっそぉ
――こんな顔見せられっか
強く抱き締められたルーシィは、顔を上げるのを諦めてナツのマフラーに頭を預けた。ルーシィの身体から力が抜けると、ナツは小さく息を吐き改めて話しはじめた。
「ルーシィの顔見たら……もし、泣かれでもしたらオレ……いけなくなっちまうって」
「……それこそ…バカね。 …ナツが一度決めたことを曲げるわけないって事ぐらい、あたし知ってるっ。それに、これからこの地を離れる人に泣いてすがる程、あたしはバカな女じゃないもんっ! …舐めないでよねっ! 笑顔で送り出してたわよっ!!」
「いあ……それは、それで……オレのが、寂しい…かも…」
ポツリとナツがそう洩らすと、腕の力が緩んだ。ルーシィはゆっくりと頭を持ち上げ、ナツの顔に強い眼差しを向ける。
――……間違って、なかった
――互いが特別だって、ナツも想っててくれたんだね
――でも…
「…どんな言い訳したって……一方的にただ1年後だなんて、乱暴すぎるっ!! 寂しかったわよっバカっ!!!!!」
「んだ やっぱ寂しかったんじゃねぇかっ」
漏れ出たルーシィの本音に、ナツのつり目は嬉しそうに弧を描いた。
――なんでっ ナツだけ余裕なのよ……
――何か悔しいっ
「……こんなかわいい娘放っておいて……悪い虫がついてたって、文句言えないんだからねっ……はっきりしなさいよっ」
――こうなったら……ちゃんと言ってもらわないとっ
ルーシィは目に涙を浮かべたままナツを見つめている。
必死に隠していた特別な想い。寂しかった事。口には出せなかった想いを覗かれた様で、恥ずかしいし悔しい。
「……ルーシィ…いぁ……あのさっ」
睨み付けてくるルーシィの大きな目に、涙が滲んでいる。もう少しでたまった雫が零れてしまう。
ナツは焦った。まさかルーシィの涙を見る事になるとは思ってもいなかったし、こんな往来のある場所で伝える事になるとも思っていなかった。
だが、多分今伝えなければいけないのだろう。はっきりとした自分の中の想いを――。
ナツは焦りながらも、ルーシィに向かって手を伸ばした。
「……やっ」
その手をルーシィは体を引いて避けた。
――抱き締められて、あやふやにしてほしくない
――もう、はっきりさせてほしい…
暖かい彼の手に触れられてしまえば、湧きだす涙が止まらなくなって、何も聞かずに彼を許してしまいそうだ。ナツの手をよけて一歩下がったまま、ルーシィはナツから目を反らした。
「あたしは言ったよ……ナツが特別だってっ……離れてるのが寂しかったってっ!!」
伸ばした手を握りしめるナツ
「……約束が、欲しいんか?」
「そっそんなっ……」
口では否定していても、ルーシィの目は期待に揺らめいてしまっている。
「じゃぁよっ……今度は、目見て約束する……」
「え……っ ナツ……またどっかいっちゃうの?」
振り向いたルーシィの大きな目から、透明な雫流れ落ちた。
驚きに涙は止まっているがルーシィのその顔を見て、ナツは眉を下げた。その頬に手を伸ばし、親指でやさしく涙をぬぐう。
「……行かねぇよ……もう、どこにもっ」
「……へ?」
涙をぬぐうと、ナツはルーシィの手を取って地面に片方の膝をついた。そして掴んでいたルーシィの手の甲に唇を寄せた。それはまるで――、
「これからは、ずっと一緒だっ」
「っ//////」
目を見開き、驚き、動きを忘れてしまったルーシィ。
ナツの言葉が頭の中でリフレインする。
――…一緒?
――ずっと一緒……それって……
その様子に、遠巻きに見ていた観衆から声があがる。そう言えばここは街中だった。
恥ずかしさに慌てるルーシィ。
――はっきりさせてほしかったけどっ
――いきなりすぎっ///
「ナッナツ//// いくわよっ////」
「……おい、ルーシィ。大事な話は、目を見てするんだろ~」
手を取り合って、足早に足を止めていた人たちの間をすり抜けていくルーシィとナツ。
「プフフフフ いいとこだったのにねぇ~」
「…うっうむ///」
お使いを頼んだのに、そのお使いの荷物を置いて出て行ってしまったナツを追いかけて、ハッピーとエルザは広場の手前に人だかりができている事にすぐ気が付いた。
その中心にいたのがナツとルーシィだとわかると、エルザはすぐに寄って行こうとするハッピーの尾を引っ張り、路地に隠れ、成り行きを見守っていたのだ。
「纏まるとこに、纏まったって事だよね~」
「うむっ」
Fin
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どり子さんのイラストから、妄想させていただきました~!!
手の甲にキス=尊敬・敬愛という事でしてね。騎士が姫に誓う為にする的なイメージ。
それ以外にもmoの中にはなんかプロポーズ的なイメージがありました。
相手を想う。ルーシィの想いに敬意を表するような表現をしたかったのですが……
うまくいきませんねぇ…すみません…でも頑張りましたっ!!……(*ノωノ)
お粗末さまでした!!