2013年11月13日
『おかえり』
「今戻った。」「ただいまー!!」
ギルドの扉を勢いよく開けて、2人の少女が依頼から帰ってきた。
「ルーーーーーシィィィィィイ!!!!おかーーーー!!!!!」
金髪の少女の胸に、青い塊が飛び込んでくる。
「ハッピー!!ただいま!!」
「エルザもおかえりです。」
「うむ。今戻った。」
2人の少女は、幸せを運ぶであろう 青い猫の頭をなでてやる。
「おお~おかえりーエルザ!!ルーシィちゃん」
「おーっす!よく戻ったな!!」
「無事でよかったな!!」
「おう!!依頼はどおだった??」
「2人とも久しぶりー!!」
ギルドのあちこちから、声がかかる。
2人は、それに手を振りながら、カウンターに向かった。
「ルーシィ。私は マスターに報告に行ってくる。お前は休んでいろ。今回は助かった。ありがとう。」
そう言い残して、緋色の髪の少女はギルドの2階に上がっていく。
「お疲れ様~エルザ~!」
と金髪の少女は、その後姿に手を振った。
金髪の少女は、すり寄って離れない青猫を腕に抱えたままカウンターのいつもの席の隣に腰を下ろした。
「ふぅ。」
「おかえり。ルーシィ。はい。」
コトリと、金髪の少女の前にピンク色のドリンクが置かれる。
「仕事上がりで、つかれたでしょ?」
ギルドの看板娘の少女長い銀髪を揺して、にっこりとほほ笑む。
「無事に帰ってきてくれてよかったわ。」
そう言って、金髪の少女の座っている隣の席、そう少女のいつもの席にいる先客の少年に目線を落とす。
「ぐっすりですね。。。フフッ。」
金髪の少女もそちらに目線を向け、そっと桜色に触れる。少女の隣には、桜色の髪の少年が、カウンターに突っ伏し高いびきをかいている。
「ええ。ようやく寝れたのよ。」
「えっ?」
看板娘は、やさしい笑みを浮かべてゆっくりしてってねと言って席をはずした。
「ハッピー?」
金髪少女 腕の中にいる青猫に問いかける。
「あい。・・・ルーシィがエルザに連れていかれて、はじめの1週間はよかったんだ・・・。
皆と喧嘩して騒いだり、オイラと仕事に行ったり、釣りに行ったり。で、また喧嘩したり。」
「・・・うん。」
「1週間たったくらいからかな?ご飯を食べててもおいしそうじゃないし、笑ってても楽しそうじゃない。
喧嘩しても、らしくないってグレイも言ってた。」
「・・・めずらしいわね?」
「ルーシィわかってる??・・・・・・・・わかってないか。」
青猫はちょっぴり がっかりした表情を浮かべる。
「えっ?なにを?」
大きい瞳を瞬かせて、首をかしげる金髪の少女に、呆れながら青猫が話し続ける。
「ルーシィ達、2週間くらいで帰ってくるって言って。。。」
「・・・うん。心配したよね?ごめんね」
少女達2人は、2週間で依頼を遂行してギルドの戻る予定だった。
怪しい団体が、闇ギルドになりかけているという情報が入り、内定調査の為その団体が運営する酒場に従業員として潜り込んでいたのだ。
当初依頼はうまく進んでいた。
というか、依頼自体は上手くいったのだ。
その団体は、魔道具を収集し自慢し合うオタクの集まりで特別危険因子がないのはすぐに分かった。
念の為そのまま2週間様子を見たが、その間仲良くなった彼らには、やはり危険な思考はなかったのだ。
内定調査を終え、魔法省に報告に向かう途中 2人は忽然と姿を消したのだ。
「ねぇ。何があったの??」
「うん。えっとね?内定調査で行った団体の人にお土産貰ったのよ。」
「お土産??」
「そう。なにかの魔道具でね?骨董商から欲しい魔道具とセットで売りつけられたものらしいんだけど、壊れているし 使い方も解らない物なんだって。でも、骨董品だし売ったら少しくらいお金になるだろうからってくれたのよ。あたし達父親を探して旅をしている途中の姉妹でお金がないから少しの間雇ってもらうって設定だったから。」
「その魔道具のせいなの?」
「そう。魔法省に行く途中、急にその魔道具が発動しちゃったのよ。」
「えぇっ!?」
「特別危険なのもじゃなくてね?ただの魔法のかかった古い日記だったんだけど、壊れてたからか、日記に吸い込まれちゃったのよ。。。日記の中をさ迷い歩いて、やっと出てこれたのが今朝なの。」
金髪の少女は、ばつが悪そうに苦笑いを浮かべて青猫に説明した。
「あぁ。だから、今朝やっと連絡が来たんだ!!」
「そういう事よ!!アタシも疲れたわ・・・へへっ」
古い日記から何とか抜け出した2人の少女は、魔法省にむかい、自分たちが何日も行方知れずだったと初めて知ったのだ。
日記の中では、時間の概念が崩れていて、書かれている内容の一瞬一瞬をタイムスリップしてみていくのだ。
いったい自分たちがどれくらい日記の中にいたのか、解放されてからも把握できていなかったのだ。
そこに居た者に聞くと ギルドの者が、何度か魔法省を訪ねてきたのだという。
きっと自分たちを探して、捜索していてくれたのだと、慌ててギルドに連絡を入れたのだ。
少女の説明を聞いても、行方不明になった時の焦燥感を思い出し、それをぬぐう様に青猫がピッタリ少女に身を寄せ頭を擦り付けてくる。
青猫を落ち着かせるように頭をなでてやると、青猫は話をつづけた。
「・・・ナツね、今日の朝ギルドに無事だって連絡が入るまで、まともに寝れなかったんだ。家にも帰ってこないし、ご飯もあんまり食べてなかった。」
「っ!?・・・・・ナツ。」
「2週間で戻るって言ってたのにルーシィ達が帰ってこなくて、口では、信じてる。大丈夫だって オイラを励ましてくれてたんだけど とっても心配だったんだよ。今朝ギルドに連絡が入っても、さっきまで起きて待ってたんだよ。」
「・・・そっかぁ。心配かけちゃったね?」
そういって、隣で眠る桜頭を見つめ、その髪に手を伸ばした。
「・・・オイラ。シャルルのところ行ってくる。後、皆にも説明しておくよ。ルーシィも少し休んでて!!」
白い羽を広げ、青猫はその場を離れた。金髪の少女は、桜色の髪を指に絡めそこに額をつけ「ただいま。ナツ。」と小さく、他には聞こえないくらいの声で囁いた。
ピクッっと桜頭の少年が動いたかと思うと一瞬で その暖かい腕の中に抱きしめられていた。
「ルーシィ!!」
少年の切ない声が少女の耳に届く。ギルドの中の喧騒が、どこか遠くに聞こえる。
「ルーシィ!ルーシィ!!」
自分の名前を悲痛な声で呼び続ける少年は、強く逃がさない様に自分を抱きしめている。
普段なら、はやし立ててくる仲間達も、今は知らない顔をしてくれているようだ。
それだけでも、彼が自分を待っていた日々を思い起こさせる。
少女は、そっと少年の背に手を回し、その腕に力をこめたて、囁いた。
「ナツ!!ただいま!!」
そっと腕の拘束を緩め、ふんわりと笑う少女の姿を目に写し、桜頭の少年はふわっと笑ってそのまま少女にのしかかった。。。。。
「キャー!!!ナツ?ナツ??」
「・・・ZZzzz。」
スツールから、ズルズルと滑り落ち、少年が少女を押し倒すように倒れこんだ。
「えっちょっ!?!?誰かー!!ハッピー!!助けてぇ~!!!!」
少女の姿を瞳に写し、また倒れるように眠ってしまった少年の下から少女は何とか抜け出した。
そして、すぐ脇に駆け付けていた 少年の青い相棒をみつけて頬ふくらました。
「もう。ハッピー!!助けてよね!!」
「だってぇるぅしぃ。ナツが・・・ナツが・・・ププププッ」
青猫は白い羽をだし、倒れたように眠る少年の顔を指さし笑いをこらえている。
「もう!!放してよ~!!ナツ~!!」
少年の下から何とか抜け出した少女の腕は、まだ しっかり少年が握っていて離さない。
「プププププッ。・・・ナツ幸せそうな顔してるよ!!ルーシィがんば!!」
「キャー!!ハッピー?ちょっとー!!」
青猫に置いて行かれ、少年が目を覚ますまでだと諦め 少女はその隣に腰を下ろした。
「んんっ。るぅし。。。。」
少女のぬくもりにひかれるように、少年がすり寄って眠っている。
「もう。・・・寝顔は子供みたいね。ハハハハッ///」
その後、疲れが一気に出たのか 桜色の髪の少年の胸の上に意識を手放した金髪の少女が折れ重なった。
*
「おいおい。ナツの野郎。頑としてルーシィの腕放さねぇぞ!!」
「参ったなぁ。このままじゃ、ルーシィちゃん風邪ひいちまうな。」
「ルーシィちゃん、よっぽど疲れてたんだろうな。」
「ナツもな。。。強がってたけど、すっかりまいってたもんな。」
「あらら。2人ともちっとも起きないね。」
「あらあら。ナツは幸せそうな顔して~。」
「でもまっ。帰ってきてよかったな。」
「そうだな。で、しかしどおすっか~??」
どうにか、2人を離して運ぼうとしてもナツが腕を離さないので、仕方なく2人いっぺんに 医務室に運ぼうかという時、
この事態を打開してくれる 熊耳の救世主が相棒と一緒に帰ってきた。
事情を聴き、青猫と一緒にルーシィの部屋まで、2人を運んでくれました。
**
ルーシィが帰ってこない。
予定では、昨日の夜か今日には帰ってくるはずだ!!すっとギルドで待っているが、今だ連絡すらないんだ。
「・・・ルーシィ。。」
エルザが、マスターから直接依頼を受け、ルーシィに同行を頼んだのは、2週間前だ。
俺も一緒に行くといったのだが、女だけでなければならないと言ってエルザに断られた。
・・・危険な仕事だったのか?
無理にでもついて行けばよかった。
後悔と自責の気持ちが、頭を埋め尽くそうとするが、最後に彼女とかわした言葉が頭をかすめる。
『大丈夫よ!!ちゃんと帰ってくるから!!ギルドで待ってて!・・・ね?・・・約束!!』
そうだ。仲間を、彼女を信じて帰りを待つんだ。
そう決めたじゃないか!!
己の固く握った拳を睨み付け、ただ時間が過ぎるのを待った。
ルーシィが妖精の尻尾に来きて、2週間も離れるというのは初めてのことだ。
ルーシィは、オレがハルジオンで出会ってここまで連れてきた。
はじめて話した時から、コロコロ表情が変わって面白いやつだと思ってた。
調子のいいところも、やさしいところもすぐ好きになった。
チームに誘い、いつも近くにいた。
人前でも素直に流すきれいな涙に、心が惹かれた。
涙の中に隠れる悲しさも、悔しさも、強さも 俺を引き付けた。
真っ直ぐで、仲間の為にはなら命をも投げ出しかねない君に目が離せなくなっていった。
もう、オレルーシィいねぇと・・・笑えねぇ。
次の日になった。
じっと天井を睨み付けていた。
一睡もできなかった。
魔法省に連絡したが来ていないという。
それにしても連絡がないのはおかしいと誰かが様子を見に行くという。
オレが!!とも思ったのだが、
彼女と、ギルドで待っていると約束したのでここから離れるわけにはいかない。
様子を見に行った奴らが帰ってきた。
潜入先を無事に出たと言う。
魔法省にむかっている途中まで目撃されている。
・・・・2人とも、突如 姿を消したのだと言う。
「くそっ!!」
ただ ただ、彼女の無事を願う。
信じて待つと決めたのに!心が揺らぐ。焦燥感が襲ってくる。
ただじっと、ギルドで彼女の帰りをひたすら待った。
酒場を閉める時間になっても、誰もオレに帰れとは言わなかった。
ハッピーが心配している。ひどい顔だ!
「ナツッ・・・ひどい顔してるよ?」
オレもひどい顔をしてんだな。
「・・・お前もな!」
顔を笑顔に作っても、笑ってる気にもなれなかった。
信じて待つんだというオレに、相棒は頷いた。
カウンターの端、彼女のいつもの席に座り 彼女の様に相棒の頭をなでてやった。
彼女が依頼に出て、始めは、普通に過ごしていた。多分。
喧嘩して、飯食って、喧嘩して、仕事行って、喧嘩して たまに釣りにいったり、そして
自分の家で眠った。
1週間くらいたつと、頭の中が彼女の事で支配されていった。
手の届かないところにいる彼女に思いを馳せていた。
イライラが募ったが、もうすぐ帰ってくるからと高を括っていた。
彼女の部屋に勝手に入って、彼女の匂いを吸い込んでいた。
段々、彼女の匂いが薄くなる部屋に、寂しさが募ってきていた。
彼女の帰ってくる日を指折り数えていた。
・・・・・手の届くところに居たい。。
彼女が、帰ってきたら 怒鳴られてもくっついていよう!!
彼女の髪に顔を埋め、彼女の匂いを吸い込もう。
家に帰されても、夜中に侵入して一緒に眠ってしまおう!!
・・・彼女が帰ってきたら、この先すずっと一緒にいてくれるよう約束を取り付けよう。
日が変わり、人が集まり始めるころ ギルドの通信ラクリマに 連絡が入った。
すぐにそちらに駆けつけると、ミラと会話をする魔法省の人物の後ろの方に緋色の髪と金髪が小さく映った。
「ルーシィ!!」
思わず叫ぶと、水晶に僅かに映るルーシィはしきりにキョロキョロとしていた。
無事だ!!大きい怪我も無いみたいだ。ちゃんと動いてる。立ってる。無事だ。。。
生きている!!!
何があったかわからないが、彼女は無事だ。。。
帰ってくるんだ。。。
ラクリマの通信でオレに必要な情報は、夕方にはギルドに到着する。といことだけだった。
元気な彼女の姿をラクリマ越しに確認しただけだったが、ホッとした。
無事なのなら、彼女は絶対ここに帰ってくるのだから。
彼女のいつもの席に陣取り机に突っ伏した。
**
目が覚めると、少し懐かしいけど見慣れた天井。
「えっ?あれ?」
ギルドに帰ってきて。。。?部屋は静まり返っていて、肌寒い。
そうだ!!ナツが腕を離してくれなくって・・・?
その後の記憶がない。。。
誰かが運んでくれたのかな??・・・・ナツ?そう言えばナツはどおしたんだろう??
「・・・・。」
部屋の寒さに耐え切れず、布団にもぐった。
やっぱりというか、何というか・・・・。
桜色を発見。
「・・・もう。仕方ないわね///」
火竜の温かさに引き寄せられるように寄り添うと、心から安心している自分がいた。
あぁあったかい。アタシはここに帰ってきたかったんだ。
日記の中に引きづり込まれた時、エルザが一緒だったけど、本当は不安で仕方なかった。
私たちが、そこに入ってしまったことを誰も知らないから 外からの助けは期待できなかった。
始めはただ流れる情景を2人で眺めていた。
それは、比較的裕福な女性の日記でその人の思いがいっぱい詰まった昔のものだった。
父親は怖かったけど彼女を大事にしていて、やさしい祖父母と母親の愛を受けて育つ。
父が、祖父母が そして、恋人が戦争で亡くなってしまう。
病に倒れた母と2人で何とか生き貫くと誓い日記は終わった。
その後の彼女はわからない。
彼女は、自分をのこして死んでいた人を恨んだ。
病に倒れた母を疎んだ。
亡くなる前ぎわまで自分を想ってくれた、ささえてくれた人に、感謝した。
母の存在に安らぎを感じていた。
彼女は弱い人で、強い人だった。
毎日一生懸命で、後悔を残さない 生き方をしていた。
戦時中 彼の無事を祈っていた彼女の心情が心に突きささっている。
自分が帰るのを待っていると約束した彼は、普段 好き勝手やっていて傍若無人で。
それで、すごくプラス思考。
いつも、とびっきりの笑顔をくれる。
仲間おもいで 実は、酷くさみしがり屋。
大事な存在を失う辛さを苦しさを知っている。
だからこそ、自分が戻らないことに心痛めてふさぎこんでいるのではないかと心配だった。
ギルドでハッピーに聞いた限りでは、相当 気を揉ませたのだろう。
「ナツ・・・・。」
そっと、彼の背にしなやかな腕をまわした。
その、鍛えられた胸板に頬をつける。
『ドクンッ ドクンッ ドクンッ』
規則正しいリズムが伝わって、暖かい気持ちが溢れてくる。
ナツが好き。大好き。
多分。イヤ。ナツも、好きでいてくれているだろう。
言葉にしなくても、お互い伝わっているだろうと、
心地のよい いつもの距離に安らぎを覚えてしまって、一歩踏み出すのが怖かった。
それに、女の子としては 二人の関係を変える言葉を やっぱり ナツから言ってほしかった。
・・・でも、もうどうでもいい。
未来を夢見るより、今目の前の彼を幸せにしてあげたい。
彼を幸せにするのは、アタシしかいないはずなんだ!!
溢れる想いが、少女の頬を濡らす。
「ナツ!!」
濡れた頬を少年の胸に押し付け、強く抱き締めた。
「・・・ルーシィ?」
少年が、閉じていた瞼を持ち上げた。
視界に広がる金色の髪。
恋しくてしかたのなかった大好きな大切な人。
「ルーシィ!!!」
逞しい腕が、少女を包み込んだ。少年の顔が金髪に沈み、大好きな匂いを吸い込んだ。
「ナツ!ただいま!!」
大好きな匂いに涙の匂いが混じる。少年はそっと、少女の顔をこちらに向ける。
涙に濡れる少女の瞳に、自分が映る。
「ルーシィ!おかえり!おかえり!!ルーシィ。」
もう一度、彼女を腕に閉じ込める。
「もっと!ずっと。ずっと。一緒にいよう。ルーシィが好きなんだ。ずっと隣で、笑っていて欲しいんだ!!・・・ルーシィが必要なんだ!!・・・頼むよ。」
捲し立てる様に、けれど、一言一言を大事に言葉を紡ぐと、それに答える様に少年の背にまわされていた 少女のしなやかな腕に力が入る。
「うん。・・・すっど一緒にいる。アタシが、アンタを幸せにしてあげる。・・・・ナツが 好き。」