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2014年07月17

魔法研究所シリーズ

~竜座の鍵~

ナツとルーちゃんのもとに舞い込んだ魔法研究所からの依頼。それは、星霊の鍵を作る実験をするのだというのだ。

研究所で作り上げた鍵を媒体にナツの魔力とそれをルーシィが繋ぐ。

 

「へぇ。それが竜座の鍵なの?」

「うん。そうみたい。」

「ねぇルーシィ。さっそく呼び出してみてよ」

 

 えぇ? と緊張したような表情を覗かせるそのカギの所有者にあたる、星霊魔導士のルーシィ。その傍らから嬉々として、白い羽をはやした青猫がそのカギを覗き込んでいる。

 ここはギルドの酒場の一角。ルーシィは溜息を吐きながら、その手に握っている赤い鍵を見つめていた。

 

 

 

 今回の依頼は『妖精の尻尾』というか、ルーシィとナツに指名で入ったものだった。

依頼主は、魔法研究所。ここからの依頼は、大抵ナツとルーシィに指名で入る。

一度偶然にもそこからの依頼を受けてから、何か気に入られてしまっていた。

それから、魔法薬や魔法道具の使用実験にルーシィとナツを指名してくるようになっていったのだ。

 

 先日変な魔法薬で翻弄されたルーシィは、その依頼書を渡され眉間にしわを寄せその紙を睨み付けていた。どうにか断れないか、・・・・・・もしくはほかの誰かに頼めないか、そんなことを考えていたのだ。

 ある文字を目に留めるまでは。

 

“追加報酬として、世界に1本しかない鍵”

 

 鍵とみれば、ピクリと眉が動いてしまった。

 

 よくよくその依頼書に目を通してみれば、星霊の鍵にかかわる依頼らしく星霊魔導士の魔力と、プラスで膨大な魔力の持ち主が必要なのだという。まったくもってルーシィとナツ向きの仕事であった。星霊の鍵に関するもの・・・・・・、ルーシィの興味はとても強く惹かれてしまったのだ。

  

 そして、ルーシィはいつもの桜頭を捕まえて魔法研究所へと向かったのだ。そこで待ち構えていたのは、いつものアフロヘア―の魔法研究所の所長だ。

 

「よくいらっしゃいました。ナツさん! ルーシィさん! まぁまぁ、おかけ下さい」

 

 そう言っていつもの、だいぶ年季が入って古ぼけてはいるがとても座り心地のいいソファに、座るよう促される。ルーシィからの依頼の誘いに、うげぇと嫌そうな態度を見せながらも2つ返事でついてきていたナツが、ボスンと埃を立ててそこに座った。

 

「おい。菓子はねぇのか?」

 

 出されたジュースを口に運びながらナツが茶請けを強要しようとしたところで、ルーシィにゲンコツを食らった。

 

「もう、ナツ! バカなこと言わないのっ!」

 

 デカデカと頭のてっぺんに出来たコブを擦りながら、ナツが不貞腐れたように「ちぇっ」っと、唇を突き出した。そしてルーシィがその隣に腰を下ろすと、研究所の所長が目の前のテーブルに、何の変哲もないシンプルな鍵をのせた。

 

「??」

「では、早速ですが……鍵を作りましょうか!!」

「はぁ……?」

「なんだ? 星霊の鍵って作れんのか!?」

「正確には星霊の鍵とは言えません。 が、星霊魔導士のルーシィさんの魔力と膨大で特殊な魔力の持ち主であるナツさんの魔力がこの鍵を媒体に練りあわされれば……」

 

 話し出したこの研究所の所長の説明によると、目の前に出されたシンプルな鍵は、魔力を受けて変化するのだという。星霊魔導士のゲートを開く力と、今回の場合ナツの魔力をつなぐのだという。

 

「……いわば、……竜座の鍵ですね」

 

 アフロヘア―をモフモフと揺らし、さわやか口調で所長が言い終わると、ナツの目が輝いたのは言うまでもない。「怪しいわよ」というルーシィを説き伏せ、さあ早く鍵を作るぞ!! とナツは気合を入れている。

 

「では、まずルーシィさんの魔力を頂戴いたします。鍵を握り別空間と新しい鍵……竜座のイメージを。」

「……はい。」

 

 一見危ない行為のようにも思えたが、もともとここの研究所のことはよく知っている。……変な薬や道具ばかりを作ってはいるが、決して後ろ黒い研究はしていなかった。一応……信頼に値してはいるのだ。

  ルーシィは指示に素直に従いそのカギを両手で包み込み、胸の前で握りしめた。ポーッと淡い光を放ちながらルーシィとそのカギが光りだした。

 

「ナツさん! 今です。彼女の手をそっと握ってください。優しくぅぅ!!! 慈しむようにですよぉぉ!!! 宝物を包み込むようにですよぉぉぉ!!! まるで結婚式での初めての共同作業のようですねぇ~」

「うへっ!?」

「早く!! 今ですよ!!」

「……ナッ……ナ…ツ……くっ…」

 

 所長の言葉に踊らされて動きが止まっていたナツが顔を上げれば、ルーシィが苦しそうに眉をゆがめていた。どうやら所長のからかいのような言葉は、ルーシィには届いていないようだ。ナツは慌ててその手に自分の手を重ねた。そしてゆっくりと、魔力を練り上げていく。

 

「ナツさん。いいですかぁ? 繊細に、ルーシィさんの作った道にナツさんの魔力を通してください。」

「うおっ…おうっ!」

「ルーシィさん。イメージです!! イメージ!! 竜座ですよ!! ナツさんの魔力にはピッタリでしょう? 竜座のイメージを忘れないでくださいねぇ~」

 

 普段の依頼時の様子とは打って変わり、所長はよく通る声で言葉を発しながら2人の周りを飛び跳ねてた。白衣をはためかせながら。……まるで子供の出産に立ち会ってるかのごとくだ。

 

「おいっ! おっちゃん所長!! いつまでこのままなんだよっ」

「ふぅ……けっ…こう……きつっ……」 

「お二人の魔力の限界までお願いしたいところですが、、、すでに限界近いですか??」

 

 飄々とした様子の所長に向かって、ナツは呆れた顔を向ける。ルーシィの額からは、一筋の汗が流れ落ちた。

 

「ねぇ……これ……って…いの……を…つ……」

「はい! 似た様なモノですが、命は作れませんから思念体の塊といったところですね。魔力の練り具合によりますが、自我を持つ可能性は大きいですよ。」

「……し……ねん………た……い…?」 

「そうです。言わばナツさんの分身のようになので……」

 

 ルーシィの意識が途切れるギリギリのところで、魔力の供給が終わった。そして、ルーシィの手には……赤い色に染まり、ドラゴンの羽とかぎ爪、鱗を模した形に変化した鍵が握られていた。

 

 ナツの魔力により作られた竜座の鍵。

 

そして、そのカギはゲートを作ったルーシィにしか使用できない、ルーシィ専用のたった一つの鍵となるのだ。

 

 

 

 

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

もしものお話。竜座の鍵ってカッコいくないです??

 

 

 

 その場で魔力が切れてしまったルーシィはまだ、竜座を呼び出してはいない。今は鍵をもらって、妖精の尻尾の酒場に戻ってきていた。

 経過観察。

 それも依頼の一部になるのだろうとは思ってはいた。だから、それはいい。どんなものが、現れるのか経過観察後(危害を加えないのがわかってから)魔法研究所に連れていく。というのが、何ともあの所長らしいという……。

 

「おい。ルーシィ! 早く竜と戦わせろよ!!!」

「ちょっ!? 竜座だからって、竜の形のが出てくるとは限らないのよ?」

「あい。ルーシィの友達って、どこか裏切る感があるもんね!!」

「うぅ……っていうかナツゥ!! あたしは、大事な星霊とナツを無駄に戦わせたりしないわよ!?」

 

 ギルドに戻ってきて、幾分魔力が回復したように見えるのにルーシィは赤い鍵を見つめたままだった。いつまでたっても、竜座を呼び出そうとしないその様子に、ナツはしびれを切らせていた。

 興味津々の相棒とともに、ナツはルーシィの顔を覗き込んできたのだか。早く呼び出して、竜座と戦いたいといったナツに対して、ルーシィに反目を返されてしまった。だがそんな視線を向けられても、ナツは引く様子を見せなかった。唇を突き出してブツブツと文句を口にしている。

 

「……ロキは喧嘩すんぞ?」

「ロキはロキ! あんたはロキなの!? 大体ロキが勝手に出てくるんだもの。……まぁロキは妖精の尻尾の魔導士でもあるから……」

 

 しかたないでしょ!? っとルーシィの呆れた口調に、確かになぁとナツは頷いた。だがどう納得させられようが、それをこれとは話は別だと、ナツはルーシィの肩をつかんだ。

 

「オレ。早く会いてぇし」

「うん。わかってるよっ!」

 

 ルーシィは困ったように、眉を寄せた。 なにせ、自分たちで作ったといっても……竜座。……竜なのだ。ナツが強く惹かれるのも無理はなかった。

 

「もうちょっと魔力回復しないときついの。明日! 明日にしましょ?」

 

 ルーシィの発言に、ナツとハッピーは顔を見合わせた。

 

「明日だぞ! 絶対だかんなっ!!」

「あい!! 楽しみだな~オイラ」

「そうだろっ。竜座だかんな!! 竜だぞ!! 竜!!」

「……じゃぁ、あたし疲れちゃったし……明日ねっ」

 

 ルーシィが、重たい体をスツールからおこすとナツも立ち上がった。貧血の様に頭が少しグラッとした。気付かれないように、ルーシィはカウンターに手をついて脇においていた鞄に、もう片方の手を伸ばした。

 そこに座っていたハッピーは、羽を出してカウンターの中に飛んで行ってしまった。残されたナツが、ルーシィの様子をじっと見ていた。

 

「ナツ?」

「おうっ。帰んだろ?」

「……そうよ」

 

 ルーシィが、そこにかけてあった上着も忘れないように手に取り、鞄を持ちなおすと、その様子をナツがまだそこで見つめている。

 

「? ……じゃあねっ」

 

 そう言って、酒場を出ようとするとその後ろからナツの声が返ってきた。

 

「おう! じゃーなっ」

 

 変な感じはしたが、ナツから挨拶が返ってきたので首を傾げながらもルーシィは帰路についた。

運河沿いを歩きながら、竜座の鍵を握りしめていた。ルーシィの体温がその鍵に移って、少し暖かくなっている。

ふと足を止め運河沿いの石造りの塀にルーシィは腰を下ろし、手の中の赤い鍵を見つめ小さな声で囁いた。

 

「こんにちは。気分はどお?」

 

 鍵は返事をしない。 自我を持つこともあると、依頼主である研究所の所長は言っていた。自我はなくただ思念体として命令に沿うという場合もあるし……泡となって消える可能性もある。

 

 いいのか、悪いのかわからない。……わからなくなってしまう。会いたいような……会いたくないような。そんな迷いがルーシィの胸中に渦巻いていた。

 

「……でも……あたしがどう思おうと、もうあなたはここにいるのよね。……よろしくねっ?」

 

 迷いが消えたわけではないが、実際手のひらには赤い鍵があるのだ。それだけは紛れもない事実なのだ。

 そういえば……あたしとナツの魔力がまじりあった子なのよね……。っ! それって/////。顔が急速に熱くなっていく。きっと真っ赤に染まっている。すれ違う人が変に思うかも知れない。

 ルーシィは運河の塀からすっと立ち上が、速足で自室に戻る事にした。……ナツは、わかってるのかな?////

 

 …………あいつのことだもん。……そんなの気にしてないかっ。

 

++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++

微妙なとことですな。。。

 

 

 

 階段を上がり、赤い鍵を握ったまま部屋の鍵を取り出した。

 

 「……ただいま~」

 

 誰もいるはずもないのに、ついつい声に出してしまう。ルーシィは肩にかけていた鞄を下ろし、高いヒールのミュールを脱ぎ捨て、スリッパに履き替えた。そして静かに振り返ったところでソファに沈む人物たちに気がついた。

 

「よっ! おかえり」

「ルーシィおかー!!」

 

 確かにギルドにおいてきたはずなのに!! なんであんた達の方が早いのよ!! で、そんな短時間でなんでこんなに部屋が汚れるのよ!!! ふつふつと湧いてくる感情をのせて、ルーシィは軸足に力をいれた。

 

「ふっふっ不法侵入~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!」

 

 見事な回し蹴りをナツの頬にヒットさせ、ルーシィは同罪のハッピーに振り返った。振り返られたハッピーはその場で万歳をしたまま背筋を伸ばし、小刻みに体を揺らしていた。

 

「なんであんたたちがここにいるのよ!!」

「てててっ」

 

 ルーシィの叫びに、蹴られた頬を擦りながらナツが立ち上がった。

 

「ったく凶暴な奴だな!! ルーシィは」

「なっ!?」

「あい。オイラ。今日はルーシィお疲れだったからと思って、ミラにサンドウィッチ作ってもらってきたんだ!!!」

 

 気の利いた事を言って取り入ろうとするハッピーを、ナツが唖然と見る詰めるが、まんまとそれにのっかるルーシィが嬉しそうにハッピーを抱き上げた。

 

「あらっ、ハッピーってば気が利くわねっ! どこかの相棒さんとは大違いね?」

「……ハッピーの裏切者」

「あい。オイラは空気の読める猫ですから」

 

 会話の途中で、エッヘンと胸を張る青猫に微笑みを返しながらルーシィはその頭をなでてやった。ハッピーが嬉しそうにルーシィの胸にすり寄ると、それをまたなでながらルーシィは、見事に口を尖らせた桜色を視界に入れた。

 

「で? 何の用なのよ?」

「あ? ルーシィが一人で竜座を呼び出さないように監視しにきたんだ!」

「へ?」

「お前、一人で呼び出して遊ぶなんてダメだからな!! 一緒に作ったんだから……オレの子供でもあるんだからな!!」

「…ふ……へっ………!?」

 

 ナツの発言にルーシィは言葉を失った。ぱくぱくとただ口を動かしている。

 

「あい。それって……ナツとルーシィの子供みたいだもんねっ」

 

 ハッピーの追い討ちに、顔を真っ赤に染め上げたルーシィは、ワタワタと腕の中のハッピーをこねくり回した。

 

「ふがっ!」

「こ……こっこ!…こっ――――!!!?」

 

 あまりのルーシィの慌て具合に、その腕の中にいたハッピーが何とか抜け出すが、ルーシィはハッピーをなで繰り回していた手を自分の頬に当てて、動きを止めてしまった。

 

「どうしたルーシィ? にわとりにでもなっちまったか?」

「あい! ルーシィってば、プフフ! 意識しちゃったんでしょぉ」

「ちがっ・・・もう!!」

 

まただ! また、自分ばかり意識してしまっている。

 

(ほんと参るな。ナツはこういう奴だって解っているのに!! ・・・また簡単にそんなこと言ってくれちゃって……。それに……。)

 

 どおしたのかとナツがルーシィに手を伸ばすが、それをルーシィが反射的によけた。そのルーシィの様子に、ナツはコテンと首を傾げた。

 

「……なんだよ??」

「あっ……うん。なんか……怖くって」

「ルーシィ?」

 

 ルーシィの発言に、ハッピーはその顔を覗き込んだ。

 

「だってさっ。思念体と言っても意志を持ち始めたら……それは立派な個だと思うのよ……。」

「まあそうだねっ」

「んあぁ? コ? 」

 

 ルーシィの沈んだ様子に、聡いハッピーは何かに気が付いたようだ。ナツは解ったのか解らないのか頭をコテンと傾げたまま、そのやり取りを聞いている。

 

「思念体ってことは……」

「……そっか。いつかは……」

 

 そこまで言うとルーシィは、赤い鍵をぎゅっと握りしめた。ハッピーのぴんと張っているはずの耳も垂れ下がっている。二人の様子に、ナツは素知らぬ顔で言葉をはさんだ。

 

「なんかよくわかんねぇけどよっ。そこにいんのに呼び出してやんねぇと可愛そうじゃねえか」

「え?」

「あ? だからよう、そんな鍵のまんまでいたら、自由に動けねえだろ?竜座のやつが」

「そっか……。うん……そうだね。」

 

 ナツの何気ない一言に、ルーシィは気持ちが救われた様な気がした。そうなのだ。竜座の鍵は……既にここにあるんだ。あたしの目の前に。鍵のまま…ナツの流し込んだ魔力が消えてしまうのを待つなんて!!!それこそ、ひどいことではないか!!

 思念体だろうが何だろうが、皆いつかは寿命を迎えるんだ。短いとわかっているなら……それこそ楽しい思い出を作らなきゃ!!

 

「ルーシィ? オイラもそう思うよ。大丈夫だよ。オイラもナツも一緒だよ?」

「……うん!!」

「大体どんな奴が出てくるかも解んねぇんだろ??ビクビクしすぎだぞ!!ルーシィ!!」

「あい!!」

「……そうねっ……女は度胸! 呼び出してやりますか!!」

 

 

 

 

 

 

 ルーシィは、赤い鍵をしっかりと握り、胸の前でかまえた。

 

「我…………? あれ。この子どこにいるんだろう?」

 

 そういえば、どこと道を繋げばいいのだろう? 確かに鍵に魔力を通せば、この鍵の友人はこちらに現れてくれる。……はずだ。でも、やっぱりイメージが大事なんだ。以前星霊界に行ってからは、そこに住まう彼らを呼び出す時イメージする様になっていた。すると、不思議なことに移動がスムーズなのだという。獅子宮のロキ曰く『 道を作るのが上手になったね !』なのだ。

 今か今かと待ちわびていたナツは、ガクッと肩を落とした。

 

「ルーシィッ! 早くしろよ」

「あいっ! ボケはいいから~。はやくっ! はやくっ!!」

  

 ボケじゃないからっ! そう返しながら、ルーシィは困惑しながら、鍵に魔力を通してその繋がる先を探っていた。

 

「……えっ?」

 

 思わず驚きの声が洩れ出た。作られた竜座は……案外と近くにいるようなのだ。そう。まさにここ。ルーシィの部屋にいるのだ。ナツの魔力の塊がいる場所だから……、イグニールと過ごした場所とか、ギルドとか、ナツたちの家とか、どっかの火山の中とか思っていたのに……。まさか自分の家とは……。

 

 これは魔力を与えたナツ自身、ここが帰る場所だと思っているということではないだろうか? はぁぁ?///うれしいような。悲しいような。恥ずかしいような……微妙な乙女心だ。

 確かにナツは、仕事に出ていなければ……自分の家かギルドか……ここにいるんだ。……お金を払わないでも、食べるものも 飲むものもあるし、散らかしても勝手にきれいになる。お風呂にも入れて、昼寝もできる。至れり尽くせりなんだ。そう考えれば……そうなのかとも思ってしまう。

 

「どうしたの? ルーシィ??」

 

 赤い鍵を握ったまま、あきれ顔でナツを眺めているルーシィの様子に、もう待ちきれないとハッピーはその顔を覗き込んだ。

 

「え? あっ。大丈夫。ちょっと待ってね!!」

 

 んんんっ。と喉を鳴らし、ルーシィは静かに空気を吸い込んだ。ルーシィの魔力に呼吸するように、わずかにその金髪がふわっと浮いた。

 

「我…竜座との道を繋ぐ者。汝……その呼びかけに応え門をくぐれ。………開け竜座の扉! ドラコ!!」

「ドラコ?」

 

“チリーン”

 

 ハッピーの声と共に、鈴の音が部屋に響いた。

 

 ルーシィが握っていた赤い鍵がその手から放れ宙に浮きあがる。

 

 そして……その形も質量も変化していく……。

 

 ……不意に、煙に包まれたと思うと……人影が見えた。

 

 

 ……小さめの人影……

 

 

 …………でも少し形が……

 

 ルーシィが目を懲らすと、足に衝撃を受けた。

 

 

「るーしぃ!!」

 

 

 ポスン。煙の中から出てきた足が床を蹴り、ルーシィに抱き着いてきた。

薄い赤色の髪に、赤黒い鱗のような耳と小さなツノ。背中には小さなドラゴンの羽。 ルーシィの太ももにしっかり抱き着いている腕は所々鱗だっていて、爪も鋭い。 そして、立派な尾が生えている。

 

「えと……ドラコ??」

「んっ!」

 

 ルーシィが問いかけると、ニパッとした満面の笑みが返ってくる。その笑顔のままコクンと頭が縦に揺れ、ルーシィの顔を覗き込んでくるその顔は……。

 

 ……ナツだ。………少々幼い気はするが……確かにナツなんだ。

 

「え? ナッナツ!!!!」

「おっ?」

 

 ルーシィの肩から顔を覗かせていたハッピーが、思わず叫んだ。そこの声に、ナツも身を乗り出した。その半竜の姿の子供に、ナツも視線を向けた。すると、その子供がキッとハッピーを睨んだ。

 

「オレは、ナツって名前じゃないぞ! ナツってのはオレの父ちゃんだろ!!」

「……父ちゃん?」

「ふへぇ///」

 

 ちび竜の発言に、ルーシィとハッピーは顔を見合わせた。双方とも驚きを隠せていない。いや、ルーシィは一瞬頭によぎったことが竜座の形成に影響を与え、変な記憶を生んでしまったのではないかと、背筋に嫌な汗を流した。

 

 (///ナツとあたしの子供みたいじゃない////)

 

 内心そう思っていたのが、ばらされてしまった気分だ。もうどうしようもなく顔が赤くなっていく。思考がうまく回らない。そんな2人をしり目に、ナツがルーシィの足元にしゃがみ込んだ。

 

「よう。息子! オレがナツだ」

「……ナツ? 父ちゃん?」

「おうっ!!」

 

 ちび竜が、ニパッと笑顔を見せた。ナツがのばしてくる手に飛びつくと、その顔に頬擦りをする。

 

「父ちゃん!! 父ちゃん!!」

 

 同じ顔の、青年と子供。 そんな二人がじゃれあう姿は、何とも微笑ましい光景だ。……まるで本物の親子のように。その様子を見ながら、ハッピーは真っ赤に固まっているルーシィを見た。

 

「ねぇルーシィ。」

「へっ? へっ??」

「なんでナツが父ちゃんなの?」

「は……? え?? もともとナツの魔力だ…から……?」

「そっか。じゃぁ、ナツと同じ顔してるのもそのせい?」

「え? わっわかんないけど……竜座って言われて、ついナツをイメージしたからかも?」

 

 事態についていけてないルーシィは、あやふやながらもハッピーの質問に答えている。すると、ナツよりもちょっとトーンの高い声がする。

 

「るーしぃ!! オレ、るーしぃのイメージをもらったんだ。父ちゃんをイメージしてくれたんだろっ。ありがとなっ!!」

「へ……うん。」

 

 やっぱ親子は似てる方がしっくりくるもんな~と、ニパッっと満面の笑みで言われ、ルーシィは視線を合わせるためにその場にしゃがみ込んだ。

 

「ドラコ? でいいのかな?」

「おうっ!!」

「……なんでナツがパパなの?しかも子供の姿って?」

 

 自分は確かに、竜座と言われてとっさにナツを思い浮かべてしまった。主の意向で姿を変えられる星霊は……、確かに存在している。だから、ルーシィのその時のイメージによってその姿が、ナツに近いものだとしても仕方のないことだと内心思っていた。だからこそ、練りこんだ魔力の消滅によってナツが消えてしまうと錯覚を起こして、竜座を呼び出すことに臆病にもなったのだ。

 目の前に、子供の形の半竜のようなナツが、コテンと首をかしげてにこにこと笑いだす。

 

「おう。父ちゃんが魔力をくれるとき、自分の子供みたいだって、息子になれよって言ってくれたんだ」

「へぇぇ。ナツそんなこと思ってたんだ」

 

 ドラコの発言に、いつの間にか床に立ってその顔を覗き込んでいたハッピーが、感心したように、ナツに視線を向けた。

 

「おう。」

「それで?」

「んと、だから俺は子供の姿で、俺の父ちゃんはナツ!」

 

 父ちゃんっ! とナツに振り返って、ドラコがその胸に飛びついた。それを受け止め、ナツもまんざらではなさそうにその頭をなでている。そのナツの肩にハッピーが飛び移り、楽しそうにドラコに話しかける。

 

「じゃあさっ。オイラがお兄さんだねっ」

「おにいさん?」

「そう。オイラの方が先に生まれたから」

「おにいさんハッピー!」

 

 キャッキャッと楽しそうにじゃれあっている。

 

「ドラコの父ちゃんがナツ! 兄ちゃんがハッピー!!」

 

 ドラコは心底嬉しそうにしている。そのほとんどがナツの魔力で出来ている為、性格や行動など、何やらすべてがナツのミニチュアのようだ。

 ナツと異なるのは、研究所で組み込まれたであろう命令を聞くという原則と、知識。そして、半竜化しているその容姿。こればっかりは流石、竜座と言えるところだろう。ルーシィが、感心して竜座のドラコを観察する中、ハッピーの目がいやらしく三日月型に変わった。

 

「じゃぁさっ。ルーシィは? ルーシィはお母さん?」

 

 嬉々として、ハッピーが爆弾を落とした。その言葉に、ナツは鼻の下を伸ばすように力を入れて、口元がニヤつかないように必死で平静を装っている。それとは反対に、ドラコの返答も聞かないでルーシィは頭から湯気でも出しそうな勢いで、全身を真っ赤に染め上げた。

 

「るーしぃ? るーしぃはドラコのマスター!」

「マッマスター? お母さんじゃないの??」

 

 ドラコの返答に、ハッピーが食いついた。欲しい答えがあるのだ。ナツもその話に耳を傾けているようだった。ルーシィに至っては、緊張のあまりその場にぺたりと尻をついてしまっている。

 

「ドラコ母ちゃんいらない。るーしぃいるからいいの! るーしぃは、お母さんじゃない! るーしぃマスター!! るーしぃはドラコのお嫁さん!」

 

 にこにこと、ドラコは両手を伸ばして しゃがみ込んでいたルーシィに飛びついた。その勢いのまま、ルーシィの頬に口づけを落とした。

 

 ピッキーン!!!

 

 固まる空気。ハッピーは恐る恐るナツに振り返った。

 

 ナツは驚いた顔のままそのまま停止してしまっている。

 

 

 頬にちゅーをされたルーシィは、ギュっとドラコを抱きかかえた。

 

 

 

「あ~ん。もう可愛い!!!!」

 

 

 

 

 

 

 あの後ハッピーがその場と取り繕うように、ドラコに子供は結婚できないからお嫁さんじゃないよと教えた。すると、ドラコは頭を下げてショボンとしたかを思うと、『わかったっ! ドラコ大人になる!!』そう叫びながら、再びルーシィに抱き着いたのだ。

  ルーシィはルーシィで、ナツの可愛いミニチュアに頬ずりを繰り返し、もはや骨抜き状態である。

 

 ナツは……。

 

 ハッピーは大きなため息をついたが、なんだか楽しそうな予感に心躍らせた。

 

 きっと楽しいことが、たくさん待っているんだ!!

 

 

fin

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何かまとまんないなぁ~(*ノωノ)

続きも考えてるんだけど、、、、ただの日常もいいなぁって♡

まぁ、需要があるかは不明だが。。。

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