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秘密結社『妖精の尻尾』~出会い②~

 

 

ルーシィを乗せ、大型船が出港した。

 

その頃、食事を終えたナツとハッピーは、この町全体を眺められる高台まで来ていた。

港を出航した船を見て、近くにいた女の子達が何やら話しているのがナツの耳に届いた。

 

 

「あ~あ。クルージング行きたかったなぁ~」

「ね~!!年齢制限とかって酷いよね~!?」

「ん~。でもあの男の人、名刺くれたんだよ!!後で連絡とってみようよ!!」

「マジで??見して見して!!」

「これっ!ほら!!」

「えっとぉ。。。ようせいのしっぽ??なにそれ?どっかの企業??」

「・・・・・・・。」

 

 

女の子達の会話は続いている。。。

 

 

「にゃ~にゃ~にゃ~!!!」

「あぁ。わかってる!!」

 

 

 

 

案内された部屋で、ルーシィは男の前に座っていた。

 

 

「さぁ。お近づきの印に!」

 

 

そう言って男が差し出してきたぶどう酒。

未成年であるが、失礼のない程度にと口へ持っていくと、わずかに異臭がする。

 

 

「さあ。これは、遠方より取り寄せた最高級のワインなんだよ?さぁ。さあ!!」

 

 

中々グラスの中身を口にしないルーシィにしびれを切らし、男が強引にそのワインをルーシィの口元へ運んだ。

次の瞬間そのグラスは宙を舞った。

そのまま狭い船室の壁にぶつかり、グラスは割れ 壁と床が赤く染まった。

 

 

「睡眠薬ね。」

 

 

ルーシィが静かに言い放った。その声は怒気をはらんでいる。が、男は気にした様子も見せず、下賤に笑って見せた。

 

 

「まったく、感がいいお嬢さんだな。おい!!」

 

 

男の声に合わせて、船室にそいつの手下と思われる男どもが入ってきた。

大方、廊下で聞き耳を立てていたのだろう。

ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべ、ルーシィを取り囲んだ。

 

 

(背に腹は代えられないわ!!)

 

 

仕方なしに、ドレスの下に隠していた鍵に手を伸ばした。

 

 

!?!?

 

その時だった!!

 

 

後ろから羽交い絞めにされてしまう。

 

 

「だからさ~、お嬢さんオレは、魔導士仲間だって言ったろ?」

 

 

ゆっくりと近づいてきた男が、ルーシィの太ももに隠してあったカギを奪い取った。それを一瞥して、窓の外に放り投げた。

海にポチャンと鍵が落ちた音がする。

 

 

「くっ!!」

「門の鍵かよ。もっといいもの持っててくれよ~。あれじゃぁ売り物にもならねぇ。」

 

 

馬鹿にしたように、男がルーシィを嘲笑う。

この男の言う通り、ルーシィの持つカギは、男にとっては何の価値もなく、売ろうとしたところで、、、、ルーシィの契約下でははした金にもならないのだ。

 

だが、ルーシィにとっては大切な大切な友達だ。この広い海の中に!!!早く飛び込んで見つけてやらねば!!!

体を揺すって、何とか逃れようとするも、数名の男達に囲まれうまい様に逃げれない。

男達が不敵に笑っている。

 

 

「離して!!いったい何のつもりなの!!」

 

 

ルーシィの強い口調に、後ろで腕を押さえている太った男が答えた。

 

 

「嬢ちゃん。こんな世の中でもな?若い女を囲う為に大金払う馬鹿な金持ちが沢山いるんだよ。」

「そうそう。お嬢ちゃんは、上玉だから高く売れるだろうなぁ。」

 

 

もう片方の手を押さえている細い男も一緒になって答えている。

 

 

「まさか、、、他の女の子たちも。。。」

「さすが感がいいですね~。彼女たちは、集団睡眠化で暴れることなく、、、従順に買われていしまうんだよ。」

「嬢ちゃんは良かったなぁ?自我がある分仕方なく、、、体で教えてもらえるんだ。逆らうなって。」

 

 

そう言って、男の一人が舌なめずりする。

下卑た笑みと、視線がルーシィの身体を舐めまわす。

背筋に冷たい汗が流れ落ち、ガクガクと知らぬ間に体が震えてくる。

 

絶体絶命のピンチに、悔し涙が滲んでくる。だが、決してその涙を流すまいと、目の前の男を睨み付けた。

その時だった。

 

 

『ガッシャーン!!』

 

 

船室の窓が割れ、中に何かが飛び込んできた。

割れた窓から強い風が吹き抜ける。あまりに突然の事に、ルーシィを拘束していた手が緩んでいる。

その隙を逃さず、ルーシィの回し蹴りがさく裂した。 両脇に構えていた男達が静かに 床に沈んだ。

船室は混乱して、飛び込んできた物体が注目を集めている。

 

 

「にゃ~!にゃ~!!(ルーシィ!すごーい!!)」

 

 

青猫が、割れた窓辺で鳴いている。

 

 

「ハッピー!?」

 

 

ルーシィが慌てて、青猫に駆け寄った。

 

 

「にゃ~!!(ルーシィ逃げるよ!!)」

 

 

ハッピーの長い尻尾がルーシイの胴に回ったかと思うと、体が宙に浮いた。

 

 

「へっ??」

「にゃ~にゃ~!!(しっかり捕まってて!!)」

 

 

ルーシィは、ハッピーの尻尾にぶら下げられて 宙に浮いている。

その視線の先に、先ほどまでいた船室が映った。

 

 

「え?ナツ??」

「あい。ナツです。」

 

 

船室に、うずくまる桜頭が見える。ルーシィがハッピーに叫んだ。

 

 

「ナツも一緒に飛べないの?」

「あい。2人は無理です。」

「もう!あっ!!じゃぁ、あたしを降ろして!!」

「ええぇぇ!?!?戻ってどうするの??」

「海によ!!海に降ろして!!」

「あい!!」

 

 

ハッピーがその場で、尻尾を離した。

 

 

「っ!?キャーーーー!!!」

 

 

およそ、10m位の高さからルーシィが海に落下した。

しぶきを上げてお尻から落下したルーシイは海中で、すぐに辺りを見回す。

船の進行方向から行って、、、、この辺。。。

 

 

 ―お願い皆!!

 ―何処にいるの??

 ―返事をして!!

 

 

心から叫んでいると、浅い場所にある岩にきらりと光が見える。

 

 ―いた!!!

 

 

息が苦しいのも無視して、そこまで力の限り急いで泳いだ。

大切な友達を両手で拾い上げ、胸の前で抱きしめた。そして浮上する。

 

 

「ルーシィ!!!」

 

 

空からハッピーが心配そうに覗き込んでいた。

 

 

「ナツは?」

「あい。船の中だよ。」

「今の内に助けなさいよ。。。はぁ」

「あっ。。。でも大丈夫!!ナツも魔導士だよ!!」

「え??」

 

 

空の上と海の中で、大切な事を言われた。ルーシィは瞬きを繰り返し、ハッピーに向って口を開いた。

 

 

「ねぇ。でもやられてたわよね?」

「あい。ナツは乗り物が大の苦手なんです。。。」

「・・・わかった!!」

 

 

ルーシィは先程拾い上げた鍵の束から、金色に輝く鍵を海水に差し込んだ。

 

 

「開け!宝瓶宮の扉 アクエリアス!!」

 

 

『キィィィィィン』

 

 

海面が盛り上がり、そこから青い髪の綺麗な人魚が現れた。

 

「アクエリアス!あの船を港に押し戻して!!」

 

「チッ。」

「・・・今舌打ちしたかしら?」

「てめぇ。。鍵 落しただろう?」

「うぐっ。。。ごっごめんなさい。」

「今度、鍵を落としたら。。。。殺す。。。」

「ひぃぃぃ」

 

 

アクエリアスが海面に立って、水瓶をかまえた。

人魚見たさに降りてきていたハッピーに「息吸って!」とルーシィの叫びが届いた。

 

 

「オラァッ!!!」

 

 

人魚の豪快な掛声とともに 水瓶から大量の水が渦を巻いて吹き出し大波となって、見事船の側面を捕らえる。

船が回転しながら、岸に押し戻されていく。乱暴な船の回転に、船から多数の女性のものと聞き取れる悲鳴が聞こえる。

 

 

ハッピーも、咄嗟に抱きかかえてくれたルーシィの腕の中で、目を廻しながらルーシィに倣って波に身を任せた。

柔らかい感触に抱きかかえられながら、揺れが収まるのを待ち 恐る恐るハッピーが目を開けると、自分たちは船の甲板に乗り上げていた。

ハッピーが頭を持ち上げると、自分を抱えたままのルーシィが人魚と何か会話をし、その後人魚が泡になって消えた。

 

 

「あっ!!ナツ!!」

 

 

ルーシィは思い出したように立ち上がって、先ほどまでいた船室に向かって走り出している。

その迷いのない目に、ルーシィの腕の中でハッピーは嬉しそうに「にゃぁ!!」っと鳴いた。

 

 

『ドッカァァァァーーーン!!!!』

 

 

その時 ナツがいるはずの船室から、爆発音が聞こえてきた。

その音で、倒れていた女の子達や港にいる人たちも騒めきだした。

 

 

「えっ??」

 

 

ルーシィが腕の中の青猫を見る。青猫は、ニィっと口角を持ち上げた。

ルーシィが部屋のドアを開けると、炎を身に纏い敵を薙ぎ払うナツがいた。

その炎に包まれたナツの姿に、ルーシィは目を奪われたのもつかの間、、、大勢の足音が急速に近づいてくる。港にも、見物人が集まっている。

 

咄嗟に、ヤバイと思ったルーシィは、意識が朦朧としている先程の男達にまだ殴りかかろうとしているナツの手をとり、走り出した。

 

 

「逃げるわよ!!」

「おわっ!?」

 

 

魔法が人の目に留まっては、大惨事である。

下手をして、証拠が残っていれば 格好のスキャンダルだ!!そうやってヘマをした魔導士が、自分の意に反して騒がれ、嘘つき扱いされ、、、病院送りに。。。。逃げるが勝ちだ!!

 

そして、引っ張られて走っていたナツがルーシィに並ぶ。

その肩に、記憶の中の紋章が刻まれていることに、ルーシィは気が付いた。

 

 

「それ。。。」

「あ?」

 

 

近くの公園にナツの手を引いて入り込んだ。追手は来ていないようだった。現場から、逃げる姿を目撃されていなかったのだろう。

ホッと胸をなでおろし、ルーシィは息を整えながらナツに振り返った。

 

 

「ナツー!!ルーシィも魔導士なんだよ~!!」

「うおっ!!マジかよ。。。」

「あい!さっきの大波も、ルーシィがやったんだ!!」

「すっすげぇな。。。」

 

 

何やら、ナツとハッピーが会話をしている。ナツも魔導士だったのだ。

ハッピーは、ナツの使役する使い魔のような存在なのかもしれない。

そう考えれば、会話をしているのは 至極当然の事なのだが。。。その光景は、とても対等なもののようで、微笑ましい。

 

 

「ねぇ!!その紋章!!」

「あぁ!これは、オレ達が所属する妖精の尻尾の紋章だ!!」

「・・・さっきの男と一緒?」

「ふざけんじゃねぇ!!!あいつは偽もんだ!!」

 

 

だからぶっとばしてやった!!と言ってのけたナツに、ハッピーが大きくため息をついている。

・・・どうやら、ナツよりもハッピーの方が世の常識を理解しているようだ。

 

ナツの発言を聞き、若干口元を引きつらせながらもルーシィはホッとしたような表情を見せる。

 

 

「・・・そっか。そっか!!そうよね!!」

 

 

そう言って、アハハハはと楽しそうにルーシィが笑い出した。

 

 

「・・・?」

 

 

その脇で、ナツが首をかしげている。

 

 

「ねぇルーシィ。」

 

 

ナツの様子を見かねて、ハピーが声をかけた。

 

 

「なーに?ハッピー。」

 

「妖精の尻尾のマーク元々知っていたの?」

 

「・・・うん。」

 

 

ニコニコと笑っていたルーシィが、真剣な表情に変わった。

 

 

「あたしね。。。前この紋章を付けている人に助けてもらったことがあるの。まだ小さい頃の話しなんだけど。」

「へぇ。。」

「その人のおかげで助かったのに、、、お礼も言えてなくって。。。」

「ルーシィは、その人を探しているの?」

「・・・うん。とりあえずはね!!それに、あたし家出してきたの。あたしがあたしらしく居られる場所。。。探してるんだぁ。」

 

 

そこで、それまで黙っていたナツが口を開いた。

 

 

「で?どんな奴だ?会わせてやんよ!!」

「あっ。。うん。。。えっとぉ。。。朱い腰まである髪。。。右手の肩に、赤い紋章。。。それしか。。。多分背も高かったと思う。」

 

 

ナツの目が見開いた。

 

 

「!?」

「朱い髪?そんな人いたっけ?男の人なんでしょ?ルーシィ。」

「うん。そうよ?そんな人いないの?あっでも、7年も前の事だし。。もう辞めちゃったのかな。。。」

「7年前かぁ。。。オイラはまだ、産まれてないや!!ナツは知ってる??」

 

 

ルーシィの眼差しを受け、頭を悩ましているハッピーの隣で、ナツが固まったまま口を開いた。

 

 

「・・・そいつ、炎の魔法を使ってたか?」

「…魔法を使っているところは見ていないの。。。でも、、、すっごい爆発音がしたわ。。。さっきのナツみたいに。。。。」

「・・・ナツゥ?それって。。。」

 

 

マフラーを握りしめるナツに、心配そうに声をかけるハッピー。

 

 

「・・・イグニール。」

「え?」

「イグニールだ!!オレの父ちゃんだ!!」

「えええぇぇぇぇ!!!」

 

 

ルーシィはひとしきり驚いた後、そのまま黙って俯くナツに視線を向けた。

ルーシィの肩までよじ登ったハッピーが、耳打ちした。

 

 

「行方不明なんだ。イグニール。。。」

「・・・・・そう・・なんだ。」

「オイラ達今日もイグニールを探しに来てたんだ。」

 

 

いたのは偽物だったけどね。そう言って俯いてしまったハッピーの頭を、そっとルーシィが撫でてやる。

そのままルーシィはナツに、一歩づつ近づいていく。

 

 

「ねぇ!あたし行くトコ無いんだ!!」

「・・・へっ?」

「イグニールさん?に会って、御礼が言いたいの。」

「・・・そうか。」

「うん。だから、その妖精の尻尾?そこにあたしも入れてもらえないかな??」

「・・・・はぁ??」

「一緒に探そうよ!!ナツも会いたいんでしょ?あたしも会いたいの!!」

 

 

ルーシィの言葉に、ナツとハッピーは目を合わせる。

 

 

どちらからともなく笑顔が溢れだす。

 

 

そして大声で笑いだした。

 

 

その様子を、ルーシィがキョトンとした様子で眺めていると、ナツがルーシィに手を伸ばした。

 

 

キョトンとしたままのルーシィの手を強引に握り、走り出す。

 

 

「え?ちょっと~!!」

「行こうぜ!!『妖精の尻尾』に!!」

 

 

満面の笑みのナツが笑いかける。

 

 

「うん!!」

 

 

期待に胸を躍らせ、ルーシィも花が咲く様に笑い返した。

 

未来に向かって、2人と1匹の冒険が始まった。

 

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