2015年04月22日~
可愛いあの子
ルーシィとリサーナのお話
初めて彼女と目があって、うれしくって、ドキドキして、なんだかワクワクしたんだ。
そのすぐ後、そんなフワフワした楽しい気持ちが、ガクッと沈んだのを覚えた。
ナツの笑顔の先に見えるあの子の笑顔。
まぶしいのに、目をそらすことができなかった。
*
あれは、エドラスから帰ってきた時の事だ。あたし達は空中に出来たエドラスとアースランドを繋ぐアニマから、見事に落下してきた。ザーザーと雨が降る中ブルリと体を震わせ、そこにいたナツから魔王のマントを奪ったんだ。辺りを見渡して、あぁ帰ってきたんだって、一緒に落ちてきたメンバーと笑い合ったんだ。
リリィが、彼女を縛って連れてきた。
そこで、始めて彼女の顔を、目を、正面から見る事が出来たんだ。
―― リサーナ ――
それまで、皆 大きな声では話してくれなかったけど、昔話になると必ずと言っていいほどでてくるナツと仲のいい少女。ミラさんとエルフマンの妹で、みんなに愛されている女の子で――生きていればあたしと同い年。
話に出てくるたびに、会いたかった 話してみたかったと、胸が痛くなったのを覚えている。ミラさん達や、ナツとハッピーの寂しそうな顔をみたくなくって、詳しく聞いたことはなかったけれど。
ギルドの同世代の皆の幼馴染。――いなくなってしまったと思われていた人物との、再会。
それはみんなの顔を安堵と喜びの色に染め上げた。直接知っていたわけではないが、あたしもなんだかうれしかったんだ。ギルドの中でぽっかりと空いていたピースが埋まって、これが本来ある姿だったんだって、心の底から 嬉しかったんだ――。
ナツとハッピーが、リリィに縛られたリサーナに抱き着いて、その姿が本当に嬉しそうで、自然と涙があふれたよ。それから、ナツがあたしの肩を抱いて、ルーシィだぞっ!! って、紹介してくれたんだよね。オレとハッピーのチームメイトだって。リサーナは驚いた顔してたけど、すぐ笑顔になって、「こっちのルーシィとは初めましてだねっ!」って、かわいく笑ってくれたんだよね。
女のあたしが見てもキュンっとする笑顔が、あたしを見て目の奥が固まったのに気が付いてしまった。笑顔なのに目の奥が悲しそうに揺れたリサーナの表情が、まだ脳裏に焼き付いているの。
――ねぇ……好きなの?
それからギルドの中で、昔話が花を咲かせた。皆の幼かった頃の話は、とっても面白くって、話に出てくるみんなが何だか可愛くって、其処に一点の曇りも見えなくってスッゴク嬉しかったんだ。
*
「ルーシィ!! 悪かったってっ」
「ルーシィィィィィ!! ナツが言いだしたんだ~オイラはヤダって言ったんだよ~っ」
「おいハッピー!! 裏切るのか!?」
「あい。猫は餌をくれる人に懐くんだよ~。ね~ルーシィっ」
「……」
ルーシィは青猫をチラリと見て、プイッっと また目を反らした。ナツとハッピーは朝ルーシィがシャワーを浴びている間に、自宅に侵入していて、今日着ようと思って出しておいたルーシィの洋服を悪戯で身に着けた挙句、お風呂上がりのルーシィに咎められ――瞬間その服は燃え落ちたのだ。
――お気に入りだったのに
――朝からやんなっちゃうっ
ナツが言い出しっぺと云えど、それを止めずに結局ナツにのってしまったのだから、ハッピーだって同罪だろう――。
ルーシィは肺に溜まっていたモヤモヤした息を、ふぅッと口から吐き出した。
――ったくこいつら…
――あたしをなんだと思ってるのかしらっ
――もうっ
「うっうっうっ……ルーシィが、オイラを無視するよぉ~!! ナツ~」
「おまえ……どっちにつくんだよ……って、ルーシィィィィ!!」
「……プッ」
「「あっ!! ルーシィ笑ったっ」」
普段であれば怒りながらも許してくれるはずのルーシィの態度に、見事混乱したハッピーは先程敵に回したはずの相棒に寝返った。
ワタワタとする1人と1匹に、ルーシィはなんだか笑いが込み上げてきた。
ここは魔導士ギルド妖精の尻尾。酒場のカウンタ―の端の席。
――しょうがない……許してやるかっ…喧嘩しててもつまらないしねっ
さて、最後にでこピンでもしてやろうかと、床で土下座するナツ達の前にしゃがんだルーシィは、その視線に気付いてしまった。
自分に必死に許しを乞うているナツの背中を見つめる視線。
――やっぱり……
ルーシィはナツの額に向けて伸ばしていた腕で、ハッピーを抱え上げると、すくっと立ち上がった。
「もうっ……まだ、許してあげないんだからっ。ナツは一日反省してればいいのよ……いこっハッピー」
「あいっ! ルーシィ大好きだよぉ!」
「んなっ!! ハッピーずりぃぞぉぉ!!!」
床に座り込んだナツが、小さな炎を口から漏らしている。
――仲間の……リサーナの悲しむ顔は、見たくない
――リサーナの寂しそうな視線に、気が付いてから…
――ナツの近くにいない方が、いいのかもしれないと思ったんだ…
――けど……それで、逆に気付いちゃったんだ……あたしの気持ちに…
見事ルーシィの腕の中に納まったハッピーは、腕の中から見上げたルーシィの表情に耳を垂らした。
「……ルーシィ? ごめんねオイラッ…ナツもまさか燃やしちゃうなんて思ってなかったんだよっ……ルーシィ」
ハッピーの声に、目を合わせたルーシィは優しく微笑んで、その頭を撫でた。
――ごめんね。ごめんね。
――あたしも、好きなんだ……
――だから、一緒にいたいの
――笑い合いたいの
――でも……リサーナの事だって、大事なの
――そんな悲しそうな顔しないで…
――どうせあたしなんか、いい反応返してくるおもちゃ扱いなんだから…
ルーシィは眉をよせ、困ったように笑ってハッピーを見つめた。
「フフフッ。どうしたのよハッピー。もうっしょうがないんだからッ」
「へへへへっ」
――胸が痛いよ
ハッピーとルーシィの様子にへそを曲げたナツは、背を向けカウンターの反対側の端に行ってしまった。そこに視線を投げれば、ナツの前にファイアドリンクが置かれたところだ。
――ねぇ、そっちに行かないで…ナツ……
「ほらっ。ナツ、元気出してっ」
「クッソぉ。ルーシィのヤツ……」
「もうっ。どうせナツが悪いんでしょっ。もうちょっとたってから、また謝ってみたら?」
「……おう」
リサーナから渡されたファイヤードリンクを一気に飲み干すと、ナツはカウンターのテーブルにドスンと上体を預け目を閉じた。
――ナツ…
その姿を、優しい目で見つめるリサーナ。
――リサーナ…
*
「ルーシィっ!」
ルーシィはギルドの酒場のカウンターのいつもの席に座り、そこで本を開いていた。先ほど食事を終え、食後のカフェラテを楽しみながらの読書だ。ルーシィにとっては、至福の時間なのだろう。
ハッピーは、愛しの白猫の元へと行ってしまった。
カウンターの中から、手伝いが終わったのだろうか? 腰に巻いていたエプロンを外しながらリサーナが笑いかけてきた。そのかわいらしい笑顔に、ルーシィも笑顔を返した。
「リサーナ!! お手伝いご苦労様~」
「フフフッ。ありがとっ。 ねぇ。隣座っていい?」
まだ遠慮が見える、 控えめな笑顔。
だが人懐っこく魅力的なリサーナの笑顔に、ルーシィは隣に置いてあった鞄をどけ、どうぞとリサーナに笑顔を向けた。
「フフフフッ」
「なぁに?」
「あたしねっ。リサーナとおしゃべりしたかったのっ。だから、嬉しいなって」
「えっ。やっだぁ/// 何か照れるよ~そう言うこと言われるとっ」
照れてほんのり頬を染めるリサーナは、恥ずかしそうに笑っている。――とっても女の子らしい女の子。それが、ルーシィから見たリサーナだった。それと、ナツと仲がいいのに、ナツに振り回されることなく微笑んでいられる姿に、憧れさえ感じていた。
「え~だって、リサーナって、なんかこう…守ってあげたくなるって言うの? 女の子らしくて、可愛んだものっ! あたしも、見習いたいなってっ」
「えぇ!? 褒めすぎっ/// こっちのルーシィって、そういうキャラなの?」
ルーシィの褒め文句にリサーナは、困ったように眉を歪めた。そんな表情も――
――やっぱ可愛いな…
「アハハハッ。う~ん。そういうつもりじゃ無いんだけどさっ。リサーナって笑顔を絶やさなくって、何でもがんばってて、単純にすごいなって。2年も離れて暮らしてたんだもの。いろいろ変った事とかあって、慣れるのだって大変じゃない?」
――それに……ナツと仲がいいし
――女の子らしくって
――ナツに、女の子扱いされてるよね……
「ん~ん。そんなことないよ。エドラスと環境違うのは確かだけど、元々がこっちの人間だしねっ。新しいお店とか、出来たかな~って、ドキドキとかワクワクはするけどねっ!」
「フフッ。それはワクワクしちゃうわねっ」
「そうそう! だから、心配いらないよっ」
「そっか…よかったっ」
見つめあって笑い合うと、なんだか二人は以前からの友達だったのような空気が流れる。ルーシィは、リサーナの顔をキョトンと、覗き込んだ。
「で? どうしたの?」
「…えっと…あのさっ …ずっと気になってるんだけど……ナツってあんなキャラだったかな?」
「……へ?」
――ナ…ツの……事?
――ナツの事は、リサーナの方がよく知ってるでしょ?
「さっきから、ずーっとルーシィの背中を睨み付けてるのが気になっちゃって。前だったら、あんな一か所にじっとなんてしてなかったから」
――そっか、ナツがいじけてるから…
――そりゃ、気になるよね…何時も一緒にいるんだから
――ナツが……心配なんだよね…
「……はぁ。もう、リサーナ聞いてよっ!! あのねっ! 朝、お風呂はいってて出てきたら、ナツとハッピーが不法侵入しててね! まぁ、それはいつもの事なんだけど… 今朝は、その上部屋の中がもうっ……しっちゃかめっちゃかで!!」
リサーナは大きく口を開けた。
「……不法侵入?」
「そう。しょっちゅう来るの! あたしんちを別宅か何かと勘違いしてるんじゃないかしら? 昨日だって、あたしが帰るときはまだギルドにいたはずなのに、あたしよりも早く部屋にいてしかも部屋を散らかしてるとかどんな技使ってんのよっ!! って感じよねっ。まったくもう…」
ルーシィの額には、青筋が浮き出ている。思い出して、また腹が立ってしまうようだ。
「ハッピーのマックススピードとか?」
「あ~。そうよね。ハッピーの仕業なのねっもうっ」
「それで? 怒られていじけてるの? ナツってば」
「あ~。怒ったのはそれじゃなくって、暇だったからとか言っていたずらだか何だか知らないけど、あたしの服着て遊んでたのっ!! 信じられないでしょ!?」
「うわぁ」
心底びっくりしたとでもいうようにリサーナは、大きく口を開けた。
「ナツが着た洋服は避けちゃってもう着れなくなっちゃうし、しかも下着まで出したのよっ! もういい加減頭きて、今日は部屋に結界はってきたの」
「結界?」
「うん。魔導図書館で借りた本のを試してみたのっ。1日1回かけなきゃいけないんだけどね」
「へぇ~。すごいねルーシィ」
「つ!! そうだっ……」
ルーシィは、何か思いたった様子でカバンの中を漁り始めた。
*
「あのねっ、話し声を遮断するって言うのもあるんだっ。ナツってば地獄耳じゃないっ? 喧嘩してても、こっちの話に聞き耳立ててるんだもん。だから……あったあった」
ルーシィがカバンから取り出したのは、小さなメモ用紙。そこに書かれた内容に、リサーナは頷いた。リサーナにとっても都合のいい話だ。ナツに邪魔されないで済むのだから。
「えっとぉ、ここを一緒に読んで、この魔方陣に触れながら話すとね、お互いの話が他の人には聞こえなくなるの。面白いでしょ?」
「うん。聞き耳立てられてたら、ナツの悪口言いずらいもんねっ」
いたずらににっこりと笑うリサーナ。その表情は流石魔人ミラジェーンの妹といったところだ。ルーシィとリサーナは、そっと魔方陣が描かれたメモに手をのせ呪文を唱えた。
「じゃぁ、早速質問タイムねっ。せっかくの内緒話だからルーシィからどうぞっ」
――いいかなぁ……聞いても
――う~ん
――でも、この機会逃したら……もう聞けないかもしれないもんね……
ルーシィは覚悟を決めた様に、ギュっと奥歯を噛みしめてから、ゆっくりと口を開いた。
「…うん…リサーナって、ナツの事が好き……よね? ぁあ……えっとぉ…突然すぎるよね……あたし…」
「……へ? ルーシィ? それって……仲間としてとかじゃ……なさそうね…」
「…うん」
「待って待ってっ!! 確かに昔ね、ちょっとからかってやったのよっ……でもね」
「でも?」
ルーシィの眼差しが、リサーナをとらえたままゆらゆらと揺れている。
「って言うかルーシィ。私がナツ好きだって言ったらどうするつもりなの?」
「そっそれはっ」
「……ナツの為に、宣戦布告してくれる? ルーシィはナツのこと好きなんでしょ?」
「……へ?…///」
「あのね、ルーシィ……」
リサーナが言うには、ナツの事は仲間として、弟のような存在としては気が合うし、大好きだそうだ。幼い頃、お嫁さんごっこ感覚でお嫁さんになってあげようか?とからかえば、見事に真っ赤になるナツが面白くてかわいくて、ついついからかってしまっていたけれど――。
仲間として、妖精の尻尾の家族として、大切な存在ではあるがどうにも――。
「だって……大体ナツって、頼りないじゃない?」
「……へ? 頼りになるよっ!! あたし、何度も助けてもらってるしっ!!」
「そう? ミラ姉とかラクサスとかのが、どうしたって頼りになるしなぁ……。でもルーシィには、ナツなんだねっ」
ニンマリと嬉しそうにリサーナが笑う。なんだか自分の事のように嬉しそうだ。ルーシィはリサーナの生暖かい視線を受けて、カァァァァァっと顔を朱に染めた。
「うっ///」
――ルーシィ、かわいいなぁ
――そりゃあね、あのまま2年たってれば……違う感情もあったかもしれない
――でもね。現実私の中のナツは2年前の可愛いくって、ちょっと頼りないナツのままなんだよね
――エドラスのナツがなよなよだっただけに……余計にね
「ルーシィとナツって、そういうところ似てるわねつ」
「そういうところ?」
「うん。……初心なところっ!! いじめたくなっちゃうっ」
「ひぃっ///」
その笑顔はやはり姉譲りで、ルーシィの心の内を見透かされているようだ。タラリとルーシィの額から汗が流れ落ちると、リサーナはまっすぐとルーシィの琥珀色の瞳を見つめた。その真摯な瞳に見つめられ、ルーシィの手に緊張で力が入ってしまう。
「えっとぉ……誤解のないようにはっきり言っておくねっ!! わたしのナツへの好きは家族愛だよっ」
「家族愛って……パパやママみたいな?」
「う~ん。どっちかっていうと弟とか子供? まぁわたし、兄と姉しかいないけどたぶん……弟。手のかかる弟かなっ。ナツだってわたしの事、気の合う姉か妹くらいにしか思ってないよ」
明るく笑うリサーナ。でもどこか少し寂しそうな笑顔が気になる。
「まぁ、少し寂しくもあるけどね……ナツとは小さいころから何でも話してきた仲だからさっ……知らない間に成長しちゃったなって」
ルーシィは少し俯いた。思っていた事と違う答えが返ってきたのだ。幼馴染という存在のいないルーシィからすれば、中々とらえようのない話だ。
――でも
――リサーナはそう言っても……
ルーシィの握りしめた手が、魔方陣の中で小さく揺れた。その手をリサーナがしっかりと握りしめた。
「…ナツは……」
「ねぇルーシィっ いい事教えてあげるっ」
「え?」
「ハッピーが産まれる前、ナツのお嫁さんになってあげようか?ってからかったことがあったんだけど……ナツってばさぁっ」
「うん?」
「真っ赤になって照れてたけど、うんって言わなかったのよ。人一倍家族に憧れてるのにっ なんでだと思う?」
「??」
「…つまり~、私をお嫁さんにしたいって、ごっこでも思わなかったのよ」
「えっ」
「ナツはね、お嫁さんは別にいるって言ってた。イグニールが、会った瞬間こいつだって、きっとわかるって言ってたんだって」
「そんなの…」
「ルーシィにとってナツは、頼りになる人なんでしょ?」
「うん。困ることもあるけど……いつだって助けてもらってるもん」
「フフフッ。きっとルーシィに出会って、ナツも成長したんだよ」
――ナツを変えたのは、ルーシィだよ
――だから、わたしはまだ頼りになるナツをちゃんと知らないんだよね……
「でも、どうして私がナツ好きだなんて思っての? そりゃ付き合い長い分仲は悪くはないと思うけど」
「……うん。あたしリサーナの帰ってきた時の笑顔が気になってたんだ」
「え? なんか変な顔してた?」
クルクルと表情の変わる少女達。リサーナはキョトンと可愛い顔をルーシィに向けた。ルーシィは斜め上を眺めながら、その時を思い出しながら話しだした。
「変とかじゃなくって、怯えたような、不安そうなそんな感じかな? だから……」
「……あははっ。……ルーシィにだけはバレちゃってたかっ ……私ね、向こうに飛ばされて、混乱して怖くて不安で……でも偶然ギルドを見つけて、そこにみんながいて、でも別人で……悲しかったけど、まぁいいかって思っちゃってたんだよね。」
「ん?」
「だって、エドラスに来た方法もわからないのに戻る方法もわからないし、向こうのミラ姉とエルフ兄ちゃんが……泣くんだよね。 心からわたしを必要だと思ってくれているのが伝わってきて……そこにいてあげようって思ってたの。……そう、こっちの世界に何とか帰って来ようって、何とかしようって思えなかったんだ…」
――優しくて、可愛い女の子。ルーシィ――
エドラスに飛ばされて、初めに驚いたのはルーシィの存在。
初めて会ってけど、向こうはあたしを知っていて大雑把だけど、少し変わったなと噂されるリサーナを気遣い優しくしてくれた。男勝りで、それでいてギルドの中心にいて、いつも目を引く女の子だった。そして、ビクビクと体を震わせるナツを、叱咤して動かして、ナツもルーシィのいう事なら何でも聞いてて――互いが一番の理解者のように信頼しあっていた。
エドラスでも、ナツの隣はルーシィだった。
――ナツの事は、好き
――他の仲間より少しだけ好きだけど――恋い焦がれるって感じじゃない
――ルーシィには弟って言ったけど、私はナツをどお思っていたんだろう?
エドラスで、ルーシィと仲良くするナツに、ほんの一握りも嫉妬はなかった。ナツだけどナツじゃなくって、でもやっぱり自分の知っているナツと重なって見える時があった。それどころか、ルーシィにいじられてもずっと笑顔でルーシィの後ろを歩くナツに、ここでは一人じゃなかったんだって、ほっとしたんだよね。向こうには、ハッピーがいなかったから、ナツが寂しい思いをしていないってだけで、信頼し合う仲間が、他の仲間より近い位置に心を許し合っている人がいて、心底安心したんだ。
小さい頃ミラ姉たち達と妖精の尻尾に流れ着いて、妖精の尻尾の温かさに、ミラ姉の安堵の表情に、心底が安らいだ。いつも気を張って、眉間にしわを寄せ、私やエルフ兄ちゃんを守ってきたミラ姉は、妖精の尻尾に来て少し肩の荷が下りたみたいだった。寄りかかってばっかりのわたしは、それが嬉しくって、妖精の尻尾の仲間たちがいれば、ミラ姉が苦労しないんだって、単純に思ったんだ。だから、そこにずっといられるように、ギルドでおちゃらけてみたり、協調性を乱すナツやグレイを叱っていい子ぶってみたり、時にはかわい子ぶりっ子で、ストラウス3姉弟の居場所をわたしなりに一生懸命作ってたんだ。――ずっと一緒にいられるように。
そんな中に、私たち姉弟を見てナツが眉をよせ、寂しそうにしているのが分かったんだ。家族への憧れ――。両親のいない私達だけど、ちゃんと心の整理もついていたし、お別れもしていた。それに、姉弟揃っていれば寂しいと感じる事もなかった。妖精の尻尾に来てからは、忙しくて充実していて、そういう感情を感じる暇もなかったんだ。だからこそ、一人で仕事に行くナツの小さな背中が、悲しかった。私まで寂しくなっちゃったんだ。
それから、なるべくナツを気遣ってあげて、ナツを私たち姉弟の仲間に――弟にしてあげようって思うようになったんだよな。ギルドの大人に親のいない私たちの弟にするよりも『リサーナが嫁さんになってやればいいんじゃねえか?』って、からかわれて単純に、そっかそうだよねって思ってナツに言ったんだよな。
『お嫁さんになってあげようか?』って。そしたらナツってば、顔真っ赤にして『家族は貰うもんじゃなくって、創るもんだっ』『お嫁さんは、出会った時にこの人だって分るんだぞっ! だから、リサーナじゃねぇ』って言ったんだよね。失礼しちゃう!って思ったけど――きっとナツにはばれてたんだ。
――小さいナツが1人で頑張っているのが、可愛そうだって思ってることが…
家族を作るんだって、ナツの言葉をずっと心の中で応援してた。でも、私達姉弟の仲間に入れてっていったら、いつだって入れてあげるつもりだったんだ。
――今思えば、随分上から目線よね
――だからかな?
――ナツは仲良くしていても、ミラ姉の依頼について来る事はなかった
――もちろん、チームを組むことはなくって
――自分で手に入れた相棒のハッピー以外とは、依頼に出かけることはなかったんだよな
それがいつの間にか当たり前になってて、でもやっぱり時折見せる寂しそうな目が、必死に育ての親のイグニールを探している姿が、いつだって悲しかった。
――ルーシィってすごいな
ボーっと思考てしまっていたリサーナの視界に、キョトンとした表情のルーシィが入ってきた。
「…リサーナ?」
「……わたし、こっちの世界を捨ててたんだよ。どうせ帰ってこれないだろうって諦めて、向こうにはリサーナの居場所があったし……なのに、戻ってきちゃった。そしたら……皆が泣いて喜んでくれて……悲しませてたんだって、何で私は……」
ルーシィは震えるリサーナの肩をギュっと抱き締めた。
「そんなのっ」
「……それにね……それなのに私、ルーシィに嫉妬してた。ナツの隣にいるあなたに」
「……え?」
「だって、ルーシィを紹介するナツってば、スッゴク嬉しそうで……こっちのナツと仲良かったのは、わたしって思ってたし、私の居場所にルーシィがいるんじゃないかって……怖かったの。こっちの世界を諦めていたくせに都合のいい話だけどね」
ルーシィの温かさに、リサーナは心の内を吐露していた。
「ええぇぇ。リサーナの方が仲いいじゃないっ。あたしなんて、おもちゃ扱いよっ?!」
「フフフフッ。……おもちゃかどうかは……違うと思うけど、まぁそういう事っ! 根本的に扱いが違ったのよねっ。ナツは、ルーシィ意外にあんなに執着しないよ」
「……執着?」
「そう。男が女にする執着!! ルーシィが一人で仕事行っちゃうと、ナツってばスゴクつまらなそうで、悲しそうで、置いて行かれた……猫みたいなのよ」
段々と、リサーナの声が大きく成っていく。その表情もすっかり明るい顔だ。
「……っ///」
「あぁ~。もったいなかったなぁ」
「……何がもったいないの?」
「それはねぇ……あのナツが…「だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!! リッリサーナ!!! 何言うつもりだっ!!」
慌てた様子のナツがルーシィとリサーナの元へ突っ込んできた。ダラダラと汗を額から流している。いつの間にかルーシィは、魔方陣から手を離してしまっていたのだ。
「ちょっ!! なんでナツが……/// 邪魔しないでよっ」
「うるせぇ!! さっきから、何こそこそしてやがるっ」
「あっあんたが、盗み聞きするからっ……」
ギャイギャイと、カウンターは一気にうるさくなった。その様子にリサーナはにっこりと微笑む。
――ナツが恋に落ちる瞬間……見逃しちゃったなぁ
「もうっナツ!! リサーナはあたしとお話してるのっ!! 横取りしないでっ」
「いあ……そういう訳じゃ……」
もうっ!! と、ナツを大きな目で睨み付けると、ナツははぁと大きく息を吐きながらルーシィの隣に腰を下ろした。
「もうっ。落ち着きないんだからっ女の子の話に、割り込んでこないでよっ」
「いあ。監視しとかねぇと」
「はぁ? なにを?」
「アハハハッ。あらあらナツさん? 何か言われちゃまずい事でもあるのかな?」
リサーナの目がニヤニヤと笑っている。その表情はナツの相棒がよくする表情とよく似ている。そう。ルーシィをからかう時によくする顔だ。
「え? なになに? ナツがこんなにうろたえるなんてっ!! 教えてっ!!」
「んなっ!!」
いつもの仕返しにと、ルーシィはリサーナの悪戯に意味も分からず乗っかったようだ。ニヤニヤとした目をナツに向けたまま、リサーナの顔に耳をちかづけた。
「えっとねぇ…「だからっ…だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
ガタンと椅子が転がった音がしたと思うと、ルーシィの身体が宙に浮いた。
「きゃわわっ」
「行くぞっ」
「えぇぇ!? ちょっ!! 行くって、どこ行くのよ~!!」
ルーシィを肩に担いで、ナツはギルドを飛び出していってしまった。ルーシィの叫び声をギルドに残して――。
Fin
おまけ
「ハハハッ 行っちゃった」
「な~に? リサーナ寂しいの?」
「フフフッ…ちょっとねっ。でも」
「……でも?」
「それ以上に、嬉しいかな?」
「あら。うれしいの?」
「うんっ。だって、ナツってば、幸せそうに笑うんだもの」
「そうねぇ。ナツってば、ルーシィ大好きだからね~」
「そうだよねっ。これは、わたしの夢がかなう日も近いかな」
「フフフっ。ナツに人の家族を作ってあげるんだっけ?」
「そうっ。懐かしいねぇ~。人なんか信じないって、啖呵きってたナツ」
「そうねぇ。その割には、わたしたち兄弟をうらやましそうに見てるって、気にしてたのよねリサーナは」
「うん。だから…私の……弟にしてあげようかと思ってたんだけどっ、それも必要なかったなって、ちょっと寂しい」
「けど嬉しいんでしょ?」
「……うん。そうだよっ」
ギュっと抱き着いてきたリサーナを、ミラジェーンは優しく優しく抱きしめ返し、同じ色の頭をそっと撫でた。
「ねぇミラ姉」
「なぁにリサーナ?」
「私が帰ってきて嬉しいでしょ?」
「もちろんよっ! あたりまえじゃない」
「私もね。ナツにルーシィがいてくれて、嬉しいんだっ」
「フフフフッ」
「ナツの中で、初めて特別になった人は、ルーシィなんだよね」
「……それはどうかな~?」
「え?」
「好きの種類は違ったかもしれないけど、あの頃のナツは、リサーナと一緒にいるとよく笑っていたわよ」
「……わたし、ナツのお姉さんやれてたかな?」
「うん。とっくにそうなってたわよ。誰よりもリサーナが近くにいたじゃない」
「……うんっ。そっか……そうだよねっ」
「リサーナ―!!!!」
“ぼふっ”
「どうしたのハッピー?」
「ナツってばオイラを置いてっちゃったんだ!! オイラもルーシィで遊びたかったのにっ」
「あらあら」
「ハッピー。2人の気持ちわかってるんでしょ?」
「あいっ! ナツとルーシィと一緒にいると、オイラも楽しいんだっ……あぁお腹減ったぁ…」
ぐぅぅぅっと腹を鳴らすハッピー
「はい。ハッピー」
「わ~い。ミラありがとう…モグモグ…ルーシィの部屋入れなくなってるし……オイラどうしようかなぁ」
「大丈夫だと思うな。そのうち仲良く帰ってくるわよっ」
にっこりほほ笑むミラ。
「あい! 早くルーシィのふかふかオッパイでお昼寝したいな~」
「……ちょっとハッピー! あたしの胸じゃ不満だと!?」
「あわわっ! リサーナっ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
もうね……何が書きたかったんだよっ!!って話……