2015年02月19日
あいつに好きな子?
以前Twitterで呟いたネタの清書版かな?
『ナツのヤツ、好きな奴で来たらしいぞっ』
『おおっ。やっと気づいたらしいな』
『そうそう。いつまでやきもきさせんだよって思ってたもんな』
『……そうだけどよう……ナツに先こされるかもしれないと思うと……』
『あぁ……』
『しかもあんな、かわいこちゃん……』
最近、魔導士ギルド 妖精の尻尾 は、この話題で持ち切りだ。 ギルドのお騒がせNO.1魔導士 ナツ・ドラゴニルは、まだどこか幼さを残した少年だ。 強さを求めるばかりで、まったくと言って恋愛という言葉が似合わない存在なのだ。 似合わないだけではなく、本人自体が恋愛に興味もなさそうだったのだが――。
――ナツに好きな人が出来た――
今ギルドで もちきりの話題だ。その話の内容に、ルーシィは戸惑っていた。
まさか、ナツに!? という驚きと――置いて行かれたような焦り。
ナツは何時だって自分の近くにいて、一緒に笑って、泣いて――ルーシィを特別仲のいいチームメイトだと、思ってくれていただろうし、ずっと一緒だ。 一緒にいるけど、男女なんか匂わせないから
――あたし達はこのままがちょうどいいんだ
――そう思っていたんだ
――だって、恋愛どうこう言わなくたって十分楽しいし、毎日が充実していたんだもん
――1番近くにいて、あたしと一緒に歩んでいってくれるい人
――そう思ってた
――でも、
――本当は、相手がお子さまだからと、自分の気持ちをセーブしてたんだ
――気持ちに蓋をして、気がつかないようにしていたの
――自分の中の淡く色付くのを待っていたナツへの想いは、どうしたらいいのだろう?
――どこに持っていったらいいのだろうか。
でも、ただの噂なのだ。噂に振り回されてはいけない。だってあのナツなのだから――。ギルドでの噂を否定してほしい一心で、自宅に不法侵入してきたナツを捕まえて、ルーシィは尋問したのだ。
本当に――好きな人がいるのかと。
「……はぁ。…ルーシィ…オレだって、好きな女くらいいるんだぞっ」
ため息交じりのナツの返答を受け――ゆっくり間をあけて、金髪の少女が桜頭に向かって揺れる瞳を向けた。
「……え?」
純粋に、驚いたという顔。そのルーシィの表情に、ナツは苛立ちを感じているようだった。最近ギルドで噂になっていたから、きっとルーシィの耳にも届いているだろうとナツも思っていた。確かに届くは届いていたようなのだが――。
――なんで、そんなに驚くんだよ。
――俺に好きな奴って、そんなに変なのかよ……落ち込むぞ……
実はギルドに流れる噂は、ナツが自分でふれ回っていたものだ――。何もかも、ルーシィに異性として意識してもらうために――。
先日、ナツはめでたく自分のルーシィにむける執着の正体を知ったのだ。まぁ、うすうす自分でも、ルーシィが特別だという事くらい 気が付いていた。ルーシィは他の仲間とは違う存在なのだと。
――それにしても、ルーシィめ……
――面と向かって、確認するか? 普通……
――ガセネタだとでも思ってやがったのか?
――オレに、恋愛は早いのだと――。
――そこまで男として――見られていないという事なのか。
最近自分の気持ちに気が付いたナツは、身近にいたギルドの男たちに相談したのだ。ルーシィを好きなのだが、どうしたらいいのかと。 自分の気持ちに気が付いたからと言って、意中の相手はルーシィだ。恋に憧れていはいるようだが――まだ恋を知らないようだし。――まったくもって自分を、男として意識している節がないのだ。
すると、ギルドの大人たちがため息交じりに、「そりゃ近くにいすぎて、今更意識とかできねぇんだろうよ」といったのだ。それならばと、『オレも男だ!! 好きな奴だっているんだぞ』作戦が、始まっていたのだった。
――ドキリと、胸がなった
――ズキンと、胸に痛みが走った
ギルドで聞こえてくる噂話に混じって、それらしいことは耳にしていた。でも、頭が認めたくなかったのだ。だって、ナツはあたしと一番仲のいい男の子で、でもいやらしい目で見てくるわけでもなくって、いつだって安心できて、仲間思いで――。
――あたしを、置いていかないって思っていたのに――。
『だから、オレ好きな奴ってのが出来たんだ!!……ルーシィ協力してくれっか?』
しれっと言ってのけたナツの言葉が、ルーシィの胸に突き刺さっさたまま。目の前が真っ暗になったかに思えた。
「あ……うっうん…」
――何故自分は頷いてしまったのだろう――。
――モヤモヤする
2人は、目を合わせぎこちなく笑い合った。今までにない、乾いた笑いがそこにむなしく響いていた。
*
*
*
「ナツでも女の子好きになるのね……あたしは初恋もまだなのに!」
いつものカウンター席ではなく、同世代の仲間達でテーブルを囲んで談笑している時だった。ルーシィが不意にそうぼやくと、への字に眉を寄せた。その目は正面に座って、ハッピーとふざけ合っているナツを恨めしそうに睨み付けている。なんだかわからないが、ナツを目にすると、モヤモヤ――ムカムカするのだ。ナツはその視線を知ってか知らずか、大口を開けて食事を口に運んでいる。
――なんなのよ……ナツのくせに…
「あ~ぁ。 あたしも……恋した~い! ドキドキした~い!!」
飲み物を片手に、グンッと 手と背を伸ばすルーシィの背後に、ちょうど通りかかる影があった。
ギルドの奥へ向かおうとしていた途中、グンッと目の前に伸ばされてきた細い腕から、グラスを取り上げるとその男は、そのまま “ドンッ” と、自分の身体とテーブルでルーシィを挟む様に、そこに手をついた。 そして、そのまま赤い小さなハートが揺れる耳元に、低い声を響かせた。
「一晩付き合うなら、いくらでもドキドキさせてやるぞ」
耳に直接囁かれてから、ゆっくりとルーシィの前にグラスが置かれた。ルーシィの心臓はドキドキと高鳴っている。振り向くとそこには――不敵な笑みをたたえたラクサス。突然の事に、真っ赤に顔を染め上げたルーシィは、ドキドキと高鳴る胸を、ギュっと握りしめ、潤んでしまった大きな目で、ふざけた事を言うラクサスをもうっと睨み付けた。
「もっもう/// ふざけないでよっ」
ルーシィと視線を合わせるとラクサスはフッっと笑って、「気が向いたらなっ」と再び耳元で囁いて、ギルドの奥へと行ってしまった。 単に、からかわれただけなのだろうが――異性に免疫のないルーシィは、ポ――っとその背を見えなくなるまで見送っていた。
ルーシィの隣に座っているグレイは、あきれ顔でテーブルの反対側にいるナツを見た。そこにはギリィと奥歯を鳴らし、静かに拳を握る姿がある。
――馬鹿な奴
――ほんと……世話が焼けやがる
ルーシィの気を引きたくて、好きな人が出来たのだと ナツがわざわざ言って歩いているのは耳に入っていた。大方このギルドの誰かの入知恵なのだろうが――やり方が間違っているのだ。他の女の子ならいいかもしれないが――相手はこのルーシィと書いて鈍感とも読めそうな少女なのだ。グレイはチラリと隣に座って、ポーッとしたままの妹分のつむじを眺めた。
「ねぇグレイ! アタシ…ドキドキした!」
「ほぉ…」
「これが……恋かな?」
「…はぁ。 んなもん、自分で考えろっ」
ポンと金色の髪と一撫ですると、ルーシィが振り返ってグレイをその大きな目に映した。
「…だって、恋ってわかんないよ。あたし同世代の友達だって……妖精の尻尾に来て、ようやく出来たのよ?」
そう呟くとルーシィは妖精の尻尾の酒場を見渡した。確かに、この少女の育った環境を考えれば、想像はつくのだ。ルーシィの育った家はその敷地が街一つ分はあろうかという広さだった。そこで、使用人の大人たちに囲まれて、育ったのだ。家出をして、初めて自分の目で世界を感じたのだろう。妖精の尻尾にたどり着くまでは、長く腰を落ち着ける事もなかったのであれば、確かにそうなのかもしれない。
――ここに来てからが、初めての友達か…
――しかも、それがきっと……あの馬鹿炎なんだよなぁ……
――はじめっから、難易度のたけぇお友達だこった…
眉をよせ、判らないんだもんと しょんぼりと肩を落とす妹分の姿に、グレイはいい案があるんだがと、耳打ちした。向かい側に座るナツを、視線にとらえたまま。
「…じゃぁよう、俺とデートでもするか?」
そう言って、急にルーシィの肩を抱き寄せニヤリと笑うグレイ。その余裕の笑みに、テーブルの向かい側の温度が上がる。
「どうだ? ドキドキしたか?」
「うっ/// グッグレイだし…」
そう聞いてくる声が、息が耳に触れる。またもすぐに染まった真っ赤な顔のルーシィは、ジッと近くにある顔を覗き見た。
「……でも、ドキドキするかも…」
「だろ? 姫さんのドキドキは、異性にドキドキするだけで、その個人にドキドキするわけじゃねえんだよっ……初心だからなっ」
「うっ///」
いたずらな笑みを浮かべたグレイが、いっそう顔をくっつけてきて、ごく小さな声で直接耳に囁いた。そしてテーブルの影で 向かい側を指さした。
「…んでよう、さっきからジーッと、こっち睨んでる奴があっちにいるんだが……」
グレイが指差す先には、明らかに不機嫌顔のナツ。ドキリと、ルーシィの心臓がはねた。いつだって自分勝手のナツ。
――なんでそんな、不機嫌そうな顔してるのよ……
――いつも、あたしばっかりで……結局…
――あたしは、あんたと楽しませるだけのおもちゃじゃないのよっ
「悔しいよ…悔しいのに……ドキドキするよ」
「あん?」
「だって…」
――1番近くにいた女の子は、あたしなのに…
グレイに耳打ちするルーシィ。 頬を赤くして眉を下げるルーシィの頭を、グレイは優しく撫でた。向かいの席にいたナツは、体から蒸気を上げながら酒場の中心へとドシドシと音を立てて進んでいく。
――仕方ねぇ奴ら……
――お互い自覚してんのに…焦れってぇな…
――ちょっと……葉っぱかけてやるか
「姫さん、明日暇か?」
「……ん? うん。どうしたの?」
「久しぶりに一緒に、仕事いかねぇか?」
「……いいの?」
「おう。思いっきりオシャレして来いよ。帰りにいいとこ連れてってやるっ」
そう言ってやさしく笑うグレイの目が、いたずらに細められた。ナツを からかう時のグレイは、よくこういう顔をするのだ。そして酒場の中心まで届くような声で説明する。おもちゃをとられて、ナツがおこるのが面白いのだろう。
「あのなっ、丁度イルミネーションがきれいなんだこの時期」
「そっそれって……デードみたいじゃないっ///」
「そっ。気晴らしにはいいだろ? ……まぁルーシィにオレは、役不足なんだろうけど」
「…フフっそんなことないよっ。ありがとグレイ」
ニヤリと笑ったままのグレイの腕に、ルーシィはうれしくなって抱き着いた。 酒場の中心では、炎が上がりその炎に巻き込まれた者達で大乱闘が始まっている。
*
*
*
そして翌朝
グレイとの待ち合わせ場所に、時間よりも早めに向かおうとするルーシィの姿があった。最近買ったよそいきのワンピースを身に着け、いつもよりも高いヒール。ちょっと大人っぽいワンピースに合わせて、絹糸のような金髪は飾りをつけずにストンと肩に落としたまま。普段と違い、少し大人っぽい印象を与える姿だった。
ただ依頼に同行して、帰りに寄り道をしてくるだけなのだが――わざわざデートと、言われてしまったら、相手がグレイであってもなんだかドキドキと落ち着かないのだ。きっとグレイの事だ。ナツに好きな人が出来たと聞いて、なんだか落ち着かない自分に、とことん付き合ってくれるのだろう。
――フフフッ
――ほんとグレイは、女の子に甘いのよねぇ
――もう、薄情なナツなんか……今日は忘れて……
「ナツの……バカ」
玄関のドアに鍵をかけ、階段を下りて、アパート全体の扉を押し開けると、目の前の運河の塀に寄りかかる桜色が見えた。ルーシィの姿を視界に入れ、片手を上げて歩み寄ってくる。
「……ナツ」
「よっ。…人の事、バカって言うなよ……で、どこ行くんだよ」
「グレイと、仕事よ」
「そんな……いつもと違う格好してか?」
ナツの不機嫌な様子に、自分まで不機嫌になりたくはないと、ルーシィは無理にお道化てみせた。フワリと、スカートを揺らす。
「へへっ……かわいいでしょ?」
「まぁ、可愛いけどよ……」
「////// かっ可愛いって///」
「!! ぬおっ/// 言ってねぇ!!」
ポロッと、洩れたナツの発言。それにより2人の間に、むず痒い空気が漂う。そのむず痒さにナツも、ルーシィも、どうしたものかと 口を開けなくなってしまう。
「……」
「……」
――しばらくの沈黙。
「おっ……オレとハッピーとの仕事ん時は、そんな格好しねぇじゃねえかっ」
「そりゃぁ。あんた達は、討伐系ばっかりだし……動きやすさを重視してるもん」
「じゃぁ、今日は…」
「今日は、魔導図書館の本整理だし……グレイがオシャレして来いって。帰りにデートするんだもん…」
なんだか、不貞腐れていじけているようなナツであったが、ルーシィの口からデートという単語が出てくると、表情を変えた。ギラッとつり目の奥がイラついている。
「は…ぁ?」
「……じゃぁ、時間遅れちゃうから行くねっ」
ナツに手を振って、ルーシィはその場を後にしようと――ナツに背を向けた。すると、後ろから暖かい手がルーシィの腕を強く掴んだ。足を止められたルーシィは、何よと振り返る。その視界いっぱいに、怒った様子のナツがいる。
「……遅れちゃうんだけど」
「……」
「ってか、あんたの好きな子に誤解されちゃうわよ……こんなこと」
「……誤解じゃねぇもん……本当だからいいんだ」
そう言うと、掴んでいた細い手を引き寄せナツはルーシィを抱きしめた。
「へっ///」
*
*
*
グレイは、上着を一枚脱いだ。ルーシィとの待ち合わせ時間は、とっくに過ぎていた。ルーシィは、約束を破らない星霊魔導士なのだが――まぁ今回は、あれだろ? あのクソ炎のせいなんだろう?
駅前広場にある大きな時計を見ると、そろそろ一人ででも仕事に向かわねばならない。まぁ本来、1人で受けた仕事だ。ルーシィを連れて行かなくても、何の問題もないのだ。さていくかと、シャツに手をかけたところで、背後から声を掛けられた。
「…おいっグレイ…1人で何やってんだ? 依頼はどうしたっ」
「よっ。ラクサス。予定通りフラれちまったみてぇだからな、一人寂しくいってくるわ~」
思わぬ人物から声を掛けられ、グレイはニィっと笑って見せた。ラクサスも滅竜魔導士だ。昨日の話題も聞こえていたのかもしれない。もしくは、あのカウンターの中にいる魔人に話を聞いたのかもしれない。
ラクサスは表情をピクリとも変えずに、グレイの背後を指さした。
「……同行の相手なら……そこの柱の影から見つめてんぞっ」
ラクサスの指の先に視線を向けると、そこに揺れる水色の髪。グレイはポリポリと頭を掻くと、ワザとらしい溜息を吐き、その水色の髪の持ち主にそっけなく問いかけた。
「……行くか? ジュビア」
「!! ジュビビーーン!! はいっ。グレイ様っ!!」
ものすごい速さで、突風のごとくグレイの隣に並ぶジュビア。その手には、見覚えのある――洋服。
「……服着てから行けよ。グレイ」
「グレイ様。皺にならない様に畳んでおきましたっ。どうぞ」
「ぐもっ!?」