2015年07月 ~
何でだよ…
突然おギルド解散から、一年後。再びナツとルーシィ、仲間たちはマグノリアの地にたった。
晴れて、思いを通わせた二人のお話です。
突然の妖精の尻尾解散から――1年後――
散り散りになっていたギルドのメンバーたちは、ルーシィの呼びかけに応えマグノリアに、帰ってきていた。
そして、ルーシィはナツと再会してしばらく――
――互いの想いを通わせていた。
会えない時間は、互いに互いが必要であると、代わりはいない唯一の存在であると認識するには十分だった。相手を焦がれる思いは高まり、募ってしまった感情が、マグノリアの地に再び揃って足をつけ――向かいあった。
好きと告げたのは、ルーシィから。
オレもと破顔したナツは、ルーシィを抱きすくめた。 そしてその日の内に、彼らは身も心も結ばれた。
これまでに、嬉しいことも、哀しいこともあった。
全ての事がこの幸せに結びついているんじゃないかと思えるほど、幸せな瞬間だった。
だが仲間たちは、まだそれを知らない。皆がギルド再建の為に汗水流し忙しく働いていた為、伝えるタイミングを二人は掴めなくなっていたのだ。
*
「な~んだ。ルーシィ、ニヤニヤしてっ」
「ほ~んと。ルーちゃんここ2・3日、頬緩みっぱなしじゃない?」
「そうね。これは、妖精の尻尾復活!! ってだけじゃ、なさそうね?」
「ルーシィさん、何かいいことあったんですか?」
ここは、マグノリアに最近できたCafeのテラスにある白い大きなパラソルの付いたテーブル席。大きなパラソルの下、木製の白いテーブルを囲んで少女たちは、話しに花を咲かせていた。ルーシィは自分に向けられた好奇の視線に、一気に顔を赤らめたしまった。
だが――まだばれてはまずい。
いよいよ今日、この後出かける最強チームでの仕事でナツと2人揃って、まずはチームメイトに報告しようという事になっていたのだ。
「……何だその真っ赤な顔……ルーシィ、男でもできたか?」
「っ///」
「えっ? ルーちゃんマジ!?」
「えっと/// ……その///」
ルーシィは頬を染め、その頬を手で覆って恥ずかしそうに体を揺らした。
――言っちゃいけないわけじゃないんだけど……
――でも///
――ナツと一緒の時に言おうって……///
だが、ルーシィの心中をよそにテーブルでは、ルーシィに恋人ができた事は決定事項となってしまっている。
「おぉっ!! その初心な反応! かっわいいなぁ~彼氏は、たまんねぇだろうな…で? ヤッたのか?」
「あわわわっ///」
「こ~ら。カナ。下品な事言わないのっ!」
カナの下世話な言い方に、慌てるウエンディ。その小さな肩にレビィは手を置き、言葉をはさんだ。女性陣に囲まれ、ルーシィは頬を染めたままだ。でも、どこか嬉しそうに幸せそうに微笑んでいる。
チラリと辺りを見渡すが、人はまばらで見知った顔は見受けられない。コホンと改まって、顔を寄せ合い今度はレビィが口火をきった。
「……で? どうなのルーちゃん。……シちゃったの?」
「あわわわわぁ……シちゃったんですかぁ///!? ルーシィさん!!」
「ほらっルーシィ!! 白状しろっ」
「どうなのよっ。ルーシィ!!」
好奇心の目に囲まれ、ルーシィはたまらず ポツリと洩らしてしまった。
「好きだって言ったら、オレもだって抱きすくめられて///」
「えっ!? その日に!? その場で!?」
「ん。オレも好きだって、言ってくれて///」
ルーシィは頭から湯気でも出そうな程、真っ赤に全身を染め上げている。ルーシィを囲む女たちの視線の一部は、好奇心と共に少し厳しいものに変わっているが、それには気が付いていない。
「まじかっ!? そいつ、……ちょっと、手ぇ早えな」
「……でも、それってさぁ」
「え……?」
不安気な声が上がるが、その声をカナが遮った。にこりと笑顔を作って、話しを先にすすめる。
「で? どうだったよ、ルーシィ。女になった感想は?」
「えっ/// そっそんなのよくわかんなっ///」
「はぁ? そんな無理してねぇよな? 初めてだったんだし」
「まぁ…普通は、気使ってくれるよね~」
カナとレビィの視線が、ルーシィの反応を見つめている。
「っ/// ふえぇ/// その…あたし……途中で気……失っちゃったみたいで///」
よくわかんないよ…///と、言いよどむと ルーシィは俯いてしまった。ルーシィを囲んでいたカナとレビィ、ウエンディ、シャルルの目が丸く点になった。一同唖然としたまま、ウエンディとレビィは頬を真っ赤に染めた。ウエンディに至っては、目に涙を浮かべ照れながらも驚いている。
「あわわわあわ…」
「っ!! すげぇな彼氏!!」
「ええっ!! でも、ルーちゃんはじめてだったんだよっ!! ちょっと、たまったもんじゃないんじゃない?」
「まぁ、そうだな~。初めての女相手には、たしかに容赦無ぇなっ」
「//////」
目線をテーブルに向けたままルーシィは言葉を失って、全身を真っ赤に茹で上げている。聞きだされるままに、恥ずかしいことを口にしてしまったのではないだろうか? いずれ相手が誰だか、バレてしまうのに――
――こんな話しちゃったら、ナツだって言いだしずらいじゃないっ///
――どっ……どうしよう///
「…つーかルーシィ。そいつ、信用できる奴なんだろうな?」
「へ?」
――そりゃぁ……ナツだし
「そうだよ。ルーちゃん!! 幸せオーラだして惚けてるけど、特別男の人と一緒にいるところなんか見かけてないし…」
――えっとぉ……一緒にいない方が珍しいんだけど……///
「カナさん? レビィさん?」
「……そうね。ワタシも心配になってきたわ。ルーシィ」
――心配って……
――ってか、どっどうしよう
――どんどん話が……
おろおろとするウエンディをよそに、皆 目が真剣になっている。ルーシィも動揺してしまっていたが、もうダメだ! 説明しようと口を開けた時――。
「ルーシィィィィィ!」
「ルーシィ!!」
今にも幸せを運んできてくれそうな青い空飛ぶ猫と、その相棒のナツが手を振りながら走って向ってきている。ナツの手には依頼書らしき1枚の紙。ナツ達の後ろからは、最強チームのメンバーも歩いてきている。これから依頼に出かけるため、チームメイトのルーシィを迎えに来てくれたのだろう。
「っ///」
「お~!! ナツ、エルザ!! いいとこに来たっ」
――えっ!? えっ!?
――何言うつもりなの? カナ!!
「そ―。そ―。ちょうどよかったみんなっ! チームのみんなは、知ってるの?」
「あ…ん?」
「ルーシィさんの彼氏さんです…」
「あんたら会ったことあるのか?」
さっき無理に聞き出したんだけどなっと、説明するカナの話を聞きながらハッピーと、エルザ、そしてグレイは目を見合わせた。
ナツとルーシィが想いを通わせたのは、ほんの数日前だ。まだ、ナツは相棒のハッピーにさえ、伝えていないのだ。ひとえに驚かしたい一心だったのだが――。
「えっ!? ルーシィ彼氏できたの? ……プフフ~ダメだよ。ルーシィ! 妄想を口に出したら変人になっちゃうよ~」
ハッピーがからかう様に目を歪ませたが、その目に映ったのは全身を真っ赤に染めるルーシィの姿だった。エルザとグレイは目を見合わせている。
ハッピーは一気に不安になった。大好きなルーシィを、知らないうちに、知らない男に、盗られてしまったのかと――。
「……うそでしょ? ルーシィ…」
――うそだぁ……
――じゃぁ、じゃぁ……ナツはどうなるのさっ
今回の依頼は、ナツから誘われたものだった。言っときたいことがあるのだと――。その内容になんとなく合点の言ったエルザとグレイは、眉を下げて小さく息を吐き出した。
「いや。ルーシィに…彼氏ができたのも、初耳だなっグレイ」
「あっあぁ…で? そっその彼氏がどうしたんだよっ」
「いやぁぁぁぁ!!!! じっ自分で言うからっ…キャーー!!」
ナツは心なしか頬を膨らませて、パラソルの下にいる女たちを見つめていた。ルーシィは必死になって、カナの口を塞ごうと身を乗り出して叫んでいる。そのルーシィの必死な様子に、カナは小さく息を吐いて椅子に深く座りなおした。
「…ったく……、ルーシィ。その酷い彼氏、今度連れてきなよっ」
「……うっ/// ……えっと……あのっ…」
カナの呟きに、ようやくルーシィはキャーキャーと叫んで、カナの言葉を遮るのをやめた。ほっとしたのも束の間。カナの発言にエルザとグレイ、そしてナツの顔色が変わった。一身に視線を集めてしまったルーシィは、茹蛸のように全身を真っ赤に染め上げている。
「……酷いのかぁ!?」
「んだぁ? ひどい事されたのかっ!!」
「えっ…いやっ…そんな事は…」
エルザとグレイの怒気をはらんだ様子に、ルーシィは焦って顔の前で両手を横に小刻みに振って、額からべたつく汗をたらした。
そのルーシィの様子に、カナが再び口をはさんだ。
「あぁ。さっき聞いた話じゃ、女の敵だね」
「そうそう。酷い事されてるよねっ」
「「……ほぉ…」」
真っ赤になってしまっている顔を隠した自身の手の隙間から、チラリとのぞき見た最強チームの面々の表情は、複雑な顔だった。ただ、ナツの横顔だけは、苦しそうに歪んで見えた。
「……ルーシィ。仕事行くぞっ…」
「……ナツ。大丈夫?」
相棒の青猫がその顔を覗き込むが、ナツ行くぞと声を掛けた後歩き出してしまった。慌ててその後ろをハッピーが追う。
――くそっ
――なんだよ酷い奴って……
――オレ……何かしちまったのか?
――だったら、直接オレに言えばいいじゃねぇかっ!!
ズンズンと、ナツの足は地面を踏みしめて進んでいく。
ナツの背中を見つめ、エルザとグレイは大きく息を吐き出した。そしてグレイがルーシィに手を差し出した。
「ほれ姫さん。ボーっとしてないで、行くぞっ」
「…今回はなっ、新しくオープンするパン屋さんからの依頼なんだっ」
「……うん。ありがとグレイ。エルザっ」
グレイから伸ばされた手に、ルーシィが手を重ねると、グイッとその華奢な体が浮いた。
――はぁぁぁ///
――ナツ怒ってるみたいっ!!
――どうしようっ
――エッチしたこと言っちゃったて…///
――ナツに言えないよっ///
*
*
*
依頼は、無事終了した。
話しがあると最強チームを集めたもののナツは、すでに話す気になれないでいた。仕事の間怒りを抑えていたが、うまくルーシィとすら話せないでいたのだ。ルーシィも、どう言い訳していいのかわからないのだ。
その2人の様子に、ハッピーは辛くて仕方なくなっていた。大好きな相棒と、大好きな少女。この2人はいずれ――。最近相棒が己の心に気が付いて、恋い焦がれて――やっと、やっと再会できたのに!! ハッピーの大きな丸い目には影が差したままだった。
帰り道。
「ナツさんよぅ…伝えたいことってのは…」
グレイが、ナツの背中に声を掛けたが、肩を揺らしただけでナツから返事はない。それを見かねて、エルザが口を静かに開いた。
「あぁ……また今度にしようか。ナツ、ルーシィ」
「あ…っ…」
「ん…ワリィ…」
ルーシィは言葉が出なかった。あきらかに、カナの一言が尾を引いてしまっている。しょぼんと落ち込むルーシィの脇で、ナツの沈んだ様子に、ハッピーは胸が締め付けられていた。
――ナツはルーシィの事…
――なんでルーシィは…
――だって、ルーシィだって…
「ナツ、……ルーシィ。オイラ、ルーシィは…ルーシィは…」
「……ハッピー?」
ハッピーの顔を心配そうにルーシィが覗き込んだ。目に涙を浮かべハッピーは、ルーシィを視界に映す。その後ろに立つナツも含めて。
「わ~ん。ルーシィに彼氏なんて、あんまりだよ~!! ナツがかわいそうだ~!!」
そう叫ぶと、ハッピーは翼を広げて飛び立ってしまった。ハッピーの声はマグノリアの空にこだました。
「え? ハッピー!?」
「うおぃ!!」
一瞬にして全身を真っ赤に染めたナツと、ポカーンと口を開け ハッピーの飛び立つ後姿を見つめたまま動きを止めたルーシィ。「あー」と小さくぼやきながらガシガシと頭を掻くグレイと、そんなみんなの様子を優しい眼差しで見渡したエルザは、優しく口を開いた。
「…ハッピーの事は、ワタシ達に任せておけ。……まったく、我々はいいとして ハッピーにも言ってないのか?」
「だなっ。まずはお前たちが仲直りしてから、仕切り直しか? あんま姫さん困らせんなよっクソ炎っ!!」
ニヤリと、エルザとグレイは笑って見せた。その笑顔に、ルーシィは一瞬にして真っ赤に染まった。
「しっ……知って///?」
「そりゃまぁ…」
「うすうすは……なっ。だが……ちゃんとした報告を、ワタシは待っているぞ」
グレイは笑いながら片方の眉を上げると、手を伸ばしてルーシィの金髪をぐしゃりと撫でた。
「ちゃんと言ってやんねぇと、解んねぇ奴だぞ。何があったか知んねぇけど、しっかり説明してやれっ」
「…グレイ」
頭に乗っかったひんやりした手に、自分の手を添えるとルーシィは微笑んで礼を述べ、ゆっくりとナツへと振り返る。
「…ナツ、家で話そっか…」
「あぁ」
*
*
*
「……オレ、何かしたか?」
「ちがくてっ!!」
「じゃぁっ……なんでっ!!」
――オレのいないところで…
――愚痴ってんだよ……
「えっと/// そっそうじゃなくて…」
眉をよせたナツの責めるような、苦しそうな視線に、ルーシィの胸は締め付けられた。
――ナツ……何か、完全に勘違いしてるんじゃ……
――ちがうの
――そうじゃなくって
――どうしよう……カナたちに話しちゃったなんて///
――軽蔑されたらどうしよう…
互いの不安な思いが、思考を暗い方へと向かわせる。
――なんでっ
――オレに酷え処があんなら…
――……直接…言えってんだ
――くっそぉ
「違うのナツ…」
ナツは、ジィーッとルーシィを見つめている。まだ光も灯していないルーシィの部屋。陽が沈みかけ、部屋は既に薄暗くなっている。
潤んだ目で見つめ返してくるルーシィを見つめていたナツは、手を伸ばしその細い腕を引いた。
「ナツ…んっ…」
熱く柔らかいものがルーシィの唇を塞いだ。華奢な体は、たくましい腕にしっかりと抱きしめられている。
「好きだ。……オレばっかりが好き見てぇだ…」
「そんなことないもん。あたしだってっ」
「……でも本心は、言わねんだろっ」
「うっ……ちっ違うんだからねっ。あたしが思ったことじゃないからねっ」
「……?」
ナツの大きなつり目が、ルーシィの目を覗き込む。
「だっ/// だって/// みんながっ///」
ルーシィはナツの服の背を、ギュっと握り込んだ。そして、照れてしまうのを隠す様にその胸に顔を埋めた。
「何でか彼ができたて、バレちゃって……聞かれたの。いろいろ……そしたらカナが、付き合ってすぐにって……エッチしたいだけじゃないだろうなって…レビちゃんも、はっ初めてなのに何回もするなんて……酷いって/// あっ遊ばれてるんじゃないだろうなって…」
「……っ……なんで俺だって言わねんだよ…したらっ」
ナツはルーシィの肩を掴んで、こちらを向かせた。真っ赤に染まった顔のルーシィは、目に涙を浮かべてナツを見上げる。
「だっだって/// 今日ハッピーやエルザたちに、一緒に言うって///」
「そっそりゃ……クッソっ……ん?」
「え?」
ナツの顔が、見る見るうちにニヤリと歪んでいく。
「……あたしが思ったことじゃ、無んだよな? ルーシィ」
「うっうん」
「って事は、ルーシィは嫌じゃねんだよなっ」
あっと思った時には、ルーシィの目は部屋の天井を映していた。そして、ベッドのスプリングは2人分の重さにギシリと音を立てた。
Fin
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