2015・02.22 コラボ企画 倉庫屋。のトコヤさん と、 Hopeのakiraさん と、なんとコラボさせていただきました!!
なんとなくTwitterで盛り上がった事がきっかけで、あれよあれよという間に、コラボに持ち込みました!!!←うふふっ(*゜v゜*)♪
お二人さんありがとうございます!!! とってもとってもいい経験になりました!!! そして楽しいし、出来たものに感動!!!!!
順番は、mo→トコヤさん→akiraさんです!! しっかり話がつながっているのがすごいよホント!!
とある4組の男女の日常
――恋する乙女達のガールズトーク / mo ――
大きなグレイ様人形
小さなグレイ様人形
中くらいのグレイ様人形
大小・素材も様々なグレイ様人形がそこかしこに存在する部屋。
その部屋に、赤・青・黄の頭がそろっている。緋色の髪のエルザと金髪のルーシィ、クルンとはねるくせっ毛の明るい青髪のレビィ、そしてこの部屋の主、深い深海の様な青髪のジュビアだ。今日は、以前から計画していた女子会を開催している。それぞれに指名の依頼が入る為、予定が合うのは最近では珍しく、皆楽しみにしていたのだ。
ジュビアが淹れてくれたアールグレイの爽やかな香りが、優しく香っている。
最初はコショコショと話していた声も、いつの間に廊下に響くほどの声になり、レビィの告白に、皆の声とテンションが一気に盛り上がった。
「えぇぇっ!!!! やだぁ~レビィちゃんすごいっ!!!」
「きゃーーー/// レビィさんやりますねっ」
「じょっ女子の方から、接吻なんて///」
立ち上がらんばかりに、皆前のめりになり、視線をレビィに向けている。一斉に視線を集めたレビィは、タラリと額から汗を垂らしながら、手を前に出し前のめりになり過ぎているエルザの肩を押し戻した。
「ちょっ。やだぁみんな慌てすぎだよっ。接吻とかって……緊急事態だったし、ただの人工呼吸みたいなものでしょっ///」
そう言って、そっと自分の唇を一撫でするレビィに、少女たちは目を見合わせ、一呼吸置くと、一斉に頬を染めた。
「そんなこと言ったって/// くっ唇が触れたのよっ/// レビィちゃん」
「そうですよレビィさん。それも……好きな相手……ですよね?」
「うむむ……レビィに先を越されるとはな……もしや既に…結婚式の日取りはいつだ?」
「ちょっとエルザ!! 話飛びすぎでしょっ/// てか、エルザとジェラールこそその辺はどうなのよ~! ……キスしてないの!?」
「ぬっ/// ジェッジェラールとは……いつ会えるかも…判らないしな…」
「……エルザさん」
寂しそうに遠くを見つめるエルザに、ジュビアはその手を取って握りしめた。
「え? ジェラールなら、よくエルザの後ついて、歩いてるじゃない?」
「そうだよねっルーちゃん。離れて歩くデートなのかと思ってたもんっ。違ったの?」
「なっ!! ルッルル……ルーシィ!! レビィっ!! それはいつの事なんだ!?」
バンッと机に手を置き、エルザが立ち上がり、その勢いのままルーシィの腕をきつくつかんだ。危険を感じたルーシィは、額からタラリと汗を流しながら、慌ててエルザを落ち着かせている。
「エルザ……気付いてなかったの!?」
「それなら…多分私も見たことあります。……ミストガンさんのような装い…ですよね…」
「ミストガンの格好で……ジェラールが……マグノリアに……」
「あっ!!そっか。マスターに報告に来てるんじゃない? ジェラールに、いろいろ裏で動いてもらってるみたいだし」
そう言えばと、レビィがポンと手を叩いた。呆然としてしまったエルザに、ルーシィがニヤニヤした顔を向けた。
「表向き他のギルドのメンバーだけど……ジェラールって、既にうちらの仲間みたいな感覚するもんよね~。それに、エルザがいるからねっ。ついつい足が向いちゃうんじゃないかなぁ?」
「……見守っていて、くれ……るのだな」
「エルザをね……きっと、そうだよっ」
「……私は、幸せ者だな」
胸に手を当て、優しく微笑みながらエルザは目を閉じた。
「だが次は是非、私にも姿を見せてほしいものだな」
ポツリともれたエルザの言葉に、皆目を見合わせた。次、ジェラールがマグノリアに現れれば、確実にエルザの元へと連行されるのであろう。――きっと明日にでも。
「ジュビア…お茶変えてきますねっ」
「あっ私も手伝うよ~」
ジュビアが紅茶を入れ替えるために席を立った。その後ろをレビィが追いかける。その場に残ったルーシィは、小さく微笑むエルザの手を取った。
「大丈夫だよエルザ。きっと、自分を許せる日が……ジェラールにも」
「……ああそうだな。ありがとうルーシィ」
エルザが優しく微笑んだ。何だかんだと言っても、エルザがこのように気を許して女子会で話をするようになったのは最近だ。そう。ルーシィやジュビアが、ギルドに入ってからだろう。特にチームを組むルーシィの存在は、大きいのかもしれない。それに、幼少の頃より面倒を見てきたナツやグレイに寄り添う少女達は――可愛いのだ。可愛いものが大好きなエルザは、ついつい近づき、少女達を傍らで見守っているうちに――いつの間にか、エルザが着こんでいた見えない鎧が、脱がされていたのかもしれない。
「そういえば、ルーシィはどうなんだ?」
「ほぇ? ……何が?」
「ナツの事でしょ~。そこんとこ私も気になってるんだけど、ルーちゃんっ」
「……ジュビアは、早く恋敵が減ってほしい…」
キラキラとして目で、ルーシィの顔を覗き込んでいるレビィと、保護者のようにやさしく微笑むエルザ、グレイ以外なら誰でもいいですよっというジュビアに、ルーシィは頬を染めた顔を見せた。
「なっナツ/// ナツなんて……いつも勝手にあたしんち入ってきて……食糧荒して…」
「……それで?」
「それでも、常に一緒にいますよね。ルーシィとナツさん達」
「なっ……チッチームが一緒だからっ///」
「チームが一緒というなら、私もそうだが…私は休日まで一緒に行動しないな。それに…我々が別の依頼に行っている時でも、ルーシィはナツとハッピーと依頼に行くのだろう?」
「そっそれだって、あいつ等が勝手についてくるって……言うから……」
「で~もっ、ルーちゃんは嫌々言いながら、一緒に行くんでしょ~。楽しいから」
「うっ……まぁ///」
俯き加減で、林檎のように頬を染めたままルーシィは目を泳がせた。
「ナツさんは、何でもルーシィ中心に、世界が回っているじゃないですかっ。ジュビアうらやましいっ!!」
「……そうだな。ルーシィを泣かせる奴がいたら……そいつのいる街の半壊は免れないだろうな」
「アハハハハハッ。やりそうナツって!! ルーちゃん愛されてるねっ」
「あっ愛/////って……まぁ……大事に思ってくれてるんだろうとは……ゴニョゴニョ/// あっ愛って言えば、どうなのよ~ジュビアはっ」
無理やり、話の矛先を他に変えようと、ルーシィはジュビアの顔を覗き込んだ。話し振られたジュビアは、もしグレイさまとジュビアでしたなら~///と、頭の中で転回していた都合のいい妄想を、いったん切り上げルーシィを見た。
「……ジュビアですか?」
「そ~だよっ。グレイと……そろそろ進展あったんじゃない?」
「進展なんて……でも最近のグレイ様は、ジュビアの気持ちをはぐらかさないでキチンと向き合ってくれてるような気がします」
「あぁ~。たしかにっ!」
なんか同じ土俵に乗ったって感じするよねっと、自分の事のように嬉しそうに、笑顔の花を咲かせるルーシィ。思えば、恋敵恋敵とジュビアの鋭い視線にさらされながらも、ジュビアに対しても、グレイに対しても、変に態度を変えることなく接しているルーシィは、妖精の尻尾の女子の中で、ジュビアが唯一敬語を使わずに話せる相手でもある。
ジュビアが妖精の尻尾に加わる前、仲間になりたいと願い、だが、敵であったという事実に苦しみもがいていた時、それまでのわだかまりを洗い流し、ただ仲がいいだけで出来るわけではない合体魔法を、その場でやってのける事ができる相手でもある。
ルーシィの発言に、少しだけ胸を熱くしたジュビアの脇で、エルザも一緒に微笑んだ。
「そうだな。最近は、以前に比べ……ずいぶん打ち解けていると私も思うぞっ」
「//////そっそうですか……ジュビア、うれしい!!」
ポッと染まる頬を手で覆い、ジュビアは嬉しそうにほほ笑んでいる。
「ジュビアの一途な想いが、グレイっていう氷を溶かしていくみたいだよね」
「そうそうっ。ヘタレなグレイには、ジュビア位積極的な女の子がお似合いだと、私は思うなぁ」
「そうだな。お前たちは魔法の性質も相性いいしな。互いを高められる関係でもあるんだ。きっと……その想いはグレイに届いていると思うぞ」
ポンとジュビアの肩に、エルザのやさいい手がのせられた。ジュビアはその大きな目に涙を浮かべて、恥ずかしそうに微笑んだ。
「……みなさんありがとうございます。ジュビア、妖精の尻尾の仲間になれて、とっても幸せです!! ……きっと、ガジルくんもですよっ。レビィさん」
「っ!! がっガジルの話を、なっなんであたしに振るのかなぁ~」
「えぇ~? だってチューしちゃった仲なんでしょっ。レビィちゃん」
「あの堅物が……レビィにちゅー……///」
「だから、チューじゃないでしょ~!! 人工呼吸!! 緊急事態!!!」
話しが戻ってきてしまい、真っ赤な顔で両手を大げさにバタバタと振るレビィに、一斉に視線が集まった。ジュビアはポーッと、ルーシィとエルザはきらきらとした目を向ける。
「っで、レビィちゃん。初めてのちゅーの味は?」
「むっ……そうだな、そこのところ聞いていなかったな。レビィ」
「えっ/// いや。だからさぁ///」
「はぁ。起せずとも、思いを寄せ合う男女が…口づけを……はぁぁぁ…グレイ様……」
「ジュビア? ……うん。好きな人ってのが……ねっ」
「ん? どうした、レビィ?」
「うっ……うん。そうだよね。ガジルがどう思ってるかは解んないけど、好きな相手だと……チューなのかな///」
恥ずかしそうにレビィも、ジュビアが見上げる窓から覗く月夜に、思いを馳せているようだ。
「レビィ。それが人工呼吸だとも、チューだとも、どちらでも変わりはないと思うのだが…」
「フフフッ。そうだねエルザ。レビィちゃんとガジルが触れ合ったのは……ごまかしようのない事実だもんね~」
「//////ガジル」
キャッキャキャッキャとひびく少女達の声が、妖精の尻尾の女子寮の廊下にまで響いていく。そして話題は尽きることなく……夜は更けていく……
――男達の仁義無き戦い / トコヤさん――
何時もなら気にも留めない酔っ払いの戯れ言。
だけど、今日は何故か耳に付いた。
*
*
*
昨日からチームメイトでもあるルーシィが構ってくれず、ナツは知らず不機嫌になりながらギルドに顔を出した。
何でも、ギルドの仲良い女性陣で集まってお泊まり会をしているらしい。女子寮で開催されているので、勿論男子禁制だ。それがナツにとって殊更面白くなくて眉間に皺を深く刻み付ける要因にもなっていた。
ナツがぶすくれながらテーブルに顎を置いてギルドの喧騒を眺めていると、不意に性能の良い耳が金色髪の少女の名前を拾った。
勢い良く体を起こして足を向ければ、程よく酔っ払ったマカオとワカバが何かを話題にして話していたらしい。
ナツは眉をひそめつつも好奇心には勝てず、二人の会話に割り込んだ。
「ルーシィが、何だって?」
「おおう、ナツか。いや、誰が妖精の尻尾の中で一番良い女なのか話してたんだよ」
「マカオ、そりゃあお前、勿論ミラちゃんだろ?可愛いし料理もできるし気も利くし」
「まあなぁ。けどよ、やっぱルーシィやエルザも捨てがたいじゃねえか。ナイスバディだしよぉ」
「そうだけどよぉ。二人とも可愛いし美人さんだしな」
「?ってか二人とも母ちゃんがいんじゃねぇのかよ」
「ぬぐっ」
「……それを言うなよ、ナツ。あとオレは今フリーだ。言わせんな……」
男の哀愁を背中に漂わせながら突如テーブルに突っ伏した二人にナツは不思議そうに首を傾ける。
「まあ、良い女とか良くわかんねぇけど、ルーシィだったらずっと一緒にいても飽きねぇぞ?面白ぇし料理も美味いし」
「はあ?!ナツ、ルーシィの手料理食べたことあるのか?!」
「当たり前だろ?」
何を今更、とナツが首を傾ければ、途端にその場にいた独身男性共の阿鼻叫喚が響き渡った。
やれナツの毒牙にかたっただの、ルーシィが汚されただのと好き勝手叫び散らす仲間達にナツはうんざりし、この惨劇を黙らそうと両手に炎を纏わせた。
取り敢えずナツは近くにいたマカオを殴ろうと構えたところで、入り口付近で誰かが何かに驚く声が聞こえてき、反射的にそちらへ視線を向けてしまい、ナツは大いに後悔をした。
案の定、たった今ギルドにやってきたであろうグレイが顔を顰めながら阿鼻叫喚地獄風景のギルドを横切っていた。その手には似合わない可愛らしい袋包みがぶら下がっている。
ナツは鼻を鳴らすと、何時もグレイの傍にいる一途な少女の匂いを嗅ぎ取った。
「よお、グレイ。これまた似合わないもん持ってんな」
この阿鼻叫喚からいち早く立ち直ったマックスがグレイに冷やかし目的で話しかけたしかし、何故か頬を少し染めて照れ臭そうに頭を掻きながら、今現在のギルドに油を注いだ。
「……さっきそこでジュビアから貰ったんだよ」
一瞬にしてギルドは凍り付き、再度独身男性による断末魔が辺りに響き渡った。
そんな中、ナツだけがグレイを睨み付けていた。
ナツは苛立ちながらグレイの元へと向かい、途端に訝しげにするグレイの顔に向かって人差し指を突き付けた。
「ルーシィの方が断然良いんだからな!」
「……はぁ?とうとう自分の熱で頭沸いたんか?クソ炎」
「沸いてねぇよ!変態氷野郎!」
「んだとぉ!?やんのか?!……あ、ミラちゃん。これ持っててくれ」
「はいはい。ジュビアからの愛妻弁当ね。ちゃんと預かっておくわ」
「……や、そんなんじゃねぇけどよ」
途中近くを通りかかったミラジェーンにグレイが大事そうに弁当を預ければ、グレイはからかわれて照れ臭そうに頬を指で掻いた。それが殊更ナツの不機嫌を煽った。
「んだよ!確かにジュビアの料理は美味ぇ。けど、ルーシィが作った料理の方がもっと美味ぇんだぞ!それにからかうと面白ぇし飽きないし!」
「何突然惚気話をおっ始めてるんだよ!この馬鹿炎!それに、ジュビアの飯の方が中々筋が良いんだよ!」
「んだとコラァ!?」
「やんのかコラァ!?」
互いに額をぶつかり合わせて火花をバチバチと散らしているところに、イカれてやがる、と更に油を注ぐ輩がいた。
二人ともつられてそちらに顔を向ければ、そこには頬杖を突いて食事をしている鉄の滅竜魔導士がテーブル席に座っている。鉄の塊を口に運んでいたガジルが二人の視線に気付いて顔を向ければ、二人とも今にでも殴りかかってきそうな気迫を身に纏わせていた。
ガジルはその二つの視線を事も無げに受け止め、そして、面倒臭そうに視線をずらして再び鉄の塊を食べ始める。これにはナツとグレイは激昂し、お前はレビィの料理を食べた事があるのか、とガジルを挑発した。
すると、ガジルはピクリと眉を動かすと、意地悪く口許を歪め、ギヒッと笑った。
「ハンッ。鉄も空気も貰ったわ」
「は?空気?」
「おうよ」
ーー口移し、でな。
そしてギルドは一気に地獄と化した。
*
*
*
怒りに身を任せたジェットが″神足″を発動し、仲間達の間を縫うように走り撹乱させた後に勢いをそのままにラリアットをガジルの首に目掛けて食らわす。しかし、ガジルは寸でのところでこれを見切り、ステップを踏みながら横に避けて上体も反らした。
そのガジルが軸足を置いた所目掛けて次にドロイが魔法″植物″を施した植物の種を投擲。床に着地すると同時にガジルの足を雁字絡めに拘束しながら蔦が急速成長して足場を不安定な物へと変える。
ガジルは両手を鉄竜剣に換えて身を捻りながらこれを断ち伐る。しかし、それでも蔦はガジルを拘束しようと伸びてくる。
これをチャンスと見たナツが火竜の咆哮をぶっ放し、燃えやすい蔦を糧に炎の威力を上げながらガジルに火の手が伸びる。ガジルも負けじと鉄竜の咆哮をぶっ放して周りを燃やし尽くして破壊しながらこれを相殺する。
一旦対峙する二人の滅竜魔導士に鉄槌をくわえようと、グレイは二人の頭上に″氷撃の鎚″を造形する。
影が射した二人は上を仰げば途端に″氷撃の鎚″が落ちてきて、ナツは火竜の劍角で、ガジルは鉄竜槍・鬼薪でこれを打ち砕く。しかし、グレイは口許に不敵な笑みを浮かべている。
途端に、三人の足場からマックスの″砂の反乱″が展開され、グレイは足場を作って回避するも、ナツとガジルは攻撃を受けながら足場を取られてしまう。
それでも体制を何とか立て直そうとする二人にウォーレンが″念話″をもってして、脳を揺さぶるような大声をあげた。
案の定、予想外の攻撃に二人とも一瞬視界が揺らぎ、受け身を取る間もなく無様に地面へと叩きつけられた。
グレイはその間、これをチャンスと捉えた仲間達に対して″氷創騎兵″を展開して一気に片を付ける。
しかし、運良く避けたビジターが″踊り子″による補助魔法を展開。傍にいたナブの攻撃力と防御力、スピードを高めさせるも、ナブが魔法を発動する前にナツの火竜の鉄拳とガジルの鉄竜棍によってビジターとナブは討たれた。
そして、ギルドで未だに立っているナツとグレイとガジルがこの喧嘩の終止符を打つべく改めて対峙したところで。
星のような瞬く流れのように一人の男が、天井に穴を開けながら上から乱入してきた。
立ち込めた砂埃が段々と晴れてきた頃、しゃがんでいた男の人影が立ち上がる。そして視界が晴れた頃、そこにいたのは、いつものミストガンの格好ではなく、エルザ命と書かれたハチマキをしたジェラールが立っていた。
思わず絶句する三人を尻目に、ジェラールは至極真面目に構えを取り始めた。
「……いいか、妖精の尻尾の中では、いや、全世界の中で一番素敵な女性はエルザだ!」
「んだとぅ!?ルーシィが一番に決まってんだろ!!!」
「いや、ジュビアが一番家庭的だ!!!」
「馬鹿言え、レビィの方が可愛げがある!!!」
ツッコミ不在の爆弾発言問題発言は益々大きくなっていき、四人のくだらない論争はヒートアップしていく。
誰もが一歩も引かない状態が続き、先に痺れを切らしたのはナツだった。
「ぬがああああ!!!!!ルーシィが一番だっつってんだろおおおお!!!」
ナツは大気に炎と雷を纏わせながら雷炎竜モードを展開。
「っつーかさっさと終わらせるぞ!!!ジュビアが心配になってきた!!!」
グレイは空気を凍てつかせて体の半分を悪魔化しながら滅悪魔法を発動させる。
「ギヒッ、ほざいてろ。勝つのはオレとレビィだ!!!」
ガジルは黒い影の柱を立たせながら鉄影竜モードを展開。
「今ここでエルザの素晴らしさを教えてやろう」
ジェラールはその身に圧倒的な魔力を纏わせていく。
「ぬおおおおおお!!!」
「うおおおおおお!!!」
「ぐおおおおおお!!!」
「はああああああ!!!」
そして、
「滅竜奥義″改″紅蓮爆雷刃!!!」
「氷魔の激昂!!!」
「鉄影竜の咆哮!!!」
「星崩し!!!」
爆発的な魔力と衝撃と轟音がマグノリアの街の半分を包んだ。
*
*
*
新設された魔法評議院から戻ってきたマカロフとエルザとラクサス、それに雷神衆から四人はこってり説教されて絞られて、半壊になってしまったマグノリアの復興に奔走させられていた。
*
満身創痍であるはずなのだが、それでも何時も以上に働かせられてナツは大いに不貞腐れていた。
あれからほぼ同時に倒れたものだから、決着と言える決着は付いておらず、心に蟠りをつっかえさせながら眉根をひそめて唇を尖らせながら従事していた。隣にルーシィがいるにも関わらずに、だ。
「全く。何であんた達は街を半壊させるのよ。お陰であたしも手伝わせられちゃったじゃない」
「……」
「ねぇ、ちょっと聞いてるの?!」
ナツはルーシィそっちのけで深く何かを考え込んでいる。珍しい事この上無い。
そんなナツの様子に気付いたルーシィは一旦文句を止めて首を傾げる。と、不意に何かを理解したようにナツが、あ、と目を開けて口を開いた。そして、目線をルーシィに向け、突然睨まれるような眼光を向けられてたじろぐ少女にナツは至極真面目に、すまねぇ、と謝った。
「は?街を壊した事?」
「いあ、勝てなかった事」
「あんたねぇ、いい加減に……」
「ルーシィが一番だ、って思い知らせれんかった」
「……はい?」
もしかして聞き間違えたかしら、とルーシィはマジマジと見るも、ナツは先程の発言を撤回すること無く真っ直ぐに見返してきた。
暫く呆けていたルーシィが段々言葉を理解して顔に熱が集まり始めた頃、ナツは徐に二人の距離を縮めて顔を寄せた。
唇を塞がれて一瞬だけ息が出来なくなれば、ルーシィの心臓が早鐘を打ち始め暴れ始める。
ゆっくりと顔を離せば、ルーシィは全身を真っ赤に染め上げて動きを完全に止める。対してナツは満足そうに満面の笑顔を顔いっぱいに貼り付けていた。
「うん、やっぱルーシィが一番だな」
頻りに頷きそれだけ呟いてナツはズンズンと足を進めていった。
ルーシィは頭から湯気を出して立ち止まっていた。
*
「そう言えば、グレイ様はどうしてこんな激しい喧嘩を?」
ジュビアの心配そうな瞳で見詰められれば、自分が如何にくだらない事でムキになって本気を出してしまったのかを改めて考えさせられた。いや、むしろ物凄く恥ずかしい。
幸も不幸も、グレイに弁当を届けたジュビアは昨日から行動を共にしている女性陣達と一緒に隣街のケーキ屋に出掛けていたらしく無事であった。
その事にグレイは胸を撫で下ろしつつも、自分が如何にジュビアを気に掛けているのか、改めて気付いた。しかし、ここで素直に認めては何となく癪にも感じる。
グレイはがしがしと乱暴に自分の頭を掻き、忘れた、と視線を明後日の方へと向けてはぐらかした。
「そうですか……ですが、グレイ様が無事でジュビア嬉しいです」
「お、おう」
時折ジュビアのストレートに気持ちを伝える事が羨ましくなる。
グレイは弾む心とは裏腹に、熱が集まり始めた頬を隠すように再びジュビアから目線を逸らした。
そして、不意に渡された弁当を思い出し、改めてジュビアに視線を向ける。
「その、悪ぃ、ジュビア。弁当、ダメにしちまって」
「あ、はい。良いんですよ。また作ってきますから!」
気合い十分で懲りずにまた作るジュビアの瞳に一瞬写った憂いの色。
グレイはもう一度心の中でジュビアに謝った。
「っつーかよ、何時もオレのだけしか作ってないよな」
「それは勿論!!グレイ様の為だけに毎日愛情込めて作っていますから!!」
「いや、そうじゃなくてな」
グレイは少し照れ臭そうに頬を指で描く。
「……飯は、一緒に食った方が美味いだろ?」
ジュビアは大きく目を見開き、グレイをマジマジと見つめた。そして、途端に花咲くような柔らかくて優しい笑顔を浮かべて嬉しそうにグレイの腕に抱き着いた。
「分かりました!毎日ジュビアの作ったお弁当を一緒に食べましょう!」
「……いや、時々で良いからな」
その言葉とは裏腹に、グレイはジュビアの腕を振り払う事は無かった。
*
レビィは頬を膨らませてブツブツと文句を言いながらも動かす腕を止める事は無かった。
資材不足や建物の骨組み補強の際、こうしてレビィの魔法は重宝されるものだった。
真面目すぎるが故に働く手は決して止めない。それでも街を半壊させた元凶の一人でもある彼に対する文句を止める事が出来ないでいた。
不備がないかを建物骨組みと図面を見比べながら、弱い部分を補強していくレビィに近付く一つ足音。
誰かと分かっていながらも、レビィはため息を止める事は無かった。
「……おい、チビ」
少し不機嫌さを滲ませた声音。
レビィは短く返事をすると、振り返らずに空中に文字を書く。
″立体文字″で出現させた物が思い通り相手の頭にゴンとぶつかった音がした。
どんなもんよ、とレビィは鼻を鳴らすも、途端にボリボリと咀嚼する音が聞こえ始めた。
効かなかったのかな、とレビィは頬を膨らませながら振り返ると案の定、ガジルが″立体文字″で出した鉄の塊を食べていた。
「何でオレが腹減ったって分かった?」
レビィが先に口を開いて文句を言おうとしたが、それよりも先にガジルが目線を合わせて問いかけてき、跳ねる胸元を押さえながら、だって不機嫌そうだったもん、と頬をプクリと膨らませた。
「あ?よく分かんな」
「むぅ。ガジルってばお腹空いたら直ぐ不機嫌になっちゃうじゃない。気付いてないの?」
「む。いや、確かに腹減るのは嫌だけどよ」
そんなにオレは分かりやすいのか?とガジルは腕を組んで首を傾げた。
実際は、ガジルの考えや表情は仲間の中でも分かりにくい部類に入る。これでは、如何に自分が彼を見ているのかバレてしまう。
レビィは恥ずかしくなって顔を俯かせるとガジルが近付いてきた。そして、人一人分の距離を開けてガジルはレビィに手を伸ばした。そのまま二、三回軽く頭を叩くと、乱暴にがしがしとレビィの頭を撫でた。
少し痛いくらいのそれにレビィは思わず怒ろうと口を開くも、またもやガジルはそれより早く、サンキューな、と言い残して自分の持ち場へと戻って行った。
ズルい、と一人残されたレビィは顔を真っ赤にしながらガジルの背中を見送った。
――ジェラエルと愉快な仲間達 / akiraさん――
騒ぎを聞きつけてやってきた警備隊からの事情聴取に「エルザの素晴らしさを解らせる為にやった」と悪びれもせず、寧ろ堂々たる仁王立ちでハチマキを風に靡かせ語る様に惚れ惚れしつつ。
直後危うく連行されかけた彼を「まったくしょうがない奴だ」と颯爽と取り返し。
二度目の評議院から重い足取りでギルドへと帰り着いたエルザは、そこで思い掛けずあのハチマキ姿を見付けてピタリと足を止めた。
「ジェラール?…ああ、そうか」
見慣れない風景に一瞬何故ここに?と思ったが、すぐに理解して一人頷く。
彼もここいら一帯をほぼ全壊近く破壊したうちの一人だ。
公に姿を現すことができない分街の方は他の面子に任せ、自分はギルドの復旧作業に回ったのだろう。
所々煤けた顔や服をそのままに、見るも無残に廃墟と化した酒場の中で淡々とほうきとちりとりを動かしている。
エルザは辛うじて原型を留めている入り口扉を最小限の力でそっと押しやり中に入ると、しゃがんで作業する彼の所まで行って自分もその隣へと腰を下ろした。
「久しぶりだな。ジェラールが掃除する所を見るのは」
「エルザ」
「子供の頃、以来だな」
「…すまない。少々やりすぎた」
らしくなくしょんぼりと肩を落とす姿を見るのも久しぶりで、思わず吹き出しそうになる。
「そうだな、大の男が四人も揃ってギルドで喧嘩…は、少しやりすぎだな」
天井の吹き抜けから顔を出す夕空を見上げながらくす、と笑みを零せば、隣の彼が更に肩を落としたのが気配で伝わった。
「…ギルドを半壊させてしまったことは反省している」
「ああ」
「街にまで危害が及んでしまったことも」
「そうだな」
「だが…」
不意に沈黙が降りる。
「これだけは分かってほしい」
「…え?」
空から視線を戻すと、空よりも蒼く海よりも深い、深海色の瞳が真っ直ぐにこちらを見つめていた。
「俺は、エルザが誰よりも素敵な女性だということをわかってほしかったんだ」
「じ、ジェラール…っ」
真剣な双眼と、今だ頭に巻いたままのエルザ命と書かれたハチマキ。
喧嘩の理由は聞いて知っていたが、まさかここまで本気だったとは。
ふわりと弛んだ瞳の中で顔を真っ赤にした自分と目が合う。
慌てて目線を逸らし精一杯の虚勢を張って呟くーーけれど。
「…だ、だからといって…」
ーーどうしよう。
「魔法まで」
不謹慎だとわかっていても。
「つ、使うのは……っ」
嬉しさが、止められないーー。
「…っ、……」
とうとう言葉に詰まって下を向いてしまったエルザの頭に、そっと大きな手が触れた。
「すまない、大人気なかったよな。エルザのこととなるとどうしても熱くなってしまう。俺もまだまだ修行が足りないな」
そのまま、髪を梳かれるように優しく撫でられる。
瞬間、昨日のお泊まり会でのあの感覚が再びエルザを包んだ。
紅茶の香り。弾ける笑い声。楽しいおしゃべり。
花のように、幸せそうに、顔を綻ばせて話す少女達の話を可愛らしく思いながらうんうんと聞いたり、時には自分の話をしたり。
まるでふわふわとマシュマロのように柔らかく、優しいひと時。
その時の、胸がきゅん、とするような感覚がまた蘇る。
温かくて大きな手。
昔と変わらず優しい気配。
(ジェラールが、すぐそばに居る)
触れた部分から伝わってくる全てが心地よくて、エルザは抱えた膝の中でゆっくりと眼を閉じた。
本当は常に会いたい。と思っている。
みんなのようにいつも隣同士肩を並べ、喜びも悲しみも辛さも、そして楽しいことも分かち合いたい、と。
でもそれは、複雑な運命のレールの上を逆さまに歩む今の自分達には少しばかり難しいから。
だからこそ、こうして会えた時の喜びはひとしおで、堪らなく嬉しく堪らなく愛しいーー。
「まったく。しょうがない奴だな」
俯けていた顔を上げてふんわりと微笑んだエルザにつられて、ジェラールの目元も柔らかく細まる。
かと思えば、その表情のまま、彼は照れ臭そうに爆弾を放った。
「…やはり、どんなエルザも素敵だが笑った顔が一番綺麗だな」
「なっ!?」
「うん。驚いた顔も可愛い」
「ジェラールっ!!」
「はは、すまんすまん」
ーーまたこいつは!
こちらが許容した途端すぐこれだ!
瞬時に赤くなったであろう顔を隠すため、エルザはぷい、とそっぽを向いた。
「人をからかって遊ぶのはお前の悪い癖だぞ!」
たまにしか会えないのだからこういうことに関しての耐性は無いに等しいというのに、本当に勘弁してほしい。
「からかってなんかいないさ、本気で言ったんだ」
「……」
頭の上から、どこから出てくるんだと思う程柔らかい声色が降ってくる。
まだ顔を見られたくなくて動けずにいると、そのうち髪を軽く引かれてエルザは渋々視線を戻した。
「…本当、に?」
「ああ。本気で思ってるよ」
「……ありがとう」
にっこり笑って言われてしまえばぐうの音も出ない。
結局赤い顔を見られてしまったまま諦めて小さく礼を言えば、また頭を撫でられた。
(今日は随分と甘やかされるな)
そんなことを思いながら暫く流れるゆったりとした時間にここがギルドだということも忘れ、思わず瞼を下ろしそうになる。
しかし、狭まった視界の中でふと彼の視線が自分から微妙に外されていることに気付いて、エルザは下ろしかけた瞼を緩慢に押し上げた。
「ジェラール?どこを…」
見ているんだ?と、首を傾げる。
けれど彼はちら、とこちらを見ただけでまた微妙に視線をずらすと、そのまま少し残念そうに呟いた。
「エルザ、どうやら二人きりの時間はここまでのようだ」
「え?」
す、と向けられた指の先を辿って後ろを振り返るーーと、
「げ、見つかった!」
「バカ、お前ががっつり見過ぎてっからだろ」
「いや…あいつには最初っからバレバレだったろ」
「うん。何回かこっち見てたもんね、ジェラール」
「あーん!せっかくいいところだったのに!」
「エルザさん、とっても乙女モード全開でしたのに」
歪んだ入り口扉の隙間から見える、六つの顔。
ーーを目の当たりにした瞬間、先程まで夢の中一歩手前だったエルザの意識が一気に現実へと引き戻された。
「お前たちっ…!!」
堪らずバッ、と立ち上がった拍子に下の方から「わっ」と聞こえた。
どうやらジェラールが尻もちをついたようだが、今はそんなことに構っている暇などない。
「……見て、たのか?」
ちょうど目線の高さにいた桜色を眼光鋭くロックオンしたまま問うと、相手の喉がひっ、と引き攣ったのがわかった。
それから間を開けずに全員が揃ってギギギ、と鈍い機械のように首を上下させる光景を見て、後ろで立ち上がったジェラールから「声が地を這っているぞ」と耳打ちされるが、断じて這わせているつもりはない。
恥ずかしさを押し殺すあまり少しドスが効いてしまっただけだ。
……とは言えず。
エルザは一つ咳払いをして気持ちを落ち着かせると、改めてナツーーにしがみ付かれたルーシィに目を向けた。
「いつからそこに居たんだ?」
「あ、ええと…結構、最初から?」
「……そうか」
結構最初から、ということはばっちり最初から見られていたのだろう。
それならば。
顔の前で両手を合わせてごめん、と謝る彼女に苦笑いで首を振る。
はぁ〜、と長い溜息を吐き終えるとエルザはうむ、と腕を組んで、潔く頷いた。
「見らてしまったのなら仕方が無い」
「さすがエルザだ。その寛大な所も素敵だと思うぞ」
「…だから、お前はっ!」
「ブレねえな、ジェラールの奴」
「ジュビアもグレイ様に言われたい!」
「言わねえよっ!?」
「もはやロキ二号ね」
「ルーちゃん、それはちょっと失礼なんじゃ…」
「どっちに失礼なんだ?ロキにか?二号にか?」
「お前たちも!いつまでそこに居る!」
わいわいと盛り上がる外野に一喝して「いい加減入ってこい」と手招きする。
「そういえば街の方は終わったのか?」と聞けば、先に入ってきたレビィから肩を竦めながらの苦笑いが返ってきた。
「あらかた済んだんだけど時間が時間だからって。まだ終わってない部分は明日に持ち越し」
「そうか、今日は手伝えなかったが明日は私も作業に加わろう。気合いを入れて終わらせないとな」
「うん!まだ復旧が終わってないお店もちらほらあるから早く直さないと」
「皆さん困ってらっしゃいましたしね」
続いて、ルーシィとジュビアも集まってくる。
その後ろからぞろぞろとついて来た男性陣が集まり終わると、再びエルザの足元にしゃがんでいたジェラールがほうきとちりとりを手にす、と立ち上がった。
「じゃあ、俺はこれを片してくる」
その背中に、ふとナツが思い出したように声をかけた。
「そういえばジェラール、なんでお前ギルドに来たんだ?」
「ん?」
数秒の間。
当人たちとナツ以外、この場にいる全員の頭に“どうせエルザ目当てだろう”という考えが一致する。
ジェラールが「ああ」と足の向きを半歩戻した。
「マスターに用があってな」
即座に“表向きはな”と当人たちとナツ以外の全員が頭の中でツッコむ。
「だがここへ来る途中隣街のケーキ屋で君たち女性陣を見かけてーー」と続きを話し出した彼に“やっぱりな”と当人たちとナツ以外の全員が頭の中で溜息を漏らした。
「その中にエルザの姿がなかったからな。ギルドに居るかと思い出向いたんだが、その時ちょうどナツたちの声が聞こえて…」
そんなことを思われているとは露知らず、ジェラールの饒舌な語りは今や最初に問いかけてきたナツにではなくふむふむと真剣に聞いている隣のエルザへと向けられている。
「気付いたら俺も乱入していたんだ」
そして、困ったように笑いながら「…天井から」と漸く説明し終えた彼に、エルザがほう、と納得した様子で頷いた。
「なるほど。そうだったのか」
「や、そうだったのかで片付けんなよ!色々とツッコミ所満載だったろ、今の」
「ん?」
すかさずグレイが半眼を向ける。
それに続くように他の面々ーー特に少女三人ーーがうんうん、と賛同した。
「つまりジェラールはエルザを探しにギルドに来たってことだよね」
「つまりストー…」
「ジュビア、ストップ。それあんたが言っちゃいけないやつだから」
「ーー…むっ!」
しかし当の本人はそれよりも別のワードを重要視したらしい。
はっと顔を上げると一番近い場所に居たレビィへと切羽詰まる勢いで詰め寄った。
「そうだ!レビィ!」
「うわぁはいっ!?」
「ケーキ!ケーキは?」
「そっち?!…だ、大丈夫だよ。ちゃんとエルザの分買ってきたよ」
あまりの剣幕に一歩後ずさるも「ルーちゃんちで預かってもらってるから」と宥めるように言われて、やっとエルザの顔に安堵の色が戻る。
「そうか!ありがとう!」
その様子に側で見ていたルーシィとジュビアも互いに顔を見合わせフッ、と微笑むと、エルザを取り囲んだ。
「ついでにみんなの分も買ってきたのでこれからまた女子会しませんか?」
「おお!それは本当か!」
「うん!だって今日はエルザだけ評議院だったじゃない?でもやっぱり全員揃ってお茶したかったから、改めて仕切り直し!」
「…ルーシィ、レビィ、ジュビアっ……!私は嬉しいぞ!」
「あはは!」
ひし、と抱き寄せ抱きしめられ、きゃっきゃとはしゃぐ四人の少女たち。
今や花より団子とばかりにジェラールのことなどすっかり忘れてケーキや女子会の話題で盛り上がるそんな彼女たちに、近い場所から男三人が遠い目を向けた。
「まぁたやんのか?女子会」
「みてえだな」
「よく飽きねえもんだな」
どうやら話振りからするに、今日も相手にしてもらえないのだろうーーということを悟って三人一緒に肩を落とす。
けれど、次に響いたルーシィの声にそれまで項垂れていたナツが勢いよく顔を上げた。
「場所はあたしの部屋。女子寮も半壊しちゃったからみんなそのまま泊まっていってね」
「なっ?!ちょっと待てよ!」
「なによ?」
「泊まり…って、女子会で終わりじゃねえのか?!」
「当たり前でしょ?誰かさんたちのせいで女子寮まで壊れちゃったんだから」
「うぐ、」
しかしばっさりと切り捨てられてしまい、再び彼の桜頭ががくりと項垂れる。
更には複数形で言われたことによりそのダメージは他二名にも及ぶこととなり…。
「…諦めようぜ。俺たちに反論の権利はない」
半裸に暗い影を落として、グレイが力無く呟く。
「グレイ様…」と小さく聞こえた声に彼は引き攣った笑顔で「楽しんでこい」とだけ返すと、震える手でズボンのベルトのバックルをカチャカチャと外し始めた。
横では、同じく影を背負ったガジルがいかにも不機嫌オーラ丸出しの仏頂面でだんまりを決め込んでいる。
「なんだ、だらしがないぞお前たち」
それを見兼ねて、エルザが一歩足を踏み出した。
ーーのだが。
「エルザ」
本体から離脱したズボンが目の前でバサリと床に着地する音に混じって自分を呼ぶ声が後ろから聞こえた途端、彼女は即座に身体の向きと表情を180度変えた。
「なんだ?ジェラール」
「ミラからの言伝だ。今日はもう終わりにして帰っていいそうだぞ」
「うむ、そうか。…ところでお前、掃除用具はどうしたんだ?」
「片してきたよ」
「い、いつの間に…」
「きみが楽しそうにケーキの話をしている間に」
「う…、す、すまない」
「いや、いいんだ。俺も談笑の邪魔はしたくなかったからな」
「そんな、邪魔だなんて…」
「気にすることはない」
「ジェラール…」
「エルザ…」
ーーと。
見つめ合い出した二人の周りにたちまち花が舞う。
それが数秒、数十秒、数分ーーと経つにつれ流石に業を煮やした少女たちが口々に呼びかけるも、自分たちだけの世界に入ってしまった二人の目には最早互いの姿しか見えていないようで、いくら周りが声をかけようが手を翳そうがピクリともしない。
「…ダメだこりゃ」
完全に別世界と化した目の前の光景に、少女三人はやれやれ、と肩を竦めた。
「ええと…。どうしましょうか」
「んー…。ローグ化した男共はほっとくにしても、エルザとはこれから女子会だからなぁ。そろそろ帰ってきてほしいんだけど…」
花を背負ったエルザとジェラール、影を背負った男三人組を交互に見遣って「うーん…」とルーシィが腕を組む。
暫くして、花々が乱舞する別世界を苦笑いで眺めていたレビィがポン、と手を打った。
「あ、そうだ!もうこの際ジェラールも一緒に連れてきちゃえばいいんじゃない?」
「まあ!それはいい考えですね!」
「ナイス、レビィちゃん!」
先程のジェラールの発言から、今日の作業はもうお開きにしていいということを側にいた三人も聞き取っていた。
正直なところ、早く帰って女子会を再開させたいのだ。
少女たちは満場一致で頷き合うと、善は急げとばかりに揃ってエルザの肩を叩いた。
「エルザ、エルザ!お取り込み中悪いんだけどそろそろ帰ってきてくれない?女子会するんでしょ?」
「ジェラールも連れてきていいからさ」
「みんなで一緒に女子会しましょう?」
「……ん…、うん?」
それぞれが懸命に呼びかける中、ようやくその横顔に正気が戻る。
“ジェラール”と“女子会”のワードに反応して瞬時に振り向いた途端、彼女はキラキラと目を輝かせた。
「…む、なに?!ジェラールも同席していいのか?!」
俄かに頬を紅潮させるエルザに、ルーシィがにしし、と口元に手を当てた。
「うん、ていうか…。エルザとジェラールの話も前々からじっくりゆっくり聞きたいと思ってたしね」
「わ、私とジェラールの…っ?!いや、しかしルーシィ、私たちは……だが……う、うん。そうか。ま、まあ、私は構わないが…でもジェラールは…」
「俺も構わない。この後の予定も特にこれといって全くないからな」
「よし、決まりだね!」
「よかったですね、エルザさん!」
「う、うむ」
緩みそうになる口元を必死に引き締めてコクリ、と頷くエルザ。
それを優しげな眼差しで見つめるジェラール。
とても微笑ましく非常に胸が高鳴る光景ではあったが、放っておくとまた別世界に旅立ってしまう危険性があったため、慌ててレビィが身を乗り出した。
「そうと決まれば早速ルーちゃんちへレッツゴー!」
「おー!です!」
「お、おー!」
「ああ。だが、本当に俺も同席してよかったのか?女子会とは男子禁制なんだろう?」
「いーのいーの!今日だけは特別」
「…そうか。ではお言葉に甘えさせてもらおうかな」
「どうぞどうぞ。…それよりジェラール、その服とてつもなく埃だらけだからあたしんち着いたらすぐシャワーね!」
「え?あ、いや…有り難い申し出だが替えの服が…」
「それなら心配ない」
「エルザ?」
「実はこんなこともあろうかとパジャマをストックしてある」
「えっ、パジャマ?!男物の?!」
「もちろん。ルーシィの部屋に着き次第換装してやるから、ジェラールはそれを着るといい」
「用意周到ですね!」
「え、エルザ…、それはつまり……きみの脱ぎたてを俺が着る、ということか…?」
「…へ?……あっ」
「ルーシィ。ぜひシャワーを貸してくれ」
「どうぞどうぞ〜」
「かっ、帰るまでだぞ!さすがに男のお前を泊まらせる訳にはいかないからな!帰る頃にはちゃんと自分の服を着るんだぞ!」
「ああ。わかってるよ」
「ふふ。必死なエルザさん、可愛いです」
「や、やめてくれ、ジュビア…」
「うんうん!なんかますます楽しくなってきたね〜!」
「あ、じゃあさじゃあさ!今日はエルザがご飯作ってよ!うちのキッチン貸すからさ」
「わぁ!エルザさんの手料理、私も食べてみたいです!」
「そ、そうか?うむ。では腕によりをかけて作ろう!ジェラール、お前も手伝ってくれ」
「ああ、もちろん。みんな楽しみにしていてくれ」
「きゃー!今の聞いた?レビィちゃん!」
「うんうん!息ぴったりだったよね!」
「まるで熟年夫婦です〜!いずれはジュビアとグレイ様も……」
「…熟年夫婦か。悪くない」
「じ、ジェラール…っ、それは…」
ーーと。
きゃあきゃあと再び盛り上がりながら、少女四人とハチマキ男が酒場の出入り口を目指す。
しかし入り口扉に手をかける寸前、そのうちの三人ーールーシィ、ジュビア、レビィーーがくるりと後ろを振り返った。
その視線に、今の今まで蚊帳の外でローグ化を拗らせていた男三人組がのろのろと顔をあげるーーが。
「ってことだからナツ!今日と明日はあたしの部屋、進入禁止だからね〜」
「なっ?!はあ!?ちょ、昨日からのも合わせると三日じゃねえかよ!そんなん耐えらんね…って、おい!ルーシィ!」
「すみませんグレイ様。そういうことですので今日はこの辺で失礼します。…あ、でもご安心くださいね!これは決して浮気とかではなくエルザさんのためを思って、」
「わあーってっから!つか別に俺らそんな関係じゃねえから!」
「もおー!ガジル!いつまでいじけてんの?そんなに暗くなってるともっと真っ黒になっちゃうよ?」
「…けっ、うっせえチビ。誰のせいだと思ってんだ」
それぞれがそれぞれに文句をつけたところで、それに対しての返答は歪んで立て付けの悪くなった扉が居心地悪そうに閉まる「ギギギ」という鈍い音だけで。
「あーあ……。明日の昼は遅くなりそうだな」
「くっそおおお!!ルーシィの奴、覚えてろよっ!!」
「……朝一でリリーに迎え行かすか」
長い長い嘆息と共に吐き出された三者三様の独り言は、儚くも虚しく、ボロボロの酒場の中へと溶けていったのだった。