確かなもの 2
ルーシィside
小さいナツをギルドの医務室に寝かせた。
すると、小さいナツは顔を青白くし、ガタガタと震えだした。
「ルーシィ。。。ナツ大丈夫かな??」
「大丈夫よ!!ここはフェアリーテイルよ!何とかなるわ!!!」
そう言って、ルーシィは苦しそうに唸る小さいナツの傍らに腰を下ろし、小さいナツの頬に手を伸ばした。
掌が小さいナツの頬に触れると、震えは治まりルーシィの掌にすり寄った。
「・・・・////ナツ?・・・可愛い///。」
普段からは考えられない行動と、幼い見かけにルーシィの頬も緩んだ。
隣で青猫が、普段は可愛らしい目を三日月にしてこちらを見ていた。
『ガチャッ』
医務室の扉が開く。
「ルーちゃん!!」
分厚い本を抱えた青い髪の少女と、調査をして戻ると言っていたエルザとグレイもいる。
「ナツの調子はどおだ?ルーシィ。」
「うんまだ眠ったままなの。そっちは何か分かった?」
ルーシィは3人に目線を送る。
「うん。エルザ達が持ち帰った情報によると、呪いの類ではないみたいなのは確かで、その魔法陣 時間軸をいじるものなんだけど、説明がつかないことが多すぎて。」
「そう。」
「・・・ごめんね?ルーちゃんお役に立てなくって。」
ションボリとした顔を見せる青髪の親友に、ルーシィは笑顔で返す。
「そんな顔しないでレビィちゃん!!」
レビィの持ってきた本を、みんなで読み込んでいると、部屋に近づく気配を感じる。
『ガチャリ』
「今帰ったぞ~!!」
小柄な老人と銀髪の少女が医務室に入ってきた。
「「「「「マスター!!!」」」」」
「うむ。大体の話はミラから聞いておる。」
マスターはチラッとベットに眠る小ナツの方を見て、何やらブツブツ唸り口を開いた。
「う~む。そこで寝ておるナツは、この時代のものではないな。」
マスターの言葉に、ルーシィが振り返った。
「やっぱり!!!昔のナツってことですよね?」
「うむ。そういう事じゃ。」
「えっ?ルーちゃんどういう事!?!?」
「そうだルーシィ!!どうなってるんだ??」
レビィやエルザ達がルーシィの方を向いた。
「うん。うまく説明できないんだけど、このナツを見つけた時なんか違和感があって。
仕草が、本物の子供みたいでしょ?いつも子供っぽいけど、いつもよりも。
記憶をなくしたのかとも思ったんだけど、そういう仕草って記憶がなくっても変わらない気がして。。。
ほら、エルザが服が違うって言ったじゃない?それで疑問が浮かんじゃって。」
ルーシィの説明を、皆 黙って聞いていた。
「・・・ルーちゃんは、普段 それだけナツを見てるってことだよね?」
クスクスと笑いだすレビィ。
「ホント!!ルーシィ。。ちびナツは寝てるだけなのに!!プフフッ」
口元を押さえるハッピー。
「おっおお!?姫さんはナツの寝顔を見慣れてるってことかぁ~??」
グレイにまでからかわれる始末だ。。。
「そこまでわかっていたなら、なぜその場で言わなかった?ルーシィ。」
エルザの鋭い視線に、額から汗を流し 少し後ずさった。
「まぁ。そう追いつめるでない。エルザ。ルーシィも確信が持てなかったのだろう?」
マスターがニヤっと笑うと、緊張していた医務室に、柔らかい空気が流れた。
(ナツ。。。大丈夫かな?・・・それに、何か引っかかるのよね・・・・?なんだろ??)
「マスター!では、今のナツは?」
「うむ。入れ替わっていると推測できるな。・・・・じゃが、心配はいらん。時間軸は自然に元に戻ろうとするはずじゃ。」
「・・・その内勝手に戻るという事ですか?」
「・・・イヤ。どう戻るかは今はわからん。・・・じゃが、本人が戻ろうとするはずじゃ。それまで注意深くこやつを見ていてやるんじゃな。」
一同は顔を見合わせる。
「まずは、この子が起きないと どうしようもないですね。」
「そうだな!!。とりあえず、小ナツの世話はルーシィに任せよう!!」
「えっ!?・・・ってか小ナツって!?」
「頼んだぞ!!姫さん。(ニヤッ)」
「ルーちゃんファイトー!!(ニヤッ)」
「ナツだけずるいからオイラもルーシィん家 泊るー!!」
それぞれに、そう言われうなだれるルーシィ。
「ルーシィ。。。なるべく普通に接してやりなさい。」
最後にそう言ってマスターは部屋を出て行ってしまった。
ギルドでのやり取りの後、ルーシィは小ナツとハッピーを連れて自分の部屋に戻ってきた。
小ナツはまだ眠っている。
ギルドで離れると震えていたので、小ナツを抱えたまま、ソファに腰を下ろした。
小ナツの大きさから察するに、ギルドに入った頃か、その前位のようである。
半ば、みんなにナツを押し付けられてしまった。が悪い気はしない。
ルーシィは最後のマスターの言葉が引っかかっていた。
(・・・・何か知っていそうよね??・・・それであの余裕。きっと焦ることはないんだわ!!)
幸い今日の依頼の成功で、お財布事情は明るい。しばらく依頼に行かなくても大丈夫そうだ。
ルーシィの腕の中で、安心しきって眠るナツ。
「可愛いね?ルーシィ。」
ハッピーが目を細めて話しかけてきた。
「フフッ。今のナツが聞いたら怒るでしょうけど、、、可愛いわね?・・・いつから・・・・あんな生意気になるのかしら??」
「プフフッそれを言っちゃ~駄目だよ!!ルーシィ。ナツはルーシィに構ってほしくって大変なんだから!!」
「はぁ。アタシはおもちゃじゃないのよ?。。。ほどほどにしてよね?」
困った顔でハッピーの頭をなでてやった。撫でられたハッピーは、ゆっくり小ナツの腹の上に降り立ってそこに丸くなった。
1人と1匹が落ち着いた寝息を立てると、ルーシィはそっとそこから抜け出し遅くなった夕飯を作り始めた。
鶏肉とベーコン、野菜を取り出し、適当に切って鍋に放り込んだ。ハッピーの魚をグリルに入れ火をつける。その間に野菜を千切り器に盛る。
煮立った鍋にシチューのルウを入れ、パンをトースターに入れ、スイッチを入れた。
部屋の中に、暖かい湯気とシチューの香りが広がっていく。ふと気が付くとハッピーがこちらにふわふわと飛んでくる。
「ルーシィ。いい匂いがするぅ。」
「フフッ。丁度できるわよ?はい。運んで?」
後はハッピーに任せて、ルーシィは小ナツを覗きこんだ。
・・・・あったけぇ。
・・・あれ?
・・オレ森にいたよな?・・ここどこだ?
重たい瞼を、持ち上げた。
・・・・?
目の前には、金色。
手を伸ばすと、暖かい柔らかいものに包まれた。
・・・・・!?
「大丈夫??」
少年は、ガバッと上半身を起こした。金髪の女性が自分の手を握って、こちらを心配そうに見ている。
「・・・気分はどお??痛いところはない??」
状況が把握できないが、目の前の人物は警戒すべき相手ではないようだ。
「・・・大丈夫。」
そう答えると、その女性はにっこりほほ笑んだ。
「シチュー作ったの。食べられる?」
正直腹は減っている。
「・・・うん。」
その女性に促され、テーブルに着くと、青い猫がシチューとパンとサラダを運んできた。
「「いっただきま~す。」」
よくわからないまま食事が始まり、その女性が口を開いた。
「あなた、森の中に倒れていたのよ?」
「えっ。。あぁ。。」
小ナツはガツガツとシチューとパンを口に運ぶ。
「私はルーシィ。こっちはハッピー。(あなたの相棒よ?)あなたは??」
「ルーシィ。。。。オレは、、、ナツ。ナツ・ドラグニル。ここは?」
「アタシはギルドに所属する星霊魔導士で、ここはアタシの部屋よ。ナツ。」
「オイラは空を飛ぶ魔導猫だよ!!ナツも魔導士みたいだけど、ギルドに入っているの??」
「!?解るのか??オレが魔導士だって!!」
「っ!?・・・あい。オイラにはわかります!!あい~!!!」
青猫がたらりと冷や汗を流す。
まずは、小ナツがフェアリーテイルに入る前なのか既には入っているのか知りたかった。
小ナツは掌を上に向け、炎を出した。
「綺麗な炎ね。」
ルーシィがニッコリ笑った。
「おぉ!!イグニールが教えてくれたんだ!!」
小ナツが、とびっきりの笑顔になる。
「イグニール??」
「っ!?何でもねぇ。・・・で、ギルドってなんだ??」
表情を曇らせ、小ナツは目に涙を溜めている。
「・・・ナツ。ギルドっていうのは魔導士が集まって居る場所よ。仕事の依頼を受けて報酬をもらうの。」
前に、ナツがもらしていたことがある。
小さい頃は周りに滅竜魔法の事やドラゴンの事を言うと信じてもらえずほら吹きだと、笑われたんだと。
きっと悔しい思いをしたんだろうと思ってはいた。
「ナツ?ナツの炎は、他の炎よりとっても綺麗ね。イグニールってお父さん??きっと丁寧に教えてくれたのね?」
「っ!?そうだよ!!そうなんだ!!おれの父ちゃんはすごいんだ。この間。迷子になっちゃったからさ。オレさがしてんだ。」
結局、その時の小ナツは滅竜魔法の事やドラゴンの事は口にしなかった。ご飯の後、ハッピーにナツをお風呂に入れてもらった。
お風呂の中で、キャッキャッキャッと騒ぐ声は、その辺の子供と変わらない。
イグニールと口に出して、押し黙ったナツを思うとこころが苦しくなった。
***
ナツside
墓の前にただ黙って、座っていた。少女も、無言で座っていた。
するとルーシィの家の使用人だろうか?
「ルーシィ様~?」
「ルーシィ様~?どちらですか~?」
と叫びながら近づいてきた。見つかって揉めるのも目に見えている。
ルーシィに「またな。」と囁いて、ナツは闇に姿を隠したた。
「ルーシィ様こちらでしたか。もう外は冷えます。部屋に入ってください。」
「えぇ。」
ルーシィはこちらを振り向いたが、それ以外は何も言わずその場を去って行った。
(・・・・・ルーシィ寂しそうだな。)
普段の彼女が語るママの話は、やさしく暖かいものばかりで、こちらの心も軽くしてくれた。
今使用人に迎えられて屋敷へと戻ってくルーシィの表情からはそのぬくもりさえ感じなかった。
振り返った時の 消え入りそうな少女の表情が目に焼き付き胸が苦しくなる。
「・・・ルーシィ。」
どうやらここは、過去の世界らしい。7年前のいや正確には14年前か、、、ここは、777年だ。
正確な日付はわからないが、胸が締め付けられる思いがする。
どうやったら元に戻れるのかわからない。
しかしここに長くいるわけにもいかない。
この後の行動を考えた。
この際、最近のモヤモヤした感情をどうにかしてしまおう。
『イグニール!!!』
イグニールと過ごした場所をめざし、夜通し走った。走った。なにも考えられなくなるまで。息が切れて苦しい。
ある森林のさらに奥に分け入る。滅多に人が入り込むことができない場所。
大きな木々に囲まれ、そこにぽっかり土がむき出しになった処。
イグニールと過ごした場所。そこにたどり着いた。
はぁはぁ。息を切らせ ごろんと寝転がった。今にもイグニールが出てきそうだ。
背の高い木々が風に揺れている。青い空が雲が流れている。ただ静かに。
やさしい風が吹きぬけた。息を整え体を起こした。
今は、ここに木々が生え草が生え、森の一部に帰ってしまった場所。ここに来たからって、どうする事もない。
・・・・やっぱりイグニールはいなか。
辺りを見渡したが、小さい頃の俺もいないな。。。
ついでだし、イグニールと修業した場所を歩きまわった。。魚を取って食ったな。
食べられる草を教えてくれたけど、どれもまずかった。
生きていくために必要なことは、何でも教えてくれた。
一緒に飯を食って、一緒に修行して、一緒に眠った。・・・本当の親は知らない。
いや。血のつながりとか、どうでもいい。オレにとって、イグニールが、確かに父親だった。
一生懸命教えてくれた文字は、古代文字も含まれていた。
おかげでうっかり読み上げると、騒動を起こして、いつも巻き込まれるルーシィに怒られた。
視界がゆがむ。・・・最近、ルーシィが俺を心配していた。
分かっていた。何も言わない彼女に、ルーシィがいないところに行くと、途端不安になるオレを見透かされているようだった。
彼女自身思い当たることがあるだろう。分かっているから、何も言わずにオレを包容してくれていたんだろう。
ルーシィがいないところで眠ると夢を見る。目の前から彼女がいなくなる夢を。
いくら伸ばしても、手が届かないんだ。いくら、あれは今のルーシィじゃないとわかっていても、不安は拭えない。
不安を拭おうと、しがみついた。ルーシィまで!!オレを置いて行くのか!!!
黒い感情が押し寄せてくる。
彼女の時間を縛ってでも、しがみつきたかった。
そして、彼女はいつも容認してくれる。安心をくれる。
そこに甘えて、また縛り付けるんだ。安心させて欲しくって。
執着しすぎてその内、ルーシィをこの手で、殺してしまうんじゃないかと怖くなる。
ルーシィはさっき会った子供のルーシィとは比べ物にならない位よく笑う。
いったい、どれくらいの思いをあの細い体に隠しているんだろう?
何を考えても、思考のいきつく先はルーシィだ。
あぁ。オレ帰れんのか??
・・・・ルーシィに逢いたい。
その場所で横になった。日が明けたら、イグニールと過ごした様に過ごしてみよう。
何でも信じて疑わなかった頃の様に。しぶしぶ瞼を下ろした。