2016年02月00日
やさしい夜~ガジレビ~
突然の『妖精の尻尾』の解散。マグノリアを離れ、己の道を見つめ進もうとするガジルとレビィ……
いずれおとずれる『妖精の尻尾』復活の為、今も進み続けている。こんな夜もあったらいいなぁ~的なお話です。アニメ派の方はネタバレ注意ですっ!!
いつかの談笑の中、ガジルが自炊してると聞いたことがあった。
「えぇぇっ!? ガジルの作ったご飯、食べてみたいかもっ」
確かにそんな事を言った覚えはある。
でもそれはまだ、マグノリアに妖精の尻尾があって、そこで暮らしていた時の事だ。
* * *
「テメェが、食いてぇって言ってたんだろっ」
「……まぁ、そうだけど…」
「そう固くなるなレビィ。なかなかどうして、ガジルは良い味付けをするんだぞ」
リリーに促され、レビィはソファに腰を下ろした。
新生評議員となり、この家に住み始めてどれくらい経ったのだろうか?
冥府の門に前評議員は襲われ壊滅。
大量のフェイスの出現。混乱する世界。
前評議員の変わりにと聖十大魔道士により、急遽 発足された新生評議員達。レビィも聖十大魔道であり妖精の尻尾創設者の一人ウォーロックに頼まれ評議員となっていた。そして、組織の体制を作る為出張ばかりが続き、この新しい住家に腰を据える時間も今まで取れていなかったのが現状だ。
――やっと帰ってこれたと思えば……
――でも……へへっ
「ねぇそう言えばっ……リリーとガジルは住む場所見つけたの?」
「……」
――ガジルも一緒に評議員になってくれてよかったなっ
――同じ町にいるてくれるだけで心強いけど、これからは一緒に現場にも出れるんだっ
目の前にいた小さな熊耳のリリーに声を掛けるが、その返答はない。ただ、もの言いたげに黙り込まれてしまった。そして落ち着きなく汗を垂らし始める。その様子に、レビィは嫌な予感に襲われた。チラリと部屋の中に視線を巡らせれば、自分ですらまだ荷解きもできていない状態の部屋に、自分の荷物では無い荷物が我が物顔で置いてあるのだ。しかもレビィよりも生活感がでている。
「いや……その…レビィ。先に許可を取るべきだと言ったんだがっ……すっすまん…探さなかったわけではないんだが……この街は、冥府の門の攻撃で建物の倒壊が激しくてだな……住む場所が限られいて……そのっ」
焦りながら説明するリリーの後ろから、ご機嫌な様子で、ガジルが手に2・3皿の料理もって、指の間にグラスを2つひっかけ、脇にボトル抱えてやってきた。
「まぁ、ちょうどいいだろ? お前もマグノリアを離れて、そろそろ寂しいって、泣きが入る頃だからなっギヒっ」
手に持っていたものを、ぽんぽんとテーブルに並べるガジル。その手際の良さにおもわず見惚れてると、どさりとすぐ脇にガジルが腰を下ろした。
ソファの背に伸ばされ自分の後ろに回るたくましい腕。
上着を来ていないために見える筋肉質な体のライン。
ふくらみのある男らしい喉仏。
――わわっ///
「そっそんな、さっさみしぃなんて……」
そう言いかけて、レビィは黙ってしまった。
――そう言えばわたしって……まるっきりの独り暮らしって、したことないんだ…
――帰ってきて……ここにガジル達がいなかったら…
――マグノリアが……妖精の尻尾が……恋しくて……
「……はぁ」
申し訳なさそうに覗き込んでくる2つの目と、隣に座って鉄を食わせろと要求してくる男にわざとらしく溜息を返して、”IRON”を魔法で作ってからレビィはグラスに手を伸ばした。
「……まぁったく、しょうがないなぁ。まぁ、部屋は余ってるし……新生評議員の一員が野宿なんてよくないし……って、一緒に住むからって…へっへんなことしないでよねっ」
ワザとらしく、ささやかなふくらみを両手で隠すと、ガジルは「さぁな…ギヒヒ」と笑ってみせた。「ちょっと~」とレビィがかみつこうとしたが、空かさずガジルはレビィの持っているグラスにブドウ酒を注いでやると自分のグラスに手を伸ばした。
「まぁあれだ……出張お疲れさん」
「……あっありがと…」
コツリとグラスがぶつかる。その2人の様子に、リリーは胸を撫で下ろした。
一口ぶどう酒を飲むとレビィは、並べられたガジルの手料理に目を輝かせた。その期待に満ちたレビィ表情にガジルもまんざらではないようで、言葉はふてぶてしいままだが、なんだか楽しそうだ。
「おっおいしいっ」
「……ギヒッ あたりまえだ」
「それに私の好きなものばっかりっ」
「……そう、だったか…?」
「今日はレビィが帰ってくると聞いていたからなっ。レビィの好きなものを作れるように用意しておいたかいがあったなガジル」
「え……っ」
「おいっ! リリーてめっ」
ガジルは元々鋭い目をより険しくさせリリーを睨み付けたが、リリーは別段気にしたようすもなく飄々としている。
「おっとそういえば、オレは今日遅番なんだ。もう行くからなっ! レビィに迷惑かけるんじゃないぞっガジル」
「…けっ……いってろっ」
「え? ……ええっ!?」
「じゃぁレビィ、悪いがガジルをよろしく頼むっ」
それだけ言うと、リリーは小さな体に小さな剣と小さな布袋をもって行ってしまった。
言葉を失うレビィ。泊っていいと言った後に、リリーがいなくなるとは――ましてや、意中の相手と二人きりになるとは、思いもよらなかったのである。
ドキドキと早鐘を打つレビィの心臓。どうにか自分を落ち着かせようと大きく息を吸い込んだ時、視界にガジルの顔が入り込んできた。
「なんだ?甘い酒じゃなきゃ呑めねぇか? 相変わらずお子ちゃまだなっ」
――ちっち近い///
ボッと真っ赤に染まってしまったレビィは、ぶんぶんと首を横に振って、慌てて赤い液体が注がれたグラスに手を伸ばした。緊張に震える手がそのグラスを弾きそうになると、大きな手が重ねられ、液体がこぼれるのを阻止してくれた。
「おっと……ったく、とって喰いやしねぇよ……しゃ~ねぇな…」
――ひやぁ///
ポリポリと頭を掻きながらガジルは、何か違うものを取りに行こうと腰を浮かした。
――えっ……何で行っちゃうの?
――あっまって///
腰に回される白く細い腕。視界にはクルントはねる青い髪。その髪に隠れて見える形のいい耳が真っ赤に染まっているのがガジルにはしっかりと見えている。
「フンッ…襲われるのはオレの方かよ……ギヒッ」
「っ!? ちっちがっ///」
パッと離れる小さな体をソファの背に追い込むと、レビィの柔らかい髪を、武骨な手が優しく梳き上げた。普段からは想像もつかない柔らかい眼差しに、レビィもつられて微笑み返してしまった。
「ったく、いいムード作ってやろうって、考えてたんだがなっ…」
「え? え?」
自分の顔に影を落として近づいてくるガジルを、瞳に真っ直ぐ映しレビィはそっと目を閉じた。
重ねられた温もりが離れると、逞しい腕に抱き寄せられレビィは閉じていた目を開けた。
腕の中から見上げたガジルの頬は、ほんのりと赤く染まっていた。目は明後日の方向を向いている。
――余裕なフリしちゃって……
――やっぱりガジルって……なんだかかわいんだよなぁ
腕の中でクスリとレビィが笑うと、明後日の方向を見ていた鋭い目がレビィを捉えた。
「なっなんだよっ…///」
「ん~? あっ! ガジルっ せっかく作ってくれたご飯、冷めちゃうっ はやく食べよっ///」
「……あぁそうだなっ。鉄が冷めちまうっ」
「アハハハハッ なにそれっ」
「フンッ……足りなかったらいくらでも作ってやるよ……ギヒっ」
やさしい闇が2人を包んで夜は更けていった。
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妖精の尻尾解散からの1年。
こんな日が在ったとか無かったとか……w