よくしゃべって、よく笑って、よく食べて――

１年前と、変わらない振る舞いをするナツ。ウエンディと合流したルーシィ達が次に向かう場所は、王都クロッカスを出てナツが当初から向っていた方角だ。

 

「ねぇナツ、何処に向かってるの？」

 

再会、別れ、新たな出発を一度に経験して大泣きしてしまっていたウエンディは、やっと泣き止みナツの背中で泣き疲れて寝てしまっている。エクシードの２匹は競争でもする様に、空を旋回してた。

ルーシィの言葉に首だけ振り返ったナツは、めずらしく難しい顔をしていた。

 

「……とりあえず、確認しときてぇんだ…」

「そっそう…」

 

それ以上言葉が続かなかった。

 

　――ナツ…さっきから……再会してからずっとじゃないけど、怖い顔してるよ…

　――前から何考えてるかわかんない奴だったけど……

　――今のナツは……ちょっと拍車がかかったみたいだな…

 

　――ナツ……そんな難しい顔して……あたしには、言えない事……なんだよね…

　――なんだって言ってくれてるようで……意外とため込んでたりするんだろうなぁ…

　――だから……１年前も…急だったもんな…

 

目の前の空気さえ睨み付けるその横顔は、一年前よりも逞しく見える反面、知らない人の顔にも見えてしまう。

ルーシィの胸には一抹の不安が宿っていた。

 

＊

 

ナツは先を急ぎたい様だったが、背中で眠ってしまった泣き疲れたウエンディを少し休ませる為と、旅支度の買い出しに、通りかかった街に少し寄ることになった。街に着いて起こされたウエンディは、重たい瞼をこすっていたが旅支度を整えるためシャルルに連れて行かれてしまった。それぞれ必要なものを揃え、後ほど街のはずれの広場で待ち合わせることになっていた。

先日旅支度を整えたばかりのルーシィは、野宿のために持ち運べる食材をナツと共に買出し、ちょうど用事が片付いたところだ。そんな時、思いがけない人物がルーシィに声を掛けてきた。

 

「おっルーシィちゃん！！　偶然だねっ」

「あっ」

 

街中で声を掛けてきたのは、クロッカスに移り住んですぐの頃に記者の仕事先で知り合った少し年上の男性。取材の記事と関係なくルーシィの相談にのったり、仲間達の情報を集めてくれたりもした。ナツとハッピーの情報もその１つだった。結局ナツ達の情報を得ることは出来なかったが、随分骨を折ってくれたことに変わりはない。ルーシィにとつて、世話になった恩のある人物の１人だ。

 

偶然の出会いに、ルーシィは驚きながらも足を止めた。確か家はクロッカスのはずだが、お嫁さんの実家がこの辺りだと聞いたことがあった。そしてこの偶然は、誰にも挨拶できずクロッカスを出てきてしまったので、ルーシィにとってラッキーだった。

足を止めれば、その人はにっこりと微笑んだ。ルーシィの先を歩く人物の背中に一度視線を送り、ルーシィに目配せをしながら。その視線とは笑みの意味に、ルーシィはドギマギと落ち着かなくなっていく。

 

　――ちょっ！！

　――あたしが必死にナツ達の足取り追ってたの、よく知ってるのよね…この人

　――よくからかってくれたもんなっ……ヤダッ

　――なんか今更、恥ずかしいっ

 

「こっこんにちはっ」

「こんにちは……記者は休業みたいだね？　」

 

ニヤニヤとした笑みを浮かべながら、その人はポンポンと軽快にルーシィの肩を叩く。そして身を屈め、声を殺して、そっとルーシィの耳に囁きかけた。

 

「……よかったねっ ルーシィちゃん」

 

　――この人には結構、愚痴っちゃったんだよな……

　――お酒呑んで、ナツ達が恋しくてわんわん泣いたこともあったし……

　――それで……あたしのところに、ちゃんと帰ってきてくれるよって、何度も慰めてくれたんだよね

 

「ルーシィちゃんの冒険、第2章ってとこだねっ……なっ？　言った通りだったろ？」

「……はいっ」

 

優しいラブラブな夫婦の雰囲気と、お酒の力に任せ何度か晒してしまった醜態を思い出せば、顔に熱が集まってくる。

照れ隠しにポリポリと頬をかいた時、ルーシィの身体が急に浮いた。

 

「今日は、ひとっ……っひっひゃぁぁぁぁ」

 

ナツの肩に担がれたかと思うと、すごい勢いで自分がその場から連れ去られていく。

ナツに拐われ、慌てふためくルーシィに声が届いた。

 

「ルーシィちゃーーんっ　またね～～～！！！！」

「きゃぁぁぁあ！！　あつりがと～つきゃわわわわっ」

 

揺れるルーシィの視界には、笑いながら大きく手を振る男の姿が映った。

 

　――あははは……なんも話せなかったけど、事情は察してくれたみたいだな

　――でも……

　

ナツに担がれて、連れてこられたのは街を出た、水の流れが聞こえてくる場所。

ウェンディ達との待ち合わせの広場も通り過ぎてしまっている。

 

「もうっ！　 いきなりなんなのよっ！」

 

怒るルーシィの目に入ったのは、一瞬不安そうな、でも怒ったつり目。

鋭い視線に射抜かれ、ルーシィはたじろいだ。

 

　――あ……あたし、何かした？

 

「ダレだ…アイツ」

「へ…？」

 

ゆらりと怒気を孕んたつり目が揺れる。

だが、ナツから出てきた言葉に、ルーシィの目が点になった。

よく見れば、苛立っている事に変わりはないが、明らかにふてくされている表情。

 

　――なんで？

 

「あんたの知らない人よ」

「っ！！　だから誰だよっ！」

 

ルーシィの眉間に皺が入ったが、ナツはそんな事はお構いなしにと唇を尖らせている。

　

　――ナツには、何の関係もない人なんだけど……

　――名前なんて知ってどうするのよ…

 

「ジョニーさんっていうの……記者の取材で知り合ったんだけど…」

「……名前なんて聞いてねぇっ！！　知らねえ奴だっ」

                                                                                                                                                                                                           　――はぁ？

　――知らないのは当たり前じゃない……あんたが知らない時間に知り合ったんだから……

　――あたしにだって、ナツの知らない時間が流れてたのよ…

　――知らないことがあったり、や知らない人と知り合っていて、当たり前じゃない

 

　――大体……離れていったのは、ナツの方じゃない……

 

眉間にしわを寄せたまま不機嫌を隠さないナツ。太々しいその態度に、段々とルーシィの頭にも血が昇ってきている。

 

　――ねぇナツ……今のあたしがあんたの目には、見てる？

　――１年前のあたしじゃなくて……今のあたしを見なさいよ

 

「……クロッカスに越して来てから、随分お世話になった人なのに…ちゃんと挨拶したかったっ！！　ナツのバカっ」

「オレの知らねぇ……なんかうさんくせぇ匂いしたぞっ。んな奴と、仲良くしてんじゃねぇ」

「はぁ？　仲良くなって何が悪いのよ……ジョニーさんは、うさん臭くなんかないわよっ！！　一緒に取材したり、食事奢ってくれたり……元気出せって呑みにつれて行ってくれたり、お家にまで招待してくれたり……あんたが知らない人でも、あんたよりよっぽどっいい人よっ！！」

「っ！！　…そうかよっ」

 

言い捨てると、ルーシィに背を向けナツは向こうにドカドカと地を蹴りながら行ってしまった。その後姿を見送りルーシィはルーシィで、沸騰寸前まで温まってしまった血が頭から降りてこないし、冷めそうにない。

 

　――なんでよ……

　――あたしだって、必死に過ごした１年なのに……

　――なんで……あたしの過ごした１年を、否定するようなことするのよ

 

言葉で自分を否定された訳ではないが、ナツの不機嫌な態度が胸に突き刺さっていた。楽しい事が無かった訳ではないが、つらくて寂しかったこの1年を、支えてくれた新たに知り合った人達を、無下に否定された様で悔しい。

 

ナツの背を睨み付け静かに握りしめた白い手に、フワフワとした何かが触れた。そこには青猫を頭に乗せた獅子がいる。

 

「ひゃっ」

「「あっちゃぁ～」」

 

先の白い青くて長い尻尾と、獅子の鬣の様なオレンジの髪がそろって揺れている。

 

「なっなっなっなん……あんた達っ！　何してるのっ！！　ってかロキ！　あんた、いつの間にっ！？」

 

ハッピーを頭に乗せた自分の契約している星霊である獅子宮のロキが、そこに困った顔をして屈んでいた。タラリと額から汗をかき、色の付いた眼鏡の奥と視線は合わさらない。頭の上のハッピーに関しては、ピューピューと調子のはずれた口笛を吹き、ワザとらしく空に視線を泳がせた。

 

「あははっ　……ちょっと心配でね……？」

「そうそう！　別にオイラ達、ナツとルーシィのラブシーンをのぞき見しようとした訳じゃっ……もごっ！！」

「しっ！！　ハッピーっ」

 

口を滑らせるハッピーの口を、慌ててロキが手で塞いだ。だがそのほとんどはルーシィの耳に届いていたようだ。目を見開いて体の動きを止めたルーシィが、ぱくぱくと口だけを動かした。

 

「ラッラッラブッラブッ……ラブシー……っ」

 

言葉を詰まらせながら瞬時に真っ赤に顔を染めたルーシィの頭から、湯気があがった。

だが、その思考はすぐに鎮火してしまった。先ほどのナツの不機嫌な態度が、どうにも引っかかるのだ。

 

　――って、全然そんないい雰囲気とか……なってないしっ！！

　――ってか、ナツよ！？

　――ナツが女の子相手に、ラブシーンなんて……そんなのありあないじゃん……はぁ

 

ナツが行ってしまった向こうの方で、小さく真紅の何かが光った。それによって上がった煙がルーシィ達の目に届く。２人と１匹は顔を見合わせた。その炎に思い当たるのはただ一人の人物だ。

ハッピーに促されて、煙の上がる場所を目指してルーシィは歩き出した。遠目から見てもそこには周囲の木々をなぎ倒し、燻る煙の中に佇む桜色の髪。

 

ずっと何かを胸に抱えたまま不機嫌なナツは、より一層機嫌が悪くなってしまっていたようだ。周辺の木を焼いてしまったナツは、空を睨み付けている。

 

　――何に、怒っているの？

　――何に、焦っているの？

　――これから行く場所は、そんなに急ぐ場所なの……？

　――ねぇ、どこに向かってるの？

　――……誰の元に……向かっているの……？

 

「……はぁ…ナツってば、なにをそんなに怒ってるのかしら…」

 

ルーシィの発言に、ハッピーとロキは視線を会わせ、そろってガクンと頭を垂れた。はぁぁあと、盛大な溜息を吐き出している。

 

「って、何あんた達がそんなんなってるのよ……ロキ…もう、戻りなさいっ」

 

呆れた視線を向けるとルーシィは、獅子宮の鍵をその星霊であるロキに向けた。主であるルーシィにそうされてしまえば、ロキは従うしかない。

ロキが勝手に人間界に出てくることを歓迎しているわけでは無いが、ルーシィは許している。ルーシィの今の実力からすれば、力で星霊を縛り、勝手な行動ができないようにする事など容易な事となっていた。だが、ルーシィはそうしないでいた。星霊とのつながりは、力ではない。星霊は、友達だから。それがルーシィのやり方でそうやって星霊と共に強くなってきたのだ。

 

やれやれとわざとらしくポーズをとるとロキは、主の右手をとった。淡いピンクのギルドマークがはいるそこに、チュッとリップ音を立てて親愛の意を残すと、キュルンと音を立てて星霊界へと返って行ってしまった。

 

「もぅ……キザなんだからっ」

 

次の瞬間今度はドカン！　と、爆発音が響いてくる。ハッピーは翼を広げて飛びあがり、ルーシィはあわてて駆け出していた。

ナツに何かあるとは思えないが、ただの八つ当たりで山１つ燃やされてしまっては一大事だ。特に今のナツなら、やりかねないと思えてしまう。

 

駆け付けたそこには、凹んだ地面とその脇に佇むナツ一人。

 

「ちょっと…どうしたの？」

「別に……どうもこうもねぇし……」

 

ナツは振り向きもせず、待ち合わせなどお構いなしにズンズン歩みを進めてしまう。その背中に、ルーシィはいてもったってもいられず、飛びついた。気配を感じて反転したナツを、勢いのまま地面に押し倒した。ナツを組み敷き、胸にしがみついたままルーシィは深く息を吸い込んだ。

 

「もうっ……いい加減にしなさいよねっ！！」

「……」

 

ナツの黒衣を掴むルーシィの手は、わずかに震えている。

 

「……んだよ…」

「ナツは……何をいつから、いつまで怒ってるつもり？」

「あ？」

「あんた……自分で分かってないの？　笑ってたかと思ったら急に難しい顔して、黙ったり、怒りだしたり……とにかく不機嫌じゃないっ」

「……んなことねぇ」

 

返ってきたのは、ナツには珍しく小さい声。体重を預けていたルーシィの身体に力が入る。

 

「だって……」

 

　――わかんないよナツ…

 

震える手を突っ張りルーシィは、ナツの腹の上に座った。マウントポジションからナツの目を見つめる大きな目には、涙が滲んでいる。

 

「ぐ……ルッルーシィだ」

「あたし…？」

「…だってルーシィ…前と…１年前と、なんかちげぇし……」

 

ナツの唇がとがっ高を思うと、大きなつり目はルーシィから視線をそらしてしまった。

ぶすくれた――不貞腐れた顔。

 

「当たり前じゃない。時間は経ってるのよ…？」

「……ルーシィはルーシィだけど……なんか変だろっ！！」

 

ナツは目を合わせない。首を横に向け、そっぽを向いたまま、尖った唇、ぶすくれた顔で。

ブチンとルーシィの頭の中で何かがキレる音がした。

 

　――話にもならないっての？

　――もう我慢できないっ

 

「バカじゃないのっ！！　あんたが手紙一枚で置いてったんじゃないっ！！

　あんた達だけは、あたしを独りにしないって信じてたのに……でも、置いてかれたのっ！！　たった数行の手紙1つでっ！！

　ギルドも解散しちゃって、何処にいるかも解んないあんたを、必死で探したわっ。でも見つからなかった……んくっ……」

 

ルーシィの剣幕にナツが見上げたそこには、怒りながらも涙を流し真っ直ぐと自分を射抜く琥珀色の瞳。

 

「…あんた達との別れもあれば…あたしには出会いだってあった。

　あんただけが修業してたわけじゃないしっ……体を鍛えるだけが強さじゃないのよっ！

　……あんたが強さを求めるならっ…ひくっ……あたっあたしはっ同じ強さじゃなくて…

　うっぅ…あんたが足りない強さを補えるようにって……っ」

 

ルーシィの大きな目から大粒の涙がわいてはナツの顔に落ちてくる。だがその目は、強さを讃えナツを睨み付けている。

 

「ルッルー……シィ……」

 

ナツは上体を起こして震える小さな肩を抱きしめようと、逞しく鍛え上げた腕をのばした。

だがナツの腕は、泣きじゃくるルーシィに叩き落された。

 

「やめてよっ　あたしのっ……あたしの１年を否定する様なナツには触れられたくないっ」

 

ルーシィは、その場に立ち上がった。

弾かれた自分の腕を見て唖然とした表情を浮かべるナツ。その手を握りしめると、ルーシィを見上げた。

 

「……否定なんか、してねぇっ！」

「ナツが強さだけを求めて、強さしか見つめていない時……

　あっあたしはっ…んくっ…いっいろんな知識や情報を…くぅ…頭に詰め込んできた……

　なっ仲間も…か家族もいなくって……１人で住む場所を移して…ふぐっ…１人で目の前を睨み付けて突き進むしかなかった…

　…だって、寂しいって気が付きたくなかった！　気が付いたら、もう立ち上がれない気がしてっ……んぐぅ」

 

言葉に詰まって、ルーシィはグイッと腕で涙をぬぐった。

 

「…でも、肩ひじ張らないでいいって、つらいって言っていいって、助けてくれた人だっているの……何が胡散臭いよっ！！

　あたしは、あんたの知らないところでも生きてきたの！！　考えてきたのっ！！　

　寂しかったけど、つらかったけど、この1年があたしを成長させてくれたわ…

　１人で頑張ってきたあたしを……否定しないでっ！！」

 

涙で歪んで見える視界の先で、ナツがこっちを見ているのはわかった。目の前にナツがいることが、嬉しくないわけがない。

 

　――ずっと会いたかった

　――ずっと、話したかった…触れたかった……

　――やっと会えた……

　――今度こそ……ナツに置いていかれない様にって、必死で過ごしてきた……

　――帰ってきたあんたに、お荷物だなんて思われたくなくって

 

涙をぬぐって、ルーシィは再びナツを睨み付けた。

顔の色をなくし唖然と、微動だにせず、自分を見つめ返してくるナツに、ルーシィはふっと力を抜いて悲しそうにほほ笑んだ。

 

　――でも、ナツがいる

　――目の前に、ナツがいるんだ…

 

「……ごめん……あんたが何怒ってるか、何考えてるのか、わかんなくって……１年前は……ううん。

　あんたもきっと大変な１年を過ごしたんだよね……ごめん。頭冷やしてくるから…」

 

　――また会えて、嬉しいのに……

　――あたしだって、ナツの1年を知らないのに……八つ当たりだ…バカだなぁ……

　――会いたかった気持ちは本当で、再会できて、一番に自分を見つけてくれて…

　――嬉しかった…心の底から…

　――でも、置いていかれたあの日から心の距離が測れなくなっちゃったんだ……

 

　――ただ、真っ直ぐとナツに向かって手を伸ばすことができないなんて…

 

静かに水の流れる音のする方向にルーシィは足を向けた。

離れたところで様子を窺っていたハッピーがナツの元に降りてきて、再び翼を広げ街へと戻っていく。

 

すぐそこの小川は澄んだ水が流れていて、ちょうどいい。ルーシィは川面に自分を映した。

 

「……酷い顔…」

 

そこに映る自分は、うさぎみたいに真っ赤な目と、水分を吸って腫れた瞼。覇気がなく相手の様子を窺う様な弱い自分。

 

「……ダメ……ダメよルーシィ。　強くなるって決めたじゃないっ」

 

冷たい川の水を手ですくうと、ぱしゃぱしゃと涙を洗い流した。

もう少ししたら、ウエンディ達との待ち合わせの時間になってしまうはずだ。それまでには目の赤みも、瞼の晴れも直さなければならない。

ハンカチを濡らして、河原の大きな岩に腰を掛け、そのハンカチを瞼の上に乗せた。

 

ふぅぅと、小さく息を吐き出した時、太陽の光を隠す様に影がかかった。

そこに視線を移さなくても、その纏う空気のあたたかさでナツだとわかってしまう。そんな自分に重症だなと、笑えてくる。

 

「…………」

「……もう、ウエンディ達来ちゃうかな？」

「いや……ハッピーが見に行ってる」

「そっ……立ってないで、座れば？」

 

瞼の上にハンカチを乗せたままルーシィは、目の前に太陽を阻むように立っているであろうナツに促した。

 

「……おう…」

 

素直に従い、その場に座り込むナツ。ルーシィの閉じた瞼の先に、陽の光が届く。

 

「……やっぱり、バルゴにお願いしようかな……」

 

ポツリとそう洩らすと、ルーシィの瞼の上に置かれたいたハンカチが蒸したタオルに変わった。

その様子に首を傾げるナツ。その姿は見えていないがルーシィは得意げな声を出した。

 

「バルゴに星霊界のお薬を混ぜた蒸しタオルを出してもらったのよっ　目、腫らしてたらウエンディ達に心配かけちゃうしっ」

「……」

「……なによ…あたしだって、少しは成長してるのっ　星霊のみんなと一緒に強くなったんだからっ」

 

少しの間。

 

「何言ってんだ…？　ルーシィは、元々強いだろっ」

「化け物並みの、あんたに言われてもねぇ」

「いあ……さっき言ってたルーシィの強さっての？　それ…」

「え……？」

 

ナツの発言に、ルーシィは瞼に乗せていた蒸しタオルを落としながら、振り返った。

まだ赤い目を見開き、ジィッとナツを見つめるルーシィ。

 

「……すげぇ顔だなルーシィ」

「っ…！！　もうっ馬鹿ッ！！」

「カッカッカッカッ～」

「なっ何笑ってるのよっ！　大体当初の話は終わってないんだからねっ！！」

 

ルーシィは思い出したように、上を向いて瞼を閉じた。すると、今度は冷たいタオルが瞼の上に置かれる。泣きはらした目と瞼には、冷たいものと暖かいものを交互に使うといいのだ。

 

「……別に、さっきの奴が悪いとか、ルーシィが強くないとかじゃなくてだな……なんかオレの知らねぇ奴と……」

「……知らねぇ奴と何よっ？」

「しっ知らねぇ男と仲良くしてるルーシィが悪いんだっ」

「……はぁ？」

 

早口で言い切ったが、ルーシィの反応は悪い。わかってないのか、ワザとなのかルーシィは冷えたタオルを瞼に乗せたままだ。その何でもない様子に、カッとナツの顔が赤く染まる。

 

「ルッルーシィがっ、オレのじゃねえ男と仲良くすんのが悪いんだっ」

「はぁぁぁぁぁ！？」

 

やっと意味が通じてきたのか、ルーシィがナツに振り返るが瞼から落ちそうになったタオルをナツが掴み、押し付けてきて自分の姿を見せてはくれない。所作ナツに目隠しをされた状態になってしまったルーシィは、フルフルと真っ赤に染まった体を揺らしていた。

 

「ナナナナナナツ？　あんた何言ってるかわかってるっ？」

「うっ……ギャアギャア相変わらずうるせぇやつだなっルーシィは…」

「だっだってナツがっ……」

「……オレだって、ずっとルーシィに会いたかったてのっ」

「なっなっ……だってって、あたしがあんたに会いたかったみたいになってるのよっ」

「……会いたかっただろっ」

 

「そっそりゃぁ……会いたかったに決まってるじゃないっ！！」

 

＊

 

＊

 

＊

 

いつの間にか、オレンジ色に染まる空。太陽が地平線に飲み込まれようとしていた。話し込んでいる間に、ずいぶん時間が経ってしまっていたようだった。

空を旋回してルーシィ達を見つけたハッピーとウエンディ達が空から降りてくると、岩に腰を掛けるルーシィの膝に、地べたに座ったナツが頭を乗せて目を瞑っているようだ。その桜色の髪を撫でながら、ルーシィが囁く。すでに、ウエンディ達には見慣れた光景だ。

 

「ねぇそろそろ、……お腹すいてるんじゃない？」

「……そういや…」

「フフフッじゃぁいいもの作ってあげる」

「なんですか～ルーシィさん」

「元気の出る魔法のスープよっ」

 

笑顔で振り返ったルーシィが楽しそうに食事の準備を始めた。野宿できるように薪を集め火を炊くと、そこに鍋がぶら下がった。コトコトと煮込まれていくと、いい香りが其処ら辺に充満してくる。

既に陽が沈み、ぎゅるぎゅると腹の音を立てているナツとハッピーに器に盛られたスープが手渡された。続いてウエンディとシャルルにも渡される。にこにこと微笑みながらルーシィに促されて、食事を始める一行。

 

「……肉入ってねぇやつか……」

「うっさいわねっ！！　つべこべ言わずにさっさと食べてみなさいっ」

「あっ！　美味しいです！！　ルーシィさん」

「うん。いい味じゃないっ」

 

顔を綻ばせて喜び合うウエンディとシャルルに、ルーシィの頬も緩んでくる。

 

「あっホントだぁっ！　おいしいよぉルーシィ」

「フフッ　さっき男の人いたじゃない？　あの人の奥さんに教えてもらったんだっ。取材であちこち行くからよく作るんだって携帯食材で作れる元気の出るスープよっ！」

 

「……へぇ」

「おいしいでしょ？　絶対、ナツも好きな味だと思ったんだけど……？」

 

コクリとナツの喉が動く。スープと共に何かを飲み込んだようだ。

 

「……うめえなっ」

 

 

 

 

 

 

１年かけてできた互いの知らない時間は、これから埋めていけばいいのだろう。すべてを語り合ったわけではないが、少しだけルーシィの胸のモヤモヤは晴れていた。

 

 

 

 

「うしっ！　行くぞっ！！」

 

 

 

目の前に差し出された、たくましくてルーシィよりも大きな手。

 

 

「うんっ」

「はいっ」

 

「行こうシャルル～」

「はいはいっ」

 

 

 

 

少女たちの楽しそうな声が木霊して、先の道へと続いていく。

 

 

Fin

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なんだか締まらない感じで申し訳ない(;´▽｀A``

ダラダラと長く迷走しちゃったっ(;´▽｀A``

書き始めると、あれもこれも書きたくなっちゃうんだよなぁ～_(:3)∠)_

お粗末さまですっ！！しいなちゃんありがと~～～～～～～～～～～♪