2015年04月04日~
しんしんと降る雨
グレジュビに挑戦!!でもナツル有かなぁ
時期的には……近しい未来? かなぁ……でも、そうなるとギルドが復活していないと困る……
若しくは、ギルドが解散しなかった邸で……数年後……かな?
冷たいスコールが石畳を叩いている。空から投げ出され地面にたどり着いた雨粒は、乾いていた地面に水玉模様を作って広がり……やがて、水たまりを作った。その様子に目をやって、少女は小さく息を吐いた。
もう雨が降っても、自分の性だとは思わなくなっていた。
「ジュビア。体を冷やすわよ」
ギルドの扉を内側から開け、声を掛けてきたのは同じギルドの魔導士兼、看板娘のミラジェーンだ。どこからか取り出した水色の傘をポンと開き、ジュビアの頭の上に掲げてくれる。
「ミラさん」
「ギルドが静かで、寂しいわねっ」
「……はい」
「後、2・3日の辛抱よ?」
「はい。1週間の予定でしたよね」
「……中で待ちましょっ」
自分の所属するギルド『妖精の尻尾』の最強チームが、そろって依頼に出かけたのは数日前だ。その依頼内容は危険が伴うモノらしく、他のギルドとの共同の特別なミッションだ。
――最強チーム
――彼らは強い
――個人個人、妖精の尻尾の主要メンバーだ
――普段強い個性でぶつかり合っているが、それぞれの長所がかみ合うと、1+1 がいくつにも増えていくのだ。
そんな彼らは、ギルドに特別な依頼が入るとマスターに指名されることが多い。今回も、チーム内のそれぞれのメンバーが別の依頼に向おうという時、緊急招集され現地に送り込まれてしまったのだ。
――そうだ
――もう4日も、グレイ様の姿を見ていないんだわ
酒場のカウンターの席に座りジュビアは、ミラジェーンが出してくれた紅茶を口に運んだ。
普段このカウンターの端から3つ目の席には、グレイが座っている。その隣には、ジュビアの恋敵。その隣の一番端には恋敵にベッタリのグレイの好敵手ナツが座り、恋敵のルーシィを挟んで口げんかを始めるのが常だった。そして乱闘になっていくのだが、彼らが出掛けている時、端から3つ目の席にジュビアが座るのもまた常だ。
紅茶を用意してくれたミラジェーンは、他の用事で調理場に引っ込んでしまった。カウンターの数個ある席に、今はジュビア1人。 窓から外を眺めれば、大きな雨粒が石畳を叩きつけ、そして窓の隙間から石畳を叩きつける水音がジュビアの耳をくすぐった。
――グレイ様に会いたい
――…送り出す時のグレイ様……何か怒ってらしたような…
――どうしたのでしょう……?
――ジュビア……何か気に障る事でもしてしまったのでしょうか……
――はぁ……グレイ様…
雨音を静かに耳に響かせていると、その音をかき分け魔導2輪の爆音が鳴り響いてきた。雨音を打ち消すように轟音を立ててギルドに向かってくるようだ。
ジュビアは、走り出していた。
ギルドの扉に向かって。
扉の前までたどり着くと、魔導2輪の轟音はジュビアが思った通りギルドの前で止まった。
そしてジュビアは、魔導2輪をとばしていた人物を迎え入れようと、扉を押し開けた。会いたかった人が帰ってきたのだ。花が咲くように、ジュビアの表情も先程とは打って変わって明るいものだった――。
「グレイ様!! お帰りなさいま……っ!!」
ジュビアの視界に、見たくないものが映ってしまった。グレイの腰に腕をまわし しがみつく少女の金色の髪が、揺れている。
その金髪の人物をグレイは、魔導2輪の後ろから抱えて降ろしてやった。抱えられてやっと片足をつくとルーシィは、ジュビアを視界に映し微笑んだ。
「あっ。ジュビア!!」
屈託ない可愛らしい笑み――可愛いルーシィ。
グレイが特別に可愛がっているのが、この少女だ。ジュビアにはそう見えている。ジュビアは胸にモヤモヤしたものを感じながらも、いとしのグレイ様にお迎えのあいさつを――。
「こ~い~が~た~き~!!!! いつまでグレイ様にくっ付いているんですっ!? 離れなさ~い!!」
「ひぃぃぃぃぃぃ!!」
ジュビアのグレイ様を守ろうそする気持ちが、暴走をしてルーシィを襲おうとしていたが、あるものがジュビアの視界に映った。その途端、ルーシィにむいた嫉妬の熱が、シュンっと引っ込んでしまったようだった。
「……グレイ様。お帰りなさいませっ」
「おっおう。ジュビア、こっちは変わりないか?」
「じゅ、ジュビア?」
グレイとの会話に、窺う様なルーシィの声が割り込んできた。ジュビアはグレイに笑顔を向けたまま頷き、その後ルーシィに視線を向け直した。
「ええ。ギルドはいたって平和でしたよ。グレイ様。……ルーシィ。ケガは、酷いんですか?」
「あっ。はははっ。ちょっとねっドジっちゃって」
「いあ。あれは、オレのミスだ。ジュビア医務室のドア開けてくれっか?」
ルーシィの腕や足に包帯が乱雑に巻かれ、頬にも擦りむいた傷が見えた。どこかから滑り落ちたかのような怪我だ。
事情を聞けば、最強チームでの依頼は――闇ギルドと思しき組織の壊滅――。一挙に奇襲をかける為、他のギルドと手分けしてアジトの周りを探っていたのだという。組織の人物であろう男達が1ヶ所に集まるのを待っている時だった。崖の谷間を探索中、組織の人間の気配を感じルーシィを抱えグレイは、すばやく足場を氷で作り谷間の道から退避したのだ。普段であればなんてことのない事だったはずだが――。
今回に限って、グレイがミスをしたのだ。
うまく姿を見られなかったまではよかったのだが、ルーシィを氷の足場に残したままグレイは組織の男を追い、取り残され慌てたルーシィが何とか岩場に降りようとしている時、グレイはその足場を消してしまったのだ。重力に逆らえずルーシィは、結構な高さから崖を転がり落ちたのだ。すっかりルーシィの事を失念していたのだろうが、グレイらしくなかった。谷底に叩きつけられる前にルーシィは星霊によって保護されたのだが――それまでに怪我をおってしまっていたのだ。
今はまだ、ナツやエルザが依頼の遂行にあたっている。他のギルドも加わっている難易度の高い仕事だ。今、この間も人手が足りていないはずだ。
「ウエンディいねぇのか?」
「……確か、ポーリュシカさんからの依頼で、一緒に薬草の採取に言っているはずですが……」
「……じゃぁ、森の奥の方か…じゃーねぇな。呼んでくっか」
「グレイ!! あたしは大丈夫だからっ!! それよりもっ」
「……そんな浅いキズじゃねえだろっ…痕が残ったら…くっそっ……若い娘が……すまん」
「もう謝らないでってば。こんなの掠り傷よっ!! いい加減にしてっ!!」
「ルーシィ!! グレイ様はルーシィを心配してっ」
「ジュビアッ!」
言葉をはさんできたジュビアを、ルーシィは制した。グレイが自分を心配しての行動だという事は、ルーシィも痛いほどわかっている。だが、ルーシィからすれば現地に残してきてしまったチームメイトの方が気がかりである。
「心配されるほどの事じゃないのよ。あたしだって魔導士なんだし、こんな事よくあるわよ。そもそもグレイに送ってもらわなくても…それよりも……仕事の途中で帰ってきて……大丈夫かなナツ達……」
「……あいつ等なら…大丈夫だろっ。殺したって死なねぇよっ。とりあえず近くの診療所行くぞ」
グレイがルーシィの手を引いて、抱え上げようとした時、その手をルーシィは振り払った。
「いいってばっ。それくらい1人でも行けるっ」
「……はぁ? 何だ? さっきっから駄々っ子みてぇに」
「駄々っ子じゃないもんっ。グレイが、過保護なパパみたいなのよっ」
「……なっ」
「あたしは自分で診療所に行くわ。……グレイは、仕事に戻って!!」
「……だから、平気だろうよ。ナツだけじゃねぇエルザもいるんだぞ?」
「もうっ!! だからよっ!!事情も説明しないで戻ってきちゃって……もし変な勘違いして……怒りに任せて、ナツとエルザが何するか……」
「……あぁ」
ルーシィの目はどことなく怒っているようだった。
それも仕方ない。グレイは怪我をおったルーシィを抱え、本部に戻り事情の説明もたいしてせず、ここまで戻ってしまったのだ。本部で指令をだしていた青い伝馬のヒビキが、別行動していたナツやエルザに説明してくれているとは思うが――いささか不安が残っている。仲間がケガを負ったと聞けば、残してきたナツやエルザは――。
――ちゃんと事情の説明位させてほしかったな……
――ナツ。エルザ。ハッピーも
――心配してるだろうなぁ
ルーシィに追い立てられ、グレイは仕方ねぇと魔導2輪にまたがり来た道を戻って行ってしまった。
まだ降り続ける冷たい雨に、打たれながら――。
[newpage]
その頃ナツとハッピー達は――。
「クッソォ…ルーシィ…」
「……グレイが着いてる。大丈夫だ」
ナツは、拳を握りしめ静かに奥歯をギリッと鳴らした。ナツの様子を見て 落ちつかせる様にエルザは、その隣に歩み寄った。今ナツとエルザ、ハッピーは持ち場について突撃の合図を待っている。闇ギルドらしき集団が全員、アジトにもどってくるのを待っているのだ。
「でもエルザ……そのグレイがいたのに……ルーシィは…」
「ああ。だが、グレイだ。ルーシィが怪我を負ったんだ。もう、気合は十分入っているだろう」
グレイがルーシィを連れてギルドに戻ったと青い天馬のヒビキが、アーカイブで映像を送ってきた。ヒビキの視界からの映像だろうか? ――ルーシィを抱えてグレイが、一旦ギルドに戻ると伝えていた。そしてそこに映ったルーシィの声が、ナツに耳には聞こえていた。痛みに歪む声であったが、意識はしっかりしていて、怪我をして落ち込んでいるというよりも、怒っていて――残される自分たちを心配していたのだ。
ナツは目を瞑ってフッと短く息を吐き、意識的に口角を持ち上げた。そして小さな相棒の青い頭に暖かい手をのせた。
「あぁ。大丈夫だハッピー。ルーシィ平気だって言ってたぞっ」
「え? オイラには聞こえなかったけど…」
「オレには聞こえたぞっ」
「……そっかぁ……早く仕事終わらせて、ルーシィに会いたいねっ」
「そうだな」
「……では、そろそろその仕事に集中しろっ!! 馬鹿者がっ」
ハッピーの頭を撫でるナツの手は、いつもより熱い。
普段であれば、ルーシィと一緒に行動するのはナツとハッピーであったはずだ。だが今回は、グレイ自らルーシィと組みたいと言ってきたのだ。何か空き時間に相談があるとかルーシィに耳打ちしていたのを、ナツの耳はひろっていた。その様子にイラつくものもあったが、ルーシィが何やらいたずらに笑っていたので、少しおもしろそうだと思ってしまったのだ。
それが――自ら作った氷の足場から、ルーシィを落下させてしまったのだというのだ。
わずかにルーシィの悲鳴が、離れていたナツに届いていた。ナツの腸は煮えくり返っているし、後から伝え聞いただけのルーシィの怪我も気になっている。
『ナツ、エルザ心配ないから、ごめんね仕事に集中して!!』
ルーシィからの言葉。
そしてきっと自分を心配する仲間を、心配するだろう。ナツには容易に想像できた。
ここで、この仕事を失敗させる訳にはいかないのだ。
そして、いけ好かないあいつも今、自らを相当攻めているだろう事も容易に想像できたし、叱咤されて目が覚めたであろう。行先は我がギルドだ。そこに帰れば、怪我を癒してくれるウエンディもいるから――ルーシィは大丈夫だ。
――こっちは任せておけっ!!
相棒に頭をこねくり回され、ハッピーは目を細めた。そうだ。今やれることを、しっかりやらなくては! 帰ってからルーシィに笑われてしまうし――妖精の尻尾の名が廃ってしまう。
そしてまた、ヒビキからの定期連絡がアーカイブで脳にインストールされた。
「ナツ、ハッピー。…グレイが戻るようだな。到着次第、合流。…夜明けを待って、突撃だ。決して騒ぐんじゃないぞっ!!」
「……ああ」
「報酬全額貰って、ルーシィに喜んでもらおうねっ」
「……おう。だなっ!!」
ナツは、握った拳を自らの手にあて、気合を入れた。
“パァァァァァァン!!”
“ドカッ!!!!”
「静かにしていろと言っただろう!!」
[newpage]
「……ルーシィ酷いです。グレイ様のご厚意を!!」
「ご厚意って……いいのよ。あれくらい言ってやんなきゃ、グレイの過保護はどうにもならないもの」
「じゃ、じゃぁ、ルーシィが甘えなければいいじゃないですかっ!! ジュビアうらやましい」
「……うらやましいって…あんた……」
ルーシィは呆れた顔をジュビアに向けた。そんな視線を向けられても尚、ジュビアは表情を崩していない――怒ったままだ。しばらく収まってくれそうにない友人の怒りに、少々可愛らしいものも感じる。それに、うらやましくもあるのだ。
――ジュビアって、まっすぐでかわいいなぁ
――あたしも……これくらい素直なら……
今ルーシィは、ジュビアの肩を借りてギルド近くの診療所で治療を終え、ギルドに戻ってきたところだ。ジュビアはもう、ずうっと怒っているのだ。診療所に向かう時も、待合室でも、治療中ですら。ルーシィがケガを追っていなければ、身の危険を感じるほどに――。
まるで怒っていなければ、心配に胸が押しつぶされてしまうとでもいうように――。
――ジュビアったら……
――……そりゃぁ……心配だよね…
ジュビアの様子にルーシィは眉を下げて、その白いの首にふーっと息を掛けた。ビクッっとジュビアの身体が揺れた。そして勢いよくルーシィへと抗議の――涙を湛えた視線を向けた。その視線にルーシィは、にっこりと微笑んで返した。
「……大丈夫だよ。あたしはこんなだけど、ナツもエルザも、ハッピーだって一緒だよ」
そう言うと、ジュビアの震える肩にポスンと金髪の頭が寄りかかってきた。ルーシィの優しい声色に、ジュビアの張りつめていた糸が、プツリと切れてしまったようだ。
「うっ…わ~ん。ルーシィ。グレイ様どうしたのでしょう? ……ジュビア、グレイ様に嫌われる様な事、してしまったのでしょうか……グレイ様、ジュビアに至らないところがあるなら……罵ってくだされば……」
「いや、グレイは罵らないでしょうよ……何か心当たり、あるの?」
ジュビアは静かに首を横に振った。
今回の最強チームの依頼は緊急の要請であった為、準備も出来ずに強引に出発させられたのだ。依頼に向う際、グレイが大きなため息をついていたのが、ルーシィにも引っかかるものがあったのだ。案の定、依頼先でのグレイはどこか気が入らないようで、普段はやらないミスを連発し、心ここにあらずと言った感じだった上に、ルーシィに相談があると話すチャンスを窺っていたようだった。だからこそ、別行動の時にグレイの誘いに乗ったのだ。結局話は出来ないまま、今に至るのだが――。
それに――、先ほどのジュビアとのやり取りは、グレイらしくなく 不自然だった。グレイはほとんど、ジュビアと目を合わせなかったのだ。俯く青い髪の少女に、ルーシィの心も痛みを訴えた。
「……思い当たることは、何も…。 一緒に向かうはずだった依頼も、結局お流れになってしまいましたし」
「依頼? そういえばあんた達、依頼受注しちゃってたんでしょ? どうしたの?」
「ええ。先方に相談したところ、グレイ様といっしょでないとダメだという事で、また後日と言われてしまいまして…はぁ……グレイ様」
しょんぼりと肩を落とす友人が、なんだかとってもかわいいのだ。ルーシィは寄りかかったままギュっとジュビアに抱き着いた。
「…じゃあ、グレイもその依頼行きたかったんだね。それまでは、普通だったんだもんね」
「責任感の強いグレイ様ですから、受注していた依頼に行けなくなってしまって……心を痛めてらっしゃるんですっ」
ジュビアの下がっていた眉が、少し上を向き始める。グレイの様子を懸命に思い出していたルーシィは、ポツリと気になることを口にした。
「…うーん…や~っぱり、ジュビアと行くはずだった依頼に何かあるんじゃない?」
「……え?」
「ねぇ……詳しく教えてくれない?」
グレイとジュビアが受注していた依頼
それは1年程前に行った依頼主からの指名の依頼だったそうだ。
その依頼は、魔水晶を使ったアクセサリー開発のアシスタントなのだという。何でも季節限定で水の魔水晶を使ったアクセサリーを開発するという事で、水を扱えるジュビアと、造形魔導士のグレイが指名されたのだ。
造形魔導士として、グレイの作り出す氷は、繊細でいて細部まできれいなモノばかりだ。並みの魔導士とは、格段に出来が違う。グレイが形を作り出すことにかけて、秀でた才能を持っているのは周知の事実だ。
グレイが頭の中で作り出すイメージ、それが氷として形になる。その想像の力が造形魔導士の強さにまで関連してくるのだともいう。依頼では、グレイが図面や伝え聞いたイメージから造形し、造形したものを型にして、魔水晶をアクセサリーとして生成するのだという。その生成をジュビアが手伝ったのだそうだ。水の魔水晶は、その形が掴めないだけに、扱いが難しいのだという。
今ジュビアの胸に飾られているペンダントのトップも、その時に生成したものの一つらしい。水と氷を閉じ込めた様なそのデザインは、何ともジュビアによく似合っていた。
――そう言えば、グレイなんかポケット気にしてたな……
「ふうん。………………もしかして……そういう事かっ……な?」
「え? ルーシィ何かわかったんですか!?」
「へっ!? いやっ……確信ないからまだ何とも、でも多分……ジュビアのとって、いいことの前触れかもねっ」
そう言って目を細めたルーシィが優しく微笑むと、眉を下げたままのジュビアも力なく微笑んで返した。
「なんですか、ルーシィだけ勝手に納得して……あっ」
「……雨……やんだねっ」
ルーシィはなんだか、嬉しそうな顔をジュビアに向けた。その笑顔に、暗い顔しててもしょうがないですしねっと、ジュビアもつられて笑う。
きっと、彼らは元気に帰ってくるだろう。
「ねぇジュビアっ。その仕事、楽しみだねっ」
「ええ。延期してくださったので、グレイ様が帰ってらしたらまた、窺います」
フフフと、ルーシィは笑顔を浮かべている。その横顔は、女であっても可愛らしいものだ。くっきり二重の大きく可愛い目に長いまつげ。小さな鼻と、ぷるんとしたピンク色の唇。何よりも笑顔が似合う少女。
――世の男性は、こういう可愛らしい女の子が好きなんですよね……
――やっぱりグレイ様も……
――ルーシィの事を……
――でも、ルーシィは……
ジュビアはチラリと、すぐ横にいる友人の横顔を眺めた。大きな琥珀色の瞳は、キラキラと輝いて見える。
――ああっ……グレイ様…
――グレイ様は、ジュビアが、
――絶対幸せにしてみせますからっ!!
ボーっとルーシィの横顔を見つめていたジュビアの視界で、クルンとルーシィが振り返った。
「早く帰ってこないかしらねっ! あいつ等」
「……会いたい……ですか?」
「…うんっ。いつも一緒にいる時は、ウザいぐらいなのにね……」
「一緒にいないと落ち着かないとか?」
「ん~。そうなのかなぁ…ただ、大丈夫かなって……心配してるだろうし……」
「……ルーシィはいいですよね。チームも一緒なんですからっ」
「へ? チームなんて関係ないじゃないっ」
「え?」
「ただ……一緒にいるだけだよあたし達は。それじゃ、結局仲間止まりだもの」
「……そんなことっ、十分仲がいいじゃないですかっルーシィ達は」
そうかなぁ~。とルーシィは寂しそうに微笑んだ。
――あんなに好かれていて、何が不満なのでしょう?
「あいつからしたら、からかいがいのあるチームメイト! なのよね……あたしは、女の子なのにね……」
小さく呟いたルーシィがキィッとギルドの天井を睨んだ後、クルンと振り返りジュビアに体を向けた。
「ねぇジュビアっジュビアって、やっぱり青が好き?」
「えぇ。……まぁそうですね。好きですよ青」
「それって、水の色だから?」
「……いいえ。グレイ様が見せてくれた、碧空の色だからです」
「フフフッ……ジュビアって、やっぱり可愛いっ」
何かをたくらんでいるルーシィの顔が、少し気になるがジュビアはゆっくりと瞬きをして、窓の外の空を覗いた。
――こんなにも空は広い
――すべて
――グレイ様が、気づかせてくれた
――今は、違くても、きっとふり向かせてみせます!!
――グレイ様を幸せにするのが、ジュビアの夢なんです
――グレイ様、どうか無事に帰ってきてください
「よぉ…」
「……着いたか。グレイ」
「……ナツは?」
「今、仮眠をとらせている……ルーシィは?」
「あぁ…本人が自分で医者行くってんで、ギルドに置いてきた」
「そうか、ルーシィがそう言ったのなら、大丈夫なのだろう……お前は、大丈夫なのか?」
暗がりだが、はっきりとエルザの怒気がグレイには伝わっている。
「……悪かった。ちゃんと集中出来てなかった。姫さんにも怒られちまったし……もう大丈夫だ」
「そうか……しっかり頼むぞ」
「……あぁ」
エルザとグレイから少し離れたところでナツは、背を大木に預けその会話を聞いていた。
許せなかった。自分からルーシィと組みたいと言って、ルーシィもなんだか楽しそうにそれを快諾していた。あいつ等は元々兄妹のように仲がいいから、何か相談事でもあるのだろうと、面白くはないがしぶしぶオーケーしたんだ。
それが――、
一報が入ったのは、ルーシィ達と別れてから数時間後だった。うまく怪しい奴等とそのアジトと思しき廃墟の周辺を囲み、皆情報を収集していたはずだった。
ナツは高い木に登り、目を閉じ耳を澄ませ、神経を探索に集中していた。
だから、グレイとルーシィの元へ依頼の闇ギルドと思しき奴らの仲間が近づいていき、グレイが何かしてそいつらに見つからずに済んだのが、手に取るようにわかっていた。
ルーシィ達の会話も気になったが、これは仕事だ。与えられた役割を、全うしなければならなかった。気にならなかったわけではないが、自分の後ろにドドーンと構えている緋色の髪の鬼に監視され、そちらにばかり気を回していられなかったのだ。何とか敵を交わしたので、他の動きに集中していたのだ。
そしてナツの耳がひろったのは、小さな小さなルーシィの悲鳴だった。そして遅れて焦った声を上げるグレイ。ルーシィが痛みを含んだ声で、うろたえるグレイを叱咤する声。その声は痛みを含んでいたが、強い意志も含んでいた。
『仕事中なのよっ。謝るくらいなら、仕事に集中してよっ。しっかりしてっ』
それから暫くして、青い天馬のヒビキのアーカイブとやらで頭に映像がアップロードされたのだ。
そして今、そこにグレイだけがいる。
拳を握りしめて、直にグレイに殴り掛かりたいのをグッとこらえた。依頼をほおり出してしまえば、負った怪我よりも大きな傷を心に背負ってしまうのが、ルーシィだから。責任感の強いルーシィが、いう事が解っていたから、ハッピーを慰める事も出来たんだ。
ナツは戻ってきたグレイを視界に入れ、ゆっくりと体を起こした。そして無言でグレイの脇に立った。
「……エルザ。交代だ」
「あぁ……すまない」
エルザが静かに立ち上がり、ナツとグレイの肩をポンとたたいて、ハッピーが眠っている脇に歩み寄り腰を下ろした。
「……大丈夫か?」
「…自分で出来るからって追い帰されちまった…」
「ルーシィじゃねぇよ。テメエだっ」
「……あ?」
「いつまでも腑抜けな顔してんじゃねぇぞっ!! パンツ野郎」
「…ちっ……クソ炎……テメエに心配されることはねぇっ」
「そうかよっ……服着ろ変態…」
「う…」
この依頼に来てから服を脱ぐのも忘れるくらい難しい顔をしていたグレイは、つきものが落ちた様に何時の様に服を脱いだ。その様子に、少しの安心。
――後は、無事仕事を終わらせて……
――ルーシィの顔……早く見てぇな……
[newpage]
夕飯時を過ぎた夜、ギルドの酒場が一層騒がしくなった。
最強チームのお帰りだ。
ルーシィがケガで帰ってきてから、3日目の夜だった。
「ルーシィィィィィィィィイイイ!!!!」
「帰ったぞぉぉぉぉぉ!!!!」
開口一番ルーシィの名を呼び、その名の持ち主の元へと青色の塊が突進していく。そしてその後ろをドタドタと音を立てながら、唇を尖らせたナツが走り寄っていく。ルーシィはハッピーを腕に抱え込み、ナツの表情にタラリと汗と流しながらも「おかえり~」と2人に笑顔をむけた。心配していたのであろうナツも、ハッピーもルーシィの笑顔につられ、その顔に笑顔を咲かせている。
そこに報告を終えた、エルザとグレイも加わった。皆笑顔だ。依頼は、成功を納め報酬もしっかりもらえたようで、ルーシィがほっとしているのが、ジュビアの位置からも見えた。そして、何やらグレイのズボンのポケットを指さしルーシィがニヤニヤしている。
「ジュビア――!!」
ルーシィの声が、ギルドの酒場に響く。笑顔のルーシィが、呼んでいる。その傍らには――グレイ様。
――グレイ様の顔、少し赤いです?
「おかえりなさい。グレイ様っ」
「おう。ジュビア……世話掛けたなっ」
グレイの優しい眼差しに、ジュビアの緊張は解かれていった。
――きっと、体調が悪かったんですねっ
――ジュビアには気を使わないでくれたんですよね! グレイ様っ
――それは……もはや夫婦では!?
「ジュビビィ~~~~ン!! いえっ! グレイ様の為でしたらジュビアはっ」
グレイがルーシィを連れて帰ってから、ジュビアはたまに悪態をつきながらもルーシィを看病していたのだ。翌日帰ってくると思っていたウエンディが、帰ってきたのはつい先日で、それまで利き手が使えず不便そうなルーシィの世話を、買って出ていたのだ。と言っても、無理やりではないが――ただ、グレイがいなくて、ジュビアに時間があったのだ。ウエンディが帰ってきて傷の手当てをしてくれたので、その役目も終わっていたのだが――。
――ルーシィったら、グレイ様に告げ口
――ん? 褒められたんだから、いい事言ってくれたのですぅ!?
――どっちにしても、今日もグレイ様はステキです
ジュビアの体をくねらす様子に、グレイと目を合わせてルーシィは微笑んだ。そして、ルーシィがニヤニヤと笑いながら肘でグレイの脇腹をつついた。それに急かされるようにグレイは頬を掻きながら、ジュビアの前に握った手を伸ばした。ナツとエルザも、どこか楽しそうな顔をしている。ハッピーにいたっては、既に大きな丸い目を三日月型に変えにやける口元を隠している。
「グレイ様?」
首を傾げるジュビアの手を取って、そこに小さな箱が置かれた。
「まぁ……そのなんだ……依頼いっしょに行けなかった詫びだ」
「……グッグレイ様が……ジュビアにっ!!」
「おっおうっ///」
頬を染め、目に涙を浮かべて大げさに喜ぶジュビアの姿に、つられる様にグレイの顔も緩んできている。
「……まさか……結婚指輪では!? ああぁぁ、グレイ様からのプロポーズ!!」
「おいおいっ…どこまで妄想してんだ……」
「アハハハッ。さっすがジュビア」
「あい」
「まぁ、そういうとこが……」
「……かわいのだろう。グレイ?」
「おいっ!! お前らっ///」
顔を染めたグレイは、生暖かい笑顔を浮かべるルーシィとハッピーの頭をこつき、エルザに睨みを利かせ、ナツには鉄拳制裁。すぐにそこに火と氷の柱が立った。
「やれやれ。グレイがあれでは、進む話もなかなか進まんな」
「ハハハ。でも、グレイもいろいろ考えてるみたいよ?」
「ん? 何か聞いてるのか? ルーシィ」
「なになに? ルーシィ教えてよっ」
ルーシィの情報に、ワクワクと目を輝かせるエルザとハッピー。エルザに顔を近づけると、ルーシィは耳打ちした。ハッピーの耳もピクリピクリと動いて聞き耳を立てている。
『グレイってばね~。サプライズ的な何か、企んでたみたいよ~』
『むっ?』
『ほら、今回の緊急依頼の前に、ジュビアと依頼請けてたじゃない?』
『そういえば……』
『予想なんだけど……』
『あいあいっ』
『なんとっ、世界に一つのアクセサリーでも作って渡したかったんじゃないかなっ。って思うんだけどっ』
『ほぉ……なかなか憎いことを考えるな、グレイは』
『あいっ。これはもしかして……』
『そうそう。それで、とうとう告白とかっ』
『あり得るなっ』
「キャー/// そうだよね~!!」
「あいっ。ヘタレ返上だねっ!!」
「そうだなっ!! 頑張るんだぞっグレイ!!」
ぼそぼそと、耳打ちしながらルーシィとハッピー、エルザが盛り上がって声を大きくすると、顔を朱に染めたグレイが、ルーシィの口を塞いだ。
「おいおい、姫さん何言ってくれちゃてんだぁ!?」
「テメェ変態っ!! ルーシィに触んじゃねぇ!!」
「はっ!! 姫さんは、テメェのもんじゃねぇだろうがっ!!」
「んだとぉ!? じゃぁ今からオレのもんだっ!! いいよなルーシィ!」
「フガフガフガ~///」
「ぶはっ!! お前どさくさに紛れて何告ってんだよっ」
グレイに口を塞がれていたルーシィは、全身を真っ赤に染めその動きを止めている。ルーシィから手を離すとグレイは、頬を掻きながらその背をナツに向かって軽く押した。グレイから混乱するルーシィを受け取ると、ナツは愛おしそうにその身を抱きしめ『オレのもんだぞっ』と嬉しそうに言った。
「……言ったな?」
「あい。言っちゃいましたね…?」
エルザとハッピーは顔を見合わせて、ニヤリと笑い合った。ヤキモキしていた関係が、こちらの方が先に落ち着きそうだ。
そして、なんだか騒がしくて妄想に集中できなくなったジュビアが、怪訝な顔をそこにむけた。
――もうっ!!
――ジュビアの幸せな未来映像を……誰です騒がしいっ
――っ!!
目の前にはパンツ一丁のグレイの背中がある。ジュビアは一瞬で我に返り、グレイの腕に手を回した。
「はっ!! グレイ様っ ジュビアったらまた自分の世界に入ってしまっていました!! これあけてもよろしいですか?」
「……っ/// ここでか?」
「はいっ! 今すぐ確認を……///」
小さな包みを手に、目に涙を浮かべ歓喜に微笑むジュビア。ルーシィを抱きしめているナツも、抱きしめられて茹蛸になっているルーシィも、それを生暖かい目で見つめていたエルザとハッピーも、皆顔を見合わせた。
そして、一斉にジュビアの手元を覗き込む。
その中身は――小さな指輪の台座。
頭に?を浮かべる最強チームの面々を他所に、グレイが必死に言葉を紡ぐ。
「いや……そのっ/// ……今度その台座にのるもん、創りに行こうぜ」
ジュビアに握りしめられたメッセージカードには
『I promise I'll make you happy.』
ジュビアの傍らには、真っ赤に染まった顔を手で隠すグレイの姿があった。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
I promise I'll make you happy.→ 必ず幸せにすると誓う
って事らしいので使って見た(*’▽’)♪
グレイ様のセリフが決まらなくって、英語の告白とか検索してみたのさ…_(:3)∠)_