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2014年5月15日  6P

竜の血②

シリアスです。ナツ→←ルーシィのナツルーです。

 

 

少女は小さな消えそうな声で、言葉を紡いだ。

その消えそうな声は、しっかりとナツとハッピーに届いていた。

やり方は違っている。だが、切り捨てるには、心が締め付けられた。

 

誰が悪い??誰の我儘だとかそういう事ではないのだ。

この行動を起こした者は皆、心を痛めているのだから。

ナツはよく知っているのだ。。。大切な絶対的な存在の喪失を。

 

少女は自分たちの目的を告げると、こと切れたように眠りについた。

自白剤により、無理やり口を開かせたのだ。

当然と言えば当然の事だろう。

だが、そうしてでもナツはルーシィを取り戻したかったのだ。

 

「・・・・もしかしたら、一番の我儘はオレかもしれないな。」

 

意識を失った少女をギルドの医務室に連れていき、ナツはポツリとそう漏らした。

知らせを聞きつけ、丁度調査から戻ったばかりのエルザとグレイが医務室の前で待っていた。

 

「ナツ。。。」

「おい単細胞バカ炎!!確かに違う方法がなかったのかとは思うがな、今囚われている姫さんの事を思えば、、、」

 

しかたねぇ。そう言うグレイだが、グレイであればこんな手段は使わなかったかもしれない。

ルーシィの行方がわからない状況で、自分は闇に取り込まれてはいなかっただろうか?

この少女の精神を破壊するかもしれない自白剤という薬を、用いる必要があったのだろうか?他に方法はなかったのか?ルーシィだったらどうした?あいつなら、、、こんな薬はなくったって。。。ルーシィが、この事を知ったら。。。

ナツの様子に、ハッピーは不安げにその足元に寄り添っている。

 

「話は聞いた。・・・そうだな。つらい思いをしているのだろう。だが、やり方が間違っている!!我々を巻き込んだのが運の尽きだ。手段を選ぶ必要があるのなら、ルーシィの安全が第一だ。モタモタしてはいられんぞ!!ナツ!!」

「そうだナツ。お前の魔法はちょろ火しか出ねえのか!?ウチの者に手え出したんだ。あちらさんも覚悟あっての事だろ?!ウジウジしてんじゃねぇ!!」

 

ナツは、苦笑を漏らした。

 

「ナツ。後の事はルーシィが戻ってきたら相談しよう?ルーシィきっと待ってるよ!!」

 

そして力強い視線をチームメイトに向けた。

 

「ああ。わかってんよ!ハッピー。何よりもルーシィだ!!!ロキがいるったって、、、早く助けてやんねえと。」

「早く迎えいかねえと、姫さんのこったちょっと無理してでも、自力で帰ってきちまうぞ??そうなったらいいとこ無しだな??ちょろ火野郎。」

「ナツ。男の見せ所というやつだな!!行くぞ!!!」

 

ナツの力のこもった目に、グレイとエルザは口角を上げた。

 

いつもの様子とは違い、いまだ感情を爆発させないナツがエルザは気がかりでしょうがないのだろう。エルザには、ルーシィもナツも可愛い大切な存在なのだから。

 

そして、グレイは内心ほっとしていた。

解っている。ナツにとってルーシィの存在が他の誰よりも大事なものなのだという事は。

最早、精神安定剤のような存在なのだろうという事も。

この状況は気を抜けば、ナツが闇に取り込まれかねない程の事だろう。

せめて自分は冷静にあろうと、心を律している。

 

『ナツが闇に囚われない様にルーシィを取り戻すまでは、彼女のかわりにナツに光をあてねばな。ポーリュシカさんも言っていた。グレイもナツから目を離すな。』

 

調査からの帰り道、エルザがグレイに言った言葉だ。

そんなに弱い奴だとは思ってはいない。だが、、、あえて言うなら今回は、どうにもナツの精神を闇に傾けかねない事は確かなんだ。・・・消えてしまったのがルーシィだから。

いつだって、ナツを照らし続けている光が隠されてしまっているのだから。

 

今までだってルーシィは何度も危険な目に会ってはいるが、居場所は大体わかっていた。

その目的も分かっていた。そこに向かっていける状態だった。光を目指して進めばいい状態だったのだから。今回の様に、綺麗さっぱりルーシィが消えてしまった衝撃にナツは、実際よく耐えていると思う。その姿に心配でもあるが、頼もしくもある。

 

「「「おう!!!」」」

 

ナツとパッピー、グレイが同時に 自身の掌にもう片方で作った拳を叩きつけた。

 

『パァン!!!』

 

早朝のギルドに、乾いた音が鳴りひびいた。

 

 

 

 

時はさかのぼり、神隠しの様にさらわれた少女は 薄暗い湿った空気の中で意識を取り戻した。

 

 

・・・・・・気を失っていた??

・・・・・自分は、眠っていた??

・・・ここは何処だろう??身体が痛い。

 

まだはっきりしない意識の中、少女は体を起こそうと身じろいだ。

 

「ルーシィ!ルーシィ!!」

 

すぐ近くで、よく知る声が自分を呼んでいる。

ルーシィと呼ばれた、金髪の少女がうっすらと瞼を持ち上げた。

暗い視界に、ぼんやりとオレンジ色の髪が揺れている。

 

「・・・ロキ?」

 

その名を口にすると同時に、フワッと抱きかかえられた。

暖かい。暖かいが、、、状況がわからない。。。

少女はその存在を軽く押しのけ、空間を作って顔を見合わせた。

 

「よかった。。。ルーシィ。気が付いたんだね?」

「えっ?な・に??何があったの??ロキ??」

 

ルーシィは、自分の記憶を辿りながら、辺りを見回した。

たしか、、、、あぁ。。。途中で強制的に記憶が途切れている。

 

・・・どうやら、自分は依頼の遂行中に意識を失い、この状況からすると攫われたようだ。

 

ロキの説明によると、急にルーシィが意識を失ったことによって魔力の揺らぎを感じ、急いで門をくぐったらしい。自分の魔力を使って。

が、、、不意を突かれて一緒に捕まってしまったというのだ。

・・・不意を突かれたと言うが、自分を人質に捕まってしまったのだろうとルーシィは感じていた。

 

 

実際の処、その要素は強い。

 

依頼の遂行中、先行して魔物を追いかけるナツの後ろに付いていたルーシィは、足を急がせながら腰の鍵に手を回していた。

弓の名手サジタリウスを呼び出し、魔物の行く手に弓射ってその足を止めようとしたのだ。

しかし、人馬宮の鍵に手をかけ魔力を練ったとことでルーシィは意識を失った。

魔法陣の残痕もなく、転送されたルーシィ。

転送された場所は既にこの牢獄のある建物の中だった。

 

ロキが出てきた時にルーシィは顔を隠した人物に担がれていた。星霊の鍵が、ルーシィのベルトより外されたところだった。そのまま両手を上げて降参な状況だ。

そこで暴れるにはリスクが高かった。

戦闘中に意識のない主を危険にさらすのは元より、主の近くから離されては困るのだ。

 

「目的は??」

「・・・ま・・りょ・・・く・・・。と・・く・・し・・ゅな・・・ま・りょ・・く・・。」

「彼女には手を出すな。魔力なら、、、星霊魔導士よりも星霊そのものの方が異種だろ?」

 

異界との扉と開く特殊な魔力を持つ星霊魔導士。

星霊魔導士が数少なくなった今、その魔力を狙う者がいる事は懸念していたことだ。

主を守る為、ロキは自らの魔力を差し出したのだ。

 

 

魔力云々の事は伏せ、ひとまずその時様子をロキが説明すると、ルーシィは「ありがと」と笑って、自分達の置かれている状況を確認しはじめた。

今、ルーシィを拘束するものは無い。

だが、ロキの足には鎖がつけられている。

ロキが言うには、どうやら星霊界に戻れない様にしているらしい。

昔カレンがアリエスにやったのと同じものの様だ。

 

・・・星霊を捉えようとでもいうのだろうか?

ルーシィの胸に不安がよぎる。

情報が少なすぎるため、考えが上手く纏まらない。

自然とルーシィの眉間には、シワがよっている。

そこに、ロキの声が聞こえてきた。

 

「ルーシィ。ちょっと、いいかい?。」

「うん。どういう事?何か分かっているの?」

 

ロキは首を横に振る。

 

「他のみんなは?」

「分からない。。。それに、すまない。ルーシィ。カギを奪われてしまったんだ。」

「・・・うん。」

 

ルーシィは腰の右側辺りに、手を当てていた。。。

そこにいつもあるはずの、星霊の鍵がない。

 

「でも、契約を解除されたわけじゃないわ。」

 

ルーシィのセカンドオリジンの解放によって、所持する星霊達の中には、自らゲートをくぐることができる様になったものも多い。

星霊からしたら契約の事もあるし魔力や体力を使うため、その行動はしんどい事だ。

だが自らゲートをくぐり、その場から脱出できれば逃れることは可能だろうと、ロキが言った。

 

・・・それでもルーシィの胸は痛む。

大切な友人の鍵を奪われてしまったのだから。

こんな訳の解らない仕打ちをするような人物の手の中に、大切な友人たちが囚われているのかと思うと、胸が痛み、呼吸が苦しくなる。

 

「皆には、状況が掴めるまで動かないように伝えてある。僕みたいに捕まっちゃったら困るからね?」

「・・・ロキは大丈夫なの?それにここは、何処だろう?相手の目的はわかるの?」

 

ロキは静かに首を横に振った。

 

「そんなに、依頼の場所から離れてはいないと思うよ。・・・大人しくしていれば、危害を加えるつもりはないようなんだ。」

「どれくらい時間がたったのかしら?」

「それは、、、そんなにたってないよ。多分まだ日付も変わってない。」

「そう。ひとまず情報を収集しなきゃいけないわね。。。」

 

ロキの繋がれた鎖は、およそ1.2mといった処か。

閉じ込められているこの部屋は、高い位置にある格子の付いた唯一の小さい窓から、外の光を受けることができている。

他に、魔水晶などの照明はない。

今は月明かりで、少し光は届くが、月が隠れれば真っ暗なのだろう。

 

当然の事だろが、気落ちする主に獅子宮の星霊はやさしく微笑みかけた。

 

「ルーシィ?痛いところは無いかい?僕がついていながら、ごめんね?」

「ん~ん。ロキのせいじゃないわ。あたしよ!!っあたしがっ!!ごめんね。。。ロキ。」

 

強がって何でもない顔を見せていても、ロキの顔色が悪い事はルーシィにもわかっている。

微塵も嫌な顔をしないどこまでも自分にやさしい星霊に、頭が下がる想いだった。

自分が落ち込めばこの優しい星霊も心を一緒に痛めると解っていても、自分の不注意に星霊を巻き込んでしまった責任を感じてしまう主と、そしてその星霊もまた、そんな主を案じて虚勢を張る。

 

「ハハッ。ルーシィのせいでもないよ!きっとすぐに、助けが来る。それまでの辛抱だよ!!」

「うん。」

 

2人の会話が静かに牢屋に響いている。

 

 

 

 

『バサバサバサザザ~』

 

屋根を叩く雨音に少女の意識が浮上してきた。

目が覚めると、雨粒が天井に叩きつけられる音が響いてくる。

小窓から薄明かるい日差しが入ってくる。

 

朝を迎えたのだろう。

昨夜、ここには誰も来なかった。ロキに促され、壁に寄りかかったまましばらく目を閉じたのは、何時頃だったのだろうか?

薄暗い部屋、コンクリートの床。そのコンクリートの床の上に寝てたのに思いのほか体は痛くなっていない。

 

「ロキ。ありがとう。」

 

寝ている間にロキが身体を、支えていてくれたようだった。 身体には、ジャケットがかけられている。ロキの物であるのはすぐにわかる。

目を覚ましたルーシィに・・・にっこりと笑いかけてはいるが、ロキのその顔には疲労が見てとれた。

 

「ロキ平気??お願い!!あなたも少し寝て!!今度はアタシが起きてるから!」

 

ロキのあまりの顔色の悪さに、ルーシィは慌てた。いくら自身の魔力で門をくぐって来たとしても、黄道12門のリーダーでもあり、人間界に長く顕現できるようになっているロキが、こんなに体力を奪われている事に ルーシィは一抹の不安を覚えていた。 一晩で、こんなに体力を奪われるものだったか??

ルーシィの視界にロキの足かせが目に入った。

・・・・・・これか?ここから魔力を吸い取られているのだとしたら、ロキ自身が気が付かない訳がない。だが、ロキは自分には何も言ってはくれない。それは、この行動が自分を庇っての事なのだとルーシィは悟った。

 

この状況で、この星霊に何を言っても聞く耳は持たないだろう。。。

ならばせめて、、、

目の下にうっすらクマを作っている獅子宮の星霊に、微笑みかけると、ロキは黙って目を閉じた。 この星霊は、自分の主をよく理解している。ここで自分が休まねば、次は彼女も休む事を放棄しかねないのだから。

 

ロキが背を壁に預けたのを確認すると、ルーシィは改めて自分たちのいる場所を確認した。

昨夜よりは、視界の届くようになった部屋の中を見渡すと、鉄格子の重厚そうな出入り口の扉。

それともう一つ、カーテンがかかっている場所がある。その向こうから小さく水の滴り落ちる音がしてくる。窓があるか、水道でもついているのかもしれない。ロキの足についている鎖の長さからからすれば、届く距離にないその場所はルーシィが眠っている間もロキには確認できていないだろう。

 

ルーシィは立ち上がると、そのカーテンのむこうを覗いた。 案の定、むき出しの水道と、排水溝がある。 海の家の水しか出ないシャワーの様だった。

・・・・元々ここはそう言うところだったのだろうか?

ルーシィはそこで顔を洗うと、頭の中の整理を始めた。

 

元々今回は、ルーシィが捕らえられたその場所には依頼の為に訪れたのだ。

その依頼の内容は、、、群棲しているモンスターの討伐。

内容こそよくあるものだ。

が、群生していると言われれば、個人単独で請け負うような仕事ではない。。。

まぁ、ラクサスとかなら別だろうが。。。

依頼は、、、、特別指名はされていなかったはずだ。

だが、自分たち以外だったら?

・・・一体誰がこの依頼を請け負っただろうか??

 

背筋に冷たいものが流れる。

もしかしたら、始めから自分が、自分達のチームが狙われている可能性もあるのだ。

そして、、、今までの経験からすると、その可能性はかなり高い。なぜか、こういう事件に自分は巻き込まれ易い体質なのだから。

 

・・・群れをなしているモンスターの討伐とくれば、、、依頼を引き受けそうなのは。。。チームだろう。

 

では、妖精の尻尾のチームの中で、喜んでこの依頼に飛びつきそうなチームは???

間違いなくまずは、自分たちのチームだろう。。

実際、ナツが持ってきたこの依頼を普段嫌がる自分も、今回は依頼の追加報酬に古い文献を譲るとあったので、即答でokしたのだ。

 

だが、自分達を狙ってだとしたら、あまりにも確実性がない。 妖精の尻尾の魔導士は、強者揃いだ。自分達が受ける前に他のチームがこの依頼を受ける可能性も十分あり得る話だ。

もし自分達ではなかったら・・・? ラクサスと雷神衆のチームと言うことも有り得る。ただ、今は長期の依頼に出ている。戻ってくるのは数か月先だと言っていたが。

 

エルフマン達は?・・・・いや、もしかしたら長期になるかもしれない依頼だ。そういった依頼は兄妹だけでは請けていなかった。もし受けるとしたら、雷神衆やラクサスと一緒だろう。それも長期依頼に出ているのだからありえない事だ。

 

そうだ。チームでだと考えれば団体行動の苦手なカナも消える。アルザックとビスカも泊りがけの依頼は受けていないはずだ。アスカちゃんが同行出来る場合は別だが。今回はそれは無いだろう。

ジュビアは?ジュビアだったらうちのチームか、ガジルを誘うかな?

ウエンディ達だって、うちのチームを誘ってくれるだろうし。。。

 

もしくは、、、レビィちゃんが本を欲しがりそうだし、、、シャドーギア??

・・・だけじゃ不安だから、もし請け負ったらガジルが付いていくだろう。

 

それから、、、

うん。やっぱりそんなもんかな・・・??!

 

ってことは、今回の依頼を請けそうなのは、うちのチームとラクサス込のチーム。もしくはシャドーギア+ガジルのチーム。

 

あれ・・・・・?? 何か引っかかる。

 

「あっ!!」

 

ルーシィが顔を上げた先に、目深にフードを被った女と、同じようにフードを被った女より一回り小さい、、、こども??

 

「申し訳ない。お嬢さん。」

 

小さい方が口を開く。 その少し高い声は、男の子なのか?女の子なのか?判別できなかった。だが、、、話し方や身振りからすれば、年寄ってことはなさそうだ。

 

「ルーシィ!!こっちへ!!!」

 

たいして深い眠りには就いてなかったのだろうロキがルーシィを庇おうと腕を伸ばしてきた。

ロキの声に応じ、ルーシィは2・3歩さがりロキの近くに立ち、フードを被った女と、子供のような人物をまっすぐと見つめ返した。

 

「・・・・どういうことですか?」

「声を小さく!!危害は加えたくありません。力を貸して欲しいのです。」

 

女の方がそう言って、深々と頭を下げた。

 

「・・・・どういう事だ?ルーシィに手出しはさせない。」

「あなた達は何者なの?あたしに何をさせようというの?」

 

ロキがそう呟いて、ルーシィと視線を会わせる。ロキの問いに、女が顔を上げた。そして深く息を吸い込んだ。

 

「そうでしたね。ではまず自己紹介としましょうか?ルーシィ・ハートフィリアさん。獅子宮の星霊のレオさん。」

「私たちは、霧の民。数百年とこの森の奥深くに太古の霧に守られ暮らしております。」

 

「森の中で?何のために??」

 

「・・・・始めは、争いを始めた人間たちから逃げてきたとも、、、竜が統べる時代に、その恐ろしさから隠れる為だったとも言われています。」

「我々は、、、ずっと太古の霧に守られて暮らしていたおかげで、この世の争いから守られていたのです。」 

 

 女は胸に手をあて、ゆっくりと落ち着いた様子で語る。 

 

「・・・・・それで?その霧の民が、、、何をしろと言うの??」

「魔力を、、、魔力を分けて欲しいのです。」

「・・・・・魔力??」

 

ルーシィは首を傾げて、ロキを見た。ロキはルーシィを庇うように腕を伸ばした。

次に、小さい方が口を開く。

 

「はい。私たち守ってくれていた太古の霧は、長い年月で随分薄く弱くなっています。そんな中 霧の里を出て行って、街の暮らしを始める者も多く出てきました。人が少なくなる度に太古の霧の力は弱くなる一方です。」

「太古の霧は言います。『このまま消えるのが運命だ』と。でも我々は、諦めたくない!!太古の霧に守り続けて欲しいとかじゃないんです!!」

「・・・・霧が?喋るの??」

「ええ。太古の霧は生きています。太古の霧は、私たちの親のようなもの。。。小さい頃から何でも話してきた友人のようなもの。。。」

 

ルーシィと、ロキは顔を見合わせる。

 

「太古の霧は言います。今の世界は、魔法にあふれていると。私たちも外で暮らしていけるのだと。」

「あなたは・・・・??」

「はい。私たちも体内に魔力を持つ、、、そしてそれを使う魔導士です。でも、、、太古の霧を癒す事は出来なかった。」

 

女は泣き崩れた。 それを、小さい方が慰める様に肩に手を置いた。

 

「お願いいたします。我々の霧に、力を分けてください。」

「力を分けるったて、、、あたしもただの魔導士よ??それとも、、、」

 

「・・・・・・・竜の魔力があるじゃないでか??」

 

泣き崩れていた女が、呻く様にそう言った。

 

「あなたを捕らえたとき、その星霊の我々とは違う、強い魔力を感じました。なので、星霊の魔力が太古の霧を救ってくれるかと少々魔力をいただいて試したのですが、、、ただ強力な魔力だというだけでは駄目だったようです。」

 

小さい方は言う。 そして、ゆっくりとルーシィを見た。

 

「・・・・私は、竜じゃないわよ?」

 

「はい。分かっています。あなたは星霊魔導士、だが、竜の寵愛を受ける女性だ。」

「・・・ある村で、永遠の炎が凍ったと聞きました。その炎をよみがえらせたのは竜の力だったとも聞きました。」

 

「寵愛って!!!ナツとはそんなんじゃ/////」

「・・・ルーシィ?竜って言っただけで、ナツなんて一言も言ってないんじゃないかな?」

 

「竜は外の世界の者です。此処に留まることはないでしょう。だから、竜の子でいいのです。今後永遠に、ここで一緒に暮らしてくれる竜の血筋が欲しいのです。ここで霧を守って暮らしていくために。」

 

話しの内容に頬を赤く染めた少女は、眉間に深くシワを寄せた。

訝しげな表情を女達に向けた。

 

「・・・・えぇ??あなた達は何を・・・??」

「なに、あなたが産む子供をくれと言うんではありません。」

 

一瞬風が吹いたかと思うと、ルーシィの髪が揺れた。

 

「きゃっ!?」

「ルーシィ!!!」

 

ロキの声が響いた。ルーシィの頬に、一筋の赤い線ができている。

鮮血がにじみ出て流れた。そして、、、

 

「ルーシィ!!!!!なんてことを!!!」

 

ルーシィの髪が一束その場に落ちている。それを視界に止め、ルーシィが自分の髪に触れる。

長く背中までのばした金髪が、すっぱりと切り取られている。

目線を戻すと、小さい方の人物の手に、切り取られた金髪が握りしめられている。

 

「これで、あなたを造らせてもらう。。。」

「・・・・何を言ってるの?」

 

「この髪を媒体に、ラクリマを生成して、身体に埋め込むんです。そうするとどうなるか解りますか?」

「クスクス。そう。あなたの魔力を手に入れる。あなたに成り変わる事が出来るのですよ!!」

 

「あなたの代わりに、火の竜の子をこの村の娘が産むのです。」

「馬鹿な事を!!!」

 

ルーシィは険しい表情で女達を睨み付けた。そんな事が、、、そんな事があってたまるものか!!!そんなことの為に、好きでもない人の子を産むなんて!!

好きでもない人にそんな事の為に!?

 

「種が仕込まれれば、、、あなたはすぐに開放いたします。」

 

 

 

 

そして数時間後。

ルーシィとロキの前に、先ほどのフードを被った女と小柄な人物。そして、1人の少女がやってきた。

女の手には、魔水晶が載せられている。 その魔水晶の中には、ルーシィの金糸が埋め込まれているようだ。

 

「出来上がりましたよ。協力いただいたあなた方に、成果のほどを確認していただこうと思いまして。」

 

女が魔水晶を、ルーシィ達に見える様に掲げた。

そして一緒に来たルーシィと同じ年頃の少女に1歩前に出るように促した。

黒く美しい髪と、茶褐色の瞳。凛とした印象を受ける。 ひとことで美人と言えるその少女は、黙って女の指示に従っているようだ。

 

その少女の姿を目にし、ロキは『ピュ~!!』歓喜の口笛を吹いておどけて見せる。

 

それを無視しフードの女はその少女に一声かけると、魔水晶を少女のうなじにあてた。

少女の身体が一瞬はね、小柄な人物に視線を投げたように感じる。

ルーシィ達の目の前でフードの女は、その魔水晶を1人の少女のうなじに埋め込んだ。

瞬く間に、少女の黒髪が金色に変わり、茶褐色の瞳が琥珀色に。そして、鏡を見ているのかと錯覚してしまうほどの。そうまるで、ジェミニがルーシィに化けた時のように姿を変えた。

 

「・・・そんなっ。」

「まさか。ここまで。」

 

ルーシィはそれ以外の言葉を失い、ロキは真剣な顔のまま驚愕している。

 

「髪からとったあなたの細胞がが、魔水晶を通して、あなたを教えてくれるはずです。」

「そう、、、記憶喪失とでも偽っておけば、、、問題のないレベルでしょう。。」

「・・・・。」

 

ルーシィの姿になった少女は、自分の身体を確かめる様に触っている。 髪を一掬いし 目の前まで持ってきて、金色の髪を視界に入れ悲しく静かに微笑んだ。

 

「太古の霧様の為に。。。」

 

ルーシィと同じ声だ。そして、それは強い眼差しだ。 そう、、、まるで強い敵に立ち向かう時のルーシィの様に。

 

「・・・・こんな事。。貴方たちの大切な太古の霧は望まないわ!!間違ってる!!人を何だと思っているの?子を成すって、、、子供って、人よ?そんな簡単に。。。」

 

ルーシィは、精一杯の言葉をはき出した。ロキはそんなルーシィの肩に手を置き、落ち着く様にを肩を摩っている。

感情の高ぶりに、ルーシィの目には涙が滲んでいる。

 

「霧さまは、太古の霧は、私達のしたい様にと言ってくれたわ!!」

「それは、あなた達の行く末の事でしょう!!こんなことをしては、、、きっと悲しむわ。あなた達をずっと見守ってきた存在なのでしょう?こんな事望んではいないはずよ!!」

「・・・そうかもしれませんね。でも、これは霧の民の総意です。霧もいずれわかってくれます。」

 

ルーシィの訴えに、女が淡々と答える。

 

「じゃぁ何故!!太古の霧は、あなた達の前に現れないの?」

「っ!?それはっ。。」

「まだ引き返せるわ!!こんなのっ。おかしいわよ!!許されないわ!!!」

 

「~~っ!!ええぃ!!うるさい!うるさい!!!」

 

ルーシィの必死な言葉に、金髪になった少女が横から声を荒げた。琥珀色に変わった瞳が揺れて見える。

そこに、フードの女がやってきて少女の肩を抱いた。

 

「話しても無駄でしたね。我々にしか解らぬことなのよ。行きましょう。。。」

「・・・はい。」

 

女が少女の背を押し、その場から立ち去ろうとしている。ルーシィは金髪の少女に向かって声を荒げた。

 

「貴方は本当にいいの??貴方が犠牲になる事ないわ!!」

 

 

 

 

あの後、ルーシィの言葉に少女の肩を抱いていた女が振り返り、掌を前に突き出した。 突風が吹き、その風がルーシィを牢屋の壁に叩きつけた。フードの奥にのぞくエメラルド色の目が揺れて見えた。

ルーシィはその場にしゃがみ込んだ。

 

この部屋に閉じ込められて、既に2回目の夜が明けた。

 

ルーシィは壁に背を預け小窓から入ってくる陽の光を視界に入れながらどこか遠くを見ている。

その隣にロキも腰を下ろした。オレンジの頭と金髪が肩を寄せ合って壁にもたれている。

 

「ルーシィ。大丈夫だよ。ナツを信じるんだ。」

「ナツの事は、、、、、信じてるよ。誰よりも。。。。でも、、」

「あの女の子の事かい??」

 

ナツの事は信じている。ナツの五感は竜の五感だ。簡単に自分以外をルーシィだとは思わない気がする。何故かそれには自信があった。

 

それに相手はあのナツだ。これまでどんなにルーシィが自分をアピールしても通じたためしがないのだ。きっと女の子になんて、、、興味が無いのだろう。

度重なる乙女を無視したナツの行動に、ルーシィの中でナツとはそういう対象になっていた。だからこそ これまで、仲の良いただのチームメイトとして過ごしてこられたのだ。

ルーシィとナツの距離が男女間の友情の距離はとうに飛び越えてしまっていても。

 

だが、先ほど目の前で自分と同様に姿を変えた少女を思うと、どうしたって心が苦しい。

淡々と語っていたが、要は好きでもない人に抱かれ、その人の子供を産むというのだ。子ができるまで何度だって抱かれなければならない。子が宿ったって、好きでもない人の子がお腹の中で育っていくのだ。それ母体にとっても、胎児にとっても、幸せな訳がない。産まれてくる子供に失礼だ!

大体、出産にしたってそれは女にとって命がけの事だ。何か問題があれば命だって簡単に尽きてしまうのだから。

 

そしてそんな思いをして産んだ子供を、竜の魔力の為にそこに永遠に縛り付けるというのだ。

理解できない。

ルーシィには理解できない事だった。ルーシィにはどう考えたって、誰も幸福にはなれない気がしていた。

 

 

「・・・・うん。大切な人のためだからって、、、好きでもない人の子供を産めるものなの? しかも、それが成功するかもわからないのに!!」

 

ルーシィの声は、震えている。自分に成り代わった少女を心配しているのだろう。ロキはそれを落ち着ける様に、ゆっくりとやさしく語り掛ける。

 

「うんそうだね。ルーシィには、理解できないね。・・・彼女たちにとって・・・それだけ大事な存在なんだろうね。太古の霧は。」

「ロキにも分かるの?あの子の気持ち。。。」

「う~ん・・・そうだなぁ。。ちょっと違うけど、、、でも分わかる部分もある。。。かも。」

 

ロキの物言いに、ルーシィは首を傾げた。大きな瞳を揺らしロキの目を真っ直ぐと見つめてくる。ロキは微笑みながら、ゆっくりとした口調のまま話し続けた。

 

「あの子達にとっての、太古のの霧の存在は、僕達星霊にとっての理想のオーナーみいなものなのかもしれない。僕にとってのルーシィのような。。。ね??」

 

そう言って獅子宮の星霊は、主に向かってウインクをする。ウインクをされた主は、ほのかに頬を染めながら、焦った表情を浮かべた。驚いた様だ。

 

「・・・えぇっ!?まぁ。オーナーだけどさっ。あたしぃ??」

「そうだよ。僕たち星霊は、、、永く変わる事のない存在だろ?変わる事なんかない世界に星霊(僕ら)は、ずっと生きているんだ。変わってしまうのは、いつの時代もオーナーだけさ。だってオーナーが替わったって僕らはいつもの様に存在するんだ。変わらずね。変わらない世界。唯一変わる事があって、外とを繋いでくれる存在が、オーナーさ。いい人も悪い人もいた。それはこの村の様子とは違うね。でも、、、」

 

ロキは一度目を伏せて、まじめな顔をしてルーシィを真っ直ぐと見つめた。

 

「・・・でも?」

「ハハッ。僕にとって、ルーシィは特別な、、、、オーナー・なんだよ!!とっても特別な・・ね?ルーシィ。君は、キュートでスタイルもよくって、笑顔が良く似合う、、、そして僕たち星霊を愛してくれる。僕にとってルーシィは、霧の民にとっての太古の霧の様な存在だよ。だから、彼らの気持ちはよくわかるんだ。。。」

 

ルーシィは、ロキのあまりの物言いに、言葉を失くして、でも真っ直ぐとロキを見て話を聞いている。

いつもの笑顔は無く至って真剣な表情のロキだったが、ルーシィからの真っ直ぐな視線を受け、やさしく微笑んだ。

この子はこんな話をしても、茶化すことをせずちゃんと聞いてくれる。  僕の大切な人。誰よりも、仲間や、自分よりも、大切なやっと出会う事の出来た存在だ。

 僕の一世一代の告白なんだけど、、、この可愛いオーナーは解っているのだろうか?

 

「じゃぁ、ロキも同じことをする?あたしを助けるために、、、」

 

ロキは静かに顔を横に振った。

 

「・・・ぼくは、、、する・しないじゃなくって・・・・出来ないかな?」

「出来ない?」

「うん。だって、そんな事をしたらルーシィは、、、悲しむだろ??自分の寿命の為に誰かを犠牲にしたとしったら、きっとルーシィはルーシィでなくなってしまうんだ。それじゃあ、僕がルーシィを殺すみたいじゃないか!!だから、どんなに身を裂かれる思いでも、、、、それだけは、、、出来ない。。。ね??」

 

ロキの目に、真っ直ぐ自分を見つめてくるルーシィが映る。真っ直ぐとロキの心を射ぬくように。

 綺麗な、例えようのないキレイは琥珀色が揺れて、幸せそうに微笑んだ。。

 

「ルーシィには、これからたくさん冒険をして、小説家になるって夢も叶えてもらって、、、たくさん楽しい思い出を作って、たくさん笑い合って、、、僕の永遠の世界では一瞬の出来事かもしれないけど、、、僕はルーシィがルーシィらしく生きていけることを、、、全部守るんだ。笑って生きていてほしいんだ。。。最後には、、思い出しか残らないかもしれない。でも、僕は最後までルーシィと生きたいな。そして、願ってもいいのなら、、、ルーシィが天に召されたら、、、僕も。」

 

自然と、涙が頬をつたい落ちていた。大切な存在を見つけたということは、永遠の存在である彼らからしたら いずれ失うということだ。

・・・ここまで話すつもりはなかった。ロキは慌てて流れ落ちる雫を拭った。

彼女を混乱させるようなことを、悲しませるかもしれない事を言う予定ではなかった。

1人焦るロキを尻目に、ルーシィが微笑んで、その口が動いた。

 

「ありがとう。」

 

ルーシィの大きな目から大粒の涙が流れ落ちた。それは宝石の様に、光の入らない室内でなお 輝いて頬を伝い落ちる。

 

「なんか改めてそんな風に言われると、、、照れるわねっ。ふふっ。・・・でも、あなたは生きていてね。あたしが居なくなった後だって、出会いはあるのよ?フフッ。決めつけちゃダメよ?!」

 

ルーシィの微笑みに、ロキは自分の心の内を見た気がした。・・・・そうだ。僕はこの想いすらも、ルーシィに聞いてほしかったんだ。いくらでも、人間同士よりも近い位置に存在できる僕らだが、それは何処までも平行線で、交わることがなかった想いを、虚しさを。。。 心のどこかで、ルーシィと一緒に消えてしまいたいと思っていたのかもしれない。なんて破滅的な考えなんだ。。。

だが、それも簡単にルーシィが笑顔に変えてしまった。

 

「・・・そうだね。・・・せっかくだし、僕の夢も言っちゃおうかな?」

「なっ何よ!??まだ何かあるの///!?」

「僕は、どれくらい先かわからないけど、、、ルーシィが天に召されたら、、、君の子孫に仕え、、、君が新たに生まれてくるのを待つことにするよ。どれだけかかっても、もし生まれ変わったルーシィが魔法を使えなくっても。。。見つけて仕えちゃうよ?・・・・星霊には、時間がたっぷりあるからね!」

「もうっ!!そんなに言われたら照れるじゃない!!ロキってば。。。あたし。。。。」

 

ルーシィは一度瞬きをして、ゆっくり顔を上げた。

 

「・・・それを言うんだったら、、あたしは、、生まれ変わっっても、、、星霊魔導士になりたいかな~。」

 

高い位置にある小窓から、スポットを受ける様にルーシィは陽に照らされ微笑んだ。 それは、綺麗に。

いつまでも子供だと思っていたけど、、、いつの間にか立派なレディになっちゃったね。 大切な大切な、僕らのお姫様。

誰かの手に落ちるのは、、、まだ早い気がするけどこの先君は、恋をして子供を産んでもらわなきゃいけないんだけど。。。

解ってるのかな? 僕たち星霊を友と呼んでくれる優しい君だから、みんな君には特別優しくしてしまうし、自然と集まってきてしまうのかもね。。

 

さて、、、僕らのお姫様の気持ちを汲んで、、、そろそろ動かなくては。

黄道12門のリーダーの、、、そして妖精の尻尾の魔導士の・・・名折れにはなりたくないしね!! ロキが思案する中、牢屋の外から声がかけられた。

 

「お嬢さん。」

 

聞き覚えのある声だ。何度もここを訪れていた小柄な人物がそこに立っていた。

 

 

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暗いですね。。。そして、ロキ。普段は軽い感じだけど、その裏にはこんな一面もあるんではないかとmoは思っています。

キャラ崩壊ですかね??苦手な方が居ましたら、申し訳ありません(´・ω・`)さて終盤にむかいますね。。どうなるんでしょう??

この辺ですんなり終わらそうと思ってたんだけど、本誌のルーちゃんの頑張りに心を打たれて、もう少しルーちゃんに頑張ってもらおうかをも思ってます(*ノωノ)気力の続く限り頑張りますね♡いつも応援してくださる方々に感謝です(*´▽`*)♡

 

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