2014年10月22日
何色のナツ?
それは、晴天の空にそよぐ風が気持ちのいい日のこと。
朝、ハッピーはエクシード隊で荷運びの仕事に、いそいそと出かけていった。
残されたナツは、特にやることもなく、ルーシィを連れ森深くの泉に来ていた。
手にはバケツと釣竿。
「たくさん釣って、ハッピー喜ばせたいわね」
「おっ? んじゃ、どっちが多く釣れるか競争すっか!?」
ニコニコと笑っていたルーシィの表情が、ナツの一言で眉間に皺をよせた。
「えぇ……あたし初心者なんだけど?」
「んあ? ……がめつい奴め。じゃぁハンデやるよ」
「ちょっとぉ? なんであたしが悪いみたいになってるのよ!! もう!」
「カッカッカ~。じゃっ、オレが10匹釣る間に、ルーシィが1ッ匹でもつれたらルーシィの勝ちなっ。なんか1回いう事聞いてやんよ!」
「10ッ匹と、1匹ね! ってか、随分あたし舐められてる!?」
「なんだ? じゃぁ1匹にすっかぁ?」
「やっ。10匹! 10匹でいこう!! ヨシッ。頑張るわよ~!!」
そんな事を言ってから――余裕で1時間は過ぎた。
ナツのバケツには、魚が7匹。
――まだルーシィのバケツには何も入っていない。
「もぉぉぉぉ! 全然つれないよ~……面白くな~い」
ルーシィは、釣竿から手を放しそのまま後ろに寝転がった。
「なんだ…ルーシィ降参か? じゃぁ、オレの勝ちだな!!」
「うぅ~。……それはっ…わ~んっ。だってぇ、釣りなんて初めてだし、よくわかんないもん……ねっちょっとくらい教えてよ。釣り方!!」
ルーシィが体を起こし、ナツに向って懇願の視線をむける。
するとナツはその場で小さく息を吐き、腰を上げた。
徐に、ルーシィの直ぐ脇までやってきた。
「ったく。勝負中だってのに……しゃ~ねえなっ。ルーシィは」
「へへっ。ありがとっ。ナツ」
ルーシィの返事を耳にし、ナツはルーシィの後ろから彼女を挟み込む様に腰をおろした。
ナツの行動に、ルーシィの心臓が騒ぎ出す。
― なっなっなっ!?
― 何でこの座り方!?!?
― ヤダッ!!!どうしよう絶対顔赤くなってる///
ルーシィはどうしていいか解らず、そのまま動けずにいた。すると、ナツは後ろからルーシィを抱きしめる様に腕を回し、竿を持つルーシィの手に自分の手を重ねた。
「……あのなっ?」
「っ///」
ナツの声が、呼吸が、ルーシィの首筋をかすめる。ルーシィは、ビクンと肩を揺らした。
「っ!! っきゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
“ドッボ~ン!!!!”
緊張がピークに達して、思わずルーシィはナツを泉に突き落としてしまった。泉には……波紋が広がっている。
そして、ス――ッと水面が盛り上がった。
泉の中から、この泉と同じ水色の髪の女性がでてきて、水面に立った。
ボー然とその様子を見つめるルーシィ。
「あなたが落したのは、この青のナツですか? 黄色のナツですか? 赤のナツですか?」
「……え?」
「それとも……金色のナツですか? 銀色のナツですか?」
水色の髪の女性は、童話で読んだことのある……あの有名なお話の……あの女神だ。
女神は、球体に入った5色のナツをルーシィに見える様に宙に浮かせている。
球体の中で、赤・青・黄・金・銀のナツが目をつぶって動かない。
色が違う以外は、いつものナツと変わらないように見える。
「えっと……桜色の髪の普通のナツをお願いします」
突然のことに、口元を引きつらせながらルーシィは言い切った。
「正直に答えたあなたには、金色のナツ人形をプレゼントしましょう!」
ルーシィの手に、こけしの様な金色に輝くナツ人形が置かれた。
女神は微笑みをたたえながら 静かに泉に戻っていく。
「……何だったのよ……あれ?……ナツはぁ!?」
その時、ブクブクと泉から空気の泡が上がってくる。
水面が持ち上がり――桜色の髪から水を滴らせながら、ナツが岸に上がってきた。
「……ルーシィ……ヒデェ」
「ナツっ!! よかった。よかったぁぁぁ!!」
何だか訳のわからないうちに、童話の世界に入り込んでしまったような感覚が、まだ消えない。あれは何だったのだろう? 夢? ――でも夢じゃない。
もし、あたしが普通のナツを希望しなかったら――このナツはどうなっていたのだろう? 背筋に冷たい汗が滲んだ。そう考えればもう会えなくなってしまったのかと、今更ながらルーシィは焦り、ナツの胸に飛び込んだ。
「うおっ!?」
ナツの懐から――3匹の魚が落ちてきた。
「……ルーシィ」
「え?」
「7+3は?」
「……じっじゅう」
ナツがルーシィの目の前で、ニヤッと口角を持ち上げた。
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「……なんだ? その金色」
「えっと……金で出来たナツの人形」
「……まさか、いつでも俺と一緒にいたくって、作ったのか?」
「えっ? 貰ったんだけど…… 金だし、高く売れるかしらねっ」
「……お前、オレを売るのか?」
「……誰が買ってくれるのかしら」
「ルーシィヒデェよ!! オレを売るなよ!!」
「う~んそうねぇ……溶かして売った方がいいかな?」
「……溶かすのか? オレを」
「ルーシィ。セイバーのアイツなら、ナツのまま売れるんじゃない?」
「あっ! そっかぁ!! さて、いっくらになるかしらねぇ?」