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2015年08月 ~

まってるよ③

星霊魔導士の魔力を狙った団体に……ルーシィとユキノが攫われた

 

少女たちは再び鎖に繋がれた。懐に友達の鍵を隠し、鍵のあった場所にはグレイの氷でできた偽物の鍵をぶら下げた。準分に安息できたとは言えないが、もう時間がない。牢屋の中を覆っていたローグの闇が自然に消え、ここでは何もなかった様にと その身を影に隠れさせた。

 

牢屋への明り取りに設けられている高い位置にある小さな窓の先が薄明るくなっている。

そろそろ日の差し込んでくる時間だ。

 

「……いけるな? 姫さん方」

 

鎖に繋がれたルーシィとユキノは、コクリと頷いた。先ほどユキノは自分の星霊から魔力を受け取った。初めての事に中々うまくいかず、受け取れた魔力はほんの少しであったが、そのおかげで何とか魔力欠乏症は免れている。

 

「うん。グレイ大丈夫だよ。あと、ひと踏ん張り位へっちゃらよっ!」

「はいっ」

 

ねっ!! っとウインクしてくるルーシィに、ユキノも笑顔を返した。

 

 

「夜が明けたな…。次の見回りの時に、行こう……それまでもう少しだけ我慢してくれ」

「ああ、そうだな。見回りの際開いた扉の隙間から、無事合流した合図の影を飛ばす」

「合図?」

「おう。俺たちが姫さん達と落ち合ったのを伝えんだ。したら、合図を受け取った奴等が正面突破してくるはずだ。その隙に、ずらかるぞっ」

「……フフッ。ただじゃすまされないわね」

 

「とにかく無事でよかった。あともう少しの辛抱だ。ユキノも、……いけるな?」

「……はいっ」

 

頬を掠めた優しい黒い影に、ユキノは力のこもった強い視線を返した。

 

「……って、そんな大暴れしたら大変かもっ」

「……あっ」

 

ルーシィの声に、ユキノは顔を見合わせた。疲れきってはいるが、力のこもった目がぶつかった。思い当たることがあるらしい。服の中に隠した友達の鍵をその身で感じ 力強い笑顔を作って、ルーシィとユキノは互いに頷いた。

 

――やらなきゃっ

 

そして暫くし――、

 

“ギィィィ”っと、鉄の重い扉が開く音が響いてきた。この牢のならぶ地下へと続く重い扉が開いたのだ。開いた隙間から、影になったローグが今合図を出しに急いでいる事だろう。

 

緊張が走る。

 

――お願い…無茶話しないでよ……

 

ルーシィ達の牢の隣まで足音が近づいて来ると、ガチャガチャと鍵を開ける音が響いてくる。どうやら朝一番の用事は、グレイ扮する大工にあるらしい――。

 

ただの大工だと思っていた男が魔法を使い暴れだしたら、あの――がらんどうの様な目には、驚きが映るだろうか?

 

グレイのいる牢から物音が響き、少しの間。

ルーシィ達が居る牢の鉄格子の先に、見知った人物が姿を表した。冷気を放ち牢の鍵を造形し、その扉を押し開けて、駆け寄ってくる。

 

ルーシィとユキノの手足の錠が外され、その手に友達達の鍵が握られた時――

 

“ドッゴオォォォォォォォォォォォン!!!!”

 

轟く爆発音。

 

「始まったなっ」

「そうみたいねっ……大丈夫かな…」

 

「あいつ等、待ち構えてたんだろうな……早すぎるタイミングだなっ……こっちも、急ぐぞっ!!」

「うんっ」

「はいっ」

 

グレイが鍵を造形して、他の牢に閉じ込められていた魔力欠乏で動けなくなっている星霊魔導士たちを救い出し、皆で地上へと繋がる鉄の扉に向かって階段を駆け上がっていくと、先頭を進んでいたグレイが身をかがめた。

 

「おわっ!!」

 

体制を落としたグレイの頭の上を、水流と光のレーザービームが鉄の扉を突き破ってきた。すれすれで、その攻撃をかわしてグレイが、扉の向こうに向かって怒鳴り声を上げる。

 

「っ!! ジュビアッ!! 危ねぇだろうがっ!!」

「はっ!! スミマセン~。グレイ様~!! グレイ様の気配がしたもので~1秒でも早くお会いしたくってぇ~」

「っ!! スティングゥゥゥゥゥゥ!!!! ユキノたちにあたったら危ないだろうがっ」

「ユキノっ! 無事かっ!!」

 

フラフラになりながらも、自力で動けない者に肩を貸していた少女たちは、眉を下げた。

抱き付いてきた水の魔導士に、けが人の護送を頼み、怒号のする方向を見定めるグレイに、ルーシィが手を伸ばした。

 

「あたしも行くっ!!」

「ダメだっ。ジュビアと一緒に行けっ」

「いえ……私も行きます。行かなければならないのです」

「ユキノっ!!」

 

「ダメッ!! あたし達じゃなきゃ、ナツがっ!!」

 

爆発音と、何かが焦げた煙があがる。それはそこで、火の魔導士が戦闘を行っているという事。

 

星霊魔導士の少女たちは強い眼差しをグレイに返した。その真剣な眼差しを受けて、グレイがガシガシと頭の後ろを乱暴に掻くと、ルーシィとユキノの体が宙に浮いた。

 

「ひょわわっ///」

「ルーシィさん。何かやることがあるんでしょ? お連れしますよっ」

「ありがとう。何か嫌な予感がするのよ……」

 

「きゃっ///」

「…ユキノ、しっかり捕まっていろ」

 

助けだしたばかりの姫たちが、剣咬の虎の双竜に抱えられたのを目に写し、グレイは大きなため息を一つ落とし、地面を蹴った。

 

「……はぁ。ぜってぇ無理はするなよ…」

「うん」「はいっ」

 

 

 

 

 

 

 

ここ数日ユキノとルーシィと他の星霊魔導士は、星霊魔導士の魔力を動力とする空飛ぶ城の動力室で魔力を搾り取られていた。人の背丈よりも大きなタンクの様な魔水晶の塊は、沢山の魔力を吸い取り今は、ものすごいエネルギーを蓄積しているのだ。

 

少しの誤作動で街1つ消しかねない大爆発を、起こしかねない状況だ。ましてやその魔水晶への魔力の出し入れは、星霊魔導士にしかできない。そして魔力をため込んだ魔水晶を、外力によって無理に破壊すれば大爆発をおこしかねないものだ。

 

 

 ――ナツ達を、止めないとっ

 

 

くらくらする頭を手で押さえながら、ルーシィは歯を食いしばった。

 

 

 ――ユキノだって、つらいはず……あたしも頑張らなきゃ

 

 

100年溜めた魔力に匹敵しなくても、無理やり集められた星霊魔導士たちの魔力。

星霊魔導士が封じたものを解除するのは、星霊魔導士の魔力のみ

 

 

スティングに肩を借りて動力室まで来ると、桜色がルーシィの目に飛び込んできた。桜色の髪が炎の中心で揺らめいている。

ナツは、星霊魔導士たちの魔力を溜め込んだ大きな魔水晶を睨み付けていた。

 

その形は、以前ルーシィが取り込まれた無限城のものに似ている。

 

 ――壊しちゃダメっ!!

 

「ナツーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

「ダメェェェェェェェェェェェェェェ!!!!」

 

ルーシィの声がそこに響くと、ナツの体が揺れた。

ナツの足の下には、この数日ルーシィ達を虐げていた魔導士が白目をむいて踏みつけられている。

スティングの方から降りると、ルーシィはナツに向かって走り出していた。叫びながら駆け寄ってきたルーシィの身体を支えると、ナツはしっかりと抱き留めた。

 

 ――やっと……

 

「無事だなっ……待っただろ…遅くなっちまったなっ」

「フフッ……大丈夫。 来てくれるって、信じてたからね」

 

ルーシィの頭には、ナツの吐き出す熱い息がかかっている。フラりと揺れるルーシィの体を支えるように、ナツの腕がルーシィの腰に巻き付いた。ルーシィは素直にその手に、ナツに体を預けた。

 

「うしっ! じゃぁ壊すぞっ」

「ばかっ!! だからダメだって言ってるでしょぉぉぉ!! うまくすれば魔力欠乏症になっている星霊魔導士の人達に、奪われた魔力を返せるかもしれないじゃないっ!!」

「いぁ……これ見てるとムカムカすんだっ」

「そう言う問題じゃないのっ!!」

「……ぐぬっぅ」

 

ルーシィの剣幕にナツは言葉を飲み込んだものの、その自分の背よりも大きな魔水晶を睨み付けた。

無限城のそこに取り込まれてしまったルーシィの姿が、頭を掠める。一度取り込まれたルーシィが、自分の意志を保っていたことも奇跡に近いが、その自分の意志で城を崩壊させ天から降ってきた時、地面に叩きつかられるすれすれでキャッチしたのはナツ自身だ。だが、あれは奇跡に等しかった。もし、ルーシィの落下地点がもう少し先であったなら――。

ナツの背筋に冷たいものが走る。いいようのない不安が胸を苦しくさせた。

 

「唸ったって、ダメよっ」

「……ルーシィ、いつから風呂はいってねんだ? 埃臭ぇなっ」

「んなっ!! ちょっ/// デッデリカシー!!  しっしょうがないでしょぉ!!」

 

鼻を掠める花のような香り。少々埃にまみれてはいるが、彼女自信の匂いがナツを安心させてた。

ぷくっとルーシィの頬が膨らむと、ナツを睨み付けた。

 

 ――ルーシィは、ここにいる

 ――大丈夫だっ

 ――オレがもう……あんな事させねぇぞっ

 

 

すっかり顔を綻ばすナツに向かって、その死角から敵の魔導士たちが攻撃を定めている。

 

人を操る古の魔法具の他に、魔法弾が用意されていたらしい。標準が絞られ、その魔導弾が発射されてしまった。

気付いているのかいないのかその様子を意にも留めないナツに、スティングか慌てて駆け寄ろうとする。

 

 

「ナツさんっ!!」

「……邪魔してやるな……絶対領域!!」

 

スティングの首根っこを掴み、ミネルバが余裕の笑みを見せた。ナツの他にもエルザやミネルバが、先程までここで暴れていたのだ。エルザは既に城の中に逃れた敵を追っていったようだった。

 

ミネルバは、笑みを口元に浮かべたまま、視線だけ鋭いものに変えると魔導弾を発射させた者へと向けた。

一瞬にして、自分が発射させた魔導弾の前に移動させられた敵は、何がおきたのかを悟るまもなく魔導弾に飲み込まれて行く。

 

その魔導弾は、どうやら捕獲のためのものらしい。そこには拘束された敵の魔導士達が ころがった。星霊魔導士であるルーシィをとらえる事を諦めていなかったのだろう。

 

スティングは、自分の仲間の星霊魔導士を視界に写した。そして、その傍らにいる片翼に叱咤を飛ばす。

 

「くそっ…まだ諦めてないって事かよっ…ローグ!!」

「そちは、ユキノをしっかり守っておれ!……少し暴れるかの? マスターよ」

「ああっ!!」

 

ミネルバの笑みにゾクッと冷たいものが背中を流れ落ちる。だが、その冷たい笑みがなんともスティングにとっては心地いいものとなっている。

 

「いきますよっお嬢!!」

 

 

ほんの数分後には、歯向かうものは1人もいなくなっていた。動けるもの動けないもの、敵のすべてを縛り上げると、スティングは風に吹かれているミネルバをちらりと覗き見た。ふっと、やさしい笑顔を浮かべスティングは、ミネルバのやさしい横顔に声を掛けた。

 

「できたよっ。お嬢」

「うむ。なかなか仕事が早いのぉ…マスター。…さて、これをどうしたものかの」

「……こんなにたくさんの魔力が、無理やり奪われてたのかよ…」

「……ユキノの魔力も…」

 

スティングとミネルバは、ローグに抱えられルーシィと共に話し込むユキノを目に止めた。何やらまっかな顔で、ローグに抗議をしているようだ。

 

「……何をやっておるのじゃ、あ奴らは」

「……あぁ…、ローグがユキノを超過保護してるんすよっ」

「フフフッ……こんな時なのじゃから、ユキノも素直に甘えればいいものを」

 

優し気な笑みを浮かべミネルバは賑やかなそこに向かって歩みだした。それに置いていかれまいと、一歩踏み出すのが遅れたスティングは慌ててミネルバの隣に並んだ。

 

「……お嬢も、抱っこしてやろうか?」

「っ!!!」

 

目を見開いて振り返ったミネルバ場の顔は、みるみると赤く染まっていく。

 

「おっお主は、そうやって何かにつけて妾をからかうでないと、いつも言っておろうがっ///」

「ま~たまた、お嬢も照れちゃってぇ~」

 

スティングに余裕の笑みを返されたミネルバは、キィっと鋭い視線を返すとプイッと顔を反らしさっさとユキノたちに合流してしまった。

すぐ隣にいたはずのスティングは、遥か後方へと飛ばされてしまっている。

 

 

 

 

「ふっこわさないで、どうやんだよ?」

「……うん」

 

前にもやったじゃない…と小さい声が帰ってきた。ルーシィの発言にナツは眉間にしわを寄せ、ギュとルーシィを抱える腕に力を入れた。その腕からルーシィは、片手だけ伸ばし魔力を貯め込んだ巨大魔水晶にそっと触れた。

 

ひんやりとして固い無機質な感触が、ルーシィの手に伝わってくる。

それをすぐ隣から見つめていたナツは、ルーシィのもう片方の手を腕の中で握りしめた。つりあがった眉がピクリと揺れる。

 

「ためだっ」

「ナツ…離して?」

「ためだ!!」

「心配してくれるの?…大丈夫だよ……また、ナツがキャッチしてくれるんでしょ?」

「そういうことじゃねえっ」

「大丈夫っ!! あたしを信じてよ…」

 

何でもない事だと、笑顔を向けてくるルーシィ。ナツは不機嫌をそのまま顔に表した。

そして、腕の中の少女を睨み付ける。

 

――ふざけんなっ

――信頼して言っているのはよくわかる…

 

――させられるかっ!!!!!

 

ナツは、力任せにルーシィの体を引き寄せ伸ばしていた腕ごと、たくましい腕のなかに閉じ込めてしまった。

 

「ダメだっ……ルーシィ…」

「ちょっ/// …ナツ離してっ」

 

その様子をローグに抱えられたまま眺めていたユキノは、ちらりと自分を抱えて話さない男の顔を見た。ローグは、ナツとルーシィのやり取りを眺めている。

ローグを映していたユキノの視界で、ピンク色のカエルがごそごそと動き出した。

 

「ローグも、いっしょだよ~!」

「……どういう事でしょう?」

「あぁ。以前ルーシィさんは、あの魔水晶に取り込まれてしまったことがあるらしい。まぁそのおかげで魔水晶の内側から、崩壊させることだできらしい…」

「……え?」

「ただ……ルーシィさん自身が無事でいた事の方が、奇跡に近い状況だったと聞いている」

「そんなっ……そんなことさせられませんっ」

「あぁ……ユキノにも、やらせはしないぞ…」

「フローもそーおもー!!」

「ローグ様……フロッシュ様……というか、そろそろ降ろしていただけないでしょうか///」

「……そうじゃな。そろそろ妾も、ユキノとハグをしたいのじゃがなぁ…」

 

顔を持ち上げたユキノの目の前に、スッと白い手が差し出された。笑顔の先には、にっこりと微笑む優しい眼差し。

 

「ミネルバ様っ」

「ユキノ……っ」

「ミネルバ様にもお手を煩わせてしまって……」

「そんな事はよいのじゃ……ソチが居らぬと、ギルドが……妾が寂しかっただけじゃっ」

 

ローグの腕から逃れたのも束の間。ユキノはミネルバの胸に顔を埋めた。頬を染めたミネルバの目には、ほんのりと光るものが見え、ローグもフロッシュも黙ってそれを見守った。

 

「……貯め込まれた魔力と同等の魔力をぶつけるのっ!?」

「それでは、大爆発がっ」

「最後まで話を聞くのじゃ……お主達の魔力であれば、魔力を爆発させず分散させることもできるであろう?」

「……でもっ」

「わたし達の魔力は……もうっ」

「魔力なら、そこにたっぷりと貯められておるじゃろう」

 

ミネルバが指差したそこには、星霊魔導士の魔力の塊とかした魔水晶が――。

 

「……あっ」

「わたし達の魔力を……」

 

少女たちの中で、1つの可能性が頭を掠める。

2人同時にその巨大魔水晶に手を触れさせると、蓄積された魔力を吸いあげていく。ボロボロの身体に、限界値の魔力を吸いこみ、少女たちは顔を見合わせた。

 

すると、ポーッと暖かい光がそこを包み込んだ。光の中で少女達は、鍵を手に頷きあった。

空に向かって鍵を放ちルーシィとユキノが手を取り合うと、黄金色の12個の鍵が空中へと浮かび上がった。

 

少女達の体が魔力の渦を生み出し、まばゆい光に包まれその渦の熱に、少女たちのボロボロの服は剥がされて、少女がち自身が光り輝いていく。

 

「「ゾディアック」」

 

黄道十二門の星霊達が、一斉に現れ魔水晶の中へと飛び込んでいく。

その星霊達を支えるように、2人の星霊魔導士は手を合わせながら、魔力を練り続けている。

 

巨大な魔水晶がまるで生き物のように揺らぎ、形を歪ませ、小さな光の粒に変わっていくと、まるで星が大地に還るようにそれぞれの星霊魔導士に向かって降り注いでいく。

 

そんな中、黄道十二門の星霊達が姿を消し、2人の少女は温かい腕の中で意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

通報により、駆け付けてきた魔法評議員の現場検証の間中、ナツは自分の足の上で安心しきって眠るルーシィの寝顔を見つめていた。その息づかい。ながれる様に風を受けて揺れる金糸。その花のような香り。気高くもやさしいルーシィ。

 

度々、衝動にかられ力任せに眠る体を抱きしめれば、くぅぅっと苦しそうな声をあげられ、その力を抜いた。そしてまた、金糸に指を通し風になびかせさせ、ほこりまみれでありながらも漂う花の様なルーシィの匂いを吸い込んだ。

 

青色の相棒は、ナツの上着を被されたルーシィの胸にすり寄りその上でポロポロと、涙を流して笑っている。

 

「もう、置いていったりしないからなっ」

「あいっ」

「だから、オレたちを置いて、何処にもいくんじゃなぇぞっ」

「ねぇぞっ「ルーシィ!!」」

「……うん」

 

目を瞑っていたはずのルーシィが、優しく微笑んだ。

 

「んだよルーシィ! 起きてたのかっ」

「……ごめんごめん。今ね……呼ばれた気がして…」

 

評議院からの事情聴取は、一日で終わらないだろう。今日はいったん解散になるだろう。早く家に帰りたかったが、聴取が合わるまでは青い天馬の世話になるのかもしれない。

 

ルーシィはゆっくり体を起こした。

あちらこちらでナツの火が燻っているのだろうか、崩壊した木材から煙が上がっている。自分の上にかけられていたナツの黒衣に腕をとおして、余ってしまう左手の袖を口元にあてる。その匂いを吸い込んで、ぽすりと背をナツに預けるように寄りかかったて、その腕に青い猫を抱えた。

 

 

 

 

空が茜色に染まる頃、ようやく今日の事情聴取が終わり、帰宅してもいいとお達しがきた。

 

 

 

 

金銀、星の色をした髪をなびかせる少女たちは、嬉しそうに顔を綻ばせた。

 

 

 

 

――大好きな男の腕の中で

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえず……fin

 

 

今回は、おまけあるよ(*'ω'*)♪

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「ローグ様、降ろしてくださいっ」

「いや。ダメだ」

「もう、大丈夫ですからっ」

「いや。オレが連れて帰る」

「ローグ様っ。私帰る前に会わなければならない人がっ」

「……」

「お借りしていたものを返さないとっ」

 

ユキノの手には、何度もユキノを助けてくれたというネックレスの型の護符が握られている。それを目にしたローグはゆっくりと頷いた。

 

「……よし。探そう」

「っ/// だから降ろしてくださいっ。もう魔力も戻って歩けますからぁ~!!」

「いや。……ケガもしているだろう」

「そっそれも、大丈夫ですっ」

「ローグー。フローも~」

 

足元で両手を伸ばすピンク色のカエルをユキノの胸の上にちょこんと置くと、ユキノはフロッシュをぎゅっと抱きしめた。いつまでも自分を姫抱っこしているローグの顔を覗き込み、はぁっと小さく息をおとした。

 

「もう……しょうがないですねっ」

「フローもそーおもー!!」

 

 

 

「あ~あ。あれは、暫くユキノから離れないだろうなぁ~。ねっお嬢っ」

「……そうじゃのっ……じゃが、妾とてユキノを心配しておったのじゃ。独り占めは、ちぃといただけんのぉ」

「アハハッ。それ言ったらオレもだって。オレってば、マスターだし」

「そうじゃったのっ」

「そうなのっ!!……でもさっお嬢」

「なんじゃ?」

「今回は、ちょっとだけローグに独占させたげてよっ」

「ふむ……わかっておるわ……妾も、野暮ではないからのっ」

 

 

 

「ルーシィ! 帰ろうぜっ」

 

逞しい腕に引き起こされ、ルーシィは自分の素足で地面を踏みしめた。服は借りれるが、靴を借りても歩けないのだ。ルーシィの立つそこに、影が差したかと思うと同時にひんやりとした手が頭にのった。

 

「お疲れさんだったなっ姫さん……って裸足か」

「ルーシィ!! 私の靴を履けっ」

「えっ!?」

「大丈夫だ。わたしは換装すればいいのだから」

「……えっと…」

言葉を返すまもなく、ルーシィは頭をグイッと引かれエルザの胸にうめられた。

“ゴンッ”

「痛たっ」

「……とにかく無事でよかった」

 

エルザに抱きしめられながら、頭はグレイにくしゃくしゃと頭を撫でられて、なすがままになっているルーシィの元へ刺さる視線がある。

 

「くぅぅぅ……恋敵っ……でも、ルーシィ!! 無事でよかったぁぁあぁぁぁぁ!!!!」

 

顔中、体中、涙にぬれたジュビアがルーシィに抱き着いてきた。エルザとジュビアに抱きしめられ、ふらふらとよろけるルーシィ。その背を温かいものが支える。

 

「もういいだろっ!! ……ほら行くぞっ!!」

 

グイッと首根っこを、引っ張られたかと思うとルーシィの体が宙に浮いた。視界に映る仲間達とは反対に後ろに自分がズンズント進んでいく感覚。足は動かしていない

 

「ちょっ!? ナッナツー!?」

「もういいだろっ……後は帰ってからだっ」

「プフフフ~。あいっ。ルーシィの家に直行だねナツ!」

 

「おうっ腹減ったしなっ」

「んなっ!! こんな疲労困憊のいたいけな女の子捕まえてごはんたかるきなのぉ!?」

「あいっルーシィのご飯美味しいからね~」

「金、かかんねぇしなっ」

「ちょっ! ちょっとぉ~!?」

 

 

「あ~ぁ行っちまったなぁ」

「まったくしょうがない奴だな……ただもうちょっと、丁寧に運んでやれんのか、ナツはっ!!」

「まぁナツが、お姫様抱っこってキャラでもないだろっ」

「でもナツさんも、ルーシィも楽しそうです」

「……オレ等も帰るかっ」

「あぁ」

「はいっ」

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