手の甲に…
お友達の酸桃ちゃんの『ナツルーちゅー祭り』に参加させていただいたものです。Twitterでお世話になっているドリコさんの描いたナツルーイラストより妄想しました～♪
あの時、サイレンがなったんだ。
『 サ イ レ ン 』
「あなたの事が、好きなんです」
耳に飛び込んできた男の声。大通りから横に入った屋台が並ぶ細い道。その通りの角を曲がった先から聞こえてきた。誰かが誰かに、想いを告げている。
真っ直ぐと、よどみのないストレートな告白。若そうな男の真剣な声だった。
――やべぇ……こういうの、聞いちゃまずいんだよな……
――…違う道に…
そう思えど、少年の足はそこに根を張った若木の様に動かなかった。
来た道を戻る為に反対を向くことは出来たが、なぜかそこから離れがたいのだ。なぜ自分は動けないのだろうと、考え込む前にそこにふわりと風が吹いた。花の様な優しい匂いが、ナツの鼻を掠める。
――ルーシィ……？
ナツの頭に思い浮かぶ少女の顔。その少女をナツは、この街に連れて帰り、同じギルドに入れてチームを組み、何かというと行動を共にしている。ルーシィの隣は、心地いいから――ただそれだけの理由で――。
ナツの手に汗がにじんだ。
――そうだ…
――ギルドに行こうとしてて……
――この脇道から、ルーシィの匂いがして…
たまたま今日は、依頼に行かない体休めの日だった。
せっかくの休みだが、いつのよりも早く目が覚めてしまったナツは、とりあえずギルドに向かうかと家を出た。そして、同じように今日は休みのルーシィの部屋の前を通ると、そこに人の気配はもうなかった。既にギルドに向かっているのだろうと、そう思うだけでなんだかナツの心も軽くなっていたところに、彼女の匂いがナツの鼻を掠めたのだ。
――この先に、ルーシィがいるのか？
――あの声の先に……ルーシィが……？
足が動かない。気が付けば息も飲み込んだまま、止まっていた。
ナツは静かに息を吐き出すと、角を曲がった先から見えない様に、壁に凭れ掛った。
――なんで……
――なんで足が動かねぇんだ……？
ナツの脳裏をかすめるのは、ギルドの酒場でのルーシィだ。
同じ年頃の女たちとテーブルを囲んで、どいつがかっこいいだの、こういう男がいいだの、素敵な恋がしたいだの、恋人が欲しいだの騒いでいたし、本を読んでも、こんな告白されてみたいだとか、この主人公になりたいだとか、夢みるように言っていた。
――じゃぁ今、……ルーシィは、嬉しいのか？
――恋人のできる、チャンスってやつか……？
普段からチームメイトとして、行動を共にしている相手に、恋人ができる事を想像もしていなかったのだろう。ナツは呆然としている。
誰よりも自分は近い距離にいると思ってはいるが、ナツとルーシィはただの仲間だ。
いや、ただのという事はないかもしれない。ナツとルーシィは、チームメイトだ。
ただのではない。仲のいい仲間だ。ナツはそう思っていた。
――なんだ？
――肺の後ろが痛ぇ……
――頭のなかで警報が鳴ってるみてぇだ…
――ルーシィに恋人ができる？
――……あれ？ 腹空っぽだからか？
――変な汗でてくるし……何か手が震えてきやがる……
――つか、ここから離れねぇと…ルーシィに見つかっちまう
――盗み聞きなんて、最低っ！！ とか言って、キレそうだし……
ナツの足は、まだ動かない。どうしたって、次に続くルーシィの言葉が気になってしまう。
――どうすんだ？
――ルーシィ……付き合うのか！？
――ルーシィに……恋人……？
手の震えが止まらない。気を抜いたら目の前が真っ白になりそうな、感覚がナツを襲っていた。はじめての胸の痛みに、苦悶の表情を浮かべていた。
――オレどうしちまったんだ……？
そこへ――、
「ナツ――――――！！」
ナツの性能のいい耳に、自分を呼ぶ声が飛び込んできた。そう言えばナツは、相棒と一緒に家を出てきたのだ。不意に脇道に入って消えてしまったナツを探しているのだろう。
――ハッピー、探してたのか……
――やべっ
咄嗟にまずいと思った。だんだんと近づいてくる相棒の声。まだ自分の耳にしか届いてはいないだろうが、このままでは角を曲がった先にいるルーシィの耳にも届いてしまうかもしれない。声が届けば、ここで会話を盗み聞きしていた事がばれてしまう。
ルーシィの耳にハッピーの声が届く前に、この場を離れなくてはならない。
ナツは、グッと足に力を入れた。やっと動かすことのできた足で、後ろ髪をひかれながらも音もなく地面を蹴った。
――ルーシィ……
路地を出れば、そこに頬を膨らませたハッピーがいた。
「ナツってばどこ行ってたのさっ！！ 急にいなくなっちゃだめだよっ」
頬を膨らませて、ぷりぷりと怒るハッピーをなだめながら、1人と1匹は魔導士ギルド『妖精の尻尾』に到着した。
「うーすっ」
「皆、おはよー！！ ミラーおいらのOSAKANA～！！」
ギルドの酒場は、いつもの様に騒がしい。まだ午前中だといのに、酔いつぶれてテーブルで寝ている奴等もいる。――昨晩から、呑み続けていただけかもしれないが――
そして、繰り広げられる乱闘。少々の小競り合いが、周りを巻き込み大乱闘になるのも、妖精の尻尾では日常茶飯事だ。
「とりあえず、飯だなっ」
「あいっ」
仲間達と朝のあいさつを交わしながら、小競り合いをする仲間たちの間をすり抜け、ナツとハッピーはカウンターまでたどり着いた。それを予定していたように、ちょうど酒場の看板娘ミラジェーンが1人と1匹の朝食を用意してきてくれていた。
「はい どいぞ」
「おう サンキュッ」
「ウパー！！ おっきなOSAKANA―！！ いただきまーす」
早々に食事を終えハッピーは、白猫のいるテーブルに向かってしまった。その様子をどこか心ここにあらずの様子でナツは眺めていた。そこへ声がかかる。
「あらあら相変わらず、食べるの早いわねっ」
「おっすっ……ミラか」
笑顔で声をかけてきたミラに、ナツはいつもの様に笑って挨拶を返した。
「あら…？ ナツ…なんだか元気ないわね……」
「いんや？ 元気だぞ？？」
「……そうかしら」
腑に落ちない様子でミラジェーンは首を傾げた。ナツはジョッキを手に取ると、その中に揺らめく炎を一気に喉に流し込む。
「……元気は元気だぞ……でも…なんかスッキリしねぇかも…肺の後が痛ぇし…それに…」
――それに、頭ん中でサイレンがなってんだ…
ナツは、胸を押さえた。ナツの目の前で、その顔を覗き込む様にしていたミラジェーンはキョトンとした顔をした後、優しい目をナツに向けた。
「あらあらっ…何かの病気かしらねぇ…いったい、いつからなの？」
いつもと変わらない表情で、ミラはナツの表情を覗き込んだ。
眉間にしわを寄せ、少し膨らんだ頬。いじける様に少し突き出した唇。カウンターに肘をつき、ナツはそこに顎を乗せた。
「……さっき、ルーシィが…」
――告白されてるのを…聞いた時から…か？
ポツリと話し出したが、ナツの声は続かなかった。この話を他人にしていいのかどうか、よくわからないのだ。ナツはこれまで何時だって、何でも素直に言葉にしてきた。だが最近それが、ルーシィにデリカシーがないと怒られたのだ。
より深く眉間にしわを刻み、ナツは明後日の方向を見上げた。黙ってしまったナツを見かねて、ミラジェーンは口を開いた。
「ルーシィが……どおしたの？」
見つめたままでは話しづらいのかと、ミラジェーンは片付けを始めながら話をつづけた。カチャカチャとカウンターの中で、食器を洗う音がする。その作業を続けながらミラジェーンは目線だけナツにチラリと送って、首を傾げた。
――肺の後ろと頭の中が、おかしくなったのって……
――そういや……
――ルーシィに、恋人ができるかもって…思ってからだ…
「やっやっぱ何でもねぇ……///」
何か思い当って、慌てた様にナツはその場に立ち上がった。
その様子に、ミラジェーンはカウンターの中でにっこりと微笑んだ。そして笑顔を崩さないまま、普段と変わらない調子で話し出した。
「そうねぇ……ナツがそんなに言いよどむなんて……ふぅん……ルーシィが、告白でもされていたのかしら？」
「んなっ！！」
目の前の魔人・ミラジェーンの口から飛び出してきた発言に、魔人の感の良さにナツの背筋に冷たいものが走った時、目の奥を光らせミラがにっこりと微笑んだ。
ナツは肩を揺らし思わず背筋を伸ばして固まってしまった。まるで気をつけの姿勢に、ミラジェーンは再びフフフッと微笑んで口を動かす。
「何で知っているのかって顔してるわねぇ……まぁ、たまにある事だしね？」
変わらない調子で微笑んだまま話し続けるミラジェーンに、毒気を抜かれナツは椅子に再び腰を落とした。
――よくあることなのか……？
「なぁに？ ルーシィの告白されてるとこ目撃して、逃げてきちゃったのナツ？」
「にっ逃げっ…逃げたわけじゃ…」
「助けてあげればよかったのに……逃げたんじゃないなら、どおしたの？」
「……なんも…」
圧力さえ感じる笑みを浮かべる魔人に、恐怖に近い感情を覚えるが、今は誰でもいいから話し相手になってほしかった。
落ち着けない自分を、なんで落着けないのかを、教えて欲しかったのだ。
「あのな…ルーシィが好きだって言われてんの聞いちまってから、頭ん中がグチャグチャで……なんかスッキリしねぇんだ…」
「そう……それで？」
「それで？ ってなんだよっ！ 何でなのか教えてくれよ！！」
「あらっそれでおしまいなの？ まぁ、その先は、ナツがどうしたいのかによって違うんじゃないかなぁ……じゃぁ、ナツは何でそんなに不機嫌なの？ ちょっと考えてみなさいっ」
少しがっかりした様子のミラジェーンは、食事のオーダーが入り奥の厨房へと行ってしまった。
――オレは…どーしてぇんだ？
――直接、話した訳じゃねぇけどルーシィは……よく恋がしてぇって言ってんの聞いたことある……
――じゃあ、ルーシィがさっきのヤツと恋人になったら……ルーシィにとっては…いいことなのか…？
――っ！！
――まただっ
――また、肺の後ろらへんが痛ぇ…
――くそっ…ムカムカしてきたぞ…
――大体……恋人ってなんだ……？
――……ルーシィのくせに生意気だっ
少ししてミラジェーンは、オーダーをこなしカウンターに戻ってきた。への字口になって、ブスッとしているナツに微笑みを贈ると、何もなかったように にこやかに話を促した。
「どぉ？ 少しは考えられた？」
「ルーシィに恋人ができるのは……なんかムカつく…」
にゅっと唇が突き出た様は、何とも可愛らしい。くすくすと笑いだした目の前の魔人に、ナツは頬を膨らませた。
「あらあら 唇尖らせちゃって……ナツは可愛いわねぇ」
「んなっ」
「ねぇナツ……ナツは、ルーシィのこと好き？」
ミラジェーンからの言葉に、ナツの目が点になった。何を当たり前のことを聞いているのだろうと、反目になってミラジェーンを見返すと、そこには素知らぬ――いつも通りの笑顔を浮かべたミラジェーンがいる。別段からかっているわけではないようだ。
「なぁミラ……恋人ってのができたら……皆うれしいのか？」
「そうねぇ…わたしは、好きな人と一緒にいられるの嬉しいわよっ」
「オレは、ルーシィに恋人ができたら……嬉しくねぇ！！」
「あらあら…」
やっと満足のいく答えが返ってきたのだろう。魔人ミラジェーンは嬉しそうに、楽しそうに目を細めた。そして追い打ちをかける。
「それは、何でかしらね？」
「ルーシィとは仲良いし……いつだって一緒にいるのはオレだろっ…ルーシィに恋人ができたら……オレと、遊んでくれなくなるんだろ？ ムカつくし……なんかヤダ」
「あらぁ。仲間なんだから遊んではくれるんじゃないかしら……今だって会えない日くらいあるじゃない」
段々ナツの目が、座ってきている。ミラジェーンは、仕事を片付けて楽しそうにナツとの会話を進めていく。
「ルーシィに恋人が出来たら、勝手に家に入ったらダメだってハッピーが言ってたんだ……」
「……それは、今でも駄目よぉ ちゃんと約束してから遊びに行きなさいね」
「ぐ……っ」
ナツの脳裏にルーシィの隣に肩を並べる男の影がちらついた。イライラが募ってくる。
「ルーシィの隣には…オレがいんだっ……ルーシィの隣は、恋人のもんじぇねぇ！！ オレの場所だっ！！」
「そう……でもねぇ、チームメイトと恋人じゃあ、隣にいる意味が違うんじゃない…？」
ミラジェーンは眉を下げた。わざとらしく困った表情を浮かべた。
――なんだよ……恋人じゃなくても、オレがいんじゃねえかっ
――その恋人と、オレと何が違うんだ……？
ナツは、黙り混んでしまった。笑顔で接していたミラジェーンは、また料理のオーダーの為に厨房へ入ってしまっている。
――初めて会った時から……興味があった
――ルーシィという人間を、知れば知るほど……気に入っていった
――やさしくて、いい奴で、ノリが良くって、気が利いて、ツッコミが冴えていて……
――ルーシィと、ハッピーと、3人で楽しくてたまらなかった
――クルクルと変わる表情が、楽しくて、面白くて、ついついからかい過ぎて、怒らせて……
――喧嘩しても、怒らしても、いつも最後は「しょうがないわね」って、笑顔をくれるんだ
――ルーシィが笑うと……楽しいが何倍にもなるんだ
――ルーシィに恋人とやらが出来たら……もうそんなことも許されないんだろうか？
――恋人は、特別に好きな人同士しかなれないって 前にルーシィから聞いた
――……そんな奴がいたら、オレとは遊んでくれないのか……？
――オレより、そいつを優先するようになるのか……？
――ルーシィと……遊べない？
――ルーシィと……一緒にいれない？
――ルーシィと…………あん？
ナツが頭を抱えていると、性能のいい耳が酒場の扉が開く音を拾った。続いて性能のいい鼻が、ナツの好きな優しい匂いを嗅ぎつけた。
ルーシィは、ギルドにヒョコリと顔出した。
「ルーシィィィィィィィィ！！！！」
叫びながら青い塊が飛んでいった。そして、いつもの様にハッピーがその胸に収まる。
何やら楽しそうに２・３会話をかわし、ハッピーを胸に抱いたルーシィがこちらにやってくる。ナツはカウンターに肘を突き、そちらに顔をむけた。
声をかけてくる奴らと、適当に挨拶をかわし喧騒の中を掻い潜ってルーシィは、カウンターまで到着した。そして、いつもの決まった椅子に腰を下ろす。
思えば、このいつもの席はルーシィがきてから彼女の指定席のようになってしまっている。
その席にいつも彼女が座っているから、ナツも何となくその隣の席に座る様になってしまっている事に、本人は気が付いていない。
「おっはようナツ」
弾けるような笑顔。いつもの元気なルーシィの声のはずが、なんだか張りがないようにナツは感じた。それに、どこか元気がないようにも感じられる。心なしか、目が潤んでいる。
「うっす ルーシィ……どうした…？」
ルーシィの笑顔が一瞬固まった。そして、困ったように顔を歪めてしまった。
「……ちょっとね…」
短く息を吐き出すと、ルーシィはカウンターの奥に向かって飲み物だけオーダーした。その横顔をナツはぶすくれた様子で見つめている。
――んだよ……俺には言えねえことなんかっ…
――ルーシィは、さっきの奴と恋人になったのか？
――肺の奥が……ざわざわしやがる……
「ねぇハッピー……ナツ、どうしたのよ…？ さっきから怖い顔してるわよ」
「あいっ 朝は普通だったんだけど、ギルドに来てからかな……なんか変なんだよぉ」
膝にハッピーを乗せ近い位置で目を合わせると、ルーシィとハッピーは隣に座るナツの話をしている。その声に耳を傾けながら、ナツは思いきって口を開いた。
「なぁ。ルーシィ……」
「ん～なぁに……？」
「……好きってなんだ？」
「「………へっ？」」
声がそろった。ルーシィとハッピーは目を合わせてキョトンとしている。すると、ルーシィの方だけ見る見るうちに、頬を朱に染めていく。
「……っ ……なっ何聞いてんのよっ/// あああ頭でもぶつけたの！？」
「ナツゥ！？ どっどうしたのさっ！ ……拾い食いでもしたの？」
「おいおい…お前等ひでぇな……いあ……解んねぇから聞いてんだけど…」
「スッスキって/// ……食べ物とか……？」
肩透かしをされるまいとしてか、ルーシィは恐る恐る質問に質問を返した。
「そう言うじゃねぇよっ……こっ恋人とかの…好きってやつだっ」
らしくなく、ナツの耳が赤く染まっている。その顔をジィッとルーシィが見つめ返すと、ナツの頬もほんのり朱が差した。
「そっそれって、特別の好きって事よね…… そっそうねぇ……いつも気になって、つい見ちゃうとか？」
「あいっ シャルルが振り向いて笑ってくれたら、オイラ幸せになれるよっ」
「ふふっ そうねっ それに……こっちを見て欲しくなったり……触りたくなったり？」
「あいっ でも依頼とかで会えないと寂しいし、悲しくなるし、焦って苛々してくるよ……」
「そうねぇ…リリィやレクター達と楽しそうに話してると気になっちゃうしね！！」
「ぁぃ…/// オイラすぐ……ヤキモチ、焼いちゃうんだ…」
照れて体をくねらせハッピーは、恥ずかしそうに小さな手で目を隠した。
――それって……
――いつだって、別の仕事に言ってる時だって……オレ…
――依頼でどんな楽しい事があったか、早く話して聞かせてやりたくて……ルーシィに…
――やっと仕事終わって帰ってきて、酒場で一番に探すのは……ルーシィだ
――たまに俺より先に変態パンツが隣にいると……ムカつくのは……変態のせい？
――それとも……ルーシィのせい？
――やっべぇ//////
話しが途切れたところで、ミラジェーンが話の輪へ帰ってきた。ルーシィがオーダーしたラテアートのカフェオラテが、湯気を連れてそこにことりとおかれた。
「そうねぇ……一緒にいるだけで幸せになれる相手かしら？ はいルーシィカフェラテ熱いから気をつけてねっ」
「ありがとうございますっ！！ ミラさんのそれっ……なんとなくわかりますっ その人の為ならどんなことでも頑張れちゃったり、一緒に笑い合えるそれだけで幸せになれたりしちゃう感じですよねっ」
「プフフッ。オイラ知ってるよぉ～ ルーシィのそれは、本の受け売りでしょ？」
「う……そっそうだけど…あたしだって……その位の感覚は判るわよっ！！」
ハッピーの突っ込みに、頬を膨らませたルーシィは、ハッピーの髭を掴んでにっこりと笑っている。この後のハッピーの態度によっては――その身の運命が変わるのだろう。
「一緒にいて安心するのに、ドキドキして、そのドキドキが逆に心地いい……みたいな感じかしら？」
ミラジェーンがそう言うと、ルーシィの顔が花が咲いたように笑顔になる。
「ミラさんステキ～！！ そういう相手と出会えれば、ず～～～っと恋愛していられるのかなぁ……？」
ルーシィの笑顔がナツには眩しく見えた。肺の後ろのズキリと、チクリと痛んだ場所が、今度はドキドキと鼓動を大きくしていく。
そんなナツをさておき、ミラジェーンはカウンターに身を乗り出し、ルーシィに顔を近づけそっと星の揺れる耳に囁きかけた。
「それで？…ルーシィ……今日の告白も、そういう出会いではなかったようねぇっ」
「なっなんで……ミラさんっ///」
囁きかけられた耳を手で庇いながら、ルーシィが顔を持ち上げると、にっこりと微笑んだミラジェーンはくるりと背を向け、ひらひらと手を振りながら厨房に戻っていってしまった。
「なんでわかっちゃうかな……///」
「えっ？ えっ？ ……で？ ルーシィどうしたのさっ！ オイラ聞いてないっ！！」
ルーシィの膝の上にいたハッピーにもしっかりとミラジェーンの声は届いていたようだ。隣に座る耳のいいナツにも、きっとその声は届いていた事だろう。
「どっどうもしないわよ……そんな知らない人だったし…」
「ふぅ～ん……」
ハッピーに顔を覗き込まれルーシィは、照れた顔を見られない様に窓に顔を向けてしまった。それを膝の上から覗き込んだハッピーは、くるりと振り返ってナツに向かってニヤリと微笑んでみせた。
「なぁルーシィっ」
「ん～」
「つまりさっ……いつも気になって、一緒にいたくて、一緒にいるとホッとして、ドキドキして、楽しくて、他のヤツと話してるとイライラするってのが好きって事なんだろ？」
「ん～ そうねぇいろんな感じ方はあるんだろうけど、概ねそんな感じじゃないかな？」
ルーシィは、少し上に視線を送りながら、そう答えると「ナツでも興味あるのね…」と、複雑な表情を浮かべた。
――ナツ……気になる人でもできたの……？
――特別に好きになってもらえなくても……ナツが恋に目覚めるまでは……
――ずっと……
――ずっと、蓋してた……あたしの想いは……
普段すこぶるポジティブなルーシィだが、こと恋に関しては後ろ向きである。頭の中では、ルーシィにとって最悪の想像しか出来なくなっている。ギュウっと知らず知らずにハッピーを抱える手に力が入ってしまう。
自分の想像にルーシィは、既に泣きそうになってしまっている。
そこへ、ナツの声が耳に入ってきた。
「オレ、ルーシィ好きだっ」
「ん～…………ふ……へっ！？」
「だってよう…オレいつもルーシィに会えるとうれしいし、会えねぇと何してんだろうなって気になっちまうしっ」
「んなっ///」
「いつも一緒にいてぇし、離れてたって会いたくなるし、ドキドキしてワクワクして、たまにギューって肺の後ろが痛くなるけど、でもなんかルーシィに感じるドキドキは心地いいんだっ」
「//////」
頭の中ががようやく落ち着き、それをさっさと伝えてしまったナツは、すっきりとした表情を浮かべている。ルーシィの膝の上で一部始終見ていて聞いていたハッピーは、口をあんぐりとあけたまま固まってしまった。
――たくさんの人に出会ったけど…
――いっぱい一緒にいたくて、いれなくても頭の片隅にいつもいるんだルーシィは
――この想いは……ルーシィにだけ……
――どんな時だってルーシィと一緒に……そう考えただけで、なんだか肺の後ろが暖けぇ…
――出会ってからそんなに立ってねぇのに、いろんな事をルーシィと一緒に乗り越えてきた
――ルーシィとの出来事１つ１つが、オレを作り替えていくみてぇだな……
――ルーシィに出会えて、いろんな事に気が付いた
――だから……いつまでもそばにいてくれよ
ナツが真っ直ぐとルーシィを見つめると、頬に手を当て、顔を――いや全身を真っ赤に染め、茹蛸状態になっている。その真っ赤な顔の潤んだ大きな目を覗き込むと、自分が映り込んだ。
ナツの肺の後ろが踊り、騒ぎ出す。警報の様に鳴り響く胸の真ん中のドキドキがサイレンを鳴らして身体中を駆け巡る。
「だから、ルーシィ！！」
「はっはいっ///」
「恋人なんか、作っちゃだめだかんなっ！！」
「………え？」
――何よ何よっ//////
――また、ナツお得意の肩透かしじゃないっ！！
――もうっ！！ もう！！ もー！！！！
――ナツのバカっ！！！
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
Fin
終わり方ｗ
すみませんこんな終わり方ですみません(/ω＼)
そしていつもの日常に戻っていく……みたいな感じです！！