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2016年02月01日

静かな夜

 

ナツがハッピーを連れて、マグノリアを離れて少し後の事。ルーシィも住む街を変えて、その生活に慣れてきたある日のお話。

全体的に暗いかも~です。そして、二人が会う訳でもないし、ハピエンにならないというか……終わりのない話。~~~~そして再び出会う。に続くようなお話です。

 

静かな夜

澄んだ空気の先には、キラキラと輝く星々。

 

「……アクエリアス…」

 

夜空に浮かぶ、水瓶座。冬はなんだか無償い寂しくなる。きっとみんなそういうモノなんだろう。

 

「寒いなぁ~」

 

空に向かって吐き出した声は、白い霧になって、星空に吸い込まれた。

軽快とは言えない足取りで、星に語り掛けたルーシィは クロッカスの新しい家に帰る。

 

「今日の、収穫は……また、ナツ達の事はわからなかったな…」

 

 ――彼らの居場所を知ったら…あたしはどうしたいのだろう?

 ――追いかける?

 ――…でも、…なんか違うなぁ……

 ――ベタベタにくっ付いてるんじゃなくって……あたしはあたしで強くなるんだから…

 

山から吹いてくる冷たい風が、ルーシィの肩を震わせた。ぬくもり欲しさに、ごそごそとポーチの中から鍵を取り出しルーシィは、小犬座のプルーを呼び出し、胸に抱えこんだ。

 

 ――ハッピーはあたしが手を伸ばす前に、胸に飛び込んできたっけ……

 ――それに去年はナツがいたから、寒くなかった……

 ――今は、忘れなきゃ…

 ――ナツ達が帰るって言ったマグノリアにはもう……

 ――それでも、帰ってきてくれるのかな…

 

寒いところでもどこでも、いつも同じ格好だった火の滅竜魔導士のナツ。暑い日は遠くに行ってと怒ったけれど、寒い日は寒いって理由でギュってしがみ付いた。

 

 ――って、感傷に浸ってどうするのよっ

 ――あたしは怒ってるんだっ!!

 ――帰ってきたって……知らないし……ってかあたしはもう、マグノリアにはいないんだからねーーーーーーーだっ!!

 ――先にあたしを置いていったのは……ナツだもん

 

星空を睨み付け、ルーシィは足早に自室を目指す。

こんな寒い日は、いやでも思い出してしまう温もり。いつも、並んで歩いていた。いつもの黒衣に揺れる白い鱗のマフラー。

 

ふと足が止まると、嗚咽が込み上げてくる。心配そうに腕の中からプルーが顔に手を伸ばしてくる。

 

止まってしまった足元に、ポツリと水滴が落ちた。一度溢れると、なかなか止まってくれないソレ。

ハンカチを取り出そうとカバンに突っ込んだ手が、何かに触れた。折れた――宝瓶宮の鍵。

 

「ねぇ……しょげてんじゃないよって、そんなんだから恋人ができないんだなって、怒ってよ……アクエリアス…」

 

鍵に触れただけで、彼女ならこういうだろうという言葉が、頭の中に響いてくるようだ。きっと彼女の事だったら、厳しい言葉で叱咤してくれるんだろうな。

 

 ――止まってられないっ……そう……

 ――ただ……あたしは、彼らの無事を知りたいだけ……

 ――ナツが、何処で息を吸って、何を食べて……そんなのどうでもいいんだ

 ――ただ……なんでもいい……ねぇ、何してる…?

 

まだ帰り慣れない道を行き、帰り慣れない部屋のドアを開いた。クロッカスに寒い季節がおとずれて、街の雑貨店で見つけた桜色の毛布。それにすっぽりと包まって、プルーを抱いたまま窓の外を眺めた。窓に映る自分の影が、アイツの影に変わる。

 

「……バカッ」

 

毛布を頭からかぶっても、まだ寒い気がする。そんな訳ないのに。

 

「……はぁ…あたし何やってるんだろう…寒いなぁ……」

 

帰宅して、そっと定位置に置いた星霊の鍵達が、淡く光るが、今のルーシィの目には入らない。

 

「暖めてよ……ナツ」

 

 

 

 

 

 

 

遠くナツ達の修行する山奥で、静かにだが強い風がナツの頬をかすめて吹き抜けた。

ナツはふり向く。そこに居もしない少女が「寒いっ」と言って肩を震わせる姿を思い浮かべて。

 

「……何してっかなぁ」

 

寒い場所に行けば、肩を震わせるくせにいつでも薄着のルーシィ。コートを着ていたってその下は、動きやすいからといつもどおりの薄着だった。寒いってわかってて何でそんな薄着なんだ? 気になったこともあったが、それを口にすることはなかった。わざわざ自分から、彼女に触れる口実をなくす必要はなかったのだから。

 

大義名分を得て、彼女を抱きしめた腕の中に、今は冷たい風だけが吹き抜けていく。

 

 ――……しょうがねぇなっ……って、

 ――そう言って、ルーシィの華奢な肩を抱きしめる様に、腕をまわし暖めてやったんだよな

 

「ルーシィ……寒がってねぇかな…」

 

ポツリと呟くと、傍らで眠る相棒が、ムニャムニャと寝言を言って寝返りをうった。

 

一日の終わりに、忍び込んだルーシィの家で、沢山おしゃべりをした。どんなに一緒にいても飽きなくて、楽しくて、一緒にいなくても、楽しい事も嬉しい事も、たまにつらかったことも、全部、ルーシィに聞かせて、笑い合った。時間が足りなくて、寝不足で、次の日集合に遅れてエルザに怒られて……って……今は、夜がなげぇな……

 

思い出すのは、笑顔のルーシィ。

 

「……ルーシィに見せたいもんが、いっぱいあるんだっ」

 

マグノリアよりももっと星に近い山奥で、近くに見える星空に向かって、手を伸ばした。

 

「強くなって、全部守れる男になって帰るから……待っててくれよなっ」

 

 

 

 

そして時は満ち、彼らは再び出会う。

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