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2014年11月09日~

可愛い訪問者③

ナツとルーシィとハッピーでの依頼先……

それぞれが、目的を抱えている中お邪魔虫的な訪問者が空から現れる……。

 

 

「ローグ~おつかれー」

 

 ローグの帰りを今か今かと待ちわびていたフロッシュが、その胸に飛び込んだ。きれいにリボンが結ばれたクッキーの包みをもって。何かを両脇に抱えていたローグは、その手を離しフロッシュをキャッチした。そして嬉しそうに、その可愛い顔に頬擦りを始めた。その目には、きらきらと光る雫が――。

 

「うぎゃっ」「いてっ」

 

ローグの足元から、レクターが顔を出す。――その後ろには、影が――。レクターは額から汗を一粒流し、笑顔をつくって後ろにいる影に声を掛けた。

 

「ほらっスティングくん。きちんとご挨拶をしませんとっ」

「ぅぅ……た……ただいま」

 

レクターの後ろにいた影がノソリと体をおこした。ちょこんとローグの足元に座り込むスティング。その姿は――小さい。スティングの隣で、苦笑いを浮かべるレクター。スティングの姿は、昨日よりは大きいものの、10歳にもいかない少年の姿だ。

 

「まただぁぁぁぁぁぁ!!」

「スティング様っ………なんて……可愛らしい」

 

ハッピーの驚きの声が響き、ポツリともれるユキノの声を聴きながら、ルーシィは桜色を探していた。――いやな予感しかしない。普通であれば、一番にドアを開けて入ってくるはずのナツ。スティングの姿を見れば――なんとなく予想はついてしまうが――。

ルーシィとハッピーは目を見合わせ、大きく息を吐きだしタラリを嫌な汗を垂らした。ドアの影にもぞもぞと動く影が見え隠れしている。

 

「……ナツだね」

「うん。……ほら出ておいでっ」

 

影が揺れる。そこから顔を出したのは、スティングを同じくらいの大きさの――小さいナツ。やはり10歳程度の大きさなのだろう。

 

「スティング。かわいいだってよっ!! よかったじゃねえかっ」

「///ナツさんっ!! ナツさんだって!!」

 

 スティングの後ろに立ち、その頭をコツいたナツは乾いた笑みを浮かべている。

ログとレクターの説明によれば、やはりモンスター撃退の罠が原因らしい。ただ――今回は、わざわざローグがそれを投げつけたのだという。ローグはフロッシュを抱き上げ、「そうしなければ、山が1つ2つ無くなっていただろう」と口を動かした。

 

ギャーギャーと文句を言うナツとスティング。ローグの言うことは、大袈裟ではなく――本当にそうだったのだろう。このお馬鹿さんたちは、戦闘が盛り上がり、頭に血が上り無制限に滅竜魔法を使いだしたのだという。いくらローグが影の使い手だと言っても、一人でその魔法の余波を防ぎきれなかったのだ。もうこれは抑えきれない、やばい!! と思った時、ローグの視界に回収した罠が入ったのだ。

 

ローグは影を伸ばし、2人の拳が互いの頬を殴りつけた瞬間――罠を発動させたのだ。――致し方なかったのだろう。――決して、フロッシュのクッキーを早く食べたかったからでは――ないと信じたい。

 

罠は、何種類もあったらしい。先日双竜がかかってしまったものは、罠の中でも強力なものだったために、よちよち歩きの幼児になってしまっていたが、ナツとスティングの縮み方を見れば、今回はそれほど強力ではないのだろう。戻りも早いかもしれない。

 

「それで山は!?」

「……ああ。山は、無事だ」

 

 胸を撫で下ろすルーシィ。ナツが何かやらかすことは、胸騒ぎが教えてくれていた。こんなかわいい姿で帰ってくるとは思わなかったが、山を1つ吹っ飛ばしました。弁償です。とならなくて、よかったとさえ思えてしまう。

 

 ダイニングのテーブルを囲み、ローグから話を聞いている後ろで、少年になった2人はソファで陣取り合戦のような事をしている。バタバタと――まだ暴れたりないとでもいう様に。

ナツと、スティングの暴れっぷりに、ソファのスプリングが悲鳴を上げている。バタバタと動き回るので、埃も舞ってしまっている。リビングでの揺れが、ダイニングのテーブルを揺らした。

そして――ルーシィの額の血管が浮き出た。

 

「もう、あんた達うるさ~い!!」

 

 ルーシィの一言で、静まり返るリビングとダイニング。

ナツとスティング、そして何故か――ハッピーまでもピシッと気をつけをして、その場で姿勢を正したまま動かなくなってしまった。その様子に、くすくすと笑いだすユキノ。つられて怒ったはずのルーシィまでも、笑い出してしまった。ローグに関しては、あきれた表情を浮かべ、フロッシュは口いっぱいにクッキーを頬ばって、そのカスを飛ばし、それをレクターに怒られている。

 

「はぁ。しょうがないかっ。……ローグ君、ありがとうねっ」

「……いや。謝らなければと……まだ依頼も終わっていないのだろう?」

「ルーシィ様、お手伝いは必要ですか?」

 

 ルーシィが笑顔で礼をのべると、ローグの腕の中でフロッシュが微笑み返してくる。ローグとユキノの心配の言葉を、勢いよく駆け寄ってきたナツが遮った。

“バンッ”とユキノの目前のテーブルが小さい手に叩かれた。

 

「いらねぇぞ!! あんま沢山で入っちゃいけないとこなんだかんなっ!!」

 

 そのナツの必死な様子に、ユキノは思い当たることがある。

クッキーを作っている時、ルーシィが外に飛び出した。その時のハピーの独り言。その中には、『今回の依頼で、ナツは告白するんだっ』そうはっきりと言っていたのだ。そしてこの必死な様子のナツ。告白決行の場は、依頼の地なのだろうと予測が付いた。これは、邪魔するわけにはいかない。

ユキノは目の前の少年のギラリと輝る男の目に、頬を染めた。

 

(こんなに必死に――伝えたい思いなんですねっ。ナツ様///)

 

ナツはまだ、ユキノの前に体を乗り出したままだ。そのつり目が、ローグとユキノを行ったり来たりしている。

 

「そっそう……ですねっ。ナツ様がそうおっしゃるなら、邪魔は致しません」

 

そうナツに返したユキノの目は潤んでいて、憧れの眼差しでナツを見ている。頬は赤く染まったままだ。スティングは胸騒ぎがしていた。

 

「ナツさん!! ユキノに近すぎでしょっ」

 

何故か少し焦った様子で、グイッとテーブルにのりだしていたナツの服を、スティングが引っ張った。「ぐえぇ。痛ぇだろっ」とナツが、スティングに振り返り、また暴れだしてしまう。

「とにかく!! 手伝いなんていらねぇかんなっ!!」

 

「……はぁ。ごめんね。ユキノ。ローグ君」

「あい。……ナツが暴走してます」

「……いや。いいならいいんだ」

 

 またも、スティングに飛びかかるナツをしり目に、ルーシィは大きく息を吐き出す。そして、焼き上がってから、熱を冷ましていた『チョコのヤツ』を皿にのせた。

 

「なんにしろ、オイラ達の仕事は、オイラ達でやれるから大丈夫だよ~。ねっ。ルーシィ」

「そうね。あたしたちの仕事、早朝だし、力仕事でもないから、ナツの体が小さくっても問題ないわよっ……ほらナツっ。チョコのヤツよっ///」

 

 『チョコのヤツ』を載せた皿をリビングのテーブルに運びながらルーシィが振り返る。にっこりと笑っているその表情からは、遠慮ではなく本当に平気なんだと伝わってきていた。優しく微笑んでいるルーシィに、ユキノも頬を染めたまま、笑みを返した。

 

「そうだぞ。気にせず帰れ帰れ!」

 

と言いながら、ナツはルーシィの手に乗る皿から、クッキーを口に運ぶ。「うめぇ」と笑顔を浮かべながらナツは、モグモグと口を動かす。そして、テーブルに置くはずの皿をルーシィから受け取り、「ルーシィお茶っ」と飲み物をせがんだ。「はいはい。」と、ルーシィはお茶を取りに戻る。その光景を、にこにことユキノが見守っていた。

 

「フフフッ。承知しておりますよ。ナツ様っ」

「あっユキノ~!!」

 

ユキノの一言に、ハッピーは慌てる。が、ユキノはそれ以上何も言わず、ただ微笑んでいる。そこにフロッシュが口を開けた「フロー――もぐもぐ」ハッピーは慌てて、フロッシュの口におかわりのクッキーを差し込んだ。

 

++++++++++++++++++++++++++++++

身体が小さくなり、ロッジへと帰る道すがら ナツとスティングは、まだ火花を散らしていた。

「ナツさんの勘違いですって! またこんなに小さくなっちまって、カッコワリィよ」

「あん? お前がルーシィにくっ付くからだろっ」

「そんなこと言ったって、ルーシィさんから世話してくれるだけだし――」

「ほぉ。ルーシィの厚意をむげにするのか……」

「ちがっ…あ~もう!! どうすりゃいいんすかっ。ナツさん」

「……早く帰れ。とにかく早く、俺たちの前から消え去れ」

「うわぁっ。びでぇよ。ナツさん!!」

「今日は、ユキノが迎えに来てんだから、帰れるだろっ」

「…ユキノ///。オレ、またユキノにカッコワリィとこばっかり……」

「……あいつなら可愛いです~。スティング様~とか言いそうじゃねえかっ」

「はい? ユキノは、そんな語尾を伸ばすキャラじゃ……はぁ…」

「そんな落ち込むなよ、スティング。オレだって……(こんな縮んだ身体じゃ告白どころじゃ……)はぁ」

「……ナツくんもスティング君も、元気出してくださいよ。この際その体で思いっきり甘えてしまえばいいじゃないですか!!」

「「!!!!」」

「スティング。ルーシィに近づくんじゃねぇぞっ」

「ナツさんこそ。ユキノには近づかないでねっ」

「……話はすんだか。二人とももう着くぞ……」

 

 そして、玄関の扉の裏に隠れようとするナツと、やっぱりカッコワリィし!! と逃げようそするスティングと捕まえて、小脇に抱えるローグが「早くフロッシュに会いたいんだ!!」と叫んだとか――。

 

3人の滅竜魔導士のやり取りに、疲れ果てているレクターはロッジの呼び鈴を鳴らした。

 

 

 

 

 

「では、そろそろ失礼いたします。ごちそうになりました」

「すまなかったな。……フロッシュが、大変世話になった」

「ルーシィ~ハッピー、バイバ~イ」

「ご迷惑をおかけしました! お礼はまた改めて!!」

「ナツさ~~~ん!! また一緒に、暴れようね~!!」

 

 ぺこりと頭を下げるローグとユキノ、そしてフロッシュとレクター。スティングは、レクターの尻尾にぶら下がりながら、ナツとの取っ組み合いで出来てしまった頬の晴れを擦った。

 

 昨晩であれば、ナツがスティングに突っかかっても、ルーシィが「ダメよっ」と諌めてくれいたのだが――。今回はそんな仲裁は、入ってくれなかったようだ。体の大きさが一緒なら、庇う事もないというスタンスなのだろう。

 

 訪問者達を見送り、ロッジのドアが静かに閉じられた。ルーシィはハッピーと並んでリビングに戻る。気になることが一つ。ナツは見送りにもこなかったから――。

 何が気に食わなかったのだろうか?

 

 急にムスリとした表情でナツは、話さなくなってしまったのだ。ルーシィが思い返してみると――、スティングの頬を腫らしたナツの一発が入った時は元気だった。口の端を切ってしまったスティングの治療――と言っても、血を拭いてやって口をゆすがせただけだが――をして、そういえばその辺から不機嫌になって言ったのかな――?

 

 何も理解できないまま、リビングのドアを開けてルーシィとハッピーが部屋に戻ってきた。まぁ、それは置いておき、ルーシィ自体も少し疲れていた。予定していたよりも人数が多いだけで、結構な労力を使わされたのだ。――今日は、ゆっきりお風呂に使って、早めにお布団に入りたい。――よく眠れそうだ。

 

「ふぅ。人数多いとさすがに、騒々しいわね~」

「あい。でもやっぱり一番騒々しいのは……」

 

 ルーシィとハッピーはそろってソファに振り返った。そこには、頬を膨らませたまま ごろんと転がる桜頭の少年の姿がある。

 

「こ~ら。ナツ。アンタが不機嫌だから、みんな遠慮して帰っちゃったじゃないっ」

「……あい! ある意味、ナツのせい…… プフフッ。…だねっ。プフフフッ」

 

 青猫は、ユキノとのやり取りを思い返していた。

 

 考えていた事が、口に出てしまっていたのは完全にオイラの失態だけど――結果的に、それでよかったんだよね。だから話のついでに、今日はスティングたちを連れて帰ってねって、ユキノにお願いできたんだ。

 

 『ユキノ~。ばれちゃったからお願いしていい?』

 『はい。何をですか? ハッピー様』

 『あい。オイラね、いやな予感がするんだ。スティング、今日も帰らない~!! 明日の仕事手伝う。って言うんじゃないかって』

 『はぁ。……お手伝いは、不要ですか? お世話になりましたし、お礼もまだ……』

 『あのね。ユキノ。ナツはね、この依頼にかけているんだよ』

 『え?』

 『この依頼の花摘みってね、とっても素敵な仕事なんだ。ムードがあって……告白にもってこいなんだっ』

 『……なるほど。そういう事ですか///』

 『ユキノ~? ハッピ~? むずかしい話~?』

 『はい。とっても難しいけど……素敵なお話ですよ』 

 『フロー難しいのきら~い』

 『はい。ですから一緒に頑張りましょう? ルーシィ様の為ですよ』

 『フロー、ルーシィ~スキ~』

 

 ユキノが快く協力していてくれて、うまくフロッシュをコントロールしてくれたから、剣咬の虎を追い帰せたんだ。ナツには後で、うんと褒めてもらって、うんと大きなお魚貰ってもいいと思うんだ。

 

 

 ルーシィはボフンと勢いをつけてソファの空いているところに腰を下ろした。そして、そのまま小さくなったナツの背に寄りかかった。ハッピーは羽を出し、ダイニングテーブルにのり、どこからか取り出した魚をかじりはじめた。

 

「あ~あ。ナツの為にせ~かく、チョコのクッキー焼いたのに、こんなに残ってるなぁ」

 

 ぐりぐりとナツの脇腹を刺激するルーシィ。鬱陶しそうに、眉間にしわを寄せながらナツが降り返る。振り返ったナツの目の前には、ルーシィの指につままれた自分がリクエストしたチョコチップのクッキー。

 

 出かけるときにルーシィに――チョコのヤツなっ――とは言ったものの、ルーシィは節約のためだと言ってよくクッキーを自分で作っていた。自分たちが飽きない様にと、いろんな種類を。チョコというだけでは、2~3種類はあったはずだ。

 

 自分がしたリクエストがちゃんとルーシィに伝わったのかは、言った後から微妙に思えていた。とは言っても、ルーシィのクッキーは甘さ控えめで、割とどれもおいしいのだ。だから意図したものと違うモノでも、何ら嫌な思いはしないだろうとも――。

 

 ナツの目の前に差し出されたそのクッキーは、何度見てもやはり自分の好きなナッツの入ったチョコチップのクッキーだ。このクッキーだけは、他の一般的なクッキーとは少し違う。甘いだけではない何か、少しの――苦味もするのだ。

 

  ――なんでルーシィにはわかるんだろうな。

 

 口に出してこれが好きといったことは、今までなかったのだが。ナツはこのクッキーが、結構お気に入りであった。そして、それを当たり前のようにチョコといっただけでルーシィが分かってくれることが、たまらなくうれしかった。それだけで、世界がキラキラと輝いて見えるのだ。

 

  ――オレも相当、頭いかれてんな。

 

 

 ルーシィがスティングの傷を手当するときの、屈んだ体制。スティングの顔を覗き込んだ、心配した表情。それは、いつもナツが独占しているモノだ。時折ハッピーや、ウエンディやロメオにも向けられることもあるが……大抵は、ナツが独占しているのだ。

 

  ――大体あいつ、しっかり覗いてやがったんだ。

 

 身をかがめたルーシィの襟元から覗く、豊満なそれは性別が男であれば確実に視線がいってしまうだろう。つい見てしまうのは解る。――ナツも男だから。だが、ルーシィだ。ルーシィの胸が凝視されている事実が、面白いわけがないのだ。それに対して苛立てば、ルーシィはナツの想いをよそに、ごめんねスティング君といってスティングを庇い、その顔をその胸に抱きしめたのだ。いくら見た目が小さいからと言っても、中身は自分らと大して歳の変わらない――男だというのに!!

 

  ――くっそ。怒りが収まんねぇ。

 

「もうっ。ナツが食べたいって言うから作ったのに……これ作るの大変なんだからっ」

 

 ナツの目の前に差し出されていたクッキーは、少し戻りルーシィの口に近づいていく。一口その可愛い口がクッキーを齧った。その動きに、ナツの喉が――大きく鳴った。

 

「オレんだろっ」

 

 ルーシィの手を取り、そこにつままれたままの三日月の形に変わったクッキーを口にほおり込んだ。蒸気を上げるように、ジューっと真っ赤に染まるルーシィ。その初心な反応に、ナツの心もはねあがる。

見た目は子供の姿のままのナツ。同じように子供の姿になったスティングには見せなかった反応だ。――それはルーシィがナツを、意識している証の様で。

 

 ルーシィの潤んだ瞳の中に、ナツは自分を見つけた。――幼い姿の自分。

 

「もう/// 自分でとって食べなさいよっ///」

 

 平静を取り繕う少女に、また簡単に無かった事にしたのだと、ナツは肩を落としながら、チョコのヤツに手を伸ばした。だが、どこまでも鈍感なこの少女には、ストレートな言葉しか通じない。しかも言葉だけではだめなのだ。簡単に口にしてしまえば、この鈍感女は、仲間だからと勝手に自分を納得させてしまうのだから。

 

  ――いい加減、ちゃんと俺を見やがれ。

 

 次々と、ナツの口にの中に消えていくルーシィのクッキー。皿に山盛りになっていたものが、どんどん減っていく様は、作った側としては見ていて楽しいものだ。ルーシィは嬉しそうに笑みを浮かべて、ナツの食べっぷりを眺めていた。クッキーを食べながら、たまに思案するその表情は、やはり体は小さくなっても、自分と同じくらいの男の顔なのだ。

 

  ――ったく、何考えてんのかしらっ

 

 そう思いながら、ナツをぼんやりと眺めていたルーシィの目に、ナツの表情が固まったのが映る。ナツが、思考を止めたのが伝わってくる。グルンと首をまわし、ルーシィに振り返ったその表情は、輝いている。――本当の少年のように。

 

  ――先程垣間見せた、男っぽい表情とは違う顔だ。

 

「オレンジだ!! オレンジの皮が入ってんだろっ」

 

 キラキラと目を輝かせるナツは、嬉々としてルーシィの顔を覗き込んだ。じわじわとルーシィの顔には引いたはずの赤みが差していく。自分がナツを見つめていたことは気付かれてはいないようだ。

 

「……オレンジって、よくわかったわねっ」

「おう。前から何かチョコともナッツとも違う匂いがしてたんだよなっ。」

 

 普段作るそのクッキーは、オレンジのリキュールを利かせているだけだったのだが。今回は昨日のデザートで出したオレンジの残りの皮で、昨晩からオレンジピールを仕込んでいたのだ。たまたま、このロッジに来た時に大きなオレンジが沢山あったからなだけだったのだが。

 

 ナツからリクエストされたという事――ナツが好きなんだったら――と、途中から気合を入れて出来立てのオレンジピールを、入れたのだ。そして、甘いだけではない。ほんのりとした酸味と渋みもあって、ナッツの歯触りが楽しいクッキーの出来上がりだった。

 

「よくわかったわねっ」

「おう。だってよう。いつもよりもなんか濃いだろ? オレンジが」

「フフフッ。ナツがこのクッキー食べたって言うから、好きなのかと思って……ちょっと頑張ったんだっ」

 

 いつもより、ちょっとだけねっと、嬉しそうにほほ笑むルーシィ。そんなルーシィの表情を目に、ナツの心臓がドクンッと大きく跳ねた。ルーシィから目が反らせない――。ナツは手に取ったクッキーを、誤魔化すように自分の口の中に押し込んだ。

 

 そして、とっくにお魚を食べ終わって2人のやり取りを眺めている、青猫。

 

 『もういっそ。このまま告白しちゃえばいいのに――。』

 

「!?ブハッ!!」

「キャっ!!」

「ごぼっごほっげほっ」

「やだナツ、大丈夫!? お水! お水、持ってくるねっ。ハッピー! ナツお願いっ」

「……あいさっ」

 

 むせたナツをその場に残しルーシィは、慌てて立ち上がってキッチンへ消えていく。ゴホゴホと咳こむナツは、ルーシィの代わりに背を擦りに来た青猫を睨み付けた。そんなナツに、ハッピーは余裕の笑みを返す。

 

「ナツ~……聞こえちゃった?」

「うっ/// ルーシィに聞こえちまうかと思っただろっ。ケホッゲホッ」

「あんな小さな声、ナツにしか聞こえないよ。プフフッ」

 

 小さな青い手を口元にもっていき、楽しそうに顔を歪める相棒に、ナツは大きくため息をついた。この青猫は、応援してくれてるのだか、邪魔してくれてるのだか、よくわからない時がある。まぁ、基本的に自分の味方なのだろうが――。ナツは、深く深呼吸して息を整えた。

 

  ――いい雰囲気になると、邪魔しやがる。

 

「本番は、明日でしょ?」

「うっ……そうだなっ」

「早く、体…元に戻るといいねっ」

「……朝には、戻ってるはずだ。」

「ぷふふ。やっぱりなぁ。ナツってば、フロッシュよりも手がかかるんだから……どうせわざとだと思ったよ。スティング達見て、小さくなって、ルーシィに甘えたかったんでしょ?」

「……うっうるせー///」

「で? 甘えられたの?」

 

 からかってくる青猫を無視して、頬を染めたナツはプイッとそっぽを向いてしまう。そんなナツを楽しそうに眺めたハッピーは、ナツの頬にクッキーの食べかすが付いていることに気付くが、放って置くことにした。――きっと、ルーシィがお世話してくれるから。パタパタと、スリッパを鳴らす足音が近づいてくる。

 

 ルーシィが持ってきてくれた水を、一気に喉に流し込むと、ルーシィの手がナツ頬に伸びてきて、そこにあるクッキーの食べかすをとってくれた。水と一緒に、絞ってきてくれたタオルでナツは口元をぬぐった。――赤い顔を描くして――熱を冷ますように。

 

 

++++++++++++++++++++++++++++++++++

うぬぅ……ウマくまとまりませんな(‘_’)

うん。ナツがいじけ虫で、ルーちゃんが可愛くて、ハッピーは面白がるって感じでww

 

おまけ↓

「あ~もう。タオルだけじゃ駄目ね。ナツお風呂入っちゃって」

「……ルーシィ。オレ体小さくなっちまったからよう……風呂いれてくれよっ」

「なっ///」

「昨日……スティング達は、俺が入れてやったじゃんよ」

「ばっか/// ハッピーに頼みなさいっ」

 

 

* 

 

 

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 まだ陽も上がらない早朝。ナツとルーシィは並んで山道を歩いていく。ナツの肩には、ハッピーが乗っかっている。行先は、昨日確認した場所。昨日の様子では、きっと今日には咲いている予想だ。

 

 ルーシィは、自分よりもちょっと高い位置にある桜頭に向かって白い息を吹きかけた。

 

「ルーシィの咆哮!! ってのはどぉ?」

「ぐはぁ!! ルーシィの匂いが!!」

「えぇ~!! ルーシィくさいのぉ!?」

「ちょっとっ!! 口臭なんてしないでしょぉぉぉ!?」

 

 少し大きな声で言い返したルーシィは、ナツとハッピーを睨みつけた。静かな森の中に、綺麗なソプラノがこだまする。そしてルーシィは、ナツの赤くなっている頬を優しくつついてから身を翻した。悪戯っぽい笑みを浮かべ、楽しそうに先を行ってしまう。その足取りは、まるで宙を歩くようにふわふわとしている。

 

  ――目が覚めると、ナツの体は元に戻っていた。

 

 腫れた頬を手で摩りながら、ナツは肩にハッピーをのせたままルーシィを追いかけた。

何故、頬が腫れているのかというと――昨晩。ふざけた事を言っていたナツは、結局自分でお風呂に入った。ナツがお風呂から出てくると、みんなで夕食をとった。その後、ルーシィはハッピーを連れてお風呂に入っていった。ルーシィ達がお風呂から出てくると、ソファで眠りこけるナツの姿があった。

 

 あどけない顔で眠るナツ。ルーシィはふと思った。小さくなったとはいっても、もとよりこの位の大きさの時にナツは、一人で暮らしていたのだ。

 

  ――大抵の事は、何でも1人でやってたんだよね。

  ――1人でできなかったことは、甘える事。なのかな――。

 

 ルーシィはナツを起こさないように、そっと毛布を掛けてやり、部屋を出た。そして夜中、ベットに桜頭がもぐりこんできた時、ルーシィは寝ぼけながら微笑んで布団をかぶったままその桜頭を、抱きかかえて再び眠りについてしまったのだ。

 

 朝、目が覚めた時のルーシィの反応は、皆、想像がつくだろう。

 

 

 まだ薄暗い中、ナツの前を楽しそうに歩むルーシィ。

 

「あたしって……良いお嫁さんになれるんだって!」

「あぁ? スティングが言ってやがったやつか? ルーシィあいつ等の世話焼いてたもんなっ」

「あい。オイラもルーシィは、良いお嫁さんになれると思います!!」

「フフッ。ありがとハッピー。……ナツは? …ナツは……どう思った?」

 

 ルーシィは精一杯の、勇気を振り絞っていた。その問いを受けナツは『当たり前だ!ルーシィは俺んとこに――!!』叫んでしまいそうだった。自分の思考にじわじわと熱が顔に集まってくる。ナツは、平静を装いながら、誤魔化すように何とか違う言葉を探していた。

 

「……ナツ?」

 

 黙り込んでしまったナツに、不安になったルーシィはその顔を覗き込んだ。やってしまったんだ。なんてことを聞いてしまったんだろう。いつもならハッピーが、自意識過剰だね!!とか言ってくれるのに――今日は黙ってしまっている。焦るルーシィの様子に、ナツも慌てて思いついたことを口にした。

 

「良いも悪いもルーシィ、俺が小さくなっても世話なんかやいてくんねえじゃん」

「うっ……だって……ナツは、ナツでしょ? お世話なんて、なんだか恥ずかしいじゃないっ」

 

 頬を染めるルーシィが、ナツの視界の中でうるんだ眼を泳がせた。その仕草は、ルーシィが照れているのではないかと、想像できてしまう。

 

『案外、男として見てるからなのかもよっ! ナツさん』

 

 昨日、スティングに言われた言葉が脳裏をよぎった。

 

「俺の……よ…めな…………ら…」

「へっ///」

「あ?(声に出てやがったかっ!!)///」

 

 ナツは赤く染まりだす顔を隠すため、マフラーを引き上げた。肩に乗っかるハッピーが、いやらしい笑みを浮かべている。

 

「なっなっなっ/// ……今……なんて」

「うあっ……いあ……そのっ……あのな……」

 

 ナツが言いよどんでいるうちに、ルーシィは小さく息を吐きだした。赤みの帯びていた顔は、だんだんと落ち着きを取り戻していく。

 

「って、どうせ深い意味なんてないんでしょ? ……また適当なこと言って、ナツは乙女心を……なぁああ………わぁぁあ!! すご~い!!」

「おおっ!!」

 

 目の前に広がるのは、一面の花畑。先日は1つも咲いていなかった花の蕾が、一斉に開いて、一面花の絨毯のようだ。

 

 淡く発行する膝の高さほどの黄色い花と、桜色の花。その花達は風を受けてそよそよと、そろって踊っているようだ。朝もやと、登り始める陽の光、まじりあって幻想的な光景が広がっている。

 

  ――ルーシィが走り出した。

 

 彼女の動きに合わせてフワフワと揺れる、綺麗な金髪が光をはじくように輝き、どんな花よりも綺麗に咲くルーシィの笑顔。――ナツの胸は、胸のあたりをぎゅっと握りしめた。

 

  ――花畑の真ん中変で、ルーシィが手を振っている。

 

「ナツ―!! ここに、連れてきてくれてありがと~!!」

 

  ――幸せいっぱいの、ルーシィの笑顔。

 

 ナツの視界の先で、早速花を積み分けていくルーシィ。その手には、黄色い花と桜色の花がたくさん抱えられた。

 

「……ルーシィ」

 

 ナツの肩から、ずっと黙っていたハッピーが翼を出して浮き上がった。

 

「ナツ」

「おう。ハッピー」

「ルーシィってば、受かれちゃって可愛いねっ」

「おう///」

 

 ナツの答えにハッピーは、肉球のついた手でにやける口をかくした。プフフフフフ

 

「オイラちょっと寝不足だし……寒いから、ロッチに戻ろっかな?」

 

 ハッピーは、一度ルーシィの元へと飛んでいき、背負っていた花摘みのかごを彼女に渡した。そして小さくウインクする。

 

「ルーシィ~。オイラ……なんか寒くって……」

「えぇ? もう。夜遅くまで起きてるからじゃない?」

「あい。ロッジもどっていい? 明日はちゃんと手伝うから!!」

「……もう。しょうがないわねっ。ちゃんと温かくするのよっ」

「あいさ~!!」

 

 ルーシィ白い手に頭を撫でられたハッピーは、嬉しそうに宙に舞った。そしてゆっくりと、ロッジへと向かって羽を向けた。

 

「……サンキュっ」

 

 ナツは、ギュっと手に汗を握りしめてルーシィの元へ歩んでいく。

 

 両手のかごにそれぞれの色の花を摘む少女。

 

「ルッルーシィ!!」

 

 金糸を揺らし、振り返った笑顔の少女。

 

 登り始めた朝日が、木の葉を抜けて少年と、少女を照らす。その幻想的な世界に入り込んでしまったかのような少女の姿に、息を――言葉を呑み込み、そこに立ち止まるナツ。

 

「な~に? ナツも寝不足とか言わないでよ?」

「……あぁ。ハッピーには帰ってもらったんだ。」

「……え? 」

 

 意味が解らず、キョトンとした表情を浮かべるルーシィ。ナツは、そうだと思いつき、そこに咲く花を摘みながら、少女の隣に静かに歩み寄る。キョトンとした表情のままのルーシィの隣に立ち、その金糸に積んだ花を挿した。

 

「ルーシィに……大事な話があるから、帰らせたんだ」

 

 どうしたのよ? 急に改まって…と、でもうれしそうに微笑み 髪に飾られた花に手を当てるルーシィ。ルーシィと目線を合わせるように、ナツはしゃがみ込んだ。

 

「ルーシィ!! あのさっ」

 

 

 

fin

 

おまけ

 

 次の日の花摘みで、ナツとルーシィは肩を並べ、花を摘んでいる。

ルーシィの髪には、今日も花が飾られている。仲睦まじいい光景のようだ――が、ナツの頬に残る真っ赤な手形。

 

「プフフフフ。それにしてもスッゴクくっきりだね~」

「だってナツが……///」

「だって……ルーシィがあんな格好で……」

「そんなのっ/// いつもの事じゃないっ」

「オレたち……もう、ただの仲間じゃないだろっ///」

 

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なんか意味不明で終わってしまったね((+_+))

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